特異点の白夜   作:DOS

169 / 170
光努率が低いー。



『プレイ・ウィズ・ヴァリアー・シューター・後編』

 

 

 

 

イリスファミリー本拠地は、広大な敷地だ。

 

灯夜含めたファミリー重要人物が滞在する様の母屋を中央に添え、その周囲には様々な建物と自然が存在する。森や川や山を含めればチョイスフィールド以上の敷地の中には、技術主任であるルイが管理する技術舎や他にも医療舎、そして戦闘部隊『アヤメ』御用達の施設も存在する。

 

その中の1つに、『アヤメ』の1人であり最年長、某国陸軍将校と言う噂も飛び交う男、獄燈籠(ごくとうろう)の所有する建物もいくつか存在する。

 

獄燈籠自身の主兵装(メイン・ウェポン)でもある銃火器を取り扱ってる兵器舎や火薬庫爆薬庫など物騒な建物はだいたいそうであり、その中の一つに〝実験場〟と称される建物がいくつか存在する。第1実験場から第10実験場まで存在するその建物は、端的に言ってしまえば獄燈籠の()()()だ。

 

基本、イリスファミリー本拠内のセキュリティを担当する獄燈籠は、罠を考えるのも好きだ。それ故、実験場の建物内部には獄燈籠が試作中の罠が組み込まれている。あとは誰かで試し打ちでもして実験すれば完璧だが、そんな時吉報が入った。

 

それは、未来の記憶。

 

そしてその中で、彼の弟子であるラッシュと考魔の内、考魔がヴァリアーに入隊していたという10年後の記憶。

 

現時点でも狙撃手として高い実力を誇り、未来の記憶を経てその力は独立暗殺部隊幹部として相応しいまでに高まった。それ故に、ヴァリアーが現在空席の雲の幹部確保の為に考魔を探す事を、獄燈籠は読んでいた。

 

その為一計を案じた。

というより、獄燈籠は()()()とばかりに遊ぶ事にした。

 

考魔を探し出しイリスファミリー本拠地に呼び寄せて、その後ヴァリアーに連絡し招き入れる。

 

全ては、ただ自分の作品を試してみたいという単純な欲求。

 

ボンゴレでも屈指の実力を誇る独立暗殺部隊ヴァリアーなら申し分ない。

 

そんなこんなで始まった獄燈籠の遊びに、ヴァリアーが巻き込まれる。

 

 

そんな話である。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「う"お"ぉい!!久しぶりだなぁ獄燈籠(ごくとうろう)!まさかそっちから声をかけてくるとは思わなかったが、VARIA(うち)にとっては朗報だぁ。考魔はどこだぁ!」

 

ヴァリアー本拠地より飛行機とヘリと車を乗り継いでやって来た場所は、イリスファミリー本拠地で獄燈籠の管理する第1実験場。

 

立幅500メートルはあろう巨大なな建物の前で階段に腰かけていた男は、よっこらせと言わんばかりにゆっくりと立ち上がる。

 

スクアーロの威圧的な声も、後ろに控えるヴァリアー幹部の面々にも気圧される事が無く凪の様に笑うが、寧ろ逆だ。見た目だけなら最も弱く無害にも見えるが、その瞳の鋭さは死線を潜り抜けた自分達以上の化け物だと理解している。

 

軍人の様な深緑の服装、バンダナに押し込められた白髪と同じく白い顎鬚。年期の入った深い皺を見るに、およそ年齢は60を超えていそうだが、その雰囲気はとても老体とは思えない程に威圧感に満ちている。

 

「久しいなスクアーロ。相変わらず血圧高そうな声色をしておるのぅ。10年前も今後10年も変わらないと思うと、やれやれ」

「う"お"ぉい!!いつの話をしてやがる!てめーは俺のじぃさんじゃねぇぞ!あと血圧高いとか老人のてめぇに言われたくねぇ!」

 

開口一番で笑みを浮かべながら肩を竦める獄燈籠に対して、スクアーロは激しく怒鳴り散らすが、いつもの事だ。ちょっとした、昔の知り合いという事だ。おそらく、ヴァリアー内で『アヤメ』のメンバー3人全員と接点を持つのは、スクアーロだけだ。まあその接点も、かなり昔のも含まれている。それこそ獄燈籠が言った通り、スクアーロがまだ10前後の子供の頃にも会った事がある。

 

「懐かしいのぅ。あの時いきなりやってきてクルドに剣で挑んでではあっさりボコボコにされたしのぅ」

「るせぇぞ!俺がガキの頃の話だろうがぁ!今やれば俺が勝つ!」

「それも根拠の内自信じゃが………やれやれ」

「なんか文句でもあんのかぁ!う"お"ぉい!!」

 

殺気を隠そうともせずに睨みつけるスクアーロと、それを笑って流す獄燈籠。

そんな2人の姿を見ながら、同じようにこの場所にやって来た幹部であるベル、マーモン、ルッスーリア、レヴィはやや呆れた様に困惑した様に、驚いた様に楽しそうに眺めていた。

 

「ししし、スクアーロがガキ扱いじゃん。あの爺さんが、イリス戦闘部隊『アヤメ』の獄燈籠か。ホントに爺?全然現役じゃんかよ。つーか何歳だよ」

「ボンゴレ9代目と同年代らしいよ。それだけ戦いを潜り抜けてるから、生半可老人じゃないって噂さ。まあ見た感じ、確かに只者じゃないみたいだね」

 

歯を出して笑うベルの言葉に、マーモンは目の前の光景にやれやれと肩を竦める。

御年70歳でありながら嘗て自分達のボスを1対1で封緘した力を誇るボンゴレⅨ世(ノーノ)といった例があるから、老兵とはいえ油断するつもりはなかったが、目の前に立たれると確かに予想以上だ。

 

そこに立っているだけなのに、まるで無数の銃口に狙われた様に錯覚する。自然と、ヴァリアー幹部達も緊張していたが、目の前のスクアーロとの他愛もないやりとりでなんだか拍子抜けしてしまった。

 

「それはそうと、奴は例の蔵実考魔とはどういう関係なのだ?そもそも、なぜ考魔がこのイリスファミリー本拠地にいる。奴はイリスの人間ではないだろう」

「あら、レヴィ聞いて無かったの?その考ちゃん、どうやらあの獄燈籠の弟子らしいわよ。もう1人ラッシュって弟子もいるけど、そっちは10年後ではイリスに入ってたみたいね。んで、向こうが先に考ちゃん捕まえたから、引き取りたかったら来てもいいって感じで、連絡来たらしいわよ」

 

フリーの傭兵であったラッシュと考魔。それに獄燈籠。

なるほど、伊達や酔狂で同じような軍人スタイルの服装をしていたわけでは無いという事か!………と、微妙にズレた納得の仕方をしているレヴィ。

 

そんなレヴィの心境は誰も知らず、スクアーロと獄燈籠の話し合いは進む。

 

「う"お"ぉい!!わざわざ呼ばれたから来てやったんだぁ!とっとと考魔をだせぇ!」

「まあ落ち着け。あ奴なら、この建物の奥で自分の銃の手入れをしておる。行くなら好きにせい」

 

そう言って自身の背後の建物を親指で指しながら、好きにしろと足元の階段に再び腰を下ろす。そのまま腰のポーチからごそりと醤油煎餅の袋を取り出して、中身をバリバリと食べ始めた。その光景は、独立暗殺部隊ヴァリアーの面々を前にしてするにはあまりにも呑気な態度だが、別段今日は戦いに来たわけでも無いし、怯える程に弱者なわけでも無い。

それはそれで手っ取り早いと思い、スクアーロはさっさと要件をすますべく眼前の建物に向かって歩を進める。

 

「ああ、そういえばXANXUS(ザンザス)は来ておらんのか?といっても、あ奴がわざわざこんな所まで来るとは思えんけどな。ボンゴレⅨ世(テオ)と沢田綱吉にやられて、少しは殊勝になったと思ったんじゃがなぁ」

「う"お"ぉい!!そのセリフぜってぇボスの前で言うんじゃねぇぞ!」

「やれやれ、わかっとるわい」

 

再び、呑気に煎餅を食べる獄燈籠を無視して、スクアーロはスタスタと歩いていく。そして獄燈籠の横を通り過ぎて、ベル達も続き、建物の扉をガラガラと開いて中へと入って行った。

 

ちなみに、先日の緊急会議の時からXANXUSは普通に参加していた。ただ料理を食って幹部候補生に興味が無かった為、会話に参加しなかっただけだ。ちなみにその状態で邪魔するとXANXUSの怒りに触れるので、会議で喧嘩してもXANXUSには被害が行かない様に皆細心の注意を払って喧嘩していたらしい。

 

そして当然ながら幹部候補の為にボスは動かない。よって当然不参加だ。単純に面倒だと思っているかもしれないが。

 

ヴァリアーの面々が見えなくなった所で、ヒョイと建物の横からやってきたラッシュは、ヴァリアーの入った建物をじっとり眺めながら、獄燈籠の隣までやってくる。

 

「師匠、あの中歩かせていいのかよ」

「なんじゃ、ラッシュ。何か問題でもあるのか?」

「いや、だってあの実験場って師匠が未来の記憶もらってからこさえた罠満載じゃん。確かに考魔一番奥の部屋にいるけど、あいつら大丈夫か?」

「ま、伊達に独立暗殺部隊はやっておらん。心配ないじゃろう。………きっと何人かはたどり着く」

「それって何人かどっかで脱落するって思ってる?」

「ふむ、それはそれ。わしの罠もまだまだ捨てた物じゃないって事じゃな!」

「このじーさんは………」

 

普通にほぅって置けば考魔はいずれヴァリアーの情報網に引っかかってコンタクトを取られ、入隊していた事だろう。しかし、その前に獄燈籠はかなりややこしくした。ちょうど自分の罠を試したいという欲求で。

 

既に隠居してもおかしくない年齢なのに妙な少年心を忘れない師匠にラッシュは苦笑しつつも、何となく理解できるので実験場に入ったヴァリアーの面々に同情するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

まずレヴィが脱落した。

 

状況を説明しよう。

スクアーロを筆頭にベル、マーモン、ルッスーリア、レヴィが中へと入る。

幅10メートル、高さ10メートルもある一本道の廊下。所々備え付けの証明が、扉を開いたと同時に点灯した為、明るさには困らない。全く何もない通路。

 

明らかに怪しい場所ではあるが、場所と管理者が管理者だけに、最悪危険は無いと判断した。正確に言うならば、ヴァリアーであればなんとか対処できるレベルだと、スクアーロは判断した。

 

それはイリスという不可侵マフィアの特性でもあり、獄燈籠という人物を知っているからこそだとも言える。回りくどく、考魔自身を連れてくるか、こんな場所じゃなく適当な客間でも通す方が簡単だ。それなのに、わざわざ獄燈籠が待ち構えての事。

 

スクアーロには暗に「この道くらい通って見せろ。安心しろ、ちゃんと考魔は先にいるし問題ない」と言っている様に聞こえた。そして、それは大分正しい。

強いて言うならそれは獄燈籠からの試練的な思惑ではなく、遊びが大半だったとう事ぐらいだろうか。比率で言えば2:8くらいには。

 

その為、この実験場をぶっ壊すくらいの意気込みでスクアーロはじめヴァリアーの面々は歩き出した。

 

そして、レヴィが脱落した。

 

より具体的に説明するなら、歩いているレヴィの足元がパッカリと開き、まっすぐ落とし穴の中に落ち、床が閉じる。以上!

