スタリ。
音がほとんど立っていない着地音。
見渡す限りのビルやデパート、住宅街の並ぶ景色が、ここは街中だと示している。
太陽はもう沈み、あたりの灯りがチカチカと光、上から見てみるとなかなかに綺麗な光景。こういう光景を100万ドルの夜景というのか。
まあさすがに日本ではそこまでの夜景と言うとよっぽどの物しかないが。どうでもいいけど100万円の夜景と100万ドルの夜景って言葉比べたらなんだか円の方が安っぽい気がするのは気のせいだろうか。まあ確かにドルより円の方が安いといてば安いのだが、心底今はどうでもいい。
どこかのビルの屋上から屋上と飛び、着地した黒い人影。
夜であることと、高所の為に吹く風に髪を揺らし、その柔らかそうな白い髪は夜の闇の中でも目立ち、したから立ち上る街の灯りを微かに反射させていた。
その少年、光努は楽しげに笑い、屋上から屋上へと全くおそれもせずに、一足で屋上の縁に足をかけて跳んでいた。
光努はビルの屋上からだんだんと小さなビルへデパートへと高度を下げていき、次第に地上に近づいていく。
そして光努の後ろからついてくるようにする黒い影が二つ。
二人とも、夜の闇を溶かしたような艶やかな黒い髪に、互いに似たような刀。柄糸が真紅の刀と、紺碧の刀をそれぞれ腰と背に下げ、光努と同じように軽快に跳んでいる。
少女リルと、少年コルの二人。二人共新しく手に入れた武器に雰囲気を楽しそうにし、光努と一緒に地上へと降り立つ。
この場所は、並盛町。
さきほどまで探し物をすべくいくつかの場所へとあちらこちらに行っていたのだが一先ず終了し、三人はボンゴレ基地へと帰ってくるべく、戻ってきたのだった。
***
「確かこの辺にあったはず」
リルとコルとともに、並盛中の比較的人通りの多い通りから目立たないようなビルとビルの隙間に入る。
そして入って数メートル歩くと、ゴミバケツやらなんやらと障害物もあったが、目線先には目的の物、自動販売機があった。
1925年ごろにアメリカで開発され、1960年代以降に日本で復旧し始めた機械。
今やあちこちに設置されており、硬貨もしくはお札を入れてボタンを押すだけで飲料をだすという何とも便利な機械。
世界最初の自販機が現れたのは紀元前215年と本当に大昔。もちろん機械もなく、構造はごくごく単純だが、確かに〝硬貨をいれると一定量水がでる〟という事を可能にするなど、古代人の知恵というのは中々馬鹿にならない。
今となっては日本に多く普及した自販機だが、ちみにこの自販機一台で一家庭に匹敵する電力が必要なのでそう考えると全て含めて結構な電力にもなるんだなぁと思う。それに自販機というとほとんど飲料だが、今ならお菓子なども売ってるし、海外には赤い果実の名前みたいなメーカーが製作した携帯音楽プレイヤーを売っている自販機があったりなかったり・・・。とまぁそんな自販機語りは置いておいて、本来電子マネーをスキャンするためのところに懐から取り出したカードを当てると、ピピっという電子音が鳴り響いた。
そうして少し離れると、独りでに自販機が横にスライドし、下へ下へと続く階段が現れた。
よくもまあこんなに秘密基地っぽいのを作ったものやら。
もうわかると思うがこの下にあるのはボンゴレの地下アジト。並盛町内の様々な箇所に出入り口が設置されており、人通りの少ない神社や森の中、逆に人の多い商店街の隙間などにもこのようにカモフラージュされて設置されているのである。
ちなみにさっきかざしたカードはここの自販機にのみ反応して入口を開ける専用カード。出かける前にジャンニーニにもらったいわば合鍵。難点はここの自販機からでしか使えないということかな。
リルとコルと共に階段を下りると、上の方で自販機が自動でスライドして戻る光景が見える。そして階段の下まで降りて、正面の扉にこれまた設置されたカードリーダーに同じようにカードをスキャンさせ、パネルに手を当てるとドアが左右で自動で開いた。
一応この場所にも俺やリル達でも認証して入れるようにしてもらったので、出入りは自由自在である。
しかしボンゴレやっぱハイテクだな。ミルフィオーレもたいがい技術力がずば抜けてるが、一般人が生きる表の世界と比べたら、マフィア等が仕切っている裏の世界は本当にぶっ飛んでる。こういうので特許とかとったら一生遊んで暮らせそうだけど、死ぬ気の炎とかは秘匿事項で公にできないからそれもしょうがない。
まあそんなことは関係のないことだし、死ぬ気の炎や先端科学がなくても、人類は全然進化して生きることが可能だがら、無理やり上に上げる必要なんてない。まあ今に追いつくには、もう少しばかり時間が必要だけど。
とりあえずボンゴレ基地についたし、あーよかった。本当によかった・・・・うん、本気で、マジで。
「ふぅ、なんだか私ほっとしちゃったよ」
「僕も同感。あれは本当に面倒だった」
微妙に疲れが滲み出てるリルとコルの二人。もちろん俺も結構疲れた。
なんでかって?
