特異点の白夜   作:DOS

150 / 170
気づけば150話。

骸編が15話程、
ヴァリアー編が約40話程、
そして現在未来編が約70話程(現在進行形)、
当然と言えば当然だけどだんだん量が増えて行っている。
徐々に一話辺りの量は増えているはずなんだけど……。


『二つ目の誤算』

 

 

 

某所、イリスファミリーアジト。

 

時刻は夕方前。

川や森、様々建物が立ち並ぶ広大な敷地の中央程には、母屋と呼ばれる屋敷が存在していた。

 

一度ミルフィオーレファミリーに粉々に破壊された敷地だが、どういう手段を用いたのかは不明だがチョイス開催前に光努が来た時には、すでにこのありさま、まるで時間でも巻き戻したかのような不自然さで元に戻っていたという。

 

そんなイリスファミリーの敷地内で歩く影が二人。母屋の前で、何かに備えるように立っていたのは、イリスファミリーが誇る戦闘部隊の二人。

 

第一戦闘部隊『アヤメ』、獄燈籠。

第一戦闘部隊『アヤメ』、海棠槍時。

 

イリスファミリーの戦力という部分を一手に担っていた人物。

たった三人しかいないにも関わらず、10年前の時点で他のマフィアに脅威を与え続けていた戦闘部隊のメンバーがこの場に2人もそろっているとなると、10年前の時点ではなかなかに珍しい光景だった。

 

しかしながら、深い皺を顔に刻み、歳を重ねたような老人である獄燈籠は、まるで日向ぼっこでもしているかのように、母屋前の階段に座り、暢気に空を仰いでいた。

 

隣にお盆に乗せられた緑茶と和菓子があるのを見れば、普通の好々爺といった印象を与えるが、その視線は歴戦潜り抜けてきた怪物の瞳。一時も油断という物が、微塵も感じられなかった。

 

「そろそろ戻ってくる頃合いでしょうか。無事であればいいのですが」

 

そう言って獄燈籠のそばにたたずむ男は、海棠槍時。

青み掛かった黒髪と、端正な顔立ちをした優し気な雰囲気を与える男。主に槍を使用した戦闘術を披露する、屈指の実力者。一度イリスファミリーが崩れていた時は、他の『アヤメ』と同様に世界中を飛び回っていた。

 

ボンゴレがミルフィオーレに総攻撃を仕掛けるときには、イリスの『アヤメ』も同様に各ミルフィオーレの支部を破壊して回ったという。

 

足元に置かれた2メートル近いケースには、愛用している槍が収められていた。

 

「かか、そろそろ灯夜が戻ってくるじゃろ。光努はパンドラに捉えられてしまったそう

じゃがのう。かっかっか」

 

そう言って、自身の耳につけられたワイヤレスのインカムをトントンと指で叩く。

まるで心配している、という風に見えず豪快に笑い飛ばす獄燈籠に、槍時は少し苦笑気味だが、大方その意見に同意の意を示した。

 

「ミルフィオーレのパンドラですか。光努を閉じ込めるという事は、劣化(レプリカ)級では無理でしょう。おそらく疑似(メタ)級の物でしょうか。なかなかどうしてミルフィオーレの技術力、如いては白蘭の能力も侮れませんね」

 

少しながらため息を履き、光努の事を心配する。

比較的に、アヤメの中では常識的な部類に入る槍時。マフィア関係とわかってもツナにいい人と言われるだけのことはあった。

 

別段他のアヤメが血も涙もない奴ら、というわけではないのだが、槍時が最も常識的な感性を持ち合わせているというだけの事だった。

 

「おや?」

 

その時、正面の森の中より風のように現れた影が、二人の前に降り立った。

 

片方は赤黒い雄々しい翼を広げ、制空権を支配する空の王者。嵐の炎を纏ったその姿は、獄燈籠の匣兵器でもある嵐鷲(アクィラ・テンペスタ)のフゼだった。

 

もう一つの影は、地面を駆け抜ける蒼い影。

蒼み掛かった体毛を揺らし、細くも大地を踏みしめる強靭な脚力と、凶悪な犬歯をのぞかせる猛獣。それは澄み渡るような雨の炎を纏う、一匹の狼だった。

 

「おや、フローズにフゼ。どうかしましたか?」

 

海棠槍時の匣兵器である、雨狼(ルーポ・ディ・ピオッジャ)のフローズだった。

低く唸り声をあげるフローズだが、槍時の足元にやってくるとじゃれつくようにすり寄る。こうしてみると狼というより、ご主人に懐く犬のようにも見える。

 

獄燈籠は伸ばした腕にとまったフゼを見ると、少し瞳を細くして状況を理解した。

 

「ふむ、どうやら戻って来たようじゃな」

 

その言葉と同時に、上空から太陽の光とはまた別に、天から降り注ぐ架け橋のような光が母屋の前の広場に降り注いだ。視界を防ぐほどの真っ白な光が晴れたと同時に、その場にいた人物は槍時と獄燈籠の二人の元へと悠々と歩いてきた。

 

「おや、灯夜さんにハクリ。お帰りなさい。状況はどうですか?」

 

光の中より現れたのは、黒い髪に黒い瞳、黒いスーツを身にまとう男、黒道灯夜と、その横で佇む銀色の少年、ハクリの二人だった。

 

「光努は消えて、リルとコルとルイは並盛に置いてきた。直に白蘭がこっち側にミルフィオーレの兵隊を差し向けてくるだろうから、並盛のカタが付くまでの辛抱だ」

「そちらは無事に終わる保証はあるのですか?ボンゴレ10代目とその守護者と言っても、10年前から来た中学生なのでしょう?」

 

槍時の疑問は最もだ。

尚且つ彼は過去のボンゴレファミリーがこの時代でどのような成長を遂げたのかは知らない。故に、その判断に間違いはないのか、そう問うた。

 

彼らが失敗すれば、なし崩し的に全てが終わる状況。

 

ちなみに、光努が消えた発言に関して事情を聴いているのであえてスルーしている。

 

「チョイスを見て思ったが、ボンゴレ達もボンゴレ匣も決して弱くない。連携もうまく取れている。例え正面からぶつかったとしても、勝機はある」

 

ミルフィオーレの全容を見たわけでは無いが、それでも対抗できない事は無い。灯夜はそう判断した。尚且つ、一人一人ならまだしも、連携を取れば、その力を何倍にも高める術をボンゴレ達は有していると。

 

もう一つ言えば、イタリアのボンゴレ本部より日本に飛び立った部隊が一つある、という情報もあるのだが。

 

「ところで灯夜さん。その手に持っているのは何ですか?」

 

先程から気になっていたのか、疑問を口にする槍時の視線の先には、3本の鎖を持つ灯夜の右手。そしてその鎖の先には、地面をゆっくりと引きずられてくる、3つの棺桶が置かれていた。黒々としているが、中央にイリスファミリーの紋章が備えられているので、ここで造られた物というのは分かる。では、何が入っているのか?

 

最もリルやコル、ルイ達は無事というのは先の会話で理解しているので、槍時も獄燈籠も、なんとなく予想できたのだが。

 

「怪我人だ。医務室にあいつはいるか?」

「ええ。こんなこともあろうかと準備万端で待ち構えてもらってますよ」

「ありがたい。一人危ない奴がいるから手早く中に入れるぞ。敵が来るのも時間の問題だしな」

「ええ………!複数の炎反応。この自分を隠そうとしない大胆不敵な出方は、ミルフィオーレでしょうか?」

「意外と早いな。真6弔花は日本に行ってるから、残りの兵隊をこっちに向けたんだろう。狙いは、このおしゃぶりだな」

 

灯夜そういって親指で指した所には、ハクリと、胸元で光る白いおしゃぶり。

 

「ハクリはどうするのですか?このままここで標的になるつもりですか?」

「いや、正直いてもしょうがないし。俺は少ししたら並盛に行くから、あとよろしく」

「自由ですねぇ………」

 

やれやれ、という風にため息をつく槍時。

この時代に置いてハクリは光努同様に10年前から忽然と姿を消している。その為普通ならハクリという人物と接した時間を持つ者は果てしなく少ない。当時から世界を飛び回っていたアヤメの一人である槍時や獄燈籠も。

 

しかしながら、実を言えば10年前の段階でもハクリは光努とは別行動をほとんどとっていたが、その際に何度かアヤメと交流を深めていたこともあるという。

 

「所で、ラッシュとクルドの姿が見えないが?この位置からして屋根の上か?」

「ええ。ミルフィオーレが来るのは予想できてましたので、ラッシュに呼びに行ってもらいました」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

イリスファミリーの母屋には屋上が存在しないので、高い所に上りたいのであれば屋根の上に上がるしかない。上階の天窓から外へとでた男は、屋根のへと身軽に降り立つ。

 

帽子、服装を迷彩柄で染め上げて、腰には2本のナイフ。光に反射する金色の髪をうなじで縛り流した男、ラッシュ・ギナは、屋根の上からこちらに向かう小さな炎の光を確認した。

 

元傭兵であり、現在はイリス第二戦闘部隊『シャガ』の一員。

目元につけられていたゴーグルを外して帽子の上に上げ、敵の正体に苦い表情をする。

 

「うへぇ、なんだあの数。一国でも滅ぼすつもりかよ………ミルフィオーレ容赦ねぇ………」

 

果てしなく面倒くさそうに、苦言を漏らす。

自身の匣を手元で弄びながら、屋根の上を落ちないように歩いていく。

棟の上を乗り越え、反対側を見たとき、下の方で座っている人影を見つけた。

 

「クルドさーん!敵来ましたよー!座ってないで準備してくださいって言ってましたよー!」

 

風に掻き消えた言葉に反応したのか、人影はわずかに体を揺らした。

一本の刃のような気迫が、一瞬だが辺りの空気を切り裂いた。

 

バタバタと風に揺れるコートと、後ろで縛られた髪が揺れている事にも構う事なく、項垂れているように俯いている。

 

その腰には2本の剣を備えているが、同じ物ではなく、鍔があしらわれた黒塗りの鞘に納められた日本刀と、装飾の施された洋剣。

 

言葉だけにすれば普通だが、その剣を納める鞘に刻まれたのは、不思議な模様。どこかの失われた文字のような、その場に存在するのに、見た物を本能的に竦ませる様な、暗い闇を秘めたような不思議な剣。おそらく人が手に持ってはいけない部類の異なる異種の剣を纏い、大空の下で黄昏た男は、少しだけ息を吸い込むと同時に、盛大に息を吐く。

 

「はぁ………………寂しい」

 

イリスファミリー第一戦闘部隊『アヤメ』リーダー、リルとコルの父親にしてイリス最強の剣士。

 

クルドは、静かにため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

片道500万FVという莫大な消費量(コスト)を有する超炎リング転送システムには、貯蓄(チャージ)システムが存在する。

 

簡単に言えば、炎を溜めて好きな時に使用できる。

足りない分はミルフィオーレ側が用意するとして、光努達イリスファミリーがチョイスフィールドに来るにあたって、およそ1000万FVの炎をつぎ込み移動したことにより、残りの500万FVは転送システムの中に残ったままである。

 

つまりには、この時点で炎を供給する必要なく片道の移動が可能となっている。

これに加えて、ツナ達が並盛に帰る時に再び1000万FVをつぎ込んだことにより、ツナ達が並盛に帰還した時点で転送システムには1000万FVがそのまま残されていた。

 

当然そこから500万FV使いチョイスフィールドに戻るが、その後、最後に残った500万FVを使い、灯夜は無事に自分から炎を供給する事なく、イリスファミリーへと戻ったのである。

 

簡単に図にするのならば、

 

 

【光努達イリスファミリーが炎を供給し、チョイス場所へと移動】

イリス(1000万FV供給)→(500万FV使用)→チョイス(残り500万FV)

