幻騎士との死闘を終えた山本。
そしてアランを倒したリルと、合流した光努。
真6弔花の桔梗は、入江正一の炎をトレースして作り出した
状況を見るならば、圧倒的にボンゴレ&イリス側が有利な状況。
基本動かない大将(光努はもはやスルー)を除けば、動ける兵士ユニットは敵側は桔梗のみ。
いくら真6弔花といえども、1人で二人の大将を守る事など不可能。ボンゴレ&イリス側はいまだ脱落者なく、全員がほぼ万全な状態で戦闘に臨める。
兵士ユニット同士がぶつかれば、圧倒的に数においてもこちらが有利だ。
幻騎士が脱落した今、入江正一はここが勝機と悟った。
その為、山本が通信可能なタイミングを見計らい空気を読んで通信を行う。
『あー、山本君?とりあえず大丈夫そうだから連絡したけど、次の指令いいかな?』
念の為の確認。通信端末越しの会話でなんとなくの察しがつき、幻騎士が無事だというのは入江の方にも伝わった事だろう。
山本はすぐさま通信を取る。
「お、入江!幻騎士は助かったぜ!光努のおかげだ!」
『会話でなんとなくわかったけど、驚いたよ。一体どういう方法を使ったか気になるけど、実は山本君にはこれから敵の大将の一人、デイジーの元へと行って欲しいんだ。綱吉君と一緒に空中から攻める!』
「あ、武その通信機ちょぉっと貸して。すぐ終わるから」
「ん?あ、ああ。いいけど、ほら」
『あれ、山本君?』
あっけらかんとごくごく自然に、横から会話を挟み込んで通信機を借りる光努。
通信機の向こうで入江の声が聞こえるが一旦無視し、カチカチと弄ったと思ったら、すぐさま山本へと返した。
疑問符を浮かべる山本を横目にして、自身に装着した通信機を再びカチカチと弄ると、わずかなノイズの後にクリアに音声を拾った。
「よー、正一。今から攻めるところか?」
『光努君!?こっちの通信を傍受したのかい!?いったいどうやって』
「直接弄って同期させただけだ。それよりそっちが今から狙うのは、真6弔花のデイジーの方か?」
わずか数秒でボンゴレとイリスの通信機を合わせ、入江の思考を読む光努の手腕は見事と言わざるを得ない。入江は一瞬驚くが、光努の言葉に思考を切り替え、ボンゴレ作戦参謀の顔を見せる。
『ああ。ここからだと一番近い。桔梗が囮に翻弄されている今、ミルフィオーレの兵士はいない。今なら綱吉君と山本君の二人で攻めれば敵の大将を落とせる』
「じゃ、こっちはもう一人の大将、緑鬼の方に行くか。リル、幻騎士に箱付けとけ。コードは他と同じで『C』でな」
「りょうかーい♪」
「それじゃ、俺は先に行ってるぜ」
そう言うと、光努はその場で深くしゃがみ込んだ。光努にしては珍しい予備動作だが、その足先は大地を砕かんばかりに力を圧縮させ、飛び出した。
文字通りに硬いコンクリートを砕きながら弾丸よりも早く飛び出し、ビルの壁面を蹴りだし壁を駆け上がって、あっという間に高層ビルの屋上まで到達する。そのままTシューズにより宙を蹴りつけた。
その様子を驚くように見ていた山本だったが、すぐに自分も小刀を構え、雨の炎を噴き出し空へと舞い上がった。
一人残されたリルは、そんな二人の様子を眺めた後、楽しそうに割り、倒れたままの幻騎士に向き直る。
「さてと、私も仕事仕事」
***
「びゃくら~ん!こっち絶体絶命じゃん!みんなやられちゃったし、桔梗しか残ってないじゃない!どうするのさぁ!」
バタバタと、実に子供らしい仕草で叫ぶブルーベルは、隣に座る白蘭の肩をがくがくと揺らしている。白蘭本人はされるがままとははは笑っているが、手に持った袋からマシュマロがぽろぽろと零れ落ちていた。
「ねぇ~、びゃくらーん!」
「ははは。ブルーベルはせっかちだなぁ。今とってもいいところじゃないか」
「あんなにボロボロなのに?」
「幻ちゃんが生き残ったのは想定外だけど、代わりに光努君の炎が見れたしよしとしよう。あれは世界広しといえど、ここでしか見られないからねー」
くっくっくと喉を鳴らし、楽し気に笑う白蘭の姿。
白蘭にとって幻騎士が死のうが生きようが、構わず自身の中では問題は無いらしい。それよりも、先程画面に映った白い光に目を奪われた。
