特異点の白夜   作:DOS

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説明や文章や内容がごちゃっとしている気がするので……
妙な点がありましたらどうぞご質問してください。


『白夜解体打倒幽霊』

 

 

最も強い物が生き残るのではなく、最も賢い物が生き延びるのでもない。

唯一生き残るのは、変化できる者である。

 

イギリスの自然科学者、チャールズ・ダーウィンはそう語った。

 

地球上に住む全ての生物は、太古の大陸を跋扈していた祖先が、星の成長と共に振りかかる災厄に対応する為に、進化を続けていた。劣悪な環境があるのであれば、そこが劣悪でなくなるよう、生物としての本質を改造する。それは自然の中で何億年と行われてきたある種の本能であり、そのおかげで現代多くの生物が現存している。

 

しかし、それは通常一種の生物が何億年と時間をかける事で、後の子孫が生きながらえる術を見つけ出す気の長い能力。環境に適応するという事は、簡単な事ではなかった。

 

しかし、それをあっさりとやってのけのが、白神光努という人物。

 

正確には、彼の持つ『白夜の炎』の能力。

 

白夜の炎の特性である〝適応、は、自身に振りかかる害悪、負荷、災いに対して、完全対応を施す未知の炎。さらには、それを増長させ特性を最大限まで引き出す匣兵器、『白虹(デア・イリス)』。

 

強靭な分解力を持つ嵐の炎を粉砕し、対象を沈静させる雨の炎を中和し、惑わしの霧の炎の幻術を見破る。

 

本来なら強度という点で言えば皆無な白夜の炎だが、白神光努という人物にとってその程度はハンデの内に入らなかった。

 

堅牢な鎧を身に着けるよりもはるかに、白神光努という人物の力は人としての限界を超えていたから。

 

「なるほど、少しですが腑に落ちました。僕の地獄道が徐々に効かなくなっていったの

は、あなたの体内に流れる白夜の炎の力、という事ですね、白神光努」

 

サク、サクと、柔らかく風を受け止める草むらを歩く音と共に、風に乗って来た声は、その場に振りかかり全員の挙動を一瞬硬直させる。森の木々を抜けて、木と木の間から現れた人物は、人を怪しく惑わすような笑みを浮かべ、後頭部で結われた長い黒髪を揺らす。

 

ゆらゆらと死神のようでありながら、特徴的な独特の髪型と、その右目宿すのは、血のように真っ赤に映る瞳と、刻まれた『六』の文字。

 

ボンゴレ霧の守護者、六道骸、その10年後の姿である未来の骸が、優雅に笑みを浮かべて現れた。

 

「ししょー。あんまり前に出ないでくださいよ。すーぐ真ん中立って目立とうとするんですからー」

「お前の頭が邪魔だからですよ。不詳のダメ弟子よ」

 

10年後の大人へと成長した骸、そしてその後ろにひょっこりと出てきたのは、ヴァリアー幹部のフラン。

 

黒々とした蛙の着ぐるみのような帽子をかぶり、ヴァリアー揃いの隊服に身を包んだ姿とは裏腹に、適当さの漂う覇気のない表情は本当に暗殺部隊かと思う程。だがその実、霧の幹部としての幻覚能力は世界でも五本の指に入ると言われており、実は骸の弟子という、この10年の間に何があったのかが非常に気になる存在だった。

 

抑揚の無い棒読みのような口調のフランは、同僚のベルを見つけ、ひらひらと手を振った。

 

「あ、ベルせんぱーい。無事でしたねー、あー、よかったよかった。ミーの活躍見ててくれました?」

「お前何もしてねーだろ!あとその棒読みやめろ。ぜってー心配なんてしてなかっただろ、むしろくたばれって思ってただろ!」

「それはお互い様という者ですよ。それに形式上でも心配されるんですから感謝されこそ罵られる筋合いはないですよー」

「このくそ蛙が……」

 

ザクシュ!

ベルとフランによる言葉の応酬が始まろうとしたときに、それを遮るかのように骸の手の槍が、フランの蛙頭を貫いた。

 

『!』

 

突然行われた骸の無言脳天貫きに、幾人かは驚いたように表情を変えるが、等の突き刺された本人はどこ吹く風と、無表情を崩す事無くお助けーと棒読みでつぶやいている。

 

そんな弟子の様子も特に関係となしに、骸は問答無用で突き刺した槍をぐりぐりと動かしているが、まったく手元を意に変えさず会話を続ける。

 

「お久しぶりですね、白神光努。あなたとこうして会うのは、この世界での黒曜ランド以来ですね」

「お前の手元が気になるけどいいや。あったと言っても実態じゃなかったけどな。なんだ、俺より先にヴァリアーと合流してたのか」

「ええ。本当なら幻覚を使って敵のデータを引き出そうと思ったのですが、あなたのおかげでその必要が無くなりましたね」

 

六道骸は、この10年復讐者(ヴィンディチェ)の牢獄に囚われていた。

 

流石に骸といえど、最下層の牢獄からの脱出は困難を極める。しかし通常の囚人ならともかく、骸の場合は特殊な憑依弾の事情があり、精神だけを飛ばして波長の合う別の肉体に映る事ができる。その対象者としては、主な例ではクローム髑髏、そしてこの10年後の現在では、霧の匣兵器であるムクロウへと一度憑依をしている。光努、がクロームとこの時代で合流する時、グロキシニアの匣兵器を乗っ取り、その時に一度邂逅していた。

 

しかし、それでにも肉体は囚われたまま。それを開放したのが、骸の弟子でありヴァリアー霧の幹部であるフランだった。

 

本来なら白蘭が、最後の真6弔花であるGHOSTを復讐者(ヴィンディチェ)から解放するために取引をしたのだが、白蘭の使者が赴くよりも早く、その使者に幻覚でなりすまし、復讐者(ヴィンディチェ)を欺き六道躯を開放したという。

 

それは白蘭と復讐者(ヴィンディチェ)の取引内容が、「GHOSTの解放」では無く、「最下層の囚人の男の解放」だったからこそ可能な作戦だと言える。同じ最下層に幽閉されている骸を解放しても、復讐者(ヴィンディチェ)は不思議に思わない。

 

寧ろ、彼らを欺いたフランの幻覚能力の高さに驚嘆すべきだろう。彼ら曰く、自分達を欺ける術士など世界に5人といない、らしいのだから。

 

無事に脱獄を、いや、一応合法的な出獄を果たした骸は、そのままフラン他、千草や犬、MMと当時からの仲間と共に日本に渡り合流。

 

ここで骸のウォーミングアップに幻覚を使い、真6弔花の戦い方や技などのデータを引き出そうと考えたが、その前に光努が現れ、結果として光努、そしてコルによって敵の全貌は大方暴かれた。

 

光努が桔梗の地中攻撃を引き出したように、コルもブルーベルの秘密を暴いた。

 

それは、ブルーベルが自身からおよそ半径5メートル程に纏う、透明な純度100%の雨の炎の防御壁。これは本来防御壁という物でなく、放出するバリアを突き抜け、自身の射程内に入った人間を一気に殲滅するための防御膜。純度100%の雨の炎は、特性である〝鎮静〟作用を極限まで高め、振れる物の分子をほぼ停止に近づける。肉体の機能を停止させらるという事は、生物には成すすべない絶対の攻撃にもなる。それが透明で展開されているのだから、初見で何人もやられてもおかしくない。

 

しかし、今回はブルーベルの相手が悪かったと言わざるを得ない。

コルは自身と同属性、すなわち雷と雨の炎に関しては常人やりはるかに高い感覚で察知できる。

 

故に、ブルーベルが自身に纏っている隠蔽された強大な雨の炎に対して、気づくことができた。それでも微かに違和感だったのだろうが、極大の大太刀、『彩式改・蒼碧水紋魔太刀』によって実際にブルーベルの近くを遠くから斬りつけることで、伝わる感触から実際に雨の炎があるという確信を得るに至った。そしてそれは、すぐに合流したヴァリアーに伝えられる事になったという。

 

「さて、それではそろそろ戦闘開始、と行きましょうか。そこにいる彼も、痺れを切らしているようですし」

 

そう言って森の影を見ると、いつの間にかいたのか、もう一人増えていた。

黒い学ランと、紅い風紀の腕章。そして黒髪の下で鋭い肉食獣のような鋭い眼光を持つトンファーを持った少年、雲雀恭弥。

 

そういえばとその存在をすっかり忘れていたが、今の会話の中でここへと到達したようだ。隠す様子もないぴりぴりとした殺気を身に纏っているが、その視線はそこに佇む肉体を持った六道骸をじろりと睨んでいた。

 

だが骸は、余裕そうにその視線を受け流し、眼前の真6弔花をじっと見る。

 

「さて、例え彼らの技が分かったところで、弱点が分かったわけではありません。ここからが本当の死闘となるでしょう」

「はーい、本番始いきまーす」

 

骸のシリアス感をぶち壊すフランの発現は全員が無視する。

雲雀やXANXUSも思う所は色々とあるだろうが、同じボンゴレやイリスではなく目の前にいる真6弔花を咲きに潰す、という事に関しては同意を示した。それに対して、真6弔花の桔梗、ザクロ、ブルーベルは不敵に笑みを浮かべる。

 

この戦力差に対して、臆することも無い。今の会話の中で、ザクロが左腕を完全に完治させたというのもある。

 

(やはり気がかりは、白神光努、彼だけでしょうか)

 

桔梗の中で一番警戒警報鳴らしていたのは、やはり光努。

白蘭から各人全ての技の攻略法を伝授された真6弔花だが、ボンゴレ匣と白神光努本人の情報だけは皆無。了平との対戦もあり、ボンゴレ匣は驚異的だが自分達を打倒する程でもないという評価を下したばかり。

 

だが光努に関しては、今さっきの攻防だけでも、人と見ていいのか果てしなく疑問を浮かべざるを得ない程の怪物、という事を理解していた。

 

「恭弥今までどこにいたんだ?俺さっき来たばかりだから全然知らんのだが」

「なんだ。君、生きてたんだ」

「ひどい!」

 

まあ一時期封印状態にされていて生死不明だったので雲雀の言いたい事も分かるのだが。

 

しかしそれは置いておいて、そろそろ殺気の火花がチリチリと弾け、戦いが始まろうとしている。

 

ボンゴレ、イリス、ミルフィオーレとの戦いも、これがラスト。何度目かのラスト宣言

など関係なく、戦いの火蓋は切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「え!ヴァリアーが!?それに光努も!あと骸と雲雀さん!?ああ、なんかいつの間にかすごい事になってるんだけど!!」

「みんな続々集まってきてるみてーだな」

 

通信機から流れる戦闘音と、治療中の仲間からの伝令。

イタリアにいたはずのヴァリアーが現れ、パンドラの匣に囚われていた光努がいつの間にか出て、脱出不可能の牢獄にいた骸もいて、並盛中を最後に消息の消えた雲雀がいる。

 

本来どこにいたのかもわからない連中が、ツナの預かり知らぬ所でわらわらと集まるという事態に驚き、さらには一人一人がツナを縮み上がらせる様な戦闘力を有する者ばかりなので、驚くのも頷ける。

 

「そうか、光努も戻って来たか。思ったよりも早かったな。まあよかった」

 

表情のあまり変わらないルイの言葉は、まさに研究者といった感じではあるが、会話の節々と雰囲気にはやはりほっとしたような感じがする。おそらく神器、匣に関してはこの場の誰よりも膨大に理解があるから、心配もするし、同時に安心もする。

 

「ツナ、光努の様子はどうだ?何か武器を持っていたり体に纏ったりしてるか?」

「あ、うん。なんか白い炎みたいな服を着てるって、獄寺君言ってたよ」

「白い炎の服、そうなったか。てことは、今はそれ程緊迫した状況じゃなさそうだな……光努的には」

「どういうことだい、ルイ。白い炎って言うのは光努君の白夜の炎の事だよね。それが服っていうのは……」

 

今だ寝たままの入江は、ルイの言葉にいくらか疑問を抱く。

 

そもそもが、、光努の持つ白炎、白夜の炎自体の詳細もあまり詳しくない。それは入江だけでなくツナ達も同様なのだが、技術者である入江をもってしても、いや、白蘭でしても白夜の炎の詳細を見つける事は敵わなかった。何しろ、調べる為には実物を調査する必要があり、その実物が存在した事実が無いから。

 

10年前の段階で、光努は白夜の炎を使用した形跡が無い、それどころかフィオーレリングを填めた事すら基本無い。だからこそ、白蘭の能力が使える10年前からだろうと詳細を知る術は存在しない。未来世界に置いて初めてフィオーレリングを使用した光努と、それを調べたルイ以外には。

 

「正一も聞いた事くらいあるだろ。ジェペットの残した設計書の制作不可能な奴」

「確かに聞いた事あるけどあれって確かそういう噂ってだけで本当にあるかどうかは……まさかルイ!」

「そう、実在する。そして、それ俺が作った。だからと言って、俺がヴェルデ達よりも優秀とかそういうわけじゃないけどな。あれを作るのに白夜の炎が一番適してたってだけだからな」

 

技術的に誰が優れていたか、なんてのは今更言っても意味がない。この場合重要なのは、彼らの元には何もなく、ルイの元には白夜の炎があった、ただそれだけの違いだろう。

 

3人の天才匣職人達がいた時代、もしも白夜の炎かそれに類する別の物質があれば、不可能という判断は下さなかっただろう。

 

「光努に流れる波動は、白夜の波動。純白の炎。その特性は〝適応〟。常に変化し続

け、常にその状況に適応し、常に万全の態勢で迎え撃つ炎。あの炎は、少し大空の炎に似ているな」

「大空の炎にかい?」

「大空の炎は全ての属性の匣を開く事ができるが、白夜の炎も同様に他の匣を開く事ができる。それは白夜の炎が、その匣に対して適応しているからなんだ。実際に試してみたから確かだ」

 

チョイスが始まるまでの10日の間で、様々な実験と試行錯誤を繰り返した。

 

実際に、フィオーレリングから発せられる白夜の炎により、ルイが用意した雲の匣や嵐の匣、雨の匣などはなんの問題も苦も無く開匣する事に成功した。

 

確かにここだけ見れば、特性は異なるが大空の炎と同じ。だが、根本的に似て非なる物。

 

「そういえば、光努君はメローネ基地で雲や晴、嵐の炎なんかも使ってたけど、彼には他に波動が流れているのかい?」

「いや、光努に流れているのは白夜の波動のみだ」

「え!?それってどういうこと?」

 

入江の疑問から、ルイの否定の言葉。そしてその言葉に驚くツナだが、すぐにルイは答えてくれた。

 

「光努に流れる白夜の波動は適応の波動。流れる波動は一致するリングに関係なく、己を適応させ炎を変質させる」

「えっと……つまりどういう事?」

「つまり、光努は身に着けたリングの炎を全部出せるって事だな」

「え、それなんてチート?」

 

リボーンの言葉に、唖然とするツナ。

 

例えば雨のリングを付けたなら雨の炎を、嵐のリングを付けたなら嵐の炎を、雲のリングを付ければ雲の炎を、晴のリングを付ければ晴の炎を、放出できる。

 

ルイから渡された晴のリングを使い、晴の匣迷いの森(フォレスタ・パーソ)を開いた。ニゲラ・ベアバンクルの持つ雲のリングを使い雲のアップデート匣を開匣した。リルの持つ嵐のDリングを使い嵐の匣である真紅の輪(オリゾンテ)を開く。雨のリングを使って雨の匣、十五月(スプリット・メーゼ)を使用する。

 

そのどれも、リングと同属性の炎、それも高純度の炎を発現させた。

光努の体内に流れる波動が、リングに適応し炎を創る。故に複数の波動が流れていないにも関わらず、単一の波動のみで炎を派生させている。

 

「なる程な。光努の炎に関して少しわかったな。獄寺の例もあるから複数の炎を持つ事はありえなくねーが、光努のは少しちげーと思ったしな」

「でもそれってすごい事だよね」

「何言ってるんだ。おめーの大空の炎も似たような物だろ。それに、複数の炎が出せれば強い、なんて事は無いぞ。現に光努は基本的に自分の肉体だけで戦ってるしな」

「確かに。そもそも光努が炎を使って戦ってるのなんて俺見た事無いよ」

 

ツナのいう事ももっとも。

無手の戦闘スタイルである光努は、ツナのようにグローブを付けて炎を纏わせる、なんて事はしない。

 

そもそも白夜の炎は、炎としての防御力は皆無の為、あまり攻防には向かない。

 

「まあでも白夜の波動ってのは便利そうだけどな。今までの光努の怪物じみた能力がいくつか説明できるぞ。幻覚がほとんど効かないのと、ツナの炎を素手で受け止めた事とかな」

「腕力はともかく、熱による耐性とかな」

「あー、なるほど。あれ全部説明できたんだ」

 

光努が単純におかしいだけかと思った、とは口が裂けても言えないツナ。

まあ通常の炎の波動と違う波動が流れている事と、それを抜きにしても身体能力が異常な事はどうやっても否定できないのだが。

 

「多分光努君なら、トリカブトの修羅開匣も徐々に慣れて、最終的には幻覚を破る事ができるんじゃないかな」

「うそっ!」

「そいつはやべーな」

 

あくまで入江の推測の域を超えないが、ボンゴレの超直感すら封じた修羅開匣の幻覚を破るとなると、かなりとんでもない。あれは術士としてある種限界を超えた先に到達した物、超一流とでもいうような人物で無いと、おそらく対抗できない部類の物だろう。

 

ふと、トリカブトの名前を聞いて、ルイは思い出した、とでもいうポンと世に手を打つ。

 

「ああ、それとツナ達はリルの使った『白夜の騎士(ホワイトナイツ)』は見たな」

 

その言葉に脳裏に思い出されるのは、リルの剣に纏われた白い炎。嵐の炎と混ざり合い、緋の炎を創りだした特異な匣。

 

白夜の騎士(ホワイトナイツ)は、白夜の炎を使用したアップデート匣の一種。

既存の炎、武具、身体に対して適応し、白夜の炎を纏わせ合成、単純に言えばどんな人、物に対して能力値を強化する匣。一見すれば炎だけを放出するのでバッテリー匣の様にも見えるが、その実オールランドに扱う事ができるブースト匣。

 

白夜の匣は誰に対しても、どの属性に対しても平等に開く権利を与える。だから白夜の波動が無いリルでも、簡単に開匣する事ができる。

 

白炎とと赤炎で緋炎。なるほど、なかなかにわかりやすいじゃないか。

 

「ツナも使おうと思えば使えるぞ。まあ今は手元にないけどな」

 

何も持っていない、という事をアピールするように両手をひらひらと振るルイ。決戦の前、リルにチョイスとトリカブト戦で壊れた物と交換して新しい4本のグラジオラス(グラディーオロ・クアットロ)を渡したが、基本はそれだけ。それ以外の武装に関してはチョイス前に全て渡してあるので、後は本人次第という。

 

(このままごり押しで行けば光努もいるしおそらく真6弔花の3人には勝てる。だがあと

気がかりなのは、いまだ戦場に来ていない白蘭と、最後の真6弔花。さて、どうなるか)

 

ルイは今だ戦線に参加していない白蘭の事を考えつつ、祈るように両手を組んでじっとしているユニをちらりと見る。

 

ユニを目的としているのであれば、白蘭は必ず現れる。問題は、そのタイミング。

様々な力が集約し、混沌と化した戦場において、何かを待っているかのように手を出さずに傍観を決め込む白蘭。

 

時が来れば動くのか、その時はいつなのか。

 

その瞬間、遠目からにも分かる細い閃光。

翡翠のような閃光と共に、戦場に異変が生じた事をこの場にいる者達は感じ取った。

 

戦況が、動き出した。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

苛烈を極めたボンゴレ、イリス、ミルフィオーレの戦場の中で、白蘭の手による一手。

戦場が激変するまで、あと数分。

 

「おらぁ!喰らえ!」

 

元より一回り程巨大となった、ザクロの剛腕。

木々をなぎ倒し、炎を薙ぎ払い、人であればまさに真綿を毟るように引き裂けるが、相手が悪かったとしか言いようが無いだろう。

 

目もくらむような純白の炎を服の形状にして身に纏い、楽し気に笑う少年、白神光努。

頭蓋を砕かんと迫るザクロの腕に対して、下から組んだ手をぶち当てて、強引に上へと弾く。上から振り下ろせばダブルスレッジハンマーとでも呼ばれそうな動きだが、今回は逆から跳ね上げるようにして軌道を逸らす。最も、それを光努の腕力で繰り出せば、到底逸らすだけでは済まさないダメージをザクロは受けていた。

 

(バーロォ!まるで鋼のハンマーでぶっ叩かれたみてーな衝撃だぁ!こいつ、どういう肉体してやがる!?)

 

ぎろりと瞳を動かし、跳ね上げられた腕をそのまま振り下ろそうとする。同時に掌と爪に嵐の炎を纏い、威力を底上げする。例え光努といえど、至近距離から炎込みの剛腕を喰らえば、流石にただでは済まないだろう。無論それも、無事に当てられたら、の話だが。

 

「白道・白穿打(はくせんだ)

 

ドオオォオン!

ザクロが豪腕を振り下ろすより早く、跳ね上げた腕を潜りザクロの目の前へと自身の体を潜り込ませた光努は、組んだ両手はそのままに、左手で押し出すよう、右肘をがら空きのザクロの水月へと打ち込んだ。

 

灯夜に教わった源流無道流において、大地を踏みしめ、加速した勢いを殺す事無くただ一点に集約する技術、穿打(せんだ)。それに加え光努は捻りを加え、コークスクリューブローのような体当たりをするかのような威力を肘の一点に集約し、ザクロを撃ち抜いた。

 

爆発音と間違うような音を置き去りにしながら、桔梗の恐竜を数体巻き込みザクロは風と重力に逆らって吹き飛ばされた。

 

「ザクロ!」

「どこ見てやがる」

 

ザクロの方へと一瞬意識を向けた桔梗に、相対していたXANXUSは両手の二丁拳銃の引き金を引き、圧縮された圧倒的な破壊力を持つ憤怒の炎を撃ち出した。

 

すぐさま、桔梗は自身の分身でもある増殖した恐竜を己とXANXUSの間に動かし、身を守る盾にする。

 

例え破壊されたとしても、雲の増殖によって増やす事の出来る帰郷にとって、恐竜一体一体を使った攻撃も防御も自由自在。高い硬度の盾ではないが、無限に増え続けるというのはなかなかどうしてうっとうしい。破壊力のあるXANXUSの炎も、数体は普通に吹き飛ばせるが、攻撃に気を寄せ過ぎれば他の恐竜が狙ってくる。

 

「ちっ!」

 

軽く舌打ちし、眼下に向けた拳銃から炎を噴出し、その推進力を利用して一瞬で移動して恐竜の猛攻を躱す。

 

増え続ける恐竜を破壊し続けるという無意味な攻防を終わらせるには、桔梗本体をどうにかして撃破しなくてはならない。それにはまず恐竜を倒す。

 

これでは矛盾した攻防の繰り返しだ。その攻防を回避するには、新しい手を打ち込む必要がある。高速で桔梗と恐竜達の周りを飛び回るXANXUSは、片腕で拳銃を、空いた手で耳に備えたインカムに手を当て、ぽつりと呟く。

 

「――やれ」

 

瞬間、桔梗の顔が爆発した。

突然の爆風に、ピンポイントに桔梗の上半身が煙で多い隠される。

突如飛来した攻撃。それを撃ち出したのは、桔梗のいる地点からおよそ500メートル以上離れた場所に位置する人物。

 

森の中にひっそりとたたずみ、溶け込むように一際大きい大木の中腹の枝の上で、片膝立ちで戦場を見ている人物は、ガシャリとその両手に持った狙撃銃を構え直す。

 

闇夜のような黒髪をキャップに収め、ヴァリアー特有の隊服に身を包んでいたのは、ヴァリアー雲の幹部、蔵見考魔。

 

通常よりも少し長い黒塗りの狙撃銃を構え、スコープ越しに桔梗の姿を見て、ぽつりと呟く。

 

「……ボス、防がれた」

 

晴れた煙の中央に佇む桔梗は、両腕をクロスさせ、純度の高い雲の炎を纏っていた。

わずかに腕が負傷しているが、戦闘不能になるほどではない。

 

不安定な枝の上、さらには500メートル以上離れた地点から人の頭を狙撃銃で撃ち抜く考魔の手腕は見事と言わざるを得ないが、驚くべきは、知覚外から飛来した亜音速の弾丸を、咄嗟の光と炎を見てから反射的にガードした桔梗の能力の高さだろう。

 

結果としてわずかに傷を残したが、大した傷ではない。入江特性のレーザートラップを全て、リングの炎のみで防ぐほどに、修羅開匣して恐竜が目立っているとはいえ、桔梗単体の防御能力も遥かに高かった。

 

「ハハン、狙撃兵を一人配置していましたか。けど、場所が割れてしまっては役に立ちませんね」

 

そう言うと、桔梗は自身の配下の恐竜を複数分裂させてる。狙撃兵の対処方法として一般的なのは、遮蔽物の影に隠れる事。

 

そして桔梗は、己の恐竜を複雑に増殖させ、自身を守る盾にすると同時に自身の姿を隠す遮蔽物とした。それに加え動き回る戦場の中では、そう簡単に当てられる物でもない。

 

広範囲を狙う雲の炎を利用した増殖攻撃も考魔にはあるが、乱戦の中だと味方に当たる恐れもあるので愚策。故に、考魔は狙撃銃を降ろし、自身の愛銃をガンベルトから引き抜き、戦場へと歩を進めた。

 

入り乱れる炎。混沌と化す人と怪物の宴。

 

大地を抉り、空気を切り裂き、木々をへし折る。強大な力と力がぶつかり合い、森の被害など考えるのも馬鹿らしくなるようなまさに戦場。

 

この戦場に誰が割り込むことなどできよう。誰にも止められう。

 

もしもこの戦の空気を止める物がいるとすれば、それは確実に、人間ではなかった。

 

 

天より降り注ぐように、白蘭の悪意が戦場に舞い降りた。

 

突然の閃光に、思わず皆戦いの手を一時的に中断する。

空気から生み出されたかのように、突如空間より出現した強大な雷。

 

眩いばかりに辺りを照らす閃光に一同目を眩ませるが、光の中央に見える影に驚愕を顕わにする。

 

 

 

果たしてそれを、人と言っても良いのだろうか。

 

波打つ髪と、視線を宿さない瞳。右目の下の三つ爪のマーク。腕もあり足で地に立つ

姿。

 

人としての特徴を持ちながら、誰もそれを人間と表現する事が出来なかった。

およそ3メートルはあろうかという体格。なにより、全身うっすらと発光し、まるで亡霊のようでもあり、自動駆動の人形のようでもあり、ただその場にいるだけで、雷の化身とでも言ってもよかった。

 

だが、その存在をボンゴレ、イリス、ミルフィオーレを含めて全員がすぐに理解した。

 

指に填め込まれた、雷のマーレリング。

その存在から、姿の見えない最後の真6弔花という事は分かる。

 

だが、桔梗、ザクロ、ブルーベルの3人からは援軍が来たという喜びの感情は一切無い。

驚愕、動揺、焦り、恐れ。到底、同じ真6弔花の仲間が登場した事でする表情では無かった。

 

しかしそんなことはお構いなしとばかりに、硬直した桔梗達を保留とし、突如現れた最後の真6弔花、GHOST(ゴースト)に対して、ボンゴレ側は先手を仕掛けた。

 

ベルフェゴールの嵐の炎を纏ったナイフ。レヴィのパラボラから放たれた雷撃。どちらも10年前のリング争奪戦より炎と熟練度を上乗せしたパワーアップした一級品。

回避、防御、反撃、あらゆるGHOSTの行動を想定したが、結果としてどれも違った。

 

奴は――何もしなかった。

 

スカ!

 

擬音が無ければ無音が支配していたであろう、攻撃の素通り。確かにそこにいるのに、攻撃の手ごたえが皆無という状況。

 

まるで半透明なホログラムを攻撃したかのように、ベルのナイフは上から素通りして地面に突き刺さり、レヴィの雷撃は正面から抜けて背後の雷の当たる。

 

一体自分達は何と戦っているのか、幻覚なのか?だがその考えは、骸と弟子のフランによって否定された。

 

「間違いない、GHOSTは実在している。それに白神光努、君にもしっかりと見えているはずです」

「まあな。確かにあれは幻覚じゃないみたいだけど、じゃあなんだ?」

 

確固たる骸の言葉の真意を疑う物などいない。このメンバーの中では、幻覚能力に置いて骸、次いでフランの右に出る者は存在しない。

 

そして光努。白夜の特性を持つ光努は幻覚ならすぐに見破る事ができるが、光努の瞳にはしっかりと、発光する雷の巨人が映っていた。

 

だからこそ不可解。幻覚で無いのであれば、あれは何なのか。皆の言葉を、光努は代弁した。

 

ただそこにいるだけの、まさに幽霊(ゴースト)

攻撃してくる気配の無い物体に対して、バジルは了平と獄寺に提案する。

 

「複合属性の炎なら効くかもしれません。今こそ匣コンビネーションです!」

 

バジルの匣兵器、雨イルカ(ドルフィーネ・ディ・ピオッジャ)は匣の中でも特徴的に知能が高く、それ故に他の匣アニマルと意識を共有し、高次元匣連携能力(ボックスコンビネーション)を可能とする。

 

バジルのアルフィンの雨の炎、了平の漢我流の晴の炎、それら統合して、獄寺の瓜に向

かって放出し、3種の炎を集めた。

 

本来なら昨夜行ったばかりで、まだコントロールに難があるが、今のGHOSTは攻撃の意志を一切見せず、悠々とゆっくりと歩いている。ならば、試してみる価値はある。

 

瓜、嵐猫(ガット・テンペスタ)は晴の炎によってアップデートし、嵐豹(パンテーラ・テンペスタ)へと成長を遂げる特殊な匣。複合された死ぬ気の炎を身に纏い、獰猛なる豹はGHOSTへとその牙を、爪を、肉体を打ち当てる。

 

太炎嵐空牙(たいえんらんくうが)

 

アルフィンの匣コンビネーションにより編み出された、独自の必殺技。

真6弔花でさえも食らうのは勘弁、半端ないと太鼓判を押せる程の威力を誇る猛獣は、一直線に向かう。

 

だがそれでも、歩みを止めない緑光の幽鬼。何もすること無く、ただそこにいて、ただ歩いているだけ。変わる事など無い。

 

だが瓜がGHOSTに触れた瞬間、変わった。

纏われる雰囲気が、がらりと変わる。

 

雰囲気、なんて言葉を使えばいいのかは不明だ。

そもそもが人間とは思えないGHOSTだが、一つだけ言える事があるとすれば、確実に変化は起こった。まるで自身を守るバリアでも張るかのように、激しい光球に包まれるGHOSTに、明らかにただ歩いていただけの先ほどとは異質な変化を、この場にいる全員が感じ取った。

 

不意に、光努は自分の体に起こる変化を感じ取った。正確には光努自身ではなく、彼が纏う純白の炎、白虹(デア・イリス)にだ。

 

明らかに不自然に、まるで糸で引っ張られるかのように炎がうごめく。そしての先にいる人物は、GHOST。その時、光努はGHOSTの特性を理解した。

 

瞬間、球状の炎に包まれたGHOSTから、眩いばかりの閃光と共に、無数の帯が放たれた。先端が少し膨らんだ触手のような異様な物体。

 

地面を除く全方位に放たれた触手は、何を狙ってか周りにいた者に無差別に襲い掛かる。

 

得体のしれない攻撃に対して、無様に受けるのは得策ではない。そう全員は瞬時に判断し、すぐに躱しにかかる。だが、皆が同じような判断を咄嗟にできたわけでもなく、怪我人も多いこの中で、何人が確実に躱す事ができたのだろうか。何人が躱す事が出来なかっただろうか。

 

白鴉(レウコン)

 

ならその穴を、埋めればいい。

骸は、GHOSTの閃光の中で、ぼそりと呟かれた光努からあふれ出るように零れ落ちる物を見つけた。ひらひらと、淡い光を放ちながら、空気に流れるように落ちる物。

 

(あれは……白い羽?)

 

その時、無数の白い羽の一枚一枚が、むくりと膨れ上がったかと思うと、嘴、瞳、足、翼を出現させ、無数の鳥が出現した。それも、本来なら生物学上めったに存在しない、純白の鴉が。

 

「全員なんとか避けろよ。あの雷様、人の炎奪うぞ?」

 

光努の言葉と共に、無数の鴉が放たれ、GHOSTの触手にぶつかった。瞬間、その場で縫い付けるように、鴉がバサバサと翼をはためかせる。

 

無論、それで全てが止められるわけでは無い。今この瞬間にも、ガンガンリングから、匣アニマルから、炎が無理やり吸い続けられている。

 

「な、なんだこいつは!?」

「あれは白い鴉?白神光努、これはあなたの匣兵器の仕業ですか……」

 

訝し気な桔梗だが、その理由も分かる。

光努は今GHOSTの触手をあらかた止めている。無論それで全てを防いだわけでは無いが、それでもイリス、ボンゴレ、ミルフィオーレを構わず守る姿勢に、一体何のつもりかと考える。だが、光努からしてみれば、何を言っているんだこいつ、という感じだった。

 

「あのなぁ、桔梗。GHOSTは無差別攻撃してんだから、この場にいる全員の敵って事だろ?だったら、誰が攻撃しようが誰が防ごうか、関係ないさ」

 

何のことは無い。ひどく単純な言葉に、桔梗を含め、真6弔花は少々ぽかんとしたような表情だっただろう。だがそれでも、避け続けているのは流石の一言。同じように、獄寺達もコルもヴァリアー達も避け続けている。

 

リングはつけているだけで炎を吸われ、触手に触れた匣アニマルは炎を一瞬で吸い尽くされ、おそらく人が喰らっても一瞬で絶命に至る吸引力。

 

何人かが飛び道具を投げつけたりしてみたが、一向に当たる気配は見当たらない。

空気に色を付けただけのような幽霊は、炎を吸い尽くすだけ吸い尽くし、物理攻撃の一切を透過させる怪物。

 

この場にいる全員、どうやって回避するか、そしてこの後どうするか考えていた。

ゆっくりとだが歩いてユニの元へと向かうGHOSTを止める手段が無い。確実に手詰まりな状況。

 

そんな状況下で、光努は冷静な瞳でじっと見、何を考えているかといえば。

 

 

(さてと。あれ……どうやって潰そうかな)

 

 

冷静ではあるが、人の苦悩を無視した割と物騒な考え方をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




光努「『特異点の白夜』で昔書いた話をまとめたりすれば全話数が半分になりそうな気がするんだ」

ツナ「そういう物なの?」

光努「ほら、1話とか余裕で文字数が今の10分1以下とかだし」

ツナ「ああ、そういう事」

光努「後未来編イリスキャラ設定をその内作ろうかと思ってる」

ツナ「それはちょっと気になるね。光努の欄とか」

光努「俺はお前が二重人格かどうか気になるな」

ツナ「言わないでよ!あと二重とかじゃないから!」

リボ「果たしてそうか?」

ツナ「な、リボーン!」

リボ「世界最強の殺し屋の家庭教師(かてきょー)である俺の授業(レッスン)を日々受けていて、本当にツナは普通だと思うか?」

ツナ「まさか、お前――」

リボ「実は毎日ツナに新たな戦闘人格が誕生するように毎日……これ以上はオフレコだ」

ツナ「ちょっ!すごい気になるんだけど」

光努「気にするな、どうせ洗脳とか薬とかそんなんだよ」

ツナ「気になるよ!!ていうかそんなのやだあぁ!」

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