特異点の白夜   作:DOS

163 / 170
『虹と貝と海と、花と』

 

 

 

「ボンゴレⅠ世(プリーモ)。まさか、ボンゴレリングにいたとはねぇ~。あれが、(トゥリニセッテ)の中でもボンゴレリングにだけ宿る〝縦の時間軸の軌跡〟による歴史の重みか」

 

まるで遠い過去を懐かしむかのようにしみじみと語る子供の声。

薄く光るような金色の瞳に映る眼下の世界に白銀の髪を揺らす少年、ハクリは、高く聳え立つ木の頂上から、小さく見える炎の結界を見ていた。

 

「限りない広がりを見せるマーレリングに、歴史を積み重ねるボンゴレリング。そして時折現れはかなく消えるアルコバレーノのおしゃぶり。この三つが一堂に会する機会などそうは無い、これは壮観だね」

 

まるで光努のように、楽し気に笑い、その姿は本当に無邪気な子供の様。実際、ハクリ自身に何か裏があるわけでも、何かを企んでいるわけでもない。ただただ、自分しか知らない事実を知って、傍観者として、第三者として、その立場を楽しんでいるだけ。

今目の前の状況で行っている事でも、同じ事が言えた。

 

「しかし、それに加えて白夜のフィオーレリングと破滅のへレスリングの欠片か。この2つが一緒にいるって割とまずいような………。墓造会も面倒な物を白蘭に渡してくれる」

 

少しだけ面倒そうに、しかしそれでも楽しそうに笑う。

手元で自分の持つ、白く光るおしゃぶりをころころと弄りる。

 

ユニの持つ大空のおしゃぶりに反応しているのか、それとも共鳴する大空の結界に反応したのか、はたまた光努の放つ白夜の炎に反応しているのか、ハクリの胸元に下がるおしゃぶりもゆらゆらと光ながらわずかに白い炎を覗かせる。

 

「海はその広がりに限りを知らず、貝は代を重ねその姿受け継ぎ、虹は時折現れはかなく消える、か」

 

呟かれる詩は、大空のアルコバレーノが記憶に受け継ぐ、(トゥリニセッテ)の大空の在り方を示した詩。この詩は、ユニも生まれた時から知っているらしい。

 

その意味は、(マーレ)あさり貝(ボンゴレ)(アルコバレーノ)

 

 

どこまでも広がる『(マーレ)』は横の時空軸。

平行に広がる平行世界(パラレルワールド)

 

代を重ねる『あさり貝(ボンゴレ)』は縦の時空軸。

ボンゴレⅠ世(プリーモ)から脈々とボンゴレの血に受け継がれる、過去から未来への伝統の継承。

 

そして『(アルコバレーノ)』はそのどちらでも無い。両方の時空軸に線ではなく、点として存在する。

 

白蘭が横に広がる平行世界(パラレルワールド)から知識を得られるように、ツナにはボンゴレリングに宿り受け継ぐ、ボンゴレの〝時間〟が存在する。積み重なる歴史あるボンゴレの伝統。嘗てメローネ基地襲撃よりも前、ツナは10年後の雲雀との修行で、リングに宿る歴代ボンゴレボス達との邂逅を果たしていた。故にツナは目の前に現れた男が、紛れもないボンゴレⅠ世(プリーモ)だという事が分かった。

 

そして彼の語る、ボンゴレリングの〝枷〟

 

(トゥリニセッテ)の頂点に君臨する三つの大空、ボンゴレリング、マーレリング、アルコバレーノのおしゃぶりは、炎を灯せるあらゆる物質において最高の精製度を誇る。

 

その力は、精製度B以下のリングを炎の放出だけで破壊するリングクラッシャー雲雀恭弥の破格の波動を持ってしても、原型を一ミリも歪めない程。GHOSTによる炎吸収を受けた白蘭の炎を受け止めている事からも、ただのリングとは比較にならない力を宿している。

 

しかしそれでなおボンゴレⅠ世(プリーモ)曰く、マーレリングとおしゃぶりはともかくとして、ボンゴレリングの最高出力は発揮されていない。

 

元々他の(トゥリニセッテ)と同等の力を発揮するボンゴレリングだが、ある時期より厳格な継承の為、ボスと門外顧問がリングを分割し、それぞれ保管する事になった。

 

だが、分割する構造を保つ為には、元のボンゴレリングの力は強大過ぎた為、炎の最高出力を押さえて分割したという。この分割したリングが、XANXUSとの死闘でツナが勝ち取ったハーフボンゴレリングである。

 

「しかしオリジナルのボンゴレリングを見るのはいつぶりだろうか。まあそもそも形が変わってたの知らなかったんだけど」

 

やれやれと、そばに誰がいるわけでもないが、妙に芝居がかったように肩をすくめ、しかし楽しそうに笑いながら溜息を吐いた。再び、手元でおしゃぶりをころころと弄る。

 

さらさらと白銀の髪を揺らし、木々の頂上から下界を眺めるこの人物は、一体何を考えているのだろうか。

 

「ユニは知っているかな。その詩には続きがあるんだ」

 

子供の様に無邪気に笑い、老獪のように黄昏る。10年前は赤ん坊、やってきた未来では小さな少年の姿。異界より降り立ち、異常な叡智をその身に宿し、適応の白夜を纏う。

 

世界を渡る白き旅人は、戦いの佳境を静かに見守っていた。

 

 

―――花は蕾となりて再び咲き誇り―――

 

 

これは、世界に適応する『(フィオーレ)』の詩。

 

 

そしてもう一説、その続きは―――

 

 

 

 

***

 

 

 

 

キイイィン!

誰もが予想しなかった光景が、今目の前に広がっている。

 

ボンゴレⅠ世(プリーモ)により、枷を外されたツナとその守護者の持つ7つのボンゴレリングは、真の姿を解放された。黒とシルバーであしらわれていたリングは、輝きと共にその姿を変貌させ、本来の、(トゥリニセッテ)の一角たるボンゴレリングとしての姿を現す。

 

それぞれの属性の炎を形にしたような色鮮やかなクリスタルと、伝統を受け継ぐボンゴレの紋章を宿し、精緻な意匠の施された7つのボンゴレリング。

 

それを見届けたと同時に、1世(プリーモ)はふっと笑い、ツナの肩にそっと手を触れた。

 

―――さぁ、マーレの小僧に一泡吹かせてこい。

 

不意に、白夜の炎を纏う光努にわずかに視線を滑らせ、微笑んだまま空間に溶け込むように消えていくのだった。

 

「く、はは!そうとうふざけたご先祖様だ―――」

 

ドオオオォン!!

楽し気に笑う白蘭の言葉が終わるかどうかという所で、背後から打ち込まれた衝撃に、一瞬の間も無く吹き飛ばされた。

 

唐突な初代ボンゴレとの邂逅劇に油断していた事は認めよう、揺るがない己の優位と一度圧倒的力の差を見せたツナに対して慢心があった事も認めよう。

 

だがそれを抜きにしても、今のツナの速度は尋常ではなかった。背後から攻撃された白蘭はともかく、観戦していた者達もツナの急激な超スピードに反応できた者はどれだけいただろうか。

 

「………へぇ」

 

そして、そのスピードを間近で見て、光努は楽し気に笑った。

 

「ふぅん、少しは変わったみたいだね、綱吉君!」

 

吹き飛ばされても、地面にこすりながら壁際まで飛ばされるのを防ぎ、止まる。その表情は、実に歪んだ笑みを浮かべ、闇のような瞳を見開き、ツナを見ていた。瞬間、翼を一瞬はためかせたと思ったら、黒い龍がぐるぐると白蘭の周りを渦巻き始める。そしてツナに照準を合わせるが、それをさせまいと動く影が一つ。

 

「ほら、気を取られてると、危ないぞぉっと!」

 

ツナに狙いを定め、攻撃動作に入った白蘭に背後からの奇襲。2対1という状況下であり互いに認識してる範囲内で奇襲も何も無いかもしれないが、ニューボンゴレリングを得たツナと光努という組み合わせ、そして白蘭自身に起こった異変によるところも大きい。

 

しかしそれでも、爆発するかのような白蘭の全方位の攻撃。そして同時に、背後の光努から離れ空中へと飛び出す。

 