しかしブルーベルは、そんな白蘭の言葉にも態度にも不満があるのか、頬を膨らませて口を尖らせている。
「にゅにゅぅ~。ただの炎じゃない。びゃくらんなら、他の世界であんなのいくらでも見た事あるんじゃないの?………ちょっとだけ、白くてきれいだったけど」
「ははは。実はそうでも無いんだよね。綱吉君も山本君も獄寺君も、あそこにいる正ちゃんも桔梗もブルーベルも、僕は他のパラレルワールドで何回も見た事がある。直接であれ間接であれ、ね。けどね、光努君は見た事が無いんだ」
「にゅにゅ?それってどういうこと?」
「つまり、正真正銘、白神光努という人物は、全てのパラレルワールド、ついでに全ての過去未来において、今この世界この時代のこの場所にしか存在していないって事」
「え、それって………………なんなの?」
「なんなんだろうねぇ。本当にね」
怪しく笑みを浮かべる白蘭だが、その内心では全てがわかっているわけでは無い。
パラレルワールドの扉を開き、可能性の力を得た白蘭でも、分からない事は探せばまだまだ存在する。だからこそ、今このチョイスが開催されているのだから。
しかしブルーベルはそんな言葉の理解が微妙に遅れたのか、分かりにくい話より今の現状を語る。
「それよりもー!もうすぐデイジー達やられちゃいそうじゃない!」
「あはは、それは大丈夫だよ。あのミルフィオーレの基地ユニットは吹き曝しで簡単な造りだけど、二つともとある機能がついているのさ」
「とある機能?」
「デイジーの基地ユニットのテーマは『守り』。
白蘭が楽し気に語ると同時に、画面に映る戦況が傾きだした。
それはまさに、白神光努が駆け抜けている映像。
そしてその最中、画面が緑色の閃光に包まれた。
***
ビルの屋上を駆け抜ける光努の瞳がまずとらえたのは、光だった。
自身の顔に影を作りだし、光努の周りを照らし出すような、エメラルドを砕いて散りばめたような緑色の光。発光元を探し出そうとすれば、それは案外早く見つかった。
駆け抜ける光努の真上。
太陽の光を押しのけて、弾ける様な緑色の閃光。
見覚えのあるその閃光に、いや炎に、光努は空中でTシューズにより足場を作り、跳躍してその場を90°曲がって、一気に離れた。
その瞬間、真上から襲来した閃光は先ほどまで光努がいた場所に降り注ぎ、真下のビルに穴をあける。
硬化されたビルをたやすく貫くのは、光の雨。
それも、同じ緑色の閃光を眩いばかりにまき散らす、雷の雨だった。もっと正確にいうのなら、雷の炎による無数のレーザー。
嘗てツナ達がメローネ基地で倒したデンドロ・キラムの雷砲撃とは比べ物にならない程強力な攻撃。おそらく、当たればただでは済まないだろう。
次第に、ビルの上階はたやすく吹き飛ばされ、風が吹く事になる。
その映像に、観覧席のメンバーは各々驚きの声を上げる。
「な、なんですか!?今の攻撃は!」
「上空からの雷の炎によるレーザー?消去法で行くのなら、今の炎はガロファーノ隊の
大将、緑鬼の攻撃って事になるな」
バジルの驚きに推測を述べるディーノ。
今回のミルフィオーレチームのメンバー全員と照らせば、雷のメンバーは一人しか存在しない。それが、チームガロファーノ隊の
無論可能性を挙げれば他のデイジーや桔梗が雷の炎を使ったかもというのはあるかもしれないが、そんなことは推測するまでもなく低い可能性なので余裕で却下する。しかし不可解なのは、光殿周りに敵影らしきものが見当たらないという事。敵は一体どこから攻撃したことになるのか。
「敵の大将の位置は動いていないな。最初の場所からは一歩も離れてないな」
ソファで寝転びながら、手元の端末を弄るルイが報告をする。
戦場で使われているのと同種のタイプのレーダーを携帯しているのだろう。すでにこれまでの戦闘で入江同様、どの炎反応が誰の物かはすでに全て把握している。それによれば、今この時点で攻撃犯人と思われる緑鬼の位置は、最初の基地ユニットから移動をしていない。
つまり、ルイの持つレーダーが確かなら、およそ3キロ先から光努に向かって砲撃を放った事になる。
「そんな距離から、攻撃か可能なのですか!?」
「ゔお゙ぉい!