 

「作戦隊長ー、レヴィが落とし穴に落ちて消えましたー」

「………ほっとけぇ」

「あら冷たいわね。ま、レヴィの事だからどうせその内這いあがってくるでしょうね♪」

「僕は今時あんなベタな罠に引っかかる奴初めて見たよ」

「まぁマーモンは基本飛べるし落とし穴なんて関係ないわよねぇ」

 

けらけらと笑うルッスーリアと反対に、スクアーロは最初の時点で疲れた様にため息を吐く。まさか入って50メートルも進まない所で一人脱落するとは思わなかった、と。

確かにベタ過ぎて逆に盲点であり、レヴィが予想以上に鈍重だったが、実に情けないとスクアーロは思うのだった。

 

「つーか、なんだよこの罠屋敷。明らかに殺る気満々じゃねーのかよ」

「まあ私達にかかれば、これくらいなんて事ないわねぇ~」

「僕もう帰っていい?」

「強制参加だぁ!帰ったら掻っ捌くぞぉ!」

「………面倒だ」

 

軽く会話を交わしているが、その間にも壁が開き無数の矢が飛んできたり、天井から鉄球が降ってきたりと、古典的な罠が彼らを襲う。雨あられと飛んでくる罠の数々だが、VARIA(彼ら)にとっては些細な罠だ。

 

独立暗殺部隊ヴァリアーという看板に一切の偽り無し。並の戦闘員であるならば、ここまでで10回は死ねる。それを服にすら掠らせもせずに突き進むのは、まさにヴァリアークオリティと呼ぶにふさわしい。

 

「それで、あとどれくらいこうしてるんだ?」

 

キイィン!キイィン!

 

飛んでくる矢を自前のオリジナルナイフで弾きながら、前を走るスクアーロに尋ねる。同様にスクアーロも自らの剣を、ルッスーリアは己の肉体を使った迎撃していた。そしてマーモンは一番後ろから安全地帯をふよふよと浮いてくる。

 

相手が機械である以上、実体の無い幻覚はたいして意味をなさないので、まあ当然と言えば当然の判断だった。

 

「ひたすらまっすぐ進む。それだけだぁ!とはいえ、そう時間はかからないはずだぁ!外からみた限りじゃぁ、あと300メートルって所かぁ!」

「ま、ちょっと面倒ねぇ。まあ、このくらいの罠じゃ、私達を止められないけどね!」

「ししし、1人あっさり止められた奴がいたけどな」

 

笑いながら、余裕そうに、罠を迎撃して突き進む。

 

だが、唐突に先頭のスクアーロが立ち止まった。

 

その姿にベル達も唐突に立ち止まり、何事かとスクアーロに尋ねようとした瞬間、異様な気配を感じて口を閉じた。

 

目の前の廊下には、何も無い。

とはいえ、おそらく目の前の廊下にも罠が満載なのだろう。それは確定、間違いは無い。にもかかわらず、彼らは異様な気配を、感覚的に察した。何が、と言われれば不明としか言いようが無いが、それは数多くの死線を潜り抜けてきた直感だった。

 

「う"お"ぉい、てめぇら。少し気ぃ引き締めろよ。獄燈籠の異名は主に2つあるが、その1つは〝単騎軍隊(ワンマン・アーミー)〟。奴の銃火器や罠の扱いは1つの軍隊を相手にするように変幻自在で容赦がねぇ。舐めてかかるとレヴィの二の舞になるぞぉ」

 

そう言って、スクアーロは前へと進みだす。

その言葉が冗談ではない事を察して、ベル達もわずかに気を引き締め、走り出す。

 

そしてその予測は、すぐに当たりだと理解した。

 

ゴオォウ!!

 

床を踏みしめた瞬間、壁から噴き出したのは、熱線。

しかも、この時代においてほとんど見た事無いが良く知っている光。

 

それは、嵐の死ぬ気の炎によるレーザー装置だった。

 

「んなぁ!こいつって、俺と同じ嵐の死ぬ気の炎!しかも、レーザーにするとか容赦ねぇな!」

「今までの罠は、小手調べって事なのねぇ!」

 

先程の比ではない猛攻。

殺傷能力は、矢や鉄球と比べれば格段に上がった事だろう。かすり傷ですらおそらく嵐の分解によって重症に変えられる。

 

しかし、それは当たったらの話だ。

やはり、これくらいじゃまだ彼らを仕留めるには足りない。

 

故に、第二波が来る。

 

「ん?今度は………嵐の炎を纏った矢?」

「んま!それも、すごい数また来たわよー!」

 

横と天井と前方から、飛び出して来る鏃に嵐の炎を纏った矢。

しかし、それを瞬間マーモンが唐突に叫ぶ。

 

「!?気を付けて!あの矢幻覚が混じってる!」

「んな!?」

 

その言葉と同時に身構えた3人の背後から、大量の水が押し寄せた。

 

しかし、それに対して一切の抵抗する素振りを見せず前から飛んでくる矢を注視する。押し寄せる水が彼らの体を通過するが、一切濡れる事すらなく一切の負荷がかからない。

 

しかし、前方から飛んできた矢のいくらかを消し去り、さらには何もない空間からいくつも矢が出現した。

 

「う"お"ぉい!よくやったぁ!マーモン!」

 

マーモンの幻覚によって、相手の幻覚を消し去った。

それにより、本来の場所に現れた矢を迎撃する。然程時間はかからずに、一瞬で通路一面は迎撃された矢が散乱する結果となった。当然、誰もかすり傷すら存在しない。

 

「………そういえば未来の記憶だが、獄燈籠はメインに嵐の炎だが、サブで霧の炎を使うそうだぁ。気をつけろ」

「いや、もっと早く行ってくれよ………」

「そうよ!うっかり傷もらっちゃうところだったわ!」

「るせぇ!それくらいどうにかしろぉ!おらぁ、行くぞ!」

 

荒々しい声を上げて、突き進む。

 

あと、200メートル。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「「………………」」

 

という光景を携帯モニターで覗いていた獄燈籠とラッシュは、やや呆れた様な面持ちだった。

 

ある意味想定通りの結果ともいえる。

人の思考が入らない単純なパターンの罠の数々。主に物量攻めを目的とした罠が多い為、それなりの能力を持つ物なら難しく無く、集団ならなお容易いと思っていたし、実際にヴァリアーはそれだけの実力を見せた。

 

「とはいえ、まさか最初の落とし穴で落ちる奴がおるとはな。落第点を後でボンゴレに送っておこうかのぅ」

「いや、余計な反感買うからやめとけって師匠。ていうかもう遊びすぎたしいいんじゃねーのか?」

「ここまで来て何を言っておる。後少しで目的地だぞ、ここでストップしたら奴らがかわいそうじゃろ。ほれ、続きを見るぞ」

 

実に楽し気にモニターを眺める自身の師を見ながら、ラッシュは小さくため息を吐く。これは、何を言っても聞かなさそうだ、と。かといって無理やり止めて後で自分に罰が下るのも嫌なので、傍観する事に決めた。

実際、ヴァリアーの面々は相当手ごわいので、普通にこのまま目的地までたどり着きそうだとも思う。が、それを許さない罠の名手が、獄燈籠という人物だ。

 

(あー、俺どうするかなー)

 

10年後の未来ではイリスファミリー第二戦闘部隊『シャガ』に属するラッシュではあるが、今の時点ではまだイリスファミリー(仮)の状態だ。そもそも『シャガ』の戦闘部隊のメンバーはラッシュ、コル、そしてリーダーのリルを据えての『アヤメ』同様の3人体制が基本。リルとコルが今の時点でまだ戦力外なので、当然の如くラッシュ1人で『シャガ』と言うわけにはいかない。

 

故に、現在は未来の記憶を持っていてイリスとも関りができてしまったので、獄燈籠の弟子という事もあり師匠預かりのイリスファミリー(仮)状態だ。

今後どうなるのかは、まだわからない。

 

(そう考えると、考魔は進路がスムーズでいいなぁ)

 

同じ弟子として暗殺部隊に強制スカウトはやや同情しつつも羨ましいと思う。

とはいえ、考魔も色々と考えての事みたいなので、そこまで口を出す事は無い。

 

せめて、同門として親友として、所属する組織の幹部達の力を見ておこう。

 

そう思って、ラッシュは再び獄燈籠の携帯モニターに視線を落とすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「ぜぇ………ぜぇ、ようやく………ここまで………来たね」

「………う"お"ぉい、他の奴らはどうしたぁ」

「………ベルもルッスーリアも、途中で脱落したみたいだね」

 

