特異点の白夜   作:DOS

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この度、今後のアイディアがうまく纏まっていないので、しばし不定期更新させていただきます!

纏まったら更新速度も戻ると思いますが、それまではゆったりとしようと思います。

よろしくお願いします!


『太平洋まで迎えに来て』

 

 

 

 

 

太平洋。

世界三大洋の一つであり、他の大西洋、インド洋と比べたら面積が一番広い。地表の3分の1を占め、なんと世界の陸地より広いとか。

 

1520年に、探検家のフェルディナンド・マゼランが、世界一周の途中で南アメリカ大陸南端の海峡を抜けて太平洋に入ったとき、海が荒れていた大西洋と比べて穏やかだったことに〝平和な海(El Mare Pacificum)〟と表現したことが、太平洋という名の由来だとか。

 

 

そんな豆知識はどうでもいいが、今のこの海は穏やかな波をたて、その空は所どころ浮かぶ雲と、蒼海の海を映し出したような青空が広がっている。

 

うみねこも優雅に飛び、まさに平和な海そのものであった。

 

 

ゴゥ!!

 

 

海の上を飛ぶうみねこの上を、一瞬黒い巨大な影がよぎった。

だが特に騒ぐ素振りも見せず、優雅に飛び続けるうみねこ。野生の生物に一切の警戒心も抱かせず、それほどに素早く、巨大にもかかわらずに一瞬しかうみねこのそばをよぎらなかった影。既にうみねこのいた場所を遥かに通り過ぎ、その海の上を雲に触れながら超音速で飛行していた。

 

全体が黒く塗りつぶされ、所々に白いラインの走った異様な形状の漆黒の機体。飛行機というより、この形状は明らかに戦闘機。

 

嘗て戦時中、アメリカによって開発された高高度戦略偵察機、ブラックバード。

 

このご時勢、なぜこんなものが存在しているのか、そんな機体に乗っているのは、一人の男だった。

 

亜音速で進む機体。次第に前方に見えてきたのは、島。

島というより、瓦礫をそのまま海の上に浮かべたかような歪な形状、というより本当に瓦礫が積まれた島。瓦礫の山の下が平らなコンクリートであることから、最初から存在する島でなく、人の手によって人工的に作り出された人工島であることが伺える。

 

風と空気を切り裂き、上空を飛ぶブラックバードは、真っ直ぐにその島へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

白蘭は、ポップコーンを取り出しながら映画気分で獄燈籠と界羅の二人の戦いを、ミルフィオーレ本拠の一室で見ていた。

 

メローネ基地を超炎リング転送システムによって人工島に飛ばしてからも、基地の中から外へと出てきて戦い続けていた。激しい戦いを繰り広げているにもかかわらず、どちらも衰えるようすの見当たらない、底なしの体力。

 

「うーん、僕も人のことは言えないけど、彼らもたいがい常識はずれだね」

 

本当に人と人の戦いなのかと疑いたくなる程のデタラメぐらい。世界の支配者であるミルフィオーレのボスの白蘭にここまで言わせるとは、中々に凄まじい。

 

『白蘭様、失礼します』

 

そうしていると、別のモニターが現れ、そこに部下と思わしき男が白蘭に通信を開いた。面白い番組を見ている時に母親に呼ばれた子供のように若干面倒くさそうにしていた白蘭だが、すぐに飄々とした笑顔に戻り、モニターとの通信を行う。

 

「どうしたんだい?」

『はっ!実はメローネ基地に未確認飛行物体が接近しております!』

「未確認飛行物体?ん~、モニターに映してよ」

『はっ!』

 

部下の映っていたモニターが消え、代わりに別のモニターが映る。

メローネ基地と言っているが、部下が指しているのは、瓦礫の山となって戦場とかしている元メローネ基地の事。基地を中央に置いたと思われるレーダーがモニターに写り、そこにピコンピコンと赤い点滅が近づいていく。

 

そして小さなモニターが隣に映り、そこに写っていたのは、異常な形状をした真っ黒な戦闘機。

 

「あれは、ブラックバード?。確かイリスの所有物だったけど・・・・・・うん♪あれはほぅって置いてもいいよ」

『迎撃しなくてもよろしいのでしょうか?』

「うん。10日は手を出さない約束だからね。それに、どうせお迎えにきただけだろーし」

 

そう言ってレーダーから目線を外し、再び戦い中のモニターに目を向けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

ガァン!ガァン!!

対峙する獄燈籠と界羅だが、獄燈籠は腰の後ろのベルトに備え付けられていたホルスターから一丁の拳銃を手にとった。

 

獄燈籠が手に持った自動拳銃(オータマチックピストル)は、デザートイーグル。

自動拳銃では最大の50口径であり、アサルトライフル並の威力を持った弾丸を吐き出すことが可能であり、威力は極めて高い。

 

界羅は迫り来る弾丸を、小太刀に滑らせるようにして受け流して躱す。

だが、弾丸が瓦礫の隙間に入ったとき、そこか赤い炎を含む爆炎が打ち上がった。

 

獄燈籠は、ナイフや銃、爆弾等の様々な武器を使い相手を翻弄しつつ、高火力で攻めるスタイル。小型の爆弾を、戦いの最中瓦礫の隙間に落としておき、あとから打ち抜き爆発をあげる。しっかりと界羅が爆弾の入った瓦礫の上に来たのを確認した上での発泡と、界羅がそれを受け流すことも予測して跳弾先を爆発物地点に送り込むなど、その技量は高かった。

 

大口径デザートイーグルの弾丸をあっさりと受け流す界羅も、十分化け物じみているといえば化け物じみているが。

 

迫り来る爆炎が、界羅を飲み込もうとする。

 

「天火流、火火斬(かかざん)!」

 

揺らぐ炎と炎の隙間。全てが炎の塊と思える爆炎に、その小太刀の刃を滑らせるように差込み、神速の太刀筋によって、その爆炎を切り裂いた。

 

「せやっ!」

 

小太刀を振い、通常の刀よりも短いリーチなどものともせずに、爆炎を細切れにしていき、小さくなって空気に触れる炎の塊は、すぐに霧散してしまった。いくつもの爆炎を、体を回転させるようにして小太刀を振い、炎を切り刻む。

 

(火を切り裂く剣技。天火流とは、聞かぬ名じゃのぅ)

 

長く生きてきたが、獄燈籠の知識の中には様々な戦いの知識がある。その中には、剣や槍、弓矢や薙刀など多くの武器の流派などもよく知っている。だが、この世界には、伝統とともに代々受け継ぐ昔ながらの流派もあれば、才ある個人が独立に作り出した新たな流派も存在するため、自分の知らない流派があったとしてもなんらおかしなことはない。

 

「クァ!」

 

九尾の狐のコウとお互いに威嚇して牽制していた大鷲のフゼが、獄燈籠に何かを知らせるかのように一声鳴いた。

 

その声を聞いた時、獄燈籠は懐から匣を取り出し、蓋が開くと同時にフゼは炎の塊となって匣の中へと収納された。その光景を見た界羅は、楽しげに笑みを浮かべる。

 

「おいおい、匣しまってどうないしたんや。降参か?」

 

口角を上げ、小太刀をチャキリと構える。威嚇対象がいなくなったコウは、その四肢で大地を掴み、獄燈籠に向かって身に纏う炎を揺らしながら威嚇を行う。

実力が拮抗するような相手だと、匣の有り無しで勝敗が変わる。だが獄燈籠はそんなことを知らないわけでなく、ただ必要がなくなったからしまっただけ。

 

「いや、割りと早いが、迎えがきてのぅ」

「?・・・・・!!」

 

突如、二人を覆うように少し広めに降りかかる黒い影。

いきなり現れた影の出現に、界羅とコウは上を見上げると、そこには滞空している機械。

 

異様な形状をしている、所どころ白いラインの入った全身漆黒の戦闘機。

 

「なんでこないな物がここに?・・・・あんたの所のか」

 

界羅の質問に、獄燈籠は無言だが笑ってその質問に肯定の意を返す。

そうすると、戦闘機の下の一部が開き、そこからするすると先端に輪っかが備え付けてあるワイヤーが獄燈籠のそばまで降りてきた。

輪っかに足をかけ、ワイヤーを掴むと、ゆっくりと上へ上と上がっていた。

 

「コウ、邪魔したれ」

「クァ!!」

 

吠えるコウの尾から野球ボール大の嵐の炎の塊がいくつも飛び出して、ワイヤーで上昇中の獄燈籠の元へと迫る。が、器用にワイヤに手を掴んで動いたまま火球を避ける。まるでサーカスの曲芸師のようでもある。

 

「コウ」

 

パチンと軽く指を鳴らして指示すると、コウの瞳が鋭く光ったような気がした。すると、飛び出していった火球が空中で停止して、一斉にワイヤーで上昇中の獄燈籠へと向かっていった。

 

(あの火球、操ることができるのか。結構厄介なやつだったんじゃなぁ。さて、どうしたものか)

「ネロ、落とせ」

 

ワイヤーの伸びる開いたハッチの奥から、男性の声が聞こえた。そうすると奥の暗闇から赤く光る瞳が火球を睨み、白く光る牙の奥から、地の底から響くような咆哮が当たりに響き渡った。

 

「!!・・・・はは、やってくれよったな!」

 

笑い声をあげる界羅の瞳に映るのは、()()()()()()()()()()

 

少しばかり驚く光景に魅入ってしまい、気づいたら獄燈籠は戦闘機の中へと収納されたが、さほど気にする様子もなく、主の期待に応えられなかったからか少し落ち込み気味の表情をしているコウの頭をなでる。

 

滞空していた戦闘機は一瞬でその姿を消し、空気を切り裂きながら人工島から離れていったのだった。

 

「ふふ、ええもの見させてもらったなぁ。次に会う時が来たら、楽しみや♪」

 

人工島の瓦礫の山の上。誰もいなくなったその場所で、界羅は一人楽しそうに笑う

のだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「いやはや、随分と早かったのぅ」

「ルイからの場所の割り出しが割りと速く終わってな。太平洋のど真ん中だから見つけるのも楽だったしな」

 

操縦桿を握って前を見ながら隣に座る獄燈籠と会話しているのは、大人の男性。

 

黒髪と黒い瞳に、黒いスーツを着た男。10年前からその出で立ちは変わらず、どう見てもこの場で戦闘艦を握っているような仕事をする人間とは思えないが、事実普通は戦闘機を操縦する者の方が少ない。

 

 

当主がいなくなったイリスファミリーにおいて、ボス代行を務める男、黒道灯夜。

 

 

「しかし灯夜、その格好でここまで来たのかい」

「ん?俺はいつもこの格好だが」

「そう言う意味じゃないんじゃが」

 

ちなみに、通常戦闘機を乗るに当たり、超加速する分には多少の問題ないが、急旋回をしたりすると激しいGがかかり、かかり方の方向によっては人間の脳にうまく血が回らず、視界がブラックアウトすることもあるので、下半身に空気圧を当てて上半身の血の量を増やす為の耐Gスーツというものや酸素マスク等の装備が通常必要なのであった。

 

もっとも、某国には無装備でそのまま戦闘機に乗って急旋回などのアクロバット飛行をするチームもあったりなかったり。

 

それでも普通はスーツで操縦はしないのである。

 

「それでどうじゃ。光努は無事にリルとコルと合流できたのか?」

「ああ。ルイから連絡あったからな。尤も、籠がまさかこんなところに取り残されているとは俺も思わなかったがな」

「はっはっは、耳が痛いのう。確かに戦いに夢中だったのは認めるがな」

 

カラカラと笑う獄燈籠。

確かに、立場的には光努の方が役職が上だが、年齢的にはどこからどう見ても獄燈籠の方が引率者。なのにその人物がいなくなるなど、本末転倒である。灯夜もなかなかに呆れている。

 

「まあいい。俺たちはこのあといくつか寄るところがあるから、光努達と合流するのはもう少しあとだな」

「ふむ、では行くとするかのぅ」

 

灯夜と獄燈籠、二人を乗せた戦闘機は、雲の上を駆け抜け、次の目的地まで飛ぶの

だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

「お、灯夜から連絡だ。籠は無事に回収したそうだ」

 

ノートPCのキーボードを打つルイの言葉に冷や汗を流していた入江はホッと安堵の表情を出す。

 

ミルフィオーレの索敵圏内に戦闘機で突っ込んで獄燈籠を回収するという話を聞いたときは、普通に迎撃されたりしないかと入江も心配したが、どうやら白蘭の言っていた10日間手を出さないというのは確かに本当である。別に信じていなかったわけでないが、やはり疑心暗鬼になってしまうのはしょうがない。

 

「そっか、じゃあ当面の問題も解けたことだし、」

 

どっこいしょという風に光努は立ち上がる。そして湯呑に残っていた微かに湯気の残る茶を一息に飲み干し、ちゃぶ台の上に湯呑置いた。

 

「光努くん、何処へ行くんだい?」

「ん?まあチョイスの話も聞いたし、寝る」

「え?光努くん、君って寝るの?」

「・・・・正一、俺をなんだと思ってるんだ」

 

光努が寝るという発言に心底驚いたような表情に光努は呆れた声を出す。

別に光努は不眠不休でいつまでも動き続けられるぜ!というわけではない。確かに体力など無尽蔵で底があるのかもどうか怪しいほどだが、それでも寝るときは寝るし、食べるときはきちんと食べるのである。一通りチョイスについては入江に聞いたので、光努も夜中から戦いに参加したから今日はもう寝ようかとしても別に不思議でない。ツナ達ボンゴレ側も絶賛爆睡中のはずである。

 

「ふわぁ、私も寝ようