特異点の白夜   作:DOS

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『蒼い燕と紅い桜』

 

 

 

丑三つ時、という程の深夜ではないが、狼が遠吠えしそうな満月が輝く夜。

暗い帳が下ろされた山の中に、一筋引き寄せられるような赤い光。

パチパチと弾けるような火の粉が飛ぶ、焚火の灯り。

 

そして焚火を囲う二人の剣士。

ボンゴレの二大剣豪、山本武と、S(スペルピ)・スクアーロの二人だった。

 

時は遡るチョイスが開始されるまでの期間中。

スクアーロに拉致された山本は、山の中で剣の修行に励んでいた。しかし、修行をするにあたり、スクアーロは山本に二択を迫った。

 

剣を選ぶか、野球を選ぶか。

 

中学生の山本にとって、野球は真剣に打ち込める一つの物。

己の全力を振り出し、汗を流せる競技。それだけの才能と努力を、山本は熟した。

 

なら剣はどうだろうか。

ヴァリアーと戦うことになり、必要に迫られ父に教えを乞うた時雨蒼燕流。

本来なら平和に生きる山本には必要のない剣だったかもしれないが、真剣な刃を握りしめ、山本は一角の剣客として立ち上がった。

 

野球も剣も、今の山本にはなくてはならない物だった。

だが、それが山本の剣を鈍らせる原因にもなっている。

 

スクアーロはそれがわかっていたからこそ、迫った。

剣士になり切れない甘さを抱える山本を、本物の剣士にするために。

 

「てめーには両方を同時にこなす才能がある!!だが剣はこなすもんじゃねぇ、懸けるもんだぁ!!」

 

スクアーロは幼少より、剣の道を突き進んだ。決して脇に反れず、目の前に現れる強敵を斬り倒し、己の剣を完成させた。そのスクアーロから見たら、野球と両立しようとする山本は甘すぎて、苛立たしいのだろう。自身を倒し、この時代でも剣豪と謳われるからこそ。

 

今の時代の山本の甘さは、それも本人の一部と思い黙認した。

しかし中学生である山本には、覚悟を決めさせる必要がある。

だからこその問答だったが、山本からの答えはすぐに帰ってきた。

 

「それならもう決まってる、剣一本で行く」

 

自身の持つ剣、時雨金時を握りしめ、力強く宣言した。

 

山本は、メローネ基地の戦いにおいて、幻騎士を倒す自身はあった。決して驕りでも慢心でもなんでもなく、それだけの修行もこなしたと自負していたから。そしてみんなで過去へと帰るつもりだったが、結果は惨敗。最終的には無事だったものの、過去へと帰ることができなかったし、自分は人質になってしまった。

 

幻騎士に負けた時、暗く沈む意識の中で、山本は後悔した。

 

 

父の時雨蒼燕流の名を汚してしまった。

 

仲間(ダチ)の為、全力を出せていなかったんじゃないか、と。

 

 

「でも不思議なもんでさ、剣だけで行くって決めたら気がスッて楽になってさ」

 

そう言ってごろりと寝転がり笑う山本の言葉は、胸の痞えが取れたかのような晴れ晴れとした表情だった。

 

その後、あくまで剣のみでやるのは過去に帰るまでという期間を決める山本に、スクアーロは再度苛立たし気に怒鳴りつけるのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

ガキイィ!!

 

「!!ぐぅっ!」

 

山本の振るう時雨金時が、幻覚の中を移動する幻騎士を捉え、幻覚の外へと引きずり出した。

 

完璧に自身の匣である幻海牛(スペットロ・ヌディブランキ)と同調した幻騎士だったが、一撃二撃三撃と、立て続けに剣撃をあてに来る山本に、流石に偶然と片付けるには出来すぎていた。確実に、この男は自分の居場所を察知していると。

 

山本の持つ雨のボンゴレ匣の中身は、大きく3つに分かれて入る。

 

 

収納されているのは、雨犬(カーネ・ディ・ピオッジャ)Ver.V(バージョンボンゴレ)

 

雨燕(ロンディネ・ディ・ピオッジャ)Ver.V(バージョン・ボンゴレ)

 

そして三本の刀身の無い雨の刀。

 

 

技術的な面で言えば、今回の戦いのためにスクアーロとの特訓の為に山本は驚異的な成長力を見せつけた。

 