満身創痍、というのは見た目の傷は一切無いが、実に疲れた様子のスクアーロとマーモンの2人は、廊下の先をじろりと睨んでいる。あと50メートルの先には、扉が見える。おそらくは、そこが目的地。

 

ここにたどり着くまでに、他のメンバーは脱落した。

レヴィは言わずもがな、ルッスーリア、ベルの順番で徐々に。

 

「まさか………ルッスーリアがあんな退場の仕方するなんてね」

「言うなぁ」

 

突き進むスクアーロ達。

 

そして眼前に現れた人型のロボット。

 

明らかに対人を想定した動きで両手の鉄の拳を振るロボットは、嘗て10年後の未来でもツナを苦戦させたモスカとも違う技術的に不安定そうなタイプだ。死ぬ気の炎を動力源としているようだが、目の前のロボは格闘戦を重視するというロボットの利点の兵器搭載をおろそかにしたような異様な物体。

 

しかしそれを補うように各部装甲を取り付け、防御攻撃能力を上昇させている為、コンセプトが全く違うのかもしれない。

 

そして、そんなロボに相対するのは、ルッスーリア。

ヴァリアー晴れの幹部であり、軽快なフットワークを持ち左膝に埋め込まれた鋼鉄メタル・ニーを武器に持つムエタイの達人。オネェ言葉の派手好きだが、その実力は本物だ。

 

いくら人の動きを真似ようとも、ロボの技術は十全ではない。10年後の未来において死ぬ気の炎を動力源とした火力兵器搭載のモスカでさえ、精々がB-級。

 

ヴァリアー幹部を倒すには、全く持って何もかも足りていない。

 

その自信通りにキレのある、ある種ミサイルに匹敵する破壊力を秘めた跳び膝蹴り(カォローイ)を眼前のロボに向かって打ち放った。

 

 

その瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とはさすがに予想していなかった。

 

 

ついでにいうと同時に反対側の壁が開き、突き飛ばしたルッスーリアとロボを放り込んで閉じてしまった。

 

この間わずか0.5秒。

 

さすがに全員唖然としてしまった。

目の前のロボットを囮にして罠を張るとは、中々に嫌らしいと。壁の罠だけなら対処できていただろうが、目の前の戦闘ロボに集中しすぎたのがルッスーリアのミスと言え様。実に残念な話だ。

 

「それに、ベルは正直ギリギリアウトだったね」

「う"お"ぉい、言うなぁ。まあれはあいつが悪いなぁ」

 

ベルを脱落させたギミック、それは磁力だ。

 

それも、雷の炎を使用しての強力な電磁石装置。床から発せられた磁力によって、金属は全て床に吸い付く。しかし効果範囲は精々が床から3メートル程度。咄嗟に飛びのいて天井に剣を突き刺して事なきを経たスクアーロと、元々飛んでいたので簡単に回避したマーモン。

 

しかしベルは一手後れただけでなく、全身に金属製オリジナルナイフを仕込んでいた為に、あっという間に上から見えない手で押しつぶされ様に俯せに床に倒れ伏した。そのまま床が磁力を発したままあっという間に下へと落ちていき、スライドする様に新たな床が出てきて蓋をする。そしてベルは脱落した。

 

実に残念な結果だ。

 

せめてベルの持つナイフの本数がもう少し少なければ結果は変わったかもしれないし、変わらないかもしれないが。

 

「………う"お"ぉい、さて、さっさと行くぞぉ」

「うん………そうだ「カアァン!」ぷぎゃ!」

「マーモン!?」

 

マーモンの姿は消えていた。

しかし、驚異的な動体視力を誇るスクアーロには、辛うじてその姿を残像の様にとらえていた。

 

実に簡単な話だ、天井が開いて落ちてきた()()()がマーモンに直撃し、そのまま墜落した所で床が開いてそのまま真っ逆さま。そして床が閉じた、これだけだ。

 

「………」

 

予想以上にアナログで残念な手法で落とされた幹部達に呆れ果てる。

とはいえ、高度に設計された罠の出来は確かに驚異的だった事はスクアーロも認めている。ここは幹部達を貶すのではなく、罠を褒めよう。

 

と、ため息を吐いたまま歩き出し、残りの廊下を突っ切った。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

ドガアアァァ!

 

「う"お"ぉい!!考魔ぁ!!とっとと出てこぉい!!」

 

実に荒々しく扉をぶち破りながら、スクアーロは怒鳴り声と共に中へと突入する。これが任務ならもっとスマートな入り方をするが、ここは別に適地ではない。そして十分に洗礼を受けたので、この程度全く問題ないとも思っている。

 

そして中にいた人物は、全く動じる事無く入って来たスクアーロを視界に納める。

ゴーグルをつけた迷彩柄の帽子に、同色の服装に身を包んだ姿は、獄燈籠同様にどこかの軍人スタイル。腰や背のホルスターには愛用の拳銃を備え、机の上で長い銃を組み立てている姿は、未来の記憶から掘り起こされる。

 

蔵実考魔。

ラッシュと同じいまだ16歳の少年であり、獄燈籠の弟子であり、10年後の未来においてヴァリアーの雲の幹部を務める狙撃手だった。

 

「やぁ作戦隊長。久しぶり、じゃなくて未来ぶり?」

「う"お"ぉい!ようやく見つけたぞぉ!手間ぁかけさせやがって!」

「いや、僕に言われても。だいたい師匠にここで待機命令出されてたし。それに表から入ってくればいいじゃない」

「表?」

「そこ、裏口だよ」

 

当然の事ではあるが、巨大な建物において出入口がたった1つしか存在しない、なんて事は基本ありえない。まして、正面から入って500メートル近い通路を通ってから部屋がある、なんてのも基本ありえない。

 

この実験場は、獄燈籠の罠を試す場でもあり、通路から部屋に通じる扉はいわばおまけだ。建物の大半は長い通路だが、最も端に位置する部屋部分は、端なので当然外へと通じる道、表口が存在する。

 

元々考魔もそこから入ったし、出入り自由だ。

 

まあ当然の如く、獄燈籠の悪戯である。

 

「う"お"ぉい!あの野郎!掻っ捌いてやろうかぁ!それで、途中落ちていった奴らはどこいったぁ!」

「あー、多分入って来た所に戻されてると思うよ。それより、要件があって来たんでしょ?まあ内容は、わかりきってるけど」

「………なら話は早い。考魔、ヴァリアーに入隊しろぉ!てめーの実力は未来の記憶を見て理解してる。手っ取り早く幹部だぁ、文句は言わせねぇぞ」

 

剣を突き付けながら、有無を言わさぬ迫力で考魔を、スカウトと言うには荒々しい文句で誘う。

 

考魔も予想していた。未来の記憶を現実と理解した時から、こうなるだろうとは思っていた。今の考魔にとって、未来の自分がどういう経緯でヴァリアーに入隊したかはわからない。もはや可能性の自分だ、今の自分とは違う。

 

とはいえ、きっかけがあって未来の自分が考えて入る決断をした。そしてそのきっかけが、自分の予想より早く来た、それだけだ。

 

だからこそ、考魔は断らなかった。

 

「うん、よろしく頼むよ、S(スペルピ)・スクアーロ作戦隊長」

「う"お"ぉい!きっちり働いてもらうぞ、蔵実考魔!」

 

考魔はこの選択を後悔しない。未来の記憶にただ従っているわけでは無い。

傭兵稼業を続けて放浪していたが、一ヵ所に留まるのも悪くないと思った。

 

長年コンビを組んでいたラッシュには悪いと思うが、その辺りももう話し合いは済んである。

 

心置きなく、考魔はこの地を離れる事にした。

 

こうして、ボンゴレ独立暗殺部隊ヴァリアーは、1人の戦力を確保する事に成功したのだった。

 

 

その後、気絶した幹部達は飛行機に詰められて彼らは本部に帰還したのだった。

 

新しい幹部、考魔を連れて。

 

 

 

 




考魔、ゲットだぜ!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。