 

           ▼

 

【チョイス終了後、ツナ達が炎を供給して、ユニを連れて並盛へと帰還】

チョイス(1000万FV供給、計1500万FV)→(500万FV使用)→並盛(残り1000万FV)

 

           ▼

 

【システムが単体で並盛からチョイス場所へ移動】

並盛(残り1000万FV)→(500万FV使用)→チョイス(残り500万FV)

 

           ▼

 

【灯夜とハクリがイリスファミリーへと帰還する】

チョイス(残り500万FV)→(500万FV使用)→イリス(残り0)

 

 

といった具合だろうか。

 

寧ろ分かりにくかっただろうか?

 

 

結果、チョイスフィールドに取り残された白蘭達は、早急に転送システムを回収し、並盛に向かおうとするだろう。ユニを捉えにやってくるのも時間の問題である。

 

問題であるといったが、実をいうとすでに並盛に来ていたりするのではあるが。

ただで返すつもりはなかったのでルイが転送システムに不具合を与えて置いたら、ぎりぎり並盛まで行くことには成功したが転送システムは爆発し、白蘭と真6弔花は並盛の町に散り散りに落ちてしまった。

 

「というわけで、俺はこの辺りで隠れてるけど、お前らはどうする?ツナ達の所へ行くのか?」

「んん………どうしよっかな」

「迷う所」

 

現在、森の中で唸っていたのは、ルイ、リル、コルのイリスファミリーの三人であった。

 

ツナ達と一緒に転送されてきたのはいいが、どうにも別の場所へと落とされてしまったらしく、さらには衝撃で通信機器が破壊されてしまった。そのままボンゴレアジトに向かおうとした矢先、アジトの入り口が爆発して煙を排出したため、ひとまず森の中で身を隠していた。

 

ボンゴレ側と連絡が取れない。

その為、三人は街を見渡し、炎の気配からどこに行くかを議論していた。

 

「今の所炎反応があるのは、ボンゴレアジト、並盛中学、この二つかな。アジトの方は何だか嵐っぽい気配」

「ルイ、どこに全員いると思う?」

「おそらくだが、どっちもいないだろう。多分ユニ達はどこか別の場所へ徒歩で移動中だな」

 

人のなりと状況を理解していれば、次にどのような行動をとるかはある程度絞られていく。そこから選択肢を一つずつ消していけば、消去法で答えが導き出される。

 

「おそらくツナ達は戻ってきてから一度アジトに戻っただろう。むしろそれ以外にどこか行く必要は皆無だからな。しかし今現状アジトの中で爆発が起きているとなると、誰かが戦っている。問題は、誰が戦っているか」

「分かるの?」

「いや、流石にわからん。しかし地下の密閉されたアジトに全員で籠っていることは考えにくいから、敵が強襲して誰かが足止めに残って戦ったと思うのが自然だろう」

 

無論不明点は多々ある。秘匿性の高いボンゴレアジトを見つける方法など。

しかしこの際敵がどうやってアジトの場所を発見したかは問題ではない。

 

敵の奇襲によって、次にツナ達と敵がどう動くかだ。

 

「で、並盛中学の方だが、これは多分恭弥だな。というか絶対に恭弥しか無いと思う。こっちも戦ってるみたいだけどな。かといって全員ここにいるとも考えにくい」

「どうして?」

「転送システムが戻ってから真6弔花が散ったとき、一つは並盛中学の方へと落ちた。そうなると恭弥はそこ目がけて一直線に向かうはず。一人だと心配だからって家庭教師だったディーノも多分一緒にな。だとしたら、アジトから逃げる為とはいえ今敵がいるであろう場所に全員で向かうとも思えない。現時点ではボンゴレの守護者と真6弔花のどっちが勝つか分からないからな」

「まあわざわざカモがネギ背負っていくようなものだからな」

「とすれば、この辺りにボンゴレの誰かの案で、別の隠れ家候補を見つけ今も向かっている、と考える方が自然だ。無論全員のステータスを考えると自身の足での移動でだ」

「その別の隠れ家候補って?」

「そこまでは知らん」

 

ルイがわからないのも無理もない。

 

この頃ツナ達は、三浦ハルが「知り合いの不動産屋のおばあちゃんの所に行こう」と提案してそこに向かっているという、ある意味無策で見つけるのがほぼ不可能に近い逃走手段を用いていたので、流石のルイもわからなかった。ツナ達を見つけようと思ったら、本人に聞くか、気配をたどるくらいしか方法が無い。

 

ちなみに、彼らにゆかりのある自宅や病院などの建物は、基本ミルフィオーレのデータにリストアップされているので、元メローネ基地指揮官だった入江が仲間にいる以上、選択肢としては最初から視野には入っていないのであった。

 

「!ボンゴレアジトに合った炎の気配が町の方に向かってる。多分嵐の炎、それにこのスピードの移動だと、多分ミルフィオーレのFシューズを使ってる」

「ていうことは、移動しているのは嵐のマーレリングを持つ真6弔花、ザクロ」

 

ある程度実力の付いたものであれば、自身以外の周囲の炎反応を感知することもできる。無論その炎が何の炎であるかなど細かい種類は、通常ならわからない。

 

しかしリルとコルは、教えた師が原因が、イリスという環境が幸いしたのか不明だが、自身と同じ属性の炎であれば、ある程度わかるという。

 

そこから推測し、見えない敵の正体を看破して見せたのは流石と言えるだろう。

 

答え合わせをする者はいないが、確かにボンゴレアジトには、一人残って足止めを買って出たスクアーロと、一番乗りで奇襲してきた真6弔花のザクロが対決し、その戦いを制したザクロが今、逃げたツナ達の気配を辿り町へと向かっていた。

 

スピードは速く、リル達が話している間にも炎反応が揺らめき、町中で立ち止まっている事が分かった。

 

おそらく、ツナ達の気配を感じた場所にたどり着いた、といった所だろうか。

 

「じゃあこの辺りに行けばツナ達がいるって事か。ついでにツナ達がいれば真6弔花も寄ってくる。よし、じゃあ私ちょっと行ってくるよ。コルはどうする?」

「そうだね。ボンゴレアジトの方も少し気になるから見てくるよ。足止めされた奴っていうのを考えると、可能性としてはスクアーロとかが一番高いと思うから」

 

ツナは基本的に味方が一人で立ち向かうという状況を好まない。それだけでなく誰かが傷つくという事を好まないという事であり、そう考えると味方を一人置き去りにする選択肢は皆無に等しい。

 

そんな状況下で誰かを足止めに置くとしたら、強制的にツナを黙らせられる人物が残った可能性が高い。無論信頼を元にしてツナ達を背に送り出す可能性もある。

 

その場合山本や獄寺もいるが、やはりその可能性よりかは、ツナに問答無用で意見が出せ、なおかつ真6弔花とも単独で渡り合えそう者を選ぶ方が高い。その人物とは、リボーン、雲雀、ディーノ、スクアーロの4人だ。

 

アルコバレーノのリボーンは必然ユニと行動を共にすると考え、前述のルイの推測通りに雲雀とディーノが並盛中学に行ったと仮定すれば、必然消去法でスクアーロが最も適役、可能性が高い選択肢と考えられる。

 

もちろん確実と言えないあくまで推測だが、コルのもう一つの根拠は、ボンゴレアジトから雨の炎も感じた、というのもあった。

 

そしてその推測も、当たっていた。

 

「じゃ、それで行こうか。二人とも、とりあえずこの通信機持っていけ。今直したから、ツナ達見つけたら周波数合わせておけ」

「うん、了解」

「じゃ、行ってくる」

 

言うが早いが、二人は地面を蹴って森の中を走り出す。入り組んだ森と草の中にも拘わらず、すり抜けるように走る二人は風の如く。器用に木の根を踏みしめ加速し、草を抜けて枝を蹴る。二人とも腰に刀が差しているにもかかわらず、それが木に引っかかるような事もなく、二人の足取りは実に軽快に動いていた。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