その時、空気を読んだかの如くタイミングで、画面の一つが切り替わり別の映像が映し出される。
それは一つの基地の映像。
シンプルな構造から突き出した無数の砲台。備え付けられた無数の弾頭。
その形は確かに、兵器と呼ぶに相応しかった。
「な、なんだあれは!」
「まるで要塞だな」
リボーンの言葉通りに、それは要塞。
ただ普通の要塞と異なるのは、防御という存在を一切無視した、超攻撃型の要塞。
攻撃は最大の防御。無数の砲台に囲まれるようにして中央の台座に座っているのは、通称緑鬼。しかしその顔から鬼の面は外れ、本来の顔がさらけ出されていた。
まだ幼さの残る、およそ中高生くらいの少年は、ビル風に吹かれ銀色の髪を揺らしている。自身の周りに展開させた、空間に投影したのスクリーンを無数に操作し、そのエメラルドのような瞳に映るは、どこか遠くの虚空を見つめているかのようだった。
「イリスファミリー
ぽつりとつぶやかれた言葉と同時に右手を操作すると、突き出した砲台の一つの角度が修正される。レーダ上に映る光努を狙って、砲台の中からぱりっと漏れ出す雷の炎。
閃光をため込み、一瞬の間に膨れ上がって外へと飛び出した。
ドオオォ!!
抑えられても漏れ出す激しい発射音。おそらく半径5キロ圏内にいれば聞こえていたであろう爆音を響かせ、雷の閃光はビルの隙間を抜けて上空へと躍り出る。
上空へから一際閃光と共に折れ曲がり、ビルの上を飛ぶ光努に向かって、鉄槌のような砲撃が振り下ろされた。
「確かに威力は高そうだが、そんな分かりやすい奴には、そう簡単に当たってやらないぜ?」
足元のビルを蹴り、一足で道路を挟み隣のビルへと飛び移る。
着地すると同時に光が降り注ぎ、先ほどの足場のビルのおよそ上から4階は倒壊した。
当たればただでばすまないであろう威力。
しかし光努にとっては、躱す事など造作もなかった。
大振りの攻撃に予備動作が大きいように、強大な砲撃は激しい閃光を纏い光を空に映し出す。それは敵にとっては、とても分かりやすい攻撃の合図。
確かに威力と範囲は広いが、分かる攻撃なら光を確認してからでも、そこそこ反射神経が高く機動力のある者であれば、避ける事はたやすかった。
光努は同じように、再び情報から振り下ろされる雷の砲撃を躱そうとした瞬間、微かに音を拾った。
(この音は………何かが崩れる音?)
驚異的な光努の聴覚が、コンクリート、おそらくフィールドのどこかのビルであろうが崩れる音を聞いたが、それでも躱すという選択は変わらない。が、すぐにその音源の場所が分かった。
地面現れた、別の雷の砲撃によって。
「!?うぉっと!」
咄嗟に、体を逸らして砲撃、雷のレーザーを躱す。
流石に上からと見せかけて下からの攻撃に光努も少し驚いたのだろう。
先程光努の聞いた崩れる音は、下から打ち出されたレーザーがビルの壁を砕く音。
しかし、それでも不意のレーザーを躱すのは流石の一言だが、上空から落ちてくる砲撃はまだ健在だ。
仰向けのような体制で空からふる光に包まれた雷の炎を見て、光努が思った感想は。
「あ、綺麗だな」
ドゴオオオォ!!
激しい粉塵を放ちながら、高層ビルの一つが吹き飛んだ。
***
「な、なんですか!あの馬鹿げた砲撃は!」
「ビルの一つが吹き飛びました!」
「あれは、
驚く面々にぽつりとつぶやいたのは、ルイ。
その表情はルイにしては珍しく、少々驚いたといった表情だった。
いち早く反応したのはリボーンだった。
「ルイ、知ってるのか?」
「正一からもらったミルフィオーレの匣資料を見ていた時に見かけた開発中の兵器だったはずだ。まあ、何年も前のだから今できている事には驚きはしないが、あんなのを操縦できる奴がいるってのが驚きだな」
「どういうことだ?」
「コストがでかいんだよ。製造コストもそうだが、使用コスト、炎の量がな。本来なら動かすのに1000万FVは軽く必要だ」
軽く言うその言葉に、バジル達一同は驚愕に表情を染める。
超長距離移動手段の超炎リング転送装置でさえ、500万FVあれば片道だが動かせるというのに、それより軽く倍は必要だという。馬鹿げた話だが、事実目の前には使用した映像が流れている。
「ミルフィオーレで開発中のこいつは要塞の名の通り、普通なら数十人単位で操作するのを前提とした兵器だ。一人で動かす事は想定されていない」
「しかしルイ殿!あの緑鬼は一人で操作しています!」
「それだけ、あいつが化け物だってこったな」
リボーンの言葉を事実通りに受け止めるなら、通称緑鬼は、一人でボンゴレファミリー守護者全員に匹敵する炎圧を誇る事になる。
そこから生まれる強力な砲撃の数々、間違いなく大量破壊兵器と呼ぶにふさわしい。
「予定では、超炎リング転送装置を使って戦場に投下して、辺りを殲滅する。っていう事をやるつもりだったみたいだけどな」
一番のネックである持ち運びという点も、匣技術が流用化されて簡易的になったが巨大な物もまだ多く、そんなものでも一瞬で長距離に移動できるなら、確かに有利この上なく、容易な大量破壊が実現する。
「白蘭も恐ろしい事を考えるな」
「それに、3Dレーダー追跡、光努のマーカー信号キャッチ、追尾、本来殲滅目的のあの兵器が一人に向けられるとか、本当に馬鹿げた話だ」
「そんな事、大丈夫なんですか!?」
「ま、勝機が無いことも無い」
「?」
「おそらく、あの緑鬼本人は戦わないタイプだと思う。体内炎圧量は高いが個人戦闘力はあまり高くないって奴は珍しくない。おそらくその典型だ。それにどっちにしても、近接戦で光努に勝てるやつはそういない」
「まあ、確かに」
「ゔお゙ぉい!同感だぁ゙!」
ルイの言葉に、ボンゴレの中で、光努と実際に戦った事のあるバジルとスクアーロが同意する。力、速さ、反応速度、白神光努という人物は、どれも怪物と呼ばれるレベルだ。スクアーロは戦った時の事を思い出しのか、若干不機嫌そうな表情を見せる。
「つまり、相手に近づけば光努の勝ち、って事か」
ディーノは実にルイの言葉を分かりやすくまとめてくれた。
おそらくだが緑鬼は遠距離での攻撃方法しか持ち合わせが無い。
ならば、奴が光努を打ち落とすのが先が、光努が相手の元へとたどり着くのが先か。
大将どうしのガチンコ勝負。
「しかし、あの威力はおかしいな。先ほどと同じくらいの威力なのに、ビル一棟を破壊するっていうのは不可解だ」
「それに光努殿が見当たりません!ていうかさっきのは直に当たったのでは!?」
今更ながら悠長に会話をしていたことに気づく。
光努はあの場で上からの砲撃を避け異様とした瞬間、下から現れたもう一つの攻撃、雷のレーザーに足を止められ、そのまま上からの砲撃が振り下ろされた。結果、ビルが一棟爆発された。
しかしディーノが不可解だといったのは、その威力。
一度目の砲撃ではビルの上からおよそ4階が吹き飛んだ。
にもかかわらず、同じような攻撃は今度は地面まで到達し、ビルを崩壊させた。同じ攻撃になぜこうまで威力に差ができてきたのか。
「それはビルの方に問題があるな。ほら、映像を見てみろ。光努は無事だ」
イリスファミリーのナンバー2、黒道灯夜が言葉を紡ぐと同時に、皆が画面へと視線を集める。そしてそこには、屋上、ではなく、コンクリートの道路を疾走する光努の姿が映し出されていた。
***
イリスファミリー二代目当主、白神光努は、堅い地面を蹴りだし、爆発的な速さでビルとビルの間の道路を疾走していた。
ビル一棟が崩壊した程の直撃を受けたにも拘わらず、光努の体はわずかな汚れが着いた程度であり、本人にも服装にもほとんどの無傷と言っても良かった。
観覧席にいたリボーン達が疑問に思っていたが、本来ビルの上階4階程しか破壊する事ができない程の威力の砲撃に対して、一棟まるまる崩壊させることができたのは、単純な話だ。
威力が足りないのであれば、対象物の強度が変われば結果は変わってくる。
光努は下からの細いレーザーを海老ぞるように躱したと同時に、上からの追撃に対して、下へと向かった。
体を捻り、拳を打ち出し屋上を破壊し、ビルの中へと入っていった。
その後、まるで地面を突き進むモグラのように、ビルの中を階段など使わず、フロアの天井を床を連続で破壊し続け、崩壊が自身に迫る前に一階まで到達。そのまま外へとでたという、言ってしまえば何とも単純だが、何ともでたらめだからくりだ。
到底人間技とは思えない。
まあ、今のボンゴレファミリーならツナや山本、獄寺も同じ方法、もしくは別の回避手段を用意できるだろう。そう考えると実に化け物じみたファミリーになりつつある、ボンゴレ10代目とその守護者達。
しかし相手もこちらに負けない怪物揃い。真6弔花に至っては白蘭直々に人間をやめている宣言をしている。一筋縄ではいかない。
「といっても、部下の方はまだ人間はやめてないみたいだけどな~」
走りながらそう溢す光努の脳裏に思い出されたのは、倒した敵チームの秦捧日。
流石ミルフィオーレでA級と呼ばれるだけあり、一般の枠を超えた存在。しかし、それと同時に一部だけ人間とは思えないような力も持っていた。
人間をやめていないが、人間らしくない部下のチーム。
そう考えると、幻騎士は人間の性能的にまだまともな部類に入るのではないかと思ったが、思想が途中で狂ったので光努はさりげなく却下するのだった。自分で治しておいて若干ひどいが、まあ事実だったのでしょうがない。今は分からないが。
そうこうしている間にも、ビルを貫通するような細長い雷のレーザーが所狭しと打ち込まれており、光努に向かって吸い込まれるように打ち込まれるが、それを前々へと進み、光努は的確に躱しながら相手の元へと近づいていた。
(
ビルを突き抜けて攻撃してくる為、必ず雷が見える前に建物崩壊の兆しが現れる。
と言っても、本来そんな兆しと現れる雷のレーザーに大した誤差は無いので、光努の持つ並外れた動体視力があればこそ気づけるのだが。
ふと、炎反応を感知するレーダを確認すれば、自分と相手の位置がいつの間にか1キロを優にきっていた。
このままいけばあと数分以内に相手の元へと辿り着くだろう。
(の、はずなんだが。なんだ、この違和感は………)
何か見落としてないか?誰が見ても文句なしに順調なはずなのに、どこか引っかかるような感覚。
観覧席でリボーンも思っていたことだが、順調すぎる、というのが違和感の起点。
そこから思考を増やしていけば、だんだんとおかしな点が浮き彫りになっていく。
(敵の大将を仕留めれば、問題ないと思うのだが………)
流石に、大将を倒した後で、「やっぱなし」というような事は白蘭でも無いだろう。最も、実力行使でうやむやに、なんてことになったり他にも可能性はあるので絶対とも言い切れないが。
負ければ全てを失うような状況。
にもかかわらず、白蘭の表情は一ミリも崩れない。
まるで、自身が勝事を確信しているかのような佇まい。
その裏には、何が潜んでいるのか?
どす黒い思惟の渦が足元に迫るような感覚を感じながらも、光努は突き進むのだった。
***
「おかしい」
入江正一は、頬に冷や汗を欠きながら思考し、黒い違和感に襲われていた。
「どうした、正一。今のところ順調だと思うけど」
元ミルフィオーレ専属メカニックのスパナは、自作のスパナ型キャンディを咥えながら、カタカタと忙しくキーボードを操作している。二人とも技術者として一流の腕を持っているだけに、例え目の前にめぐるましく画面が動き手元を動かそうと、同時並列に思考も会話もできる。それでなお、手元は実に正確である。
「いや、確かに順調だが、おかしいのはそこじゃない。
「?どういうこと?」
「そもそも、この戦いのルールは、二人の
「まあそうだな」
このチョイスという戦いにおける根本的な基本ルール。
具体的な撃退方法は、標的となる人物の胸に設置されたマーカーから漏れる炎を消失させる事。そして消失させるには、その人物の生命エネルギーを2%以下にする。
端的に言えば気絶させたり重傷を負わせたり殺害すれば炎は消す事ができる。
死亡前提の0%にしなかったのは、戦うボンゴレ側やイリス側に対するルール上の公平さの為であろう。
「僕達ボンゴレは、まず僕のマーカーの炎を抽出してサンプリングし、
「確かに。おかげ真6弔花の桔梗は囮を破壊する為足止めが成功してる」
「まあね。それに加え、ミルフィオーレ、イリスは共に何もしていない。まあこれは圧倒的な自信の現れ、という点では両者ともに似ているからね。標的が人間離れしているし」
若干苦笑いする入江だが、スパナも全くもって否定できない。
よく知らないが、普通の人間ではない、というのだけはよくわかるという、なんとも言えない信頼だった。
「光努君だからおかしくない戦法だったけど、逆にその戦法がおかしかったんだ」
「戦法が?」
「正確には、その戦法に対する、ミルフィオーレのアクションがおかしかったんだ。具体的に言えば、ミルフィオーレ側のパフィオペデュラム隊、真6弔花達は、
その言葉にスパナは少し目を見開くが、確かにおかしな話だ。
考えてみれば子供でも分かる。
狙いがわからない入江を狙うより、狙いが分かりやすく一人しかいない光努を狙う方が実にやりやすい。細工も何もなく、光努は単体で戦闘に出ている。
だからこそ、やろうと思えば、スタート同時に全員で総攻撃を仕掛ける、というやり方だってできたはず。にもかかわらず、光努とまともに戦ったのは、ガロファーノ隊の捧日ただ一人。アランや幻騎士はリルや山本と戦っていたのもあるし、トリカブトはツナと交戦していた為とも言える。
トリカブトが最初に入江の囮を初めて見たので翻弄され、ツナに襲撃されたのでこれはしょうがないと言えるが、その後の桔梗の言動は不可解だ。
入江の囮が複数ある、というのが分かった時点で、桔梗は先に光努を倒す方へと行けたはず。
戦闘タイプの光努と技術者タイプの入江と比べ、入江の方が遥かに倒しやすい、という
のが理由であるのならわかる。
制限時間の無いルールであるなら、わざわざ最初に強い方を足す必要も無い。
その為、可能性の中で別段光努を責めない事に不思議も無いのだが………。
(それにしては、真6弔花達が光努君に対して無関心すぎる。どちらにせよ倒すなら、何かしらのアクションを起こしてもおかしくないはずだし………)
まるで、に自分達が手を下す必要など無い、とでも言っているかのような佇まい。
(けど、あの緑鬼だけで光努君が倒せるとは思えない。それに、その緑鬼事態も、まるで攻めるなら好きに攻めろと言わんばかりだ)
たった一人の固定砲台、緑鬼。確かに外から見れば強力無比で一人でも大丈夫のように見えるが、相手が相手なだけに、この闘いにおいては無謀に見える。何か、別の思惑が転がり込んでいるかのよう。
(くそ、一体どうなってるんだ………)
不可解な言動、不可解な行動。
いくら入江正一といえど、相手の全てを筒抜けにできるわけでは無い。
入江も光努も、奇妙な違和感を抱えながら、チョイスは最終戦へと進む。