10年後の雲雀恭弥は幻騎士との戦いにおいて、己のリングの炎を用いた戦術で幻覚を破った。リングに灯された炎を薄く、自身を覆う程に広範囲に放射することで、幻覚の中の紛れ込ませた目に見えない幻海牛(スペットロ・ヌディブランキ)が炎に触れた瞬間、炎の揺らぎによって、その存在を察知した。

 

無論、炎を薄く放射する技術と、炎の揺らぎを察知して対処できるだけの反射神経があって初めてできることだが、その点でいえば山本は問題が全くない。

 

もう一つ、幻覚が驚異的に思ったのは、ボンゴレ匣の刀身の無い刀。

当初は幻騎士に雨の炎で作り出した刃を見せていたが、その真価は持ち主の死ぬ気の炎を放出できるという点。刀の形を作り出すだけでなく、炎を放出できるその推進力は、ツナのXグローブに引けを取らず、片手に時雨金時を、片手で炎を放出し、器用にも幻騎士の幻覚を縫うように飛び回り、剣を浴びせた。

 

幻覚の中に溶け込む幻騎士を見つけたのは、雨燕の炎を空中から散布し、幻海牛を雨属性の沈静によって幻海牛の行動を鈍らせた。幻海牛は鈍るが、幻騎士は変わらず同じ速度。あってると本人は思うが、同調していないわずかなずれ。そこが幻騎士の居場所。

 

この修行で山本が手に入れたのは、幻覚を見破る術、ボンゴレ匣による新たな戦術。

そして剣一つでいくと決めた、剣士としての覚悟だった。

 

(どうなってる、この男………以前の山本武ではない!!)

 

焦燥を表に出さないが、幻騎士は斬りつけられた箇所を抑えて愕然とした。

遥か各上との戦いを乗り越えた山本は、その力を伸ばした。自身の流派を、剣士としての技術を。その威風堂々たる姿は、まさにボンゴレの剣豪と呼ぶにふさわしかった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「二択を迫られ剣を選ぶってのは、初代雨の守護者そのものだな」

「初代ボンゴレファミリーの雨の守護者。確か超一流の剣士と聞いたことがあるな」

 

ディーノの肩の上から呟くように紡がれたリボーンの言葉に、隣の灯夜が同意を示した。

 

「ああ。奴の剣は世紀無双と言われ、その才能は誰もが認めるところだったが、本人は、何より音楽を愛し自分の剣を一本も持たなかったという」

 

だがある時、異国の友であるボンゴレI世(プリーモ)のピンチを聞きつけた初代雨の守護者は、なんの躊躇もなく、己の命より大事な楽器を売り払い、武器と旅費に変えて助けに向かったという。

 

友の為に、全てを捨てることを躊躇わなかった。

楽器と引き換えに奴が作った武器は、三本の小刀と一本の長刀だったという。

 

「小次郎、形態変化(カンビオ・フォルマ)!」

 

山本の言葉と共に雨燕、小次郎はくるりと飛び回り、その身を蒼い炎に包み、さながら流星のごとく急降下をして、山本の時雨金時とぶつかった。澄み渡る蒼い光が辺りに広がると同時に雨燕の形状が時雨金時と同化し、その姿を変貌させた。

 

長く天を突きさすように伸びた刀身。

鍔の部分にはボンゴレI世の紋章を、左右に広がるように燕の羽をあしらった意匠の施された、一本の長刀。全身にいきわたるようにして纏われた雨の炎は、高い純度を誇る澄み切った蒼炎だった。そして左手には、雨の炎の刀身を出現させた三本の小刀。

 

これが、山本武のボンゴレ匣。

 

 

全てを洗い流す恵みの村雨と謳われた、朝利雨月の変則四刀!!

