チョイス!その意味は、『選択』。
チョイスとは、その名の通り選択をするゲーム。
まず2軍に別れ、戦いの基盤、戦上となる
それぞれ実際に戦う者となる兵士ユニットを複数
この二つは開戦前には
次に、互いの兵隊の本陣となる基地ユニットを
そして全て選択し終えたら、兵隊ユニット同士が戦闘を行い、勝敗を決める。
この時の勝敗には、いくらか複数存在するルールを
そして勝者は報酬として、敗者の所有物から好きなものを一つ
まさに、限られた範囲内での戦争、局地戦を再現したゲーム。
これが、大学時代に入江正一と白蘭の二人が作って遊んでいたゲームであるチョイス。
もともとはボードゲームであったのだが、入江が思ったよりもゲームにのめり込んでしまい、武器や土地、設定を多く増やしすぎた為にボードゲームからコンピューターゲームになっていき、最終的には、フィールドを自走する巨大要塞が画面の中を走り回るという、何とも言えないことになったという。
今回このチョイスでイリス、ボンゴレ、ミルフィオーレの戦いを行うに当たり、現実に当てはめるとする。
実際に戦闘を行う兵士ユニットは、それぞれのファミリーの人間。光努やツナ達と、匣やリングで武装した兵隊。
フィールドの大きさである10キロは、丁度並盛町がすっぽりと入るほどの広範囲。
もしもこの場で戦闘を行うとしたら、リング争奪戦のフィールドである並中より遥かに広く、それに伴う機動力も必要となってくる。
「らしいけど、意外と考えるのが面倒だな。10キロとか範囲広すぎ、白蘭もなんでチョイスなんての作ったのだろうか。よしスターだ」
「作ったのは正一でしょ?あ、そういえば二人で作ったって言ってたね。やった、金のキノコだ」
「しかもそのあと正一がのめり込んだらしいから設定が増えたとも言っていた。あ、抜かれた」
場所は、ボンゴレの地下アジトの隣に存在されている、雲雀恭弥率いる風紀財団のアジト。ボンゴレ基地と違い和風建築な箇所が多く、今いる部屋の中も全て畳が敷かれている。扉は障子と、なかなかに和風テイストで落ち着いた雰囲気。
恭弥の趣味がよく出ている。
そんな場所にいるのは、俺とリルとコルとルイの4人。
ルイは机の上にノートPCを置いてカタカタと何かの作業をしているが、俺とリルとコルの三人は隅に置いてある大型のブラウン管テレビでテレビゲームをやっていた。
この室内に対してわざわざこのテレビをおいたのかと思うと、なかなかに恭弥も拘っている。四角いオレンジ色のゲーム機から伸びるコードの先のコントローラーを両手でもち、忙しく指を動かしてボタンとスティックを動かしている。
ちなみにやっているソフトはマ○オカートのダブルダッシュである。
この時代だと結構貴重らしいが、コルがなぜか持っていた。
宇宙空間に漂う虹色のコースの反転したミラー版で対戦をしている。
「て、おい!今羽根つきのコウラ飛ばしたの誰だよ!ゴール前で転倒したぞ」
「はーい、わったし~♪やった、1位!」
「二人共早いね」
1位が決まって軽快な音楽がテレビから流れてくる中、少々残念そうにするコル。
画面では大大にリルの選んだ『姫チーム』がコースを悠々と滑走していた。
ゴール直前で妨害された瞬間に抜かれたよちくしょう。
「それで三人とも、チョイスはどうするつもりだ?」
カタリ、とキーボードの手を止めてルイが聞いてくる。
確かに、どうしようか。戦う兵隊ユニットは俺らが行くけど、もしもチョイス時点で自軍の兵が揃わなければ、おそらく白蘭は通常通り不戦敗扱いにするだろう。
一体どの程度の兵士ユニットの数が決められるかもわからないが、そこは常識的な数値のはず。まさか自分が困らない一気に100人で戦う、なんてブッ飛んだことはしないだろうと正一も行っていたから。性格は結構冷徹だけどチョイスには誠実だったってね。
一先ずゲームの電源を切って、ルイの座る机の周りを囲むように俺たちも座る。ついでに壁に設置されている桐箪笥からお菓子を取り出して机の上でくつろぎ始めた。
「正一の予想だと、今回現実でするチョイスは3軍で戦うんだよな」
イリスファミリー、ボンゴレファミリー、ミルフィオーレファミリー。この3ファミリーが戦うに置いて、チョイスはこの時だけ変則的になるだろうと入江は予測した。
通常、正一と白蘭が自分たちで暇つぶしに遊ぶように作ったゲームの為、1対1が基本のゲーム。が、あくまで基本ということなので、3人でやれないこともないというのが正一の意見。確かに普通に考えれば、尤も現実的なのはそうだろう。
ただ決闘が、バトルロイヤルになったと考えれば楽だ。
「当面の問題は、基地ユニットか。自分で作れと言ったけど、どうしようか」
「そもそもどこに作ればいいのかもわからないよね」
戦うフィールドを
よくよくと考えれば、10日の準備期間があるといっても、わからないことが多すぎる。情報の提示が少ない。
まあでも基地作って兵士用意すればオッケーらしいから、10日以内で基地を一先ず作るとするか。
「基地の方俺が作っておくから、リクエストがあるなら聞くぞ」
カタカタと相変わらず指を高速で動かしてタイピングをするルイ。なんか10年後のルイがなかなかに頼もしく見えるな。10年前もこれくらいやってくれるならいいんだけど。技術力はすごく高いけど面倒くさがりなのが問題だよな。いや、別に10年まえのルイがダメというわけではないのだが。なんか知らないが10年後のルイは割りと作業に積極的だ。なぜか?興味の範囲でも増えたのかな?
今回は基地ユニットを担当してくれるなら、こっちは兵士ユニットらしく装備を整えるとするか。といっても、俺は整えるような装備など、今はフィオーレリング以外に持っていないのだが。
「でも基地って実際何に使うの?」
戦士がそれぞれ戦うということは、基地はあってもなくても同じではないのか、という意見も出るが、戦争になると拠点は割りと重要にもなる。が、短期決戦になるのであれば、拠点というより作戦司令室を作るという感じ。指揮官となる人物が、前線に出ている兵隊に指示し、全体図を見ながら作戦を立てる場所、という意味での拠点。
が、指揮官といっても部隊のリーダーを率いて全員で前線というスタイルもある。となれば、基地はあってもなくてもいいような気がしてきた。尤も、戦いが長期戦になるというなら寝泊りできる用意も欲しい所だが、割りとどうでもいい。あとはどんな形でどんな機能をつけるか。戦場になるのなら頑丈性や攻撃性を高めた拠点があった方はいいしな。
「ま、そっちはおいおい考えるとして、ツナ達の様子でも見てこようかな」
「ツナ達?そういえば今日はお休みらしいね」
リルの言う通り、メローネ基地襲撃の次の日なのだから、さすがに今日も修行ではツナ達が持たない。逆に修行してたら賞賛する。
リルとコルとルイが和室でゴロゴロしているのを横目に、麩を開けて廊下を歩いていくのだった。この部屋のある恭弥のアジトとボンゴレアジトは頑丈な扉一枚を隔ててつながっているので、廊下の先にある扉を開けて一歩進めばあっという間にボンゴレ基地。
なんで恭弥は群れるのが嫌いなのにわざわざ繋がるように作ったのか、というかどっちが先に基地を作ったんだ?並行してか?念の為か?
とまあ考えてもしょうがないので普通に歩く。
歩いていて思ったが、今日はやけに静かな気がする。
元々広い基地だし、人がいないところの方が多いといえば多いが、いつも廊下を走り回るランボやイーピンもいない。と思っていたら、司令室から人の話し声が聞こえた。
司令室といっても、俺がそう思っているだけで違うのかもしれないが。会議用の長机と大きめのモニターが壁に設置されてるから会議室から司令室でいいよな?
中を開けて入ると、その中にいたのは4人の人間。
メカニックのジャンニーニと、情報収集担当のフゥ太に、机の上に置いてある機械の上に乗っているリボーン。そしてバジル・・・・・バジル?しかもよく見れば10年前のバジル。多方ツナ達と一緒で10年バズーカでタイムスリップしてきたのだろう。
「よーバジル。一週間ぶりくらい?いやもうちょっとか」
「光努殿!こちらに来ていたでござるか」
どうでもいいが光努殿って言いにくくないかな。どどって繋がってるし、でも俺は名前のほうがいいからほっておくけど。
「昨日は見なかったから、今日この基地に来たのか?」
「ええ、拙者は10日程前にこちらに来て、スペインからつい先日日本に到着したのです」
聞けばこの時代に来たとき、そばにあったのは匣とリング一つずつと自分のパスポートがあっただけ。そしてもう一つそばにあったのは、『助太刀の書』と呼ばれるボンゴレの死炎印の付いた昔の手帳のようなもの。
中にはこの時代における匣兵器とリングによる戦い方と、このボンゴレ基地までのルートが記されていたので、なんとか道中のミルフィオーレの兵隊を撃退しながらここまで無事に来れたらしい。
しかしルートの書いた地図があったとは言え、来た先でパスポートと匣だけでスペインから日本まで来いとは、なかなかにスパルタな。門外顧問組織に属しているバジルじゃなかったら不可能だったぞ。いや、バジルだからこのルートを10年後のツナたちは選んだのか。10年後のツナと恭弥はいないことだし、バジルの代わりに正一とルイをとっちめてやろうかな。うん、そう考えると何か楽しくなってきた。
「お前も苦労してんだな」
「えっと光努殿?どうしてそのセリフでそんなに楽しそうな笑顔を浮かべてるのでござるか?」
「ああこっちの話だから気にするな。それよりどうだ、チョイスについて何か進展あったか?」
「まだだな。今は入江とスパナとジャンニーニがチョイス用に機動力と基地を開発中だぞ」
機械の上に乗っていたリボーンがくるりと飛び降りて椅子にぽすりと座る。
どうやらこの機会、ホログラムとしてツナのヘッドホンから映像を投影するための機械らし。さっきまで正一とスパナのところに映像を送っていたそうだ。
「光努達はどうするんだ?チョイスは基本2人プレイだけど、今回は3人プレイみたいだからな」
「ああ、基地の方はルイに任せてる。あとは、兵力と装備でも整えるかと思ってる」
戦う兵士の数がどれだけ必要かもわからないからな。常識的な範囲で揃えるとしよう。ま、兵士をどうやって
「そういえばツナ達は?見たとこほとんどいないようだけど、地上でも行ってるのか?」
「ああ、今日は休みだしな。あいつらは羽を伸ばしてるぞ」
「光努兄は、さっきまで何してたの?」
椅子に座るフゥ太。そういえば10年後のフゥ太はでかくなったな。普通にツナよりもでかくなったし。俺の身長超えたし、リルやコルもいつの間にか俺と同じくらいだからな、子供の成長は速い速い。いや、10年たってるからこれが普通か。
「リルとコルとマ○カしてた」
「・・・・あ、そうなんだ。楽しそうだね(というか随分懐かしいゲームを)」
フゥ太、笑顔を浮かべてるけど呆れるなら呆れてもいいぞ。
別に今ゲームをしても本当に意味はないからな。
「じゃ、俺も地上行ってこようかな」
「どこに行くのでござるか?」
「そうだな、恭弥が並中にいるだろうし、並中でも行くか」
ついでに言うと、ツナ達も何か並中によりそうな気がするからもしかしたら合流できるかもと思っているが、そうそう偶然が起こることでもないだろう。
恭弥のアジトには誰もいなかったから、恭弥が並中にいるのはほぼ間違いないな。もはやあそこはあいつの家だ。
「つーわけで、まったな~」
ひらひらと手を振り、司令室を退室するのであった。
***
「青い空、白い雲。穏やかな空に、並中は変わんないなー。10年たっても増改築してないとは」
校門、校舎、校庭、中庭。
どこもかしこも10年前と同じ外観。対して壊れもせずに風化もせず、そこにたち続けている。
そういえば10年前にリング戦で一回ボロボロになったからその時に頑丈に工事でもしたのかな。まあ無事に立っているのはいいことだ。
さて、恭弥のことだし、いい天気だから多分屋上で寝転がってるだろうな。
と校舎内の廊下を歩いていると、向こうの角から見知った人物が歩いてきた。
もじゃもじゃ頭に牛柄の服を来た子供であるランボ。
中国服に辮髪に細目の子供であるイーピン。
顔に大きめのゴーグルを付けた、隼人の姉である10年後のビアンキ。
ポニーテールにした黒髪に、毛皮の付いた上着と、白いワンピースを来た少女のハル。
微妙に接点が薄いチームがやってきた。
が、この4人がいるということは、他のツナ率いる並中組は自分の教室である2年A組にいるはず。よし、俺も行こうっと。
というわけで体を反転させて向かおうとしたら、後ろから肩を掴まれた。
「あら、そう逃げることもないんじゃないの?」
「光努さんじゃないですか。こんなところで何してるんですか?」
「・・・・よー、ビアンキにハル。何って、俺もここの生徒だからな」
「はひ!そうだったんですか!?」
「なんだ、ツナ達に聞いてなかったんだ。ツナ達いるか?」
「あの子達なら、今は自分の教室を楽しんでるわ」
よしじゃあ早速やつらのところに乗り込むか。どうせならサプライズ感を出したいよな。よし!そう思い、早速自分の教室へ行こうとしたら、
「て、ストーップ!光努さん!どこから行こうとしてるんですか!?」
「え?どこって、インパクトのある登場がしたくてさ」
「それでなんで窓の外に行こうとしてるんですか!」
愚問だな、至極単純なことだ。窓側から教室にはいる。な、簡単だろ?
「全然簡単じゃないですよー!」
「意外だ、ハルはなんとなくだがもっとブッ飛んだ性格だと思っていた」
「結構あってるわよ、光努」
「あ、やっぱり?」
「二人とも、ハルをなんだと思ってるんですか・・・・」
ジト目のハルは置いておいて、鍵を外し窓を開ける。
開けた窓から、外の心地よい風が中に入ってくる。本当にいい天気だ。
窓枠に足をかけて、右手で窓枠の上を掴み、足に力を込めて窓から飛び出す。
後ろでハルが何か行っていたが構わん、そのまま右手を掴んだまま宙返るようにして窓の上にある校舎の出っ張りに足をつける。そしててくてくと校舎の壁沿いに歩き、ある地点に泊まって軽くジャンプし、別の出っ張りに手をかけて上がり、再び窓枠を蹴ってそのまま屋上の金網に手をかけて、屋上まで来る。
やっぱり高いとその分風が強いからいっそう気持ちがいい。恭弥がここで寝るのもわかるな。と思ったら向こうの屋上で恭弥が寝転がっていた。本当にいるとか、わかりやすいよな恭弥の動きって。
さてと、早速2年A組の上であろう場所に来てと。
そのまま屋上の金網を超えて下に飛び降りる。そして窓の上にある校舎の出っ張りに足の甲を乗せて逆さにぶら下がり、窓の上の方から顔の半分ほどを覗かせて中を見てみると、自分の席に座っているツナと隼人と武と京子の4人がいた。
私服で教室にいるっていうのがなかなかに面白い光景。
カラカラと気づかれないように窓を開き、窓枠の上に両手をかけてそのまま回転する要領で教室の中へと飛び込み、音と気配を立てずに軽やかに教室の後ろの方に着地し、そのまますくっと立ち上がる。そして前を向いて座っている後ろの席の京子と武の横を通り過ぎ、
「「!!」」
そのままツナの横をも通り過ぎ、
「!!」
隼人の真後ろに来て、その肩を少し強めで掴んだ。
ちなみにこの間、音は一切出していない。
「よっ」
「うわぁああ!!」
ガタガタガシャーン!!