実は寺の中で刀をとって帰ろうと一本道の廊下を戻ろうと思ったら、ありえないくらいの凶悪大量のトラップが作動してやがった。
獲洞山の幻覚トレーニングのような恐ろしい罠だけでもあれなのに、一本道という性質上、なかなかに避けるのが難しかった。しかも壁や床は全く壊れないし。罠で跳んで来た槍とか剣とかは壊して止めることが可能だったんだが、それでも動かし方は本当に面倒。
およそ20キロを超える罠の道を帰ってくるのは、なかなかにスパルタな旅立ったなぁ。しかもそのあとまた出かけた。
リルの言うとおり、なんだか並盛町が見えたあたりでほっとしたし。
「しかし無事に戻ってこれてよかった。ツナ達何してるかな」
最後に見たのは一昨日だからな。一昨日聞いた限りだと昨日はバイクの練習するって言ってたし、今日辺りもう修行を再会してるかもな。
「じゃ、私たちお風呂入ってくるね~♪」
「おぅ。じゃあ俺は飯でも食べようかなっと」
一旦リルとコルと別れ、俺はそのまま食堂まで歩いていく。
と大食堂に近づいてくると、人の気配。水道の水を流す音と、食器が触れるカチャカチャとした音。
ということはここに今いるのは・・・・・・
「よー二人共。なんか食べるものあるか?」
そう声をかけて、背を向けて流しで作業をしていた二人は驚いたようにしてこちらを向いた。
「はひ!光努さん!」
「光努君!久しぶりだね」
「2日ぶりくらいか。夕食の残りとかある?」
京子とハル。ボンゴレ基地における生活担当。
炊事洗濯をツナ達の代わりに担う、まさに縁の下の二人だった。
***
「いやー、助かった。正直昨日は食べるの忘れててさ。板チョコ2枚と○まい棒しか食べてなくて」
「一体どこで何をしてたんですか?」
「・・・・・チョコって栄養価高いよな。すげーよ」
「なんで目をそらすんですか!?」
丁度夕飯の残りが残っていたらしく、ポリタンをご馳走になっていた。
このナポリタン、もともとイタリアのナポリで作られた料理を、日本が独自に進化させた料理らしいが、そうなるとルーツはイタリアだが一応日本料理と言えないこともないんじゃないだろうか。見た目的に日本ぽくないけど、日本らしくない日本料理なんてざらにあるし。マ○オだって日本製だし。あ、これは料理関係ないか。
「りょっとリルとコルと一緒にトレジャーハントしてたんだ」
「なんでしょう。ハルは会って間もないですが光努さんがどんな人かわかって来た気がします」
「光努君っていろいろすごいんだよね」
「京子ちゃんそれで済ませちゃうんですか!?」
あぁ、こうしてると昨日までの地獄めぐりみたいな宝探しが嘘みたいだー。本当に和むよ。
「そういえばリルちゃんとコル君は?一緒に帰ってきたんでしょ?」
「二人は先に風呂言ってる。俺はお腹すいたし何かあるかなぁってこっち来たんだよ。ごっそさん」
丁寧に手を合わせてごちそうさまをする。
そういえばこの二人リルとコルと知り合いらしい。10年前の時点でフゥ太と遊んでいる時に何度かあったことがあるらしい。そして結構仲がいいらしい。
一先ずお茶を飲んで一服と、ふぅ。
「そういえばツナ達は?見た限り夕食食ってないんじゃないか?」
そう思ったのは京子とハルの二人が先程まで洗っていた食器。
この二人が食器を洗ったあとは基本的にすぐに水気を拭いて片付けず、自然乾燥で乾かしている。にもかかわらず、洗い終わった食器の数を見てみると、このアジトの人数より少ないし、使われている箸はツナ、隼人、武、了平の物が洗われておらず、使われてもいない。以上のことからやつらまだ食べてないんじゃないか、というのが案外すぐにわかったよ。
食器の数と大きさ的に、他のやつら、リボーンやジャンニーニ、ビアンキにフゥ太達はここで食べたんだろうけど。
「・・・・・・・」
ツナ達のことを聞いただけだが、どうにも二人の表情は少し暗く、気まずそうにしている。
「どうした?ツナ達と何かあったのか?」
共同生活の中でトラブルは避けたほうがいいんだがな。
ただでさえチョイスの期限が迫っているというのに。
「・・・・ねぇ、光努君。光努君は知ってるんだよね」
「?何がだ」
「ミルフィオーレとかビャクランとかのこと。みんなが私達に知らない事情を隠していることは知ってるの。そのこと、光努君も知ってるの?」
(・・・・予想外のことを聞かれたな。けど、なるほど。そういうことか)