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「おや、向こうの戦いも佳境ですね。では、こちらはどうしましょうか?」

 

穏やかな笑みを浮かべる死神、アラン・バローは、手元の匣を指でいじりながら、ビルの屋上で静かに立っていた。場所は山本と幻騎士が戦っている場所のすぐ隣のビル。そ

して眼前には、真紅の刀を持つイリスの剣士、リルが相対していた。

 

「そうだね。せっかくだし下の戦いでも見てみる?それとも兵士ユニット減らしたいか

ら気絶してくれる?もしくは見逃してくれる?」

 

世間話でもするようなリルの言葉に、相変わらず笑うアラン。

実を言うと、リルとアランは顔見知りである。白蘭率いるミルフィオーレにジュールファミリーが吸収され、さらにはミルフィオーレによってイリスが半壊状態に追い込まれる数年前まで、普通に知り合いであったので、さてどうしようかと考える。

 

普通に戦いの舞台なので戦うことには特に二人とも躊躇いというのは存在しないのだが、下の戦いも面白くなってきたのでちょっと見ていたいというのも本音。リルとしてはほっといて敵の大将を取りたいというのもあったが、流石にミルフィオーレに属すことになったアランは、そうそうやすやすと通してやる義理はないと匣とナイフで威嚇をする。

 

(さて、このまま立ち止まってくれてればいいのですが)

 

アランとしても、リルがこの程度の威嚇で立ち止まるような性格でも、実力でもないということはよく知っている。だからこそ、対応を間違えないようにせねばと考えている。そうでないと、自分はおそらくこの少女に太刀打ちできないであろうから。

 

(やれやれ、もし昔ルイに聞いたあの話が事実だとすれば、白神光努よりも厄介かもしれないですね)

 

表情には出さないが、内心少し冷や汗。しかしだからといって、絶対に負けるといってやるつもりもない。あくまで可能性の中の話。そうでないのなら、自分にも十分に勝機は見える。

 

「それよりアランさぁ、その匣使わないの?」

「さて、どうしましょうかねぇ」

 

ぽんぽんとアランは手で匣をもてあそぶ。

円環暗器(デュロット・スパダ)を使ったのは、最初の一回のみ。その後屋上まで誘導させそのあと閉じてからは、まだ使用していなかった。お互いに数メートルの距離を開けてにらみ合っているから、という理由もあるといえばあるが、それ以外にも理由はある。

 

(この匣、驚くほど燃費悪いですからねぇ…………)

 

そう、ルイの言っていたもう一つの欠点とは、燃費の悪いさ。同一均等に死ぬ気の炎を匣内の暗器に分配され、それを燃料に飛び出させるこの匣だが、その後回収するときにも炎を使用する。そして、飛び出す力に使う炎よりも、匣に戻す力に使う炎の方が強くなるのは必然。そして匣を開いている間は滝のように暗器が飛び出すが、それと同時に自身の炎も匣に直接吸われるという特異な匣である。

だが、それに対応する案も、当時のルイは考案した。

 

「開匣」

 

アランの言葉と共に別の匣に炎を灯して現れた雲の炎は、ぐるぐると渦巻きながらアランの左腕に巻き付いた。炎が晴れた個所に現れたのは、黒々とした指抜きのグローブに、厚めの手甲のようなものが備わった形状。ひじ程まである手甲グローブだが、見ただけで変わっているとわかる形状は、手の甲に一か所、そして腕部分に二か所、半円状の窪みがあるという点だった。

 

ただの意匠ではなく、まるで何かをはめ込むかのように誂えたような窪み。

 

「それは………手甲?にしては妙な形だね。その窪み、()()()()()()?」

 

(やれやれ、もしかしたらルイから聞いていたのでしょうか。しかし、だからといって

対処できるものでもないですけどね)

 

相対するリルに対して、口元に笑みを浮かべる、アランだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「おっと、ちょっとまずいかもしれないな」

 

やれやれという風にソファから起き上がるルイは、画面を見て少し目を細める。おどけた口調とは反対に、先ほどの面倒そうな瞳から一転して、少し真面目な雰囲気を漂わせたことに、ボンゴレ側も驚いた。

 

「どういうことだ、ルイ?」

 

リボーンが尋ねると、ルイは上着のポケットをごそりとあさり、指で弾くようにして小さな物体をリボーンに放り投げた。部屋に備えの照明の光にかすかに反射した物体をリボーンはうまく手に取り、見てみる。

 

小さなビー玉のような、透き通るようなガラス玉のような〝何か〟だった。

 

「こいつは………死ぬ気の炎か?」

「!?死ぬ気の炎だと!?」

 

リボーンの呟いた言葉に、ディーノは驚愕の声を上げる。少なからず、他の者達も同様に驚いたように表情を変える。

 

「まあ死ぬ気の炎と言っても、入っているだけでその玉の素材はボンゴレの死ぬ気弾のような物。ほかに近い物でいえば、綱吉のグローブの甲にあるクリスタルを参考にしたな」

 