ボンゴレアジトから脱出したツナ達は、ハルの提案によってとある不動産屋にやってきていた。知り合いのおばあちゃんとやらの経営しているそうだが、既に亡くなっていたという。まさかのミルフィオーレの標的、と思われたそこに住んでいたおばあちゃんの息子と言う男曰く、穏やかに天寿を全うした、らしい。

 

その男、通称川平のおじさんのおかげで、ツナ達は窮地を脱した。

 

だが、その川平のおじさんという人物に関しては謎が多かった。

初対面のはずなのにツナ達の事をよく知っていたり、白蘭や真6弔花の事、ザクロという相手の名前すらも。

 

それに加え、川平不動産にやって来たザクロに、幻覚のような不思議な術を気づかれないようにかけて、あたかもツナ達が遠くを移動しているように、感覚を惑わした。いないはずの敵につられて、結局ザクロは富士山の方角へと猛スピードで飛んで行ったが。

 

人間を超えたと豪語する真6弔花の実力は決して伊達ではない。

にもかかわらず、その人物を惑わす手腕。

 

謎の人物、川平のおじさんという謎がツナ達の中では残ってしまったが、結果的に助けてもらったのは事実だ。

 

ザクロがいなくなると同時に川平という人物はどこかへと言ってしまった。ちょっと旅に出るからお店は好きにしていい、という言葉を残して。

 

窮地を脱したツナ達だが、ここで新たな朗報が通信機越しにディーノから入った。

ボンゴレ孤高の雲の守護者、雲雀恭弥が、チョイスで標的を務めた真6弔花のデイジーを並盛中学で倒したという知らせを。

 

流石雲雀、という言葉と共にツナ達はその知らせに喜んだ。

ザクロがいなくなり、デイジーが倒される。これにより、訪れる可能性があったであろう、当面の危機が去ったことに。

 

現状真6弔花に位置がばれていないと考えると、ここでボンゴレアジトの様子を見てくるという者が現れる。

 

山本、スパナ、ビアンキ、ジャンニーニという、意外と非戦闘員が入ったメンバーだった事に、他の一同も幾分か驚いていた。

 

山本は残ったスクアーロが心配で、ビアンキは忘れ物を取りに行くといって、ジャンニーには自身が構築したボンゴレアジトが心配で、そしてスパナは、何かモスカに制作役立つ部品は無いかを探しに、三者三様ならぬ四者四様の理由を胸に、こっそりと川平不動産から外に出た。

 

だが、その時わずかに開けた隙間より、真6弔花の一人、霧の巨人トリカブトの侵入をゆるしてしまった。ランボがソファの下に隠され、大胆にもランボの姿でユニの隣まで近づかれた。

 

咄嗟にクロームとユニが不快な違和感を感じたが、時遅くユニの背後にトリカブトが現れた。無論そのまま外へと出すつもりなど無かったが、中に現れたトリカブトに意識を持っていかれたせいか、外から入り口のドアを破壊する攻撃に対処できなかった。

 

今上空では、桔梗、ブルーベル、そしてユニを抱えたトリカブトの三人が滞空していた。

 

「ハハン、作戦成功です」

「さあこっからは、このブルーベルが相手よ!」

 

真6弔花には、偽のマーレリング所持者であった元6弔花と同じように、サブ匣とメイン匣の2種類が存在する。雲のマーレリング保持者である桔梗の持つ雲桔梗(カンパネラ・ディ・ヌーヴォラ)や、雲雀に倒された晴れのマーレリング保持者である太陽サイ(リノチェロンテ・デル・セレーノ)もこれに当たる。

 

そして、雨のマーレリング保持者、ブルーベルの持つ匣兵器は、雨カタツムリ(キオッチョラ・ディ・ピオッジャ)。他の匣アニマルのような生きて動く生物型ではなく、カタツムリの殻が複数飛び出し、対象に衝突すると同時に爆発する、幻騎士の幻海牛(スペットロ・ヌディブランキ)のような爆発兵器。

 

桔梗とブルーベルが匣兵器の火力をツナ達にぶつけて、その間にトリカブトが白蘭の元へとユニを連れて行く。

 

ザクロのように力任せの強襲ではなく、ユニが逃げられないように、あらかじめ白蘭の能力を使って場所を特定し、忍び込みやすい幻覚使いのトリカブトを潜入させ、あとの二人で援護する。

 

ちなみに、白蘭はパラレルワールドから知識を共有するに当たり、能力開花当初と比べて一度に一つの事くらいしかわからず、本来なら本部の最深部で行う儀式を森の中で行った。その際はトリカブトが見つからないように幻覚で隠し、白蘭はその甲斐あって、川平不動産という場所を特定したのだった。

 

まさに、作戦通り。

 

 

そんな彼らも、二つ程誤算があった。

 

疾風の如く空を飛来し、ユニを抱えるトリカブトを突き破って攻撃を加えた者の姿。

トリカブトが霧となって消えたと同時に、空に投げ出されたユニを受け止めたのは、鋭く淡い光を放つ、雷の炎を纏った黒い2匹の狐だった。

 

「コルル………ビジェット………?」

 

惚けた様なユニの背と足に手を回し、悠然と降り立つ騎士のように抱え上げた人物は、静謐な声音で問いかける。

 

金色の髪をなでつけ、黒いスーツに身を包んだ、雷のリングを持つ男。

 

「お怪我はありませんか?………姫」

 

元ミルフィオーレファミリーブラックスペルの6弔花にして、ジッリョネロファミリーの雷の守護者、〝電光〟のγ(ガンマ)

 

そして同じく彼の弟分達でもあった、太猿と野猿の二人も、自身の敬愛する姫を守る為、武器を手に空の上へとその身を躍らせた。

 

「ブラックスペルだと!奴らはメローネ基地の転送(ワープ)時に死んだのではなかったのか!」

 

桔梗も驚いた。

メローネ基地が超炎リング転送システムによって飛ばされた時、中にいる人材に関しては殆どが死亡したものとされていた。最も正確に確認したわけでは無く、無人の人工島に落としたので、崩壊に巻き込まれたらどうしようもない。そして海のど真ん中で、やはりどうしようもない。そう思われていた。

 

しかし、γ達はボンゴレとイリス達との戦いの後、転送を予想していたのか、メローネ基地からいち早く脱出に成功していたのだ。

 

そしてミルフィオーレの拠点がなくなった為、並盛に今の今まで潜伏していたという。

このままいけば白蘭の注文通りにユニを無傷で捕獲できたものを、想定外のγ達に邪魔されて面白く無いのか、ブルーベルは分かりやすく不平不満を顔に出していた。

 

「何やってんのトリカブト!ユニを取り返すのよ!」

「γの技は全て知っているはず。一人でできますね?」

 

こくりと、無言で桔梗の言葉に頷いたトリカブトは、霧の炎を纏い、γとユニの元へと飛び出した。

 

だが、それをみすみすと見逃すような太猿と野猿ではない。嵐の炎を纏う大鎌を手に、飛び出したトリカブトに向かって、一閃振り下ろす。

 

「がはっ!」

「うわっ!」

 

だが、まさに霧の如く、するりと二人の鎌をすり抜けるようにした通り際、トリカブトの武器が二人の体に浅くない傷を作り出した。

無論、そうしたトリカブトの姿は無傷。

 

「ちぃっ!黒狐(ネレ・ヴォールピ)!」

 

γの掛け声とともに、黒狐のコルルとビジェットは鋭い雷の炎と共に、回転しながら突撃を仕掛ける。

 

だが、それすらもトリカブトはあっさりと通過していった。まるで削り取られたような二匹の体に残る破壊の痕。そしてそれを成し得たトリカブトのローブの裾からは、高い唸り声をあげる二つのチェーンソーの刃をのぞかせていた。

 

「くそっ!」

 

ぱちりと小さく光が弾けると同時に、γの手にしたリングから緑色の閃光、雷の炎によるバリアが展開された。だが、その光景に桔梗は失笑を隠し得ない。

 

「ハハン!そのランクのリングでは役に立ちませんよ」

 

死ぬ気の炎の威力は、その人物の覚悟の強さに比例する。

だが、それが十全に発揮されるかどうかは、その人物の持つリングの強さにもよる。

 

例え超人的な覚悟を有した人物がいようとも、持っているのがC級のリングでは、その炎の力は半分も発揮されない。炎の強さは勝っていたが、強いリングを持たない為に幻騎士に追い詰められた10年前の雲雀がいい例だろう。

 

γの覚悟と実力は並大抵ではない。6弔花時代は偽物とは言え、白蘭曰く「ランクAのすげー石」が使われたマーレリングを使用することで、炎一つとっても研ぎ澄まされた鋭い盾と矛にできた。

 

だが、今持っているリングはそれに及ばない、よくてB-級のリング。

 

例え優れた銃を持っていようとも、ただの銃弾では鉄板は撃ち抜けない。

 

ある程度の攻撃は防げても、黒狐を一撃の元に伏したトリカブトの攻撃を防ぐには、心もとなかった。

 

先程の黒狐(ネレ・ヴォールピ)も、精製度B以下のリングでは100%の力は引き出せない。精製度がA級のリングがあれば、結果はまた違ったかもしれないが。

 

 

真6弔花の作戦における誤算の一つ目は、γ兄弟がこの場にいた事。

 

 

彼らの奇襲により、ユニを取り返す事に成功した。

そしてもう一つ、先制を撃たれたボンゴレ達は、γ達が戦っている間に態勢を立て直し、上空へと駆け上がったツナがトリカブトに一撃を入れた。

 

オレンジ色の流星のように、気づけばγとユニの目の前に。

 

全てを見透かすような瞳を真6弔花に向け、大空の炎を纏う拳を握った。

その姿に、ユニは無意識のように呟いた。

 

「……いつも眉間に皺を寄せ、祈るように拳を振るう。あれが………ボンゴレⅩ世(デーチモ)!」

 

 

 

前述したとおり、真6弔花には誤算が二つあった。

 

 

一つはγ兄弟がいる事を察知できなかった、というより想定していなかった。

そしてもう一つの誤算とは――――――

 

 

ザシュ!ザシュ!ザシュ!ザシュ!

 

 

鈍い音が響き、対空していたツナ、γ、ユニ、桔梗、ブルーベルは驚愕の表情をする。

下にいたリボーン達も同様の表情だった。

 

目の前には、4本の剣に貫かれた、トリカブトの姿があった。

だが、その体はさらさらと砂のように空間に溶け込み、再び塵が集まり別の場所へと出現する。流石霧の真6弔花といった所だろうか。その体は無傷だったが、わずかにローブの裾が切れていた。

 

いきなりの事に驚いたが、精神的に追撃するようにツナの隣にすたりと降り立つ影が現れる。

 

足元には赤い六角のプレートが出現し、強固な足場を構築している。

 

夜の闇を溶かし込んだような黒髪を、後頭部で結い上げふわりと揺らし、腰に差した黒塗りの鞘に納められた刀をかしゃりと揺らした。

 

黒曜石のような瞳は、まっすぐにトリカブトを見つめていた。

 

「見つけた!トリカブト!」

 

イリスファミリー第二戦闘部隊リーダー、リル。

 

剣で相手を串刺しにするという割とショッキングな予備動作の後の登場に、皆一様に驚いた。一番最初に我に返ったように、隣のツナが声を上げた。

 

「リル!」

「あ、ツナやっほー。悪いけど、トリカブトの相手もらうよ。間違いない!懐からまだ

気配がする。パンドラの匣の気配が!」

 

そう言うが早いが、リルは手に剣を構え、トリカブトに向かって跳び出した。

 

 

 

 

 

 




次回、リルVSトリカブト

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