さっきツナの名を出して二人が気まずくなったことと、京子達が夕食を食べたのにツナ達は食べてない。とすれば、この二人がいましていることといえば、
「炊事洗濯、家事のボイコットってところか」
「!!・・・・・うん」
少しうつむき、いつもと違って暗い表情を見せる京子。隣のハルも言い当てたのに驚いていたが、次第に表情は暗くなる。
「私たちも、一緒に戦いたいの。守ってもらうのはすごく嬉しいけど、何も知らないまま、みんなが怪我していくのは・・・・・辛くて」
マフィアなんて何も知らない、不自由などない生活をしてきた京子とハル。正一曰く、戦うためではなく、ツナ達が強くなるために守るためにこの時代に呼ばれた二人。
ツナ達が守ろうとするのは当然だけど、さすがにこの世界に来てしまった以上、二人の知らない事情が増え続けた。
だからこそ、二人は不安になったのだと思う。自分たちが何に狙われているのかも分からない。なんでツナ達が怪我をしたのかも、わからない。
守られるだけでは、二人とも我慢できないのだろう。
この問題、この場で俺が言うのは簡単だが、それだけじゃ解決しないよな。
「確かに俺も知ってる。全部な。ツナは多分、大丈夫ってだけ言ったんだろうな。信じて待ってくれって」
「ツナさん、本当にハル達を守ってくれているのはわかってるんです。でも、やっぱり何も教えてくれませんでした」
「だろうな」
「どういうことなの?」
その理由は、巻き込みたくないから。
知ってからでは遅い、知らなければよかった。そう思えることはいくらでもある。知らずに過ごしていれば、こんなことにはならない。後々そう考えて情報を知ってしまうことだってある。そういう自体を、ツナ達は恐れている。そして全てを教えて、自分達に対する見る目が変わることも。
ま、ツナの事だから、好きな京子に自分はマフィアだっていって怖がられたりもしたくないって思いも、ちっとはあるんだろうけど。
ツナのほとんどは、平和な日常の中にいる二人を、危ないマフィアの世界に巻き込みたくないってのが一番強そうだな。
知りたいという二人の気持ちはわかるが、けど・・・・、
「知ってからだと、後悔はできないぞ、二人共」
「「!!」」
珍しく少し真剣味を帯びた光努の言葉に、少しびくりとした二人。
「ツナは知って自分がいくつも危険な事に巻き込まれたことがある。だから二人には知らずにいて巻き込んで欲しくないっていうのは本音だろう。まあツナは知ろうと思って知ったわけじゃないんだけどな」
「まあでも、俺は知っても大丈夫だと思ってる。知れば命を狙われるってほどでもないし(というかこの世界ではもう狙われてるか)」
「だったら!」
「けど、それを決めるのはツナ。ツナが言わなかったのに、俺が勝手に言うのはまずいだろ」
そう言って席を立つ光努。
ちらりと見てみると、やはり京子もハルも不満そうな表情をしていた。
「まあそう落ち込むな。どうせ、すぐに折れるかもよ」
「どういうことですか?」
ハルの疑問を背中に受けて扉を開けようとした光努は立ち止まり、振り向いて楽しげに笑った。
「お前らも知ってるだろ。ツナは、思ってるよりもずっと優しい奴だってこった」
一瞬その言葉に呆けたような二人だったが、すぐに吹き出してくすくすと笑った。
「あはは、そうだね」
「ま、でもたまにはこういうのもいいんじゃねーか。ボイコット結構。たまには怒ってるってアピールしないとあいつらわからねーしな。それよか、あいつら料理とかできんのかねぇ」
「ハルには全然イメージできないです」
「それは失礼だよハルちゃん。でも、栄養バランスとか大丈夫かな」
あいつらのことだからカップラーメンでも食べてそうだな。
「今日のところは食事は俺が何とかするから心配するな。他のことはやらせるけど」
「ふふ、光努君も優しいね」
「何を言う。俺もツナ達と一緒で情報隠してる奴だぜ?」
「でもありがとう。少し元気出てきたよ」
完全復活、というわけではないが、笑顔になった二人を見て光努はフッと笑い、ひらひらと手を振りながら大食堂を後にするのだった。
「あいつらは、もっと話し合うべきだな」
***
「小食堂はここか。うん、気配からしてツナ達この中だな」
さてどうしようか。
選択しは二つ。
①はげます。
②けなす。
さてさてどうしようか。京子とハルには多少フォローしたからそうそう冷たくならないと思うけど、ツナ達もフォローしたほうがいいのかな。
いや、男子だし②でいいか。①は京子達に使ったし。
というわけで中へレッツラゴー!
