特異点の白夜   作:DOS

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【ざっくりとしたパラメータ(仮)】
光努「想像と独断と偏見で作ってみた☆」
ツナ「それ大丈夫なの!?」


光努:フィオーレリング【★*1.0】
【炎量】★★★
【身体】★★★★★★★★
【覚悟】★★★★

ツナ:ボンゴレリング【★*0.6】
【炎量】★★★★
【身体】★★★
【覚悟】★★★★★★

白蘭:マーレリング【★*1.0】
【炎量】★★★★★★★
【身体】★★★
【覚悟】★★




『そう単純な話じゃなかったよ』

 

 

「同盟って言うけど、今更そんなのに意味あるのかな?正直光努君と綱吉君が二人とも僕に向かってくるのは最初の最初からわかりきっていた事だし、今更感あるけど」

 

拳を合わせた光努とツナの二人に向かって、少し口を出しながら傍観していた白蘭が、心底楽し気に話しかける。

 

圧倒的な優位は揺るがず、ただの協力関係の強化版だと言いたげだが、実際にその通り。二人が手を組んだからと言って、その力を互いに増幅する、とかそういうシンクロイベントは存在しない。もっと言えば、この場で同盟をする必要性もほとんど皆無。無論、そんな事はここにいる誰にも分っていたし、光努本人もわかっていた。

 

だが、光努はツナの覚悟と心意気に答えてやりたかった

どこか虚構と虚無を映すような、傍観者のようなイリスの立場を、崩したかった。

 

光努個人としてはツナ達は友達だから協力してたけど、イリスとしてはほぼ何もしていない。もっと言えば、協力というのも別に協力して誰かを撃退する、なんてこともほぼなかった。たまたまそこにいれば、一人ずつ戦い、炙れた敵を単独で仕留め、光努一人で片づけに行く。光努単体の戦力が膨大だからこそ、光努は一人で戦いに臨めたし、それが一番効率的だったのも事実だろう。

 

だから崩した。

イリスファミリー2代目ボスとして、フィオーレリングに選ばれた者として。今代でイリスは変わった。

 

そして、同盟をしてどうなるかという事だけど。

 

「同盟の結果、ボンゴレの敵はイリスの敵。ってことで白蘭、最初はお前を全力を持って潰す事にしたからよろしく。あ、さっきよりかはやる気も結構上がった」

「……」

(……まずい事しちゃったかなぁ)

 

ツナは内心、この後の展開上、白蘭に少し同情した。

白神光努という人物が全力を持って、と言葉にした以上白蘭の言った通り、碌な結果にならないだろうから。

 

無論それは、白蘭にとって、だけど。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「そんなわけでツナ、ちょっとここよろしく」

「えっ!光努!?」

「いや、とりあえず白蘭潰すのに準備しようかと。それに少し忘れてたことがあってさ」

「その間に白蘭を止めていろ、と」

「可能だったら仕留めてもいいぜ」

「はぁ、まあ善処するよ。早めに戻って来いよ」

「分かってるって」

 

突然の光努の提案、というかお願いに、ツナはやれやれといったように了承をした。

戦闘能力に関して光努は出鱈目だが、ここら辺の出鱈目さも割と身に染みているツナは、光努を送り出す。無論、このまま逃げるなんてことは微塵も考えていない。必ず戻ってくる。

 

白蘭を倒す前に、やっておくことがあった、そう言った。なら、それが終わればすぐに駆け付けるという。

 

一足で、Tシューズから出現させた炎のプレートを踏みしめ、光努は空中で加速した。

白蘭がいる方角とは別の方向。突然の敵前逃亡に、白蘭もだが、当然ながら味方側も驚いて様だった。

 

「この状況で一体どこに行こうっていうんだい?光努、くん!」

 

炎の翼をばさりと羽ばたき、白蘭も加速する。

だが、自身の目の前に躍り出た影に足ならぬ、翼を止めた。

拳がから噴き出す炎は、琥珀のように澄んだ橙をしており、不純物の無い純度の高さは覚悟の現れ、

 

ツナと白蘭、二つのファミリーのボスが、再び対峙しあう。

 

「光努君に後押されて戻ってきたけど、僕に勝つつもりかい?綱吉君。最初の一撃で戦力の差は十分に理解していると思うんだけどね」

「それがどうした。勝つ可能性は0ではない。戦力差が、戦いを避ける理由にはならない!」

「……はは♪上等だよ!さっきより随分炎も強くなったみたいだし、そうこなくっちゃね!」

 

どこか狂気的な笑みを、先ほどの言葉とは打って変わり、まるでこの戦いを待ち望んでいたかのように笑みを浮かべる。

 

この戦いも、ユニを手に入れる為に白蘭の考えたシナリオの一つ。だが、闘わなくては誰も先へは進めない。

 

故に闘う、故に拳を振るう、故に炎を灯す。

 

頂上決戦第二弾、ツナVS白蘭の火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

ツナが白蘭と戦いに臨んでいるその頃、待機中であるリボーン、入江、ルイ、フゥ太、京子、ハル、そして白蘭のターゲットであるユニのみの非戦闘員チーム。リボーン除く。戦場から離れた森の一角で、リボーンと入江、そしてルイは通信機片手に状況を把握し続けていた。

 

ツナが飛び去る前にも後にも、先頭の合間に治療中の者から通信をもらい、おおよその戦況は把握していた。

 

無論現在、白蘭が現れた事も、光努が戻ってきた事も。

 

「はぁ、光努も思い切った事をするなぁ」

「まさか、イリスとボンゴレが同盟を結ぶ事になるなんて……はは、すごい現場に居合わせちゃったかな……」

「つっても、白蘭に負けたら全部おじゃんだけどな」

「ちょ!リボーンさん!不吉な事言わないで!あぁ、胃が……」

「えっと、大丈夫?」

「あー、平気平気。正一のこれはいつもの事だからか」

 

例によって不安と緊張から胃がキリキリと痛む入江をフゥ太が心配するが、ルイは手をひらひらと振って大丈夫と言う。さすがに未来での付き合いが長く、白蘭打倒に一枚噛んでいる技術者同士なだけある。入江がこうなるのは割とよくある事、実際メローネ基地司令の時も定期的にお腹を押さえていた。まあそれの原因はイリスボンゴレの強襲だが。

 

「現状戦力はほぼ炎を吸い取られたみたいだな。それで、万全なのは白蘭とツナの二人のみ。ちなみに光努も結構炎取られたけど、闘う分には割と問題ないみたい。まあ本調子ではないがな」

「そんな状態で白蘭さんと互角だったんだ……」

 

ルイの言葉に、冷や汗を足らりと流す入江。はたまた胃痛の種になりそうかと思ったが、白蘭を倒せる可能性が出てきたという事でもあり、少しだけほっと安心する。

 

その空気を察してか、絶妙のタイミングでユニがコップに注がれた水を差しだした。

 

「どうぞ」

「ああ、ありがとう、ユニさん」

 

いつの間にかからからと乾いていた喉が、水を通して潤い入江を落ち着かせる。そして少し目を細めて思考する。

 

確かにGHOSTに炎を全員吸われたのは痛手だが、その分真6弔花の相手をする必要がなくなったと考えれば少しはポジティブになる。彼ら一人一人の戦力だって、軍隊に匹敵する。それがなくなり、白蘭一人を倒せばいい、そう考えればまだ気が楽だ。いや、そう考えないと気が楽にならない。

 

(分かってる……現状が好転したわけじゃない。真6弔花と戦わなくていい分、彼らを含めた全員の炎を白蘭さんが手に入れた。まさか最後の真6弔花の使い方がこんな逆転の一手だなんて。最初から、白蘭さんにとって僕らと真6弔花の戦いは誰が戦おうが関係なかったんだ)

 

炎を吸収し、己に直接送り込むGHOSTが手元にある時点で、白蘭の目的は、最も強い者達が互いに拮抗しあう状況こそが重要だった。これで片方が倒れてしまっては、吸い込める炎の量が少なくなる。ボンゴレイリス側が倒れたのなら何も問題無いが、覚悟が強く炎量が単騎で強大な真6弔花からは必ず炎を取りたかった。そしてあとは、残った敵を自分が一掃すればいいと。

 

なんて暴力的で、全てをあっさり壊滅的に追い込む手札。

だがそれでも、白神光努という人物は、この場において最も異様に成果を上げた。

 

「あ、今光努が離脱した。ツナと白蘭の一騎打ちだって」

「ええ!?光努君どこ行ったの!?」

「ちょっと行ってくるって」

「ルイそれ説明になってないよ!」

「まあまあ落ち着け。ほらユニ」

「はい、入江さん。お水です」

「あ、ありがとう……」

 

再びごくりと水を喉に通す。冷たい水が暖かくなった喉を冷やし、心地よい感覚を――

 

「て、そうじゃないでしょ!」

「おい正一、一つ聞きたいんだがいいか?」

「あ、リボーンさん。どうしたの?」

 

このままじゃ入江が止まらないと思ったのか、普通に面倒だったのかは分からないが、黄色いおしゃぶりのアルコバレーノ、リボーンは、入江に一度ストップをかけて質問する。

 

ある意味これは最初に聞くべきだったかもれしないし、どうにか調べてみる必要があった事項の一つだろう。ぎりぎりもいいタイミングでの質問になるが、リボーンとしては入江が知っているか聞いておきたかった。

 

「実際の所、白蘭ってのはどのくらい(つえ)-んだ?」

 

単純なる、白蘭の強さについて。

 

リボーンを含め、ボンゴレもイリスも誰も知らない。

それは、白蘭本人が直接戦っている所を誰も見た事が無いから。ミルフィオーレのボスであるという事だから、狡猾に計算高く知略を尽くせる能力はあるだろう。入江と同じ大学だったという話だから、技術力も入江程ではないが高いだろう。

 

だが、チョイスの時も傍観していた為、白蘭の戦闘能力を計る瞬間が今日まで訪れなかった。

 

そしてその質問に対して入江は少し目を見開いたが、すぐに伏せる。独白するように、ぽつりと呟いた。

 

「実は僕も白蘭さんが戦っている所は直接見た事あるわけじゃないんだ。確かに本人はよく知っているから、チョイスも一緒に作ったし、スポーツも万能だった。ちょっと不真面目だけど成績もよかった。ミルフィオーレになってからも、基本的に指示を出すことがほとんど、というか僕がメローネ基地に来たから白蘭さんとモニター越しではあっても直接会う機会も減ったしね」

 

「てことは、誰も白蘭の戦闘能力やスタイルは知らないのか?」

「スタイルとかは分からないけど、そういえば白蘭さんは一度骸君と戦っていたね」

「ああ、お前が寝ぼけて白蘭の伝言メッセージの録画を再生した時に見覚えの無い子供が映ってた時か」

「そうそう。そのと……ちょっとまって、そん時って僕まだメローネ基地にいたんだけど!なんで僕の私室の出来事知ってるの!?もしかして盗聴器とか仕掛けてたの!?」

「それはどうでもいいが、確かあの時ミルフィオーレ本部で白蘭と骸2人だけで戦ったらしいな」

「ちょ!ルイ!」

 

嘗てこの世界の10年後の骸は、とある男に憑依して活動していた。

グイド・グレコという殺人鬼であり、クロームの他に骸が憑依できる精神性を持ち合わせた珍しい人間だったという。その肉体を乗っ取り、ミルフィオーレの本部に潜入、白蘭の秘書のような立場になって情報を集めていたという。

 

ちなみにこの際本来の白蘭秘書となりかわった為、秘書の代わりをしたグレコに憑依した骸となる。面倒だからこれは特に覚える必要は無い。

 

そして白蘭に正体がばれ、二人は激突した。

 

「骸君が精神だけの憑依体って事まり白蘭さんが有利だけど、それに加えてその場所は白蘭のフィールド。敵地で戦う骸君にとって圧倒的に不利な状況だったらしいから正確な事は分からないけど、結果として白蘭さんは無傷で完封したらしい」

「完封?あの骸をか!」

 

戦いで笑みを浮かべるのは余裕の証拠とどこかの誰かが言っていたが、白蘭からしたら憑依体の骸は話にならないレベルの戦力差だったらしい。

 

リボーンは骸の強さを知っているが故に驚く。

骸本来の肉体では無いとはいえ、そうそうできる芸当じゃない。その強さは10年前の時点で、クロームの体を借りてアルコバレーノのマーモンをこちらも完封した程だ。

 

「当然その時に今と同じだけ炎があったとは考えにくい。白蘭もそうとうやるみてーだな」

「ま、ボスが部下より弱くちゃ話ならない、って所か」

 

ルイの言葉も確かに的を得ている。

人外を自称する真6弔花だからこそ、自分より弱い者に従うとは考えにくい。

無論戦闘能力だけで桔梗達が忠誠を誓ったわけではないが、世界を駆け抜ける大空のマーレリング保持者が、中途半端な力の持ち主なわけがない。

 

「うーむ。光努君の力も、チョイスの時は僕もフィールドにいたからよく見たわけじゃないけど、どっちが勝つんだろ?」

「その話なら、今行けば白蘭の方だけ実物見られるぞっと」

 

その時、がさがさと草木をかき分けて、何かを担いだ、火中の人物である光努が姿を現した。

 

いきなりの登場に、しかもまるで熊のように出てきた事で、この場の大半は驚いた。

 

「はひ!光努さんどこから来たんですか!?」

「よー、ハルも京子も久しぶりー。怪我してない?」

「あ、ツナ君達が守ってくれたから大丈夫だよ」

「そうか」

 

太陽のように眩しく笑う京子の言葉に、光努はまるで微笑ましい物を見るように柔らかく微笑む。二人の表情から、光努は強い信頼感を感じ取った。

 

この時代に来てから、一度二人の表情には影ができた。それはボンゴレの基地にて家事ボイコットという形で現れたが、全てを知ってからも、元のように笑って過ごすようになった。チョイスにあたりその後の近況を知らなかった光努だが、今の二人を見て、戦いの最中ではあるが、少し安心したのだった。

 

「光努君!?どこに行ったかと思ったらなんでここに!?ていうかよく戻ってこれらたね!」

「正一落ち着け。そんなに興奮してばかりだと胃が爆発するぞ。ああ、パンドラに関しては色々あったけど問題は無い、安心しろ」

 

全く説明になっていないのに、なぜか説得力があるように感じる、そんな迫力が光努にはあった。

 

そしてすたすたと歩くと、余った毛布を地面に敷き、その上に背負っていた物を下した。

どう考えても人。手足も体も顔も存在する人。そしてその人物に、リボーンは見覚えがあった。

 

「ん?光努、そいつは確か、緑鬼ってやつか」

「リボーンもなんだか久しぶりだなぁ。そうそう、名前はロルフだ。ちょっと疲れたらしいから寝かしとくぞ。さすがに森に一人で放置は無いからな」

「あれ?でもさっきまで白蘭さんのいる戦場にいなかったって事は、今まで森の中で一人でいたったてことに――」

「よし、じゃあそろそろ戻るとするか!」

「普通に無視された!?」

 

がっくしと項垂れる入江を他所に、光努は首をこきりと鳴らし、特に必要は無いが手首をぐるぐると、柔軟でもするように回す。

 

その時、ふと自分を見つめる視線に気づいた。いや、最初から自分も分かっていた。

白い衣装に身を包む、全てを見通すような瞳の少女、ユニ。

 

「初めまして、白神光努さん」

「ああ、初めましてだな。確かブラックスペルのボス……て、ここにいるから元か?」

「ええ。チョイス終了と共に、私はミルフィオーレを脱退しました」

 

チョイス終了と共にミルフィオーレ脱退。そしてこの戦いに来るまでを、光努は短い時間で掻い摘んで聞いた。

 

「ふむ、イリスの方が少し気になるな。大丈夫かなぁ」

「おそらく白蘭はミルフィオーレの精鋭を向かわせたと思いますが、ここからでは様子が分かりません。私も、イリスの皆様が無事であることを祈ります」

「いや、灯夜達やりすぎてないかなって。籠もいるし、槍時も戻ってるみたいだし」

「そっちなの!?光努君イリスをもっと労わってあげて!」

「労わってもミルフィオーレの精鋭とやらが潰される事には変わりないがな」

「『アヤメ』怖すぎ……」

 

光努をしてやりすぎないか、という言葉に入江は若干ドン引きしていた。

 

「それにしても、ユニ……だったな」

「はい、光努さん」

「こうしてみると……やっぱアリアに似てるな。リボーンもそう思わない?」

「ああ、それにユニの祖母のルーチェにも似ているぞ」

「光努さんは母に会ったことあるのですか?」

「数回だけどな。イリスのボスになった時もジッリョには挨拶周りに行ったからな。その後も数回。あ、ちなみにその時γにも会ってたんだ。確かあいつ6弔花だったらしいな」

 

イリスのボスになって少しの時、灯夜の操縦する戦闘機に乗って、様々なボス巡りをした記憶を思い出す光努。その時、目の前にいるユニの母である、当時の大空のアルコバレーノであるアリアと出会っていた。ジッリョネロファミリーのボスでもあり、さらにはあそのアリアの母であるルーチェはリボーンと同時期にアルコバレーノになった者。

 

いわば初代大空のアルコバレーノのルーチェ。そしてその娘アリアが2代目、そしてユニが3代目、みたいな?

 

そして、今共同戦線を張っていたγだが、ツナ達とは通算3度以上再開した事あるにも拘わらず、光努とはこの未来では一度も会ったことなかった。正確な事を言えばγはGHOST戦の時に光努を見ていたが、色々あったので互いに話しかけるタイミングが無かったという。最も、光努の方はGHOST→白蘭と対象としていたのでγに気づかなかったのだが。

 

「さてと、それじゃあ行って白蘭ぶちのめしてくるか」

「さらっととんでもねーこと言うな。勝算はあるのか?」

「愚問だな、リボーン。今の俺には、勝算以外は存在しない」

 

その言葉は、無謀とも慢心とも取れるが、事光努が言うとなると、頼もしい限りだ。

だが、その言葉の後に光努がふっと笑い、茶目っ気たっぷりに語る。

 

「ま、勝算度外視の状況とかだったら分からないけどな♪」

「不吉な事言わないでよぉ!」

「不吉なのか?」

 

何が言いたいかと言えば、まあ何が起こるか分からないのが常であると、まあそういう事だろう。

 

「というわけで、そろそろ俺行くから。あ、そうだユニ」

「?どうしましたか?」

 

唐突に、足先に力を込めて駆けだす直前、ユニに話しかける。

今この状況下で、一体どんな話があるのだろうか。と、全員思っていたのだが、光努の口から飛び出たのは、驚くことではないけれど、少し意表を突くような言葉だった。

 

「サンキューな、ユニ。じゃっ」

 

そう言って、爆発的な力で光努は弾丸のように森の中へと飛び出していく。

地面から土埃が立たないように柔らかく移動したにも関わらず、その速度は常人から見ればあっという間に消えていったようにも見える程常軌を逸しているが、それを成したのが光努という事実があるなら皆大した事の無いように思えるのだった。

 

「そう言えばユニ。光努が誰かを助けてくれるって未来を予知してたが、それはいつの事かはわからねーんだよな?」

「はい。ただ戦闘の最中に光努さんが戻ってきたので、先のGHOST戦でその予知は終わっているかもしれません」

 

確信を持って言える予知はあるが、正確な時間の分からない漠然とした予知。課せられた運命の糸を解き、光努が誰かの命を救うというユニの予知。

 

だがそれは、あくまでそうなる事が分かっているだけである、もしかしたらもう終了しているかもしれない。夜明け前の作戦会議のタイミングではまだだと分かったが、可能性としては光努がこの世界に戻ってきてから今に至るまで。そしてそれを考えると、光努が救った人間は実は多い。現に、今現状ボンゴレもイリスもミルフィオーレも、GHOSTは例外として一人の死者も出ていなかった。

 

本来死ぬべき人間の運命。それはいったい誰だったのか。

残る可能性としては、パンドラの世界で光努と共にいた少年、ロルフ・ミーガン。けど、ユニにはその予知が終了したと証明する事はできなかった。

 

「そういえば、ロルフさんは一体どうして眠っているのでしょうか?何か疲れたと言っていましたが」

「まあパンドラの世界にいたんだ。無理もないよ。光努君の方は……まあいつも通りだけど、案外この子の方が普通の反応なのかもしれないしね」

 

あはは、と少々苦笑気味な入江だが、現状暴れまわる光努の事を考えると、確かに光努が一般的だとは誰も考えられない。パンドラの世界は、それだけ過酷だったのかもしれない。

 

最も、案外そうでもなかった事は、入江を含めて誰も分からないだろう。結果として、小さな疑問だけを残して沈黙するのだった。

 

 

カアアァン!

 

 

ふと、光努がいなくなり静寂が支配したこの空間において、異質な音が響いた。

 

何かをすり合わせ、鳴らしたような、だが不思議と暖かさのある音。何かと何かがぶつかり合うような音が辺りに響いたとき、極大の光が空間を支配した。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「はは!揺るがない覚悟、溢れ出す強い炎。いい調子だよ、綱吉君!」

「俺は必ずお前を倒し、皆で過去に帰る!」

 

ツナが振るう拳を、余裕綽々と受け止める白蘭。

何度この攻防が続いただろうか。もっと言えば、二人が戦い始めてどれだけ圧倒的な距離が見えただろうか。

 

ツナの持つ攻撃手段は、基本的に大空の炎を纏ったグローブを装備しての徒手空拳。そしてもう一つは、ツナ専用に作られた大空のボンゴレ匣。

 

天空ライオン(レオネ・デイ・チェーリ)Ver.V(バージョンボンゴレ)には、2つの戦い方が存在する。

 

1つ目は、変化なしのナッツによる戦闘方法。主に天空ライオン特有の咆哮による戦い方を行い、強い力を持つ。

 

2つ目は、形態変化(カンビオ・フォルマ)による、攻守変化。ツナの天空ライオン(レオネ・デイ・チェーリ)Ver.V(バージョンボンゴレ)は他のボンゴレ匣と違って特徴があり、それが攻撃モードと防御モードの二種類。

 

防御モードはトリカブト戦でも使用した、|Ⅰ世のマント《マンテッロ・ディ・ボンゴレプリーモ》、そして攻撃モードは、嘗てⅠ世が渾身の炎を込めた時、形態変化したグローブを元にした、Xバーナー級の究極の炎の拳。

 

それこそ、Ⅰ世のガントレット(ミテーナ・ディ・ボンゴレプリーモ)

 

が、白蘭がGHOSTから受け取った炎は、十数人分の強大な炎。

白拍手、そう白蘭の扱う奥義は、強大な炎を両手に集め、拍手のように手を叩く圧力によって、迫る炎をかき消す。白蘭曰く、どんな攻撃も粉砕する絶対防御技、だという。

 

しかしその言葉に偽りが無いかのように、ツナの攻撃は一瞬でかき消された。余裕をもって、笑みを浮かべたまま。

 

嘗てツナが味わった事のない、絶望的なまでの戦力差。

 

骸の時も、XANXUSの時も、幻騎士やトリカブトの時も、ツナは相手に対して善戦した。知恵を使い、修行の成果を存分に発揮し、技術を駆使し、例え自分よりも格上の相手に対しても決して負けなかった。

 

だが、今目の前にいる男はどうだろうか。

 

炎も、技術も、知恵も、体技も、たった一度の拍手で吹き消してしまう。

炎は人の生命エネルギー。それが莫大な白蘭は、単純な肉体強度もこの場で群を抜いている。

 

絶望的、その状況がツナを取り巻く。

だが、それでもツナはあきらめなかった。少なくとも、この場にいない光努に任されたからには、果たさねばならない。

 

ゴオゥ!

 

「この圧倒的な状況でも、君の覚悟は鈍らないみたいだね。安心したよ、だから僕も、少し炎を強くしてあげようかな」

 

ツナの覚悟と共に、強く燃える炎を瞳に映し、白蘭は心底楽し気に笑う。

そして自らも、大空のマーレリングに覚悟と力を載せ、強大な炎を噴出した。

 

「くぅ!凄い炎の応酬です!」

「流石沢田綱吉、と言ったところでしょうか。凄まじい底力です」

 

ツナが覚悟を引き出せば、白蘭も炎を強め、またツナも負けじと炎の底力を見せる。

相互が炎を増幅し合い干渉し、極大の2つの大空の炎が辺りを照らし、空気をびりびりと揺らした。

 

 

カアアァン!

 

 

そしてそれこそが、白蘭の狙いだった。

 

「来た!」

 

それが待ち望んでいたと暗に言わんばかりに表情を綻ばせ、ツナはこの現象に対して、驚愕に表情を染める。

 

ゆらゆらと揺らめく炎の形状が、XANXUSの持つ憤怒の炎に近い、重なり合う球状に変化。ボンゴレリングとマーレリング、二つの(トゥリニセッテ)を中心とした大空の炎球が二人を包み、その大きさを広大させていく。同時に、炎に触れた木々を含めた全てが排除されていく。

 

雲雀の匣兵器にある裏球針体は、あらゆる匣兵器を排除して、結界内に人のみを残すが、今の状況はあれと酷似している。

 

ツナと白蘭、二人の大空以外を全て押しのけ排除する炎の結界は、半径20メートル程でその大きさを止めるが、それはあらゆる攻撃脱出を無効化する、完全なる炎。

 

「一体何が起こってるんだ?」

「驚いたかい?(トゥリニセッテ)の大空はとてつもない炎を放出し合うと、こんな特別な状態になるんだ。僕ら以外誰にも邪魔されない、スペシャルステージさ♪ま、あと一人特別ゲストが来るんだけどね」

「何?」

「ほら、見えたよ」

「……!ユニ!」

 

カアアァン!

 

ツナの視界がとらえたのは、白い衣装に身を包んだ大空のアルコバレーノ、ユニの姿。白蘭の目的でもある少女がその場にいるという事にも驚いたのだが、その登場の仕方、白蘭やツナと同じタイプの大空の炎の結界に包まれて、森の木々に影を落としながらゆっくりとこちらに近づいてくるという登場方法だった。

 

「あの娘!自ら近づくなんて何を考えている!」

「……大空のリングとおしゃぶりが共鳴し、呼び合っている?炎の過負荷による引力が発生しているというのですか……」

 

分析しようとする骸だが、これは到底人が科学的根拠に基づいて説明できる類の話ではない。

 

世界の礎(トゥリニセッテ)による3つの大空の共鳴現象。

白蘭の言葉が正しいとすれば、それは強大な炎を灯し合った結果、大空のボンゴレリング、マーレリング、おしゃぶりが一か所に集まろうとするのは必然の事態だったようだ。

ゆっくりと、だが徐々に近づくユニを止めようと、ヴァリアーや骸、コルもなけなしの炎で結界を破壊すべく攻撃を行うが、そのどれもが空しく弾かれる。例えこれは万全な状態だったとしても、生半可な攻撃力では到底破壊する事は出来ないだろう。

炎を吸われたのでなおの事、罅を入れることすらできない。

 

そしてユニは、ツナと白蘭のいる結界の中へと入っていった。

 

「やあユニちゃん!よく来たね。ここなら誰の邪魔も入らない。綱吉君も、もう用は無いからすぐ消えてもらうしね」

 

これが、白蘭の作戦。

白蘭はツナとぶつかることでリングの共鳴反応を利用し、どこに隠れていたとしても、強制的にユニをこの場に引き寄せる方法をとった。最も確実であり、最も堅実な方法ともいえる。この方法が成功すれば、ユニを引き寄せるだけでなく、誰にも破れない炎の結界すら作り出せるのだから。

 

その思惑に、ツナはまんまと嵌ってしまった。先の光努との闘いでツナを鼓舞するのも、白蘭の策略の内だったのかもしれない。そう思うと、ツナは歯噛みするが、それで状況が好転したわけでもなく、最悪になったわけでもない。まだユニが、白蘭に捕まったわけではない。

 

そう思い、ツナは炎噴出、そして白蘭の顔面へと打ち込んだ。

 

ガキ!

 

「無駄な努力程空しい物は無いね、綱吉君。君の攻撃じゃ、僕には傷一つつけられない」

 

ぎりぎりと、万力のようにツナの拳を掌で掴み受け止める。勢いをつけた拳を、最初と同じようにあっさりと防がれた。いや、防がれなかったとしても、大したダメージにはならないだろう。

 

そしてこの場にユニが現れた事で、白蘭はもうツナと戦う(あそぶ)必要は無くなった。

 

「それじゃあそろそろとどめでも刺そうか、綱吉君。心臓を一突きすれば、さすがに死ぬ気もへったくれも無いよね?」

 

微笑んではいるが、その笑みをはぞっとするような冷たさを波乱でいる。

 

白蘭にとって、ツナという存在はいてもいなくても変わらない。むしろボンゴレリングを手に入れるのに邪魔な分、いない方が良いと言う程だ。

 

ツナの拳を締め付ける白蘭の手と反対の手に、白き龍が現れる。

 

ミルフィオーレの技術力により作り出した、架空生物の匣兵器。白蘭専用の一点物でもある、白龍。汚れの見えない真っ新な白龍は、おの流麗な見た目に反して恐るべき攻撃力を秘めている。

 

「やめて!」

「ん?今更やめて、なんて、どの口が言うの?ユニちゃん。最初から僕には勝てない事は分かってたのに、それでもボンゴレもイリスも巻き込んで君の逃走劇につき合わせ、無駄な犠牲を増やす。自分勝手にも程があるよね♪」

 

残酷な現実を突きつける言葉に、ユニは押し黙る。

他の狙いがある、勝利の可能性もあった。だが、今絶望的なこの現状で言われてしまえば、何も言えない。

 

否、何も、言うわけにはいかない。それが、白蘭の目的があるように、ユニの逃走劇に仕組まれたユニの目的だから。

 

だが、白蘭の瞳は、押し黙るユニに対して当然の結果と言わんばかりの笑みを浮かべながらも、わずかにちらついた光を確かにとらえた。

 

炎の結界に包まれた光の空間において、ユニのマントの内側から漏れ出る別種の光。

 

「ダメです……まだ、ダメ……」

 

押さえつけるようなユニだが、その抵抗はあまり意味をなさんかった。

羽織った白いマントの内側からぽとぽとと転がり落ちてた物体を見て、白蘭を含めてこの場の全員驚愕する。

 

「あれは!アルコバレーノのおしゃぶり!」

「それだけじゃない!おしゃぶりの表面から、何か飛び出している!」

 

そう、ユニの懐から落ちたのは、仲間のおしゃぶり。大空と晴以外の5つのおしゃぶりそれぞれから、何か飛び出している。

 

それはどれもバラバラに、バンダナ、ローブ、サングラス、眼鏡、三つ編み。一見共通点の無いそれらは全て、おしゃぶりに対応するアルコバレーノの持つ体の一部だった。

 

青色のおしゃぶりのコロネロの持つバンダナ。

藍色のおしゃぶりのマーモンの着るローブ。

紫色のおしゃぶりのスカルの被るヘルメットのサングラス。

緑色のおしゃぶりのヴェルデの掛けた眼鏡。

赤色のおしゃぶりの風の結った三つ編み。

 

おしゃぶりから飛び出てきたのは、紛れもなアルコバレーノの肉体の一部分だった。

 

「こいつぁ、アルコバレーノの肉体の再構成、分かりやすく言えば復活(リ・ボーン)って事だ。大空のアルコバレーノの力を持ってすれば、仮死状態のアルコバレーノを生き返らせる事ができると聞いた事がある……。だけど、まさかおしゃぶりからとは……」

 

いつの間にやら、フゥ太の肩に乗ってやってきたリボーンによる解説だが、その内容が正しければとてつもない話だ。

 

リボーンも半信半疑の内容だったらしく、語った本人も訝し気に驚いているが、ユニの様子からするとその内容で間違いないらしい。もしもそれが叶うなら、失われた7³による世界の秩序が回復し、この時間軸による歪みは全て修正される。それは、平和な過去へ帰る為に必要不可欠な修正。

 

ユニが逃亡という選択をしたのも、この時間を稼ぐため。ユニが自身の炎をおしゃぶりに注ぎ果たされる復活には、必要な時間が存在する。そしてその時間を、白蘭はユニの様子と逃亡タイミングなどから、今からでもおよそ1時間程かかると察した。

 

希望から一転しての絶望の言葉。

 

アルコバレーノが復活する事は喜ばしい限りだが、それに時間がかかるのであれば、その間に白蘭によって全てが終わってしまう。

 

「誰が復活しようと関係ないけど、結局誰も僕を止められない。綱吉君も、今終わるよ」

「くっ!」

「沢田さん!!」

 

ツナは捕まれた拳を振りほどこうとするが、今の白蘭の力はツナの遥か上を行く。

マーレリングから集約された大空の炎が、白龍に集まり、その威力は例えツナが防御しようとも、体をなすすべなく貫く結果となるだろう。ツナにはもう、止める力が無い。

 

悲痛なるユニの叫びを嘲笑うように、白蘭が凶刃を振るう。

 

「ははは!もう誰も、この結界の中には入ってこれない!」

「それはどうかな?」

 

ぞくりと、冷たい刃を突き立てかのような悪寒が、白蘭の背中を這う。

 

ありえない物でも見たかのように瞳を見開き、咄嗟にツナの手を放してくるりと身体を反転し、右腕の白龍を背後を視認せずに一直線に叩き込んだ。容赦無しの問答無用の一撃。

 

が、背後に見えた白い影にぶつかる直前に止められた。相対者の振るう右腕によって、白龍の長い上顎と下顎を掌で掴まれ、一ミリたりとも動かない。その事実に白蘭は驚くが、掴んだ敵を見て目を細める。

 

「さっきより力が上がってる気がしたけど、何をしてきたんだい?光努君」

「その前にやる事とか言う事とかもあるだろう。まあひとまず――」

 

ゴッ!

 

「――ッ!」

 

白龍を仁王のごとき怪力で掴んで白蘭を捉えていた光努が、右足を振りぬき、白蘭を撃ち抜いた。白蘭も咄嗟に左手で防御したにも関わらず、受け止めきれずに吹き飛ばされて結界に激突した。これにより、ツナやユニから白蘭が強制的に突き放された。

 

蹴りぬいた態勢を戻し、白蘭の手から逃れたツナの隣へと降り立つ。

その様子を見て、ツナはやれやれ、といったような溜息を吐いた。

 

「遅かったな、光努」

「悪いな、すこぉし手こずったけど、後は任せておけ」

 

ひらひらと手を振りながら、先ほど自分が吹き飛ばした方向を見る。

そこには、背中の翼で緩やかに地面へと降り立つ、対した傷の見えない白蘭の姿があった。その表情には、先ほどまで浮かんでいた笑みは消えている。底冷えするような眼光が、一直線に光努を射貫いていた。

 

「いくら光努君とはいえ、まさかこの大空の結界の中に入ってくるとは思わなかったよ。どうやったんだい?」

 

そう言いながら、白蘭は大方予想ついていた。

光努の炎は、白夜の炎。そしてそれは、(トゥリニセッテ)に追随する+2(アルトラドゥエ)の一角を操る炎。

 

適応の能力は、自身を遮断する結界にも作用したと推測できる。

 

そしてそれは、当たっていた。

 

「そう単純じゃな話じゃなかったよ。流石に(トゥリニセッテ)の大空3つが作り出した結界なだけある。完全に適応して入れるのに少し時間がかかった」

 

その言葉に、リボーンはなるほどと思った。

明らかに光努がこの戦場に来るよりも早くユニ、リボーン達が来る方が早いなんておかしい。つまりはリボーンが来ているのに光努がいないのはなぜか、と思っていたが、どうやら大空の結界に対して光努も意外と手こずっていたらしい。

 

こうなっては、結界を作り出すのにツナも原因の一旦を担っているだけに、少しだけ光努を糾弾しにくい。あくまで少しだけ、だけど。

 

「ま、入ってしまえばこっちのもんだ。じゃ、白蘭、最終決戦始めようぜ」

 

ばきり、と指を鳴らし、光努は不適に笑う。

 

大空の結界の中にいる、光努、ツナ、ユニ、白蘭の4人。

3人の大空と、1人白夜。

 

役者と舞台は全て揃った、と言わんばかりの強靭な炎のステージ。

 

長い未来の戦いも、終わりが近づくのだった。

 

 

 

 

 





ツナ「あのパラメータってあってるの?」

光努「どうだろ?様々な要素を省いてざっくりしたからおかしいかもな」

白蘭「とりあえず光努君の身体能力がおかしいって事だけは分かったね♪」

光努「お前も炎の量おかしいだろ」

白蘭「だってあれ元々僕のじゃないし、ある種ドーピングだし~」

ツナ「どっちもどっちだよ!」

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