つまり、端的に言えば死ぬ気の炎をチャージしておける玉、といったもの。

ツナの持つグローブは甲のクリスタル内に炎を溜め、強力な炎を一気に放出することができ、それがイクスバーナーと言われる技になる。そしてそのクリスタルを参考に作られた、ルイは灯玉(とうぎょく)と呼ぶ石。死ぬ気の炎を蓄積する機能を持つ、死ぬ気の炎バージョンの充電池といったところだろうか。

 

「まさかルイ、あれもお前が作ったやつなのか?」

「お、ディーノするどいな。まあ正解だけど。あのグローブには付属品がついてるはずだ」

「付属品」

「その灯玉と同じものが、あと三つある。それも、それよりサイズがでかい奴がな」

「何!?」

「あのアランの持ってる円環暗器(デュロット・スパダ)は、単体じゃ燃費が悪いから一回か二回使えれば上々といったところだ。だけど、灯玉とグローブを使えば、その欠点を多少軽減できる」

 

ミルフィオーレの元6弔花、電光のγは、自身のアニマル匣用に使う蓄炎匣(バッテリー)を持っていたが、アランの使用するのはいわば、人用の蓄炎匣(バッテリー)

 

「しかし大丈夫だろうか」

「確かに。リル殿は刀一本。あの物力は厄介です…」

 

ルイの言葉に同意するように、バジルもうなずく。

もしも聞いた通りなら、アランは灯玉によって炎を増強してくる。そしてそうしてしまえば、燃費の悪い物量任せの匣兵器の欠点が補われる。休みなく発射される大量の暗器類は、近接戦闘者にとっては脅威かもしれない。

 

心配そうにするバジルの顔を横目に、ルイはかすかに口角を上げて笑みを浮かべた。

 

(ま、心配なのはアランの方だけどな)

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

カチリ。

アランが取り出したのは、不思議な光を話す紫色の宝玉。ルイに灯玉と呼ばれる、透き通る水晶のような、炎を蓄積できるクリスタル。この色は、紫色の雲の炎が蓄積されているからこその色。無論、やろうと思えば別の種類の炎も蓄積することは可能である。しかし、複数の色を詰めることはあまり薦めない。中で化学反応(科学?)を起こすかもしれないから。

 

ルイが持っていたビー玉サイズよりも大きい。ゴルフボール大の大きさの灯玉を取り出し、手の甲にはめ込んだ。さらには、二個目の灯玉を取り出した、腕の窪みの一つにはめ込んだ。

 

キイィン!

 

その瞬間、灯玉から紫色の雲の光が溢れ出した。

 

「なるほど、つまり炎のブースト装置ってわけだから、その匣を最大限使えると」

「ええ、あなたには悪いですけど、私も仕事なもので。しばらく眠ってもらいますよ」

 

さらにグローブのつけた右手に嵌められた雲のリングから、あふれるような炎が噴き出し、匣へと注入した。

 

「開匣、円環暗器(デュロット・スパダ)、オーバーブースト!削れ、穿て、突き刺せ。立ち

はだかる障害に、刃を突き立てろ!」

 

匣の輝きに呼応するように、灯玉の光が匣へと注ぎ込まれている。

自身の持つ炎を補うために作られた灯玉。

開く匣の中から、瞬間増殖を繰り返す幾千もの刃が飛び出した。

 

「これは、ちょっと……」

 

屋上の地面をけり上げて、刃を躱すリルだが、暗器の物量ははるかに凌駕する。

避けた先を回り込むようにして、刃を打ち込む。リルは手に持った天國刀をを静かに握り、一気に振りぬく。

 

ガギイイィン!!

 

目にもとまらぬ斬撃。飛び出された暗器は一瞬のうち、リルに触れる間もなく一瞬で破壊される。リルの刀にとって、多少つよいだけの刃物の暗器群は恐れることもないが、それはあくまでそれが単体である場合。破壊も想定されて押し寄せる、圧倒的な刃の本流。破壊したそばから、大量の刃が飛びかかってきた。

 

(入る!)

 

そうアランが思った瞬間、バチリと弾け飛ぶ閃光。

一瞬の光と共に、持続的に現れた翡翠のような緑色の閃光は、まぎれもない高純度の雷の炎。

 

リルの左手にはまる雷のDリングから放たれる雷の炎が、飛んでくる刃を受け止めた。

高純度の雷の炎は、それ単体で下手な盾よりもはるかに強い。雷に酷似した死ぬ気の炎は、純度が高まるごとにその硬度と鋭さが増す。

 

(やはり防ぎますか。ですが、あまり得策には思えないですね)

 

すでにリルの右手には、圧縮された嵐の炎を刃先に伝わらせる『彩式』が使用され、さらには左手から高純度の雷の炎の盾。どちらも炎圧を高めなければ使用することもできず、緩めればその瞬間に刀は戻り、盾は突き破られる。人は最高速度を長時間維持できないように、炎圧を、それも複数も保ち続けるのは至難の業ではない。

 

「じゃあ、こっちやめよ」

 

だが、リルは一瞬で盾を消す選択肢を即答した。何の迷いもなく、左手の炎を消し、その場を蹴って回避行動に再び出た。走りながら天國刀を振りぬきアランの刃を弾き飛ばしつつ、縦横無尽に駆け回る。

 

(驚異的な判断の速さ。躊躇いなくその選択を即答できる胆力は驚嘆に値しますが、その選択は正しいですか?)

 

眼鏡の奥の瞳をわずかに開き、アランは視線を鋭くする。だがリルは、口元に笑みを浮かべながら、高く跳躍した。何を?とアランは思ったが、リルは足元に瞬間的にプレートを出現させて宙を蹴り上げる。刃を避けつつ空中を移動したリルは、道路を挟んだ反対側のビルへと降り立った。

 

その光景に、アランは円環暗器(デュロット・スパダ)の匣を閉じで、思案気に顎に手を当てる。

 

(あの距離、届かないことはないですが、その分威力が削がれそうですね。リルなら防げるくらいには。灯玉の炎も減ってますし………やりますか)

 

コオオォォ!!

三つ目の灯玉を手甲にはめ込み、アランの腕が光輝いた。灯玉からあふれるような紫色の炎。天へと突きさすような光の本流に、思わずリルは手で顔を覆うが、同時に楽しそうに笑った。まるで今この場にはいない、自分のファミリーのボスである少年のように、楽し気に笑った。

 

道路を挟んで距離が開いているにも関わらず、屋上から灯玉が3つはめ込まれた手甲の手でもって匣を開き、流星群の如き紫色の刃が広がった。

 

死神の刃(ラモール・デ・ラム)!!」

 

速度、威力、どれをとっても、先ほどの比ではない。

何度もサイクルをかけて使う匣兵器を、一点に炎を集中させての砲撃。おそらく今の刃には、リルの炎の盾を突き破る威力をも出すだろう。道路を挟んでのビルとビルの間は距離があるが、それをものともせずに炎を注ぎ込んだ刃は狂気の刃。死神の刃は、アランの前方に位置する少女の喉元に迫った。

 

「死神の刃は標的に悟られずに相手を刈り取る。けど、立ちはだかるのが神であろうと、私の道は防がせない。あなたを倒して、前へ進む!」

 

淀みない流水のような動作。片足を半歩ずらし、腰を少し落とす。

刀を振ると同時に炎を解除したと思ったら、円を描くようにして左手の鞘へと納められた。右手は柄に、左手は鞘に。

 

まるで体が一本の刀になったかのように錯覚させるほどに、清廉された動き。この動きを、何度となく行ったのだろう。無駄を極限までそぎ落とし、その先を追及した技。

深く吸い込んだ空気を短く吐き、右手の嵐のDリングを光らせる。

神速の斬撃を放つ、抜刀術の構え。眼前に迫る脅威、死神の刃。正面でもってリルは、

己の刀を握りしめた。

 

その凶刃が迫る瞬間、リルの口元から小さく言葉が紡がれた。

 

 

夜ノ壱(コードワン)紅桜(べにざくら)

 

 

壱の型は奥義の型。

 

 

唄うように紡がれた言葉は空気に溶け込み、迫る刃を視界に納める。

 

 

振るう太刀筋は円を描き、一瞬の間も無く刀を抜き放つ。

 

 

死神の視界は、紅い閃光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 




山本とリルの戦いも次回でラスト!
そしてやっと出番のなかった人たちが戻ってくる。
さてみんなどこにいるのであろうか。

続く!

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