「よう久しぶりー。お前らボイコットされたんだって?」
「光努!」
「てめぇ、2日ぶりに会って最初に言う言葉がそれかよ!!」
「武と了平も元気そう、といっても、今は腹ペコ状態みたいだな。京子達に聞いたよ」
「ははは、事情は知ってるのか。笹川達どうだった?」
笑っている、けど空笑いって感じだな。武らしいといえば武らしいが、やっぱり困ってるらしい。
「まぁもうしばらくボイコットは続けるかもな」
「はぁ、やっぱりか」
「安心しろ。ちゃんと頑張れって言っておいた」
「おい!なんでてめぇは火にガソリンブチ込むようなことしてんだよ!!」
「つっても、火つけたのはお前らだけどな」
「「「「うっ!」」」」
光努の的を射た発言に、思わず押し黙るツナ達。
「ところでお前らなんか食べたのか?といっても、見ればわかるか」
光努の視線の先にあるのは、食べ終わったと思われるカップラーメンの空となった容器と割り箸。男の一人暮らしの食生活ってこんな感じだろうかなぁと思う光努。
というかお前ら料理できなかったのかよとも思う。
ちなみに、実際に頑張って料理をしようとしたが、ツナは言わずもがなまったく分からず、獄寺は料理の本を細かく読みすぎてまったく進まず、了平もアウトで武はそこそこ、でも寿司オンリー。しかも材料の場所がわからないという。
「この現代っ子どもが。そんなんでサバイバルする時にどうするつもりだよ」
「いや、別にサバイバルする機会なんてそうそう」
「ツナ、お前はリボーンにあってからどれだけ予想もしてないことにあったか数えてみろ」
「・・・・・・・」
そう言われて苦い顔をするツナ。当然と言えば当然である。
「はぁ、とりあえず料理は今日は俺が作ってやる。京子達に許可はとってきたからな」
「お、光努って料理出来んのか?」
「まあ対したものは作れないけど。どうせカップラーメンじゃ量も栄養も足りないだろ。少し待ってろ」
そしてかれこれ15分後。
「ほら、七面鳥の丸焼き」
「あれぇ!?光努おかしいよね!よく知らないけど明らかに15分じゃできない料理が出てきたんだけど!!」
「だが沢田よ、料理のことはよくわからんがなかなかにうまそうではないか。どれ」
「あ、馬鹿芝生。どうせまだ生焼けだ!腹壊すぞ!」
獄寺の静止を聞かず、了平は手を伸ばして七面鳥の一部を切り取ってパクリと豪快に食べる。もしゃもしゃと七面鳥を食べ、そして閉じていた目をカッと開いた。
「うおおぉお!うまいぞおぉ!!」
「な、んな馬鹿な(パクリ)・・・・・うまい。皮はぱりっとしているが、中はすぐにほぐれるこの絶妙なバランスぐあい。しっかりと火が通ってやがる・・・・・なんでだぁ!?」
「ちょ、獄寺君!」
「どれ俺も(パク)。おぉ、うめぇ。光努料理うまいんだな」
「対したものじゃないけどな」
「いやいや、十分対してるよ!ていうかどうやって作ったの!?」
「ツナ、料理くらい作れないと将来苦労するぞ」
「えぇ、これ料理っていうか、本当にどうやって作ったの!?」
「この時代の技術をふんだんに使いまくった」
「この時代の技術すげぇ!!」
ツナが突っ込んでるあいだにも獄寺と山本と了平は七面鳥を食べる。そんな光景を見ながら光努は楽しげに笑っていた。
「ほら、ツナも食べないと全部食われるぞ」
「ああ、ちょっと3人とも、待ってよ」
「安心してください10代目、俺がとってありますから!」
いい笑顔で七面鳥の部位をとった皿を差し出し、親指をグッと立てる獄寺。
なかなかに用意がいい獄寺に、光努はこれも右腕の仕事なのかなぁ、だとしたら右腕っていうより使用人とか執事みたいだなぁ、と割りとどうでもいいことを考えていたのだった。