そのまま地面を踏みしめ、追撃を仕掛けようとした光努は、自身に起こった違和感に、その場に思いとどまった。

 

「?どうしたんだ、光努は」

「Tシューズが破損している。多分あの黒い腕に捕まれた時だ」

 

じっと瞳を細めたコルの言葉で、白蘭の動き、黒い腕を影のように伸ばし、光努の足を抑えつけた時の事を思い出す。その場で光努を止めるつもりだったのだろうが、同時い炎プレートを足裏に作り出す空中移動を可能にするTシューズを破壊しての機動力減衰を行った事に、今更に気づいた。

 

その為光努も思わず足を止めるが、その表情には別段焦りや動揺も見られなかった。

 

「確かに気づかなかったけど、白蘭また忘れてるぞ。今は空の上も、安全じゃないって事をさ」

「ぐあぁ!」

 

白蘭は再び、背後から迫る衝撃に思わずうめく。背後を首だけで振り向くと、そこには自分に一撃を入れたツナの姿。

 

だがそれだけではない。ナッツを形態変化(カンビオ・フォルマ)させ、ガントレット形態を右腕に、渾身の炎を込めたツナの姿がそこにはいた。

 

「―――っ!」

「ビックバン―――アクセル!!」

 

大空の炎の塊。さながら小さな太陽のような拳の炎は、螺旋の軌道を描いて白蘭へと迫った。メローネ基地の3ブロックを一撃で吹き飛ばしたXバーナー級、尚且つ枷の解放されたボンゴレリングによって本来の力を引き出されたその威力は、まともに受ければ白蘭とは言えただでは済まない。

 

「―――黒拍手(くろはくしゅ)

 

身体を脈打つように表面を伝う黒い影が、白蘭の両手を黒く染める。

黒腕を振り、押し潰さんと炎を爆発させツナのビックバンアクセルの炎球を黒が飲み込む。それは、まるで太陽を喰らう黒い獣のようでもあり、徐々に鮮やかな大空の炎は黒い炎へと変質させられ、深い闇はついには、全ての炎を喰らった。

 

だがそれでも前回同様余裕綽綽という様子ではなかった。炎は避けたものの、衝撃に顔をしかめ、荒く息を吐く。その額には、余裕そうに笑っていた先ほどまでの白蘭と同一とは思えない程に、大粒の脂汗が浮かんでいた。だがそれでも、ツナの渾身の炎の一撃を消したのは事実。

 

(なんだ、この違和感。白蘭のあの黒い翼や腕、最初にみた石。………炎が、飲み込まれた?)

 

一瞬の思考、だがその一瞬が命取りとなる。

 

白蘭の翼から伸びる黒い影が、ツナに迫る。

 

寸前で、白蘭は横合いの攻撃で再び吹き飛ばされた。

 

「考え事は危険だぜ、ツナ。一旦仕切り直しするか」

 

ツナに意識を持っていかれた隙とばかりに、背後から奇襲で拳を振るう光努の姿。

こんな状況でさえ楽しげに笑うその姿に、ツナはひどく安心感を覚える。際限ない自信を塊にしたような存在、白神光努という人物は常識離れしているが、それだけ荒事のようなこういう状況だと、とても頼もしく見える。別に、普段がだらしないとは言わないが。

 

「はは………これは予想…外………だね!」

「随分ときつそうだな、白蘭。ほぅっておいてもお前、長くなさそうだな」

「光努、白蘭に一体何があったのか、わかるのか?」

「ん~、ユニの方がどちらかと言えば詳しそうだけど、今は取り込み中みたいだし、憶測でいいなら教えてやる」

 

ちらりと視線だけで見てみると、祈りささげるように手を組むユニの姿が映る。その周りには大空の炎が、彼女を守るための結界のように噴出していた。

 

大空のアルコバレーノとしての使命。この時代を創ってしまった者の一人としての責任。ユニの炎に込められた思いは、彼女の姿を見るだけでひしひしと伝わってきた。そしておしゃぶりから噴き出す炎を見て、時間が無い事も。

 

「原因はあの黒い石。あれに関して俺は何も知らないが、どうも大空の〝調和〟であの黒い石の力がツナの炎を侵食したみたいだな。というか、炎全般は多分普通にやっても食われるだけだ」

「だが、それだと光努はどうして?」

「ま、白夜の〝適応〟ならどうにかなる。が、できる事なら早期決着が望ましいな………」

 

ちりちりと、手の中で燃える白い炎を弄りながら、光努は白蘭をじっと見つめる。

そこに立っているのは、一言で言えば異形、そう形容すべき姿。黒い炎の翼と、体中ところどころを黒く染め、闇を映す瞳を見開く白蘭の姿。

 

「本格的におしゃぶりへの炎の供給が始まっている。そう、ユニちゃんも時間が無いか。なら、君らにかまけてる時間は無いねぇ、綱吉君に、光努君!」

 

黒い炎の翼を動かし、空へと躍り出る。

 

「最も難易度高く、全平行世界(パラレルワールド)を見てもこの時空に存在する世界(ゲーム)は僕の中でも最高だよ!二人とも!だからこそ、今この瞬間にたどり着くまでに苦労した。だから、立ちはだかるというなら全力で排除させてもらうよ!」

 

「あまり行き過ぎるなよ、ツナ」

「ああ、分かってる!」

 

 

ガアァ!

グローブから炎を爆発させ、振るったツナの拳を白蘭はガードして受け止めた。

 

流石に何度もツナの超スピードを受けて、多少は慣れたのだろう。ツナはガードされたと感じると同時に一瞬で離れ、再び白蘭の周囲に現れ攻撃を繰り返す。

 

黒い炎に触れられないのであれば、一瞬の攻撃を繰り返すヒットアンドアウェイの戦法。奇襲と離脱。まるで見えない拳に全方位から殴られているかのようでもあるが、それをことごとく、白蘭は防いだ。

 

「白蘭、お前だけは、許さない!俺達もユニも、お前の道具じゃない!」

「はは!偽善的なセリフだね、綱吉君!不条理を身を委ね、目に映るすべてを救う、そんな高尚な事を、君は言うのかい?」

「それは―――」

「言わないよ。君という人間は、例え目の前で誰かが困っていようと、人の事よりまず自分の事を考える。己の保身を第一に、安全圏に身を置くのが君さ。自分の過去を振り返ってみなよ。全ての悪に自分から立ち向かった、なんているのかい?」

 

黒い龍をを模した炎がツナへと迫る。

受けるのはまずいと直感し、瞬時にその場を離脱し、再び白蘭の背後に回り込む。そのままくるりと回転して、蹴りを叩き込むが、やはりこれも防がれた。

 

「それでもこの時代まで戦い抜いたのは、誰かに後ろから突き飛ばされたからなし崩し的にだろ。それに、自分の為さ。自分の平和の為に全てを利用する。君は僕と変わらないさ!」

「そんな事は、無い!」

 

断言する意思を体現するかのように、振り抜いた超速の拳は白蘭を吹き飛ばす。飛ばされながらも、炎を放出して、空中に白蘭は留まる。

 

目の前に立つのは、大空の炎を両手に灯し、確固たる覚悟を映す瞳を秘めたツナ。額の炎は純度高く澄み渡り、激動する戦いに呼応するかのように荒々しく燃え上がった。

 

「お前とは違う!俺一人が無事でも、過去に帰っても、意味なんて無い!未来を平和にして、安心して皆で過去に帰る!それが、俺の覚悟だ!!」

「その覚悟、どこまで続くかな!」

 

白蘭の炎は、もはやただの極大の大空の炎とは言えない。世界を統べる程の智識(ちから)を得て、一人では普通なら扱いきれない莫大な(ちから)も得た。だがこの時代のこの時空において、得られる知識は未知に侵食され、捨て身の力、黒い石によって莫大な炎を削り続けながら、破壊の炎を生成し続ける。

 

白蘭にとっても、時間が無い。故に、全てを決めに来る。

 

「ぐぅ!」

 

黒い龍が、ツナを吹き飛ばす。そのまま地面をがりがりと削るが、一度手を付いて支柱としてくるりと回転し、着地する。が、白蘭の悪意はツナを蝕まんと燃えがった。

 

「まずい!ツナ、右手だ!」

 

結界の外から見ていたディーノの叫びにツナは己の炎が纏われた右手を見ると、右手のグローブに纏われた炎に小さく、黒い炎が紛れ込んでいた。小さく、だが徐々に、ツナの右手の炎を黒く染め上げていった。

 

(炎が………消えない!まずい!)

 

そしてツナの超直感が感じた背筋を駆け抜ける悪寒。前を見てみると、地に足を付けた白蘭。だが、その足からは黒い炎が噴き出し地面に己を固定し、黒く染まったマーレリングを嵌めた右腕には、どす黒い欲望を具現化したような黒い炎が集中させられていた。

 

内に残った炎をかき集め、おそらく今まで最も強い一撃を放つつもり。

まともに受ければどうなるかは目に見えている。だが、炎を侵食されつつあるツナには、それを迎え撃てる体制が整わない。

 

(このままだと―――やられる)

 

その時、肩に触れる人の手の感触を感じ取った。同時に、暖かいぬくもりが右手を包み込み、ツナは驚いた瞳を見開いた。

 

しゃがみ込む自分の肩に手を置いたのは、いつの間にか近くに来ていた光努だった。

 

「だから、あまり行き過ぎるなと言っただろう。ま、大したこと無くて良かったな」

「光努!これは、白夜の炎!」

 

白く染まる炎がツナの腕を伝い、黒い炎に触れて灰色に、次第に無色に変わり、消えていく。幻想的な光景に思わず驚き、右手の炎を食い尽くさんと蠢く黒い炎は、すぐに光努の手によって消火してしまった。

 

じんわりと暖かく、光努の白夜の炎がツナの右手、そして左手へと浸透し、白と橙の炎が混ざり合った。自分の者とは違う他者の炎は通常拒絶させる。

 

だが、大空の炎の特性である〝調和〟と、白夜の炎の特性である〝適応〟は、自然に一切の不自然無く、まるで最初から自分の炎であったかのように、完全に溶け込んだ。

 

「さぁてと、白蘭も次で最後の一撃みたいだからな。こっちも最大火力ぶっぱなすぞ、ツナ。そうすれば、後はエンドロール見て終わりだ」

 

ばきりと手を鳴らし、フィオーレリングから白炎を噴出す。その炎を瞳に映し、ツナも渾身の一撃を込めるべく、呟いた。

 

「………オペレーションX(イクス)

 

その言葉に、ヘッドホンから機械的な音声が聞こえ、ツナの瞳のコンタクトレンズにXのゲージが映し出される。右手から放出される支えの柔の炎。左手に込められた剛の炎。

 

「さてと、全てに適応しろ『白虹(デア・イリス)』」

 

光努の全身を包むコートのように纏われた白夜の炎が、一際膨らむと同時に、光努の右手に集約された。握られた拳の隙間からは、眩いばかりの純白の極光が放たれた。

 

破滅と欲望の具現とした黒い炎、純真な覚悟を称える橙の炎。そして全てに適応せんとする白い炎。三種の炎が大空の結界をびりびりと震わし、今まさに強大な力の前に崩れんと罅を作り続けている。次の一撃で、おそらく決まる。

 

 

「全ての至宝を集め、全時空の覇者になる!最後の一ピースが僕の手に来るのを邪魔するのなら、容赦なく潰す!消えろぉお!」

 

「人を道具のように利用し、縋られた手を踏みにじる、そんなのは夢じゃない!白蘭!お前の見ている物は、ただの悪夢だ!」

 

 

ツナの覚悟の炎と、白蘭の欲望の炎がぶつかり合う。

対峙する2色の極大な炎はぶつかり合い、互いに削り合わんとせめぎ合うが、徐々に白蘭の炎がツナの炎を侵食していく。

 

「うおぉおおぉ!」

「この世界はただのゲームさ!上等な駒を扱い、支配し、勝者こそが全てを手に入れる権利を得る!この世界は、そうやってできている!君のお友達ごっこで勝てる程、甘い世界じゃない!」

 

微弱な徒党は強大な力の前に屈する事もあるだろう。

勝った物が全てを奪い、敗者はこの世を去る事もあるだろう。

助けた者に裏切られ、裏切って者に切り捨てられる事もあるだおる。

因果応報、この世界はそうあるべきなのかもしれない。

 

だが、世界はそれだけじゃ回らない。

 

現実を見据える合理的な思想は、革新的なアイディアに前へと引っ張られるかもしれない。強大な個は、互いに認め合う集団に撃ち負けるかもしれない。手を差し伸べた者に、今度は手を差し伸べられるかもしれない。

 

世界は偽善も偽悪もごちゃまぜに、正義と悪も混ざり合って世界を成している。

 

「だから白蘭、今この世界の完全なる巨悪は、お前の敗因は、破滅をその身に受け入れた事さ!」

 

地面にびしりと亀裂を走らせ、足を踏み込む光努は、極光に纏われた拳を振るい、眩い純白の光を撃ち放った。放たれた白き虹は、ツナの大空の炎と溶け込み合い、極大の炎を生み出し、黒い炎を飲み込む。

 

その光景に瞳を見開いた白蘭は、内の炎をかき集めるが、足りない。

命を削っても足りない。限界を絞り出しても足りない。

 

破壊力の無い白夜の炎だけなら勝てるだろう。

炎を喰らう有利性のあるこちらなら大空の炎に恐れる事は無い。

 

だが、この二つが合わさった時、勝てる術は無くなった。

 

これが―――敗北。

 

 

「があああぁぁああぁ!!」

 

 

瞬間、白蘭は大空と白夜の炎に飲み込まれた。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

なんでかなぁ。

苦労してミルフィオーレを創って、ユニちゃんも一度は取り込んでマーレリングだっておしゃぶりだって手に入れたのに、最後は全部パァになる。

 

こんな事ってあると思うかい?

 

「ま、そこまで牙城を固めたらそうそう無いだろうな。けど、崩れたって事はどこかに綻びがあったって事だろ。さしずめ、お前の一番の敗因は、ユニの力を見誤った事じゃないのか?」

 

なるほど確かに。言われてみたらそうかもしれない。

 

今もなお僕の元にユニちゃんがいたのなら、結果は大分違ったかもしれない。

チョイス終了時に彼女が現れなければ、チョイス無効という判定も無く、あの時点でボンゴレリングもフィオーレリングもおしゃぶりも手に入ったかもしれない。

 

ああ、でもあの場でユニちゃんが起きていなければ、おしゃぶりの覚醒も無い、すなわち(トゥリニセッテ)の覚醒も起きない。そうなれば、他のパラレルワールド同様、アイテムは集めたけどフラグ回収し忘れて次のイベントに進まない、みたいな事になってたかもね。

 

「ゲームに例えるのは分かるやつに分かるが、お前そんなゲーム好きだったのか?」

 

まあ好きな方だね。

そもそも僕は、この世界を世界なんて思って無い。

 

普通の学生をしてたけど、ある日パラレルワールドに跳べて、そんなおかしなことが起こる現実(リアル)なんてあるわけない。そう思ったら、確かに来たよ。マーレリングの適応者にふさわしいってさ。

 

「と言っても、ユニがボスのジッリョにマーレリングはあったんだからそれまで持ってなかったわけだろ?」

 

必然というのか、運命というのか、どうにも僕の手に来る定めだったらしいけど、まあそこらへんは正直どうでもいいかな。結果的にはマーレリングは僕の元へと来たわけだし。

 

ああ、その過程で、二人の大空が僕の邪魔をしに来るかもって忠告は受けたんだったよ。

それが、綱吉君とユニちゃん。まあ確かに、この二人には一番邪魔されちゃった形になったね。

 

それに、光努君にもね。

 

「俺に対しての忠告は受けてないのか」

 

ん~、そもそも君の存在はアルコバレーノに少し近いかもしれないね。

過去未来現在、それに平行世界を渡る線の上に、突然降って来たたった一つの点の存在。それが君さ。まあ確かに君の忠告は受けたよ。ゲームで例えるのなら、小さなパグがおこるかもしれないってさ。

 

小さいなんて、笑っちゃうよね。

この世界の根幹を破壊しかねない重大なバグだよ。

 

「人を病原菌みたいに言うな。バグがあるのはお前の頭の中だろうが」

 

うまい事を言うねぇ。

でも、確かにそうかもしれない。

 

僕は人間さ。だけど、本当に人間で合ってるのか正直自信は無いよ。

いやね、生物学的にも確かに人間だけどさ、どうにも僕には周りの風景は全部景色みたいに見えたし、ただただ人生の道を、辺りをきょろきょろ見渡しながら歩いているだけのただの人生。

 

だから自分に不思議な力が備わった時はやったと思ったし、マーレリングの保持者になった時も面白くなってきたって思ったさ。

 

感情が無いわけでも、人間が嫌いなわけでもないんだよ。

 

面白いビデオとか雑誌だって見たりすれば笑うし、マシュマロの甘味だって味わうし、感動したらじんときたりもするんだ。

 

でもね、深い所だとどうにも違和感だらけでね。なんだか胸の中がぽっかり空洞になってるような気分なんだ。こんなんだからマーレリングの保持者になったのかもしれないけどね、はは♪

 

「だんだん自虐じみてきてるな」

 

まあね。

だからね、この空洞を埋めるには、それ相応に大それた事をすればいいかなって思ったんだ。世界の支配者、全時空の支配、これ程やりがいのある(ゲーム)はそうそう無いだろ?

 

光努君だって、一つの大企業を成長させてるみたいじゃない。

 

僕の事も、少しは分からないかい?

 

「お前はあれだな、子供みたいだな。スケールがでかい」

 

はは、言ってくれるね。

人は皆子供さ。欲望をさらけ出して、自分の理性を抑え込む。

その逆をすれば確かに大人だけど、そんな窮屈な人生は真っ平さ。

 

それに、僕にはそうしたって十分な能力もあったことだしね。おかげで、君達が来るまで万事うまくいってたわけだし。

 

「けど、結局はお前の負けだよ、白蘭」

 

ドヤ顔でもするかい?

力を合わせれば困難は必ず覆せるって、言うかい?

 

「必ずとは言わないが、少なくともお前は止める事はできたよ。兵を使っては捨て続けるお前が、最後には一人だけで立ち向かうのは当然だった。逆に、力を合わせて敵を倒すツナ達が最後にお前に挑むのも、分かった」

 

正直光努君の事は色々と予想外だったけどね。

 

「俺の存在があったにしろ、もう少し別の戦い方もあったはずだ。ユニが一般人を巻き込みたく無いってのは分かるが、戦力や戦略をもう少し整えておけば、俺達は負けてたかもしれないしな」

 

意外だね、光努君の口から負けるなんて単語が出てくるなんて。

正直これほど似合わない言葉は無いくらいには思っていたけど。

 

「誉め言葉と受け取っておくよ。まあ戦力とか戦略とか言ってたけど何が言いたいかと言うとさ………あんまりお前を慕う奴らを無下にするなって事さ」

 

―――

 

「幻騎士もだし、(リアル)6弔花もさ、お前への忠誠心は本物だ。それにジッリョ主体のブラックスペルはともかく、ホワイトスペル前身のジェッソファミリーだってお前が作ったんだ。全員が全員反抗的なわけないだろ」

 

まるで僕より僕のファミリーが分かってるみたいだね。

 

「お前が分かってないだけ、ああいや―――分かろうとしてなかっただけだ」

 

確かに、そうかもしれないね。

今まで気にも留めなかったよ。人は自分と同じ物、同じ価値観の物に対して同情が湧くものさ。だけど、僕にはそれが無かった。

 

確かに、説教喰らってもしょうがないくらいダメだねぇ。

 

「ま、それとは別に次会ったらとりあえず一発殴るくらいはするけどな。いや、一発じゃ足りないからやっぱ3発くらい」

 

あはは、容赦無いねぇ………。

 

それに、次に()()()()、ね。

 

「さてと、頃合いだし。今なら伝言くらい聞いてやるけど?」

 

ああ、だったら一つだけ伝えてくれないかい?

僕を打倒した光努君、君と、綱吉君にさ。

 

「いいぞ、何て言う?」

 

 

 

―――完敗だ!君達の勝ちだ!ってね♪

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。