自分以外他の3人は席に座って、席から立ち上がる音が一切していないにもかかわらず、肩に置かれた手に隼人は予想以上のリアクションをしてくれた。
机の上に片足を乗せて椅子を漕いでいた態勢も災いし、椅子から転げ落ちて机を倒しながら床の上に落ちて頭をぶつけた。
・・・・・うん、少しやりすぎたかな。
最初は普通に飛び込もうと思ったが、みんなして普通に座ってるからあえて一番前の隼人を驚かせてみたよ。
「隼人、ナイスリアクション!」
ブチ!
親指をグッと立てて隼人の顔の前に持ってくると、隼人の頭の中で何か切れたような音がした。
「てめぇ!何しやがる!ていうかどっから湧いて出やがった!!」
「人を虫みたいに言うとは失礼だな。普通にそこの窓から音も立てずに入っただけだけど」
「この野郎!果てやが」
「うわぁぁ!獄寺君ストーップ!それはまずいよ!ていうかそれ懐かしいね!」
隼人の取り出すダイナマイトを見てツナが止めに入る。
というか止める中にちょっと感想を入れるとは、ツナも少し成長したんだな。
あんまり嬉しくない成長だけど。
「光努!なんか久しぶりだな」
「といっても昨日ぶりなんだけどな。京子は何日かぶりだな」
「うん、久しぶりだね」
笑いかけてくる武と京子の二人。ツナは隼人を抑えるために慌て、隼人はダイナマイトを振り回しながら何か喚いているが、楽しそうだしいいか。
***
「あ、光努おかえり。丁度夕飯できてるよ」
風紀財団の地下施設であるアジトに帰ってきた光努が、最初にゲームをしていた和室の中へと入ると、畳の部屋の真ん中に置かれている木の机の上には、なかなかに美味しそうな献立が並んでいる。味噌汁ご飯に魚と冷奴という風に、ザ・和食という食事が3人分並んでいた。
机には既にリルとコルが席についている。
「あれ、ルイは?」
「先に向こうに行ったよ。僕らはもう少しこっちにいるけどね」
そう言うと、丁寧に手を合わせていただきますといい、箸を手にとって食べ始めるコル。リルも続いて同じようにいただきますをし、光努もそれに続いて座って食べ始めた。
「今日は私が作ったの、美味しいでしょ」
「お、マジで美味い。昔のリルの料理イメージって爆発オチだからな。方向音痴だったし」
「それって関係ないよね?ていうか今は方向音痴じゃないし」
「光努、一応言っておくけど今のは嘘だよ。正確には嘘ではないが自覚はしていない」
「うん、わかってる。・・・・・味噌汁うまっ」
「二人共ひどい・・・・えい、コルのお魚もーらい!」
「させるか、てい」
「やっ」
カカカカカカカ。
無駄に高度な技術で互いに魚を取ろうと繰り返す。だんだんと箸を持つ腕が残像を残すほどに素早く動き始めてきた。さすがリルとコルの二人。無駄に技術と身体能力の無駄遣いである。姉弟喧嘩というにはなかなかに微笑ましい物を見るようにしながら、巻き込まれるのは面倒なのでスルーしようと思っている光努は、普通に食事を続けるのだった。
「そういえば光努どこいってたの?」
「んぁ?並中だよ。丁度ツナ達と合流した」
「ふーん。みんなどうだった?久々の休日みたいだったし」
そう言われ、ツナ達を思いだす。
過去へと帰る事を目標にして、メローネ基地に襲撃したが、結果、まだ未来に囚われたまま。次の戦いが本当の戦い。
みんな元気にしていたけど、戦いが終わっていないことに、どこか気力を空にしている節が見えた。それもそうだ。俺のように別世界に慣れている奴の方が特殊で異常。普通は自分の知らない世界に来て不安にならないやつなどいないからな。
けど、並中に来たツナ達はみるみる元気になっていく気がした。元々表情は笑っていたが、心が満ちているという気がする。何気なく過ごしていた日常が、たまらなく楽しいことだったと気づいたんだ。失ってから初めてわかるというが、その通りだな。
これでまた、明日から頑張れそうだな。
***
朝霧が深い森の中。
いきなりの場面転換だが、この場所はどこかの森の中。少なくとも日本国内であることは間違いない。木の根が地面を生い茂り、時間帯はまだ朝速く、おそらく午前5時前後であるからか、太陽もまだ少し低い。それに加えて霧が深く森の中を渦巻いている為、太陽の光も地面にまで届きにくく、周りは割りと暗い。時折聞こえるカラスのガァーという鳴き声が、暗い森の中にいっそう不気味な雰囲気を出している。
が、そんな雰囲気の中、そんなことなどお構いなしに楽しげに会話が聞こえた。
「昔こんな感じの霧だらけの森に入ったことあったんだけどな。歩いていたらその時霧の向こうから赤く光ったような瞳が見えてな、それで結構気になって近づいて行ったんだよ」
周りの雰囲気よりも軽く話をする光努。
柔らかそうな白い髪を揺らし、黒い上着を羽織りスタスタと木の根を踏みしめて霧の中を突き進む。
「うんうん、それで?」
楽しそうに笑いながら、話の続きが気になると急かす少女、リル。
艶やかな黒髪をリボンで短めのポニーテールに結い、丈夫そうな膝下程まであるブーツで地面を無数に這う木の根を器用に避けながら、光努の後ろを歩いている。
「なぜか荒い息遣いが聞こえてな、どう見ても小動物って感じでもなかったんだよ」
「(しゃくしゃくしゃく)それで、結局なんだったんだ?大型動物?」
「あ、コル。私にも○まい棒一本ちょうだい」
「俺も」
「コーンポタージュと辛めんたいことシュガーラスクがあるけど」
「なんでそのチョイス?私シュガーラスク」
「俺コーンポタージュ」
「ほい」
リルの後ろを歩いているのはコル。
柔らかな黒髪と、他の二人と違い、背中には少し大きめのバッグが背負われている。
手に持って食べていた○まい棒とは別の○まい棒をバッグから出して前の二人に放る。うまくキャッチした二人はしゃくしゃくと食べ、先に食べ終わった光努は話を再開した。
「うん、ティリジノサウルスぽかった」
「けほっ!光努、それって確か恐竜だよね?」
「確か1メーター近い爪の長さを持つ、肉食恐竜だったと思う。名前の意味は、〝刈り取りをする爬虫類〟」
「多分それ。いや~、結構爪が鋭くてさ、森の木をばっさばっさと」
「え、光努。それって実体験なの?」
「そうだけど」
「「・・・・・・・」」
驚きと呆れの表情をする二人だが、光努の話だとそれもありそうだなぁ、と思えてしまうのがすごいところ。まあ昔から光努は別世界に言っていたのを知っているリル達なら、納得するのは割りと早かった。
「それに羽で飛んでくるから結構手間取った」
「羽!?それって恐竜の話じゃなかったの?」
「あいつら早くてさ。それに上空から火吐くから危うく山火事だ」
「火!?ねえ光努は何と戦ってたの!?」
「お、そろそろ見えてくるぞ」
光努が霧で視界が定まらないにもかかわらず、前方を見据えて楽しげに笑う。木の根の這う地面を歩き、森と霧の中に現れたのは、寺。
寺の周りにくっついて囲うような縁側がつけられ、反るような瓦の屋根。和洋建築の寺だが、通常大きな寺なら三門や他にも本殿、法堂、僧堂等いくつかの建物が門の中に組み合わせて置かれいるが、そんな高尚なものでもなく、御神体を祀る本殿がぽつんと、森の中に溶け込むようにして置かれていた。
こんな不気味な森の中に建てられいてる為、木でできたその外観はところどころボロボロと朽ちており、いっそう不気味さに拍車をかけている。
前方に不気味な寺を見据えて、光努、リル、コルの三人は目の前に立ち止まり、光努は楽しげに笑みを浮かべた。
「さて、宝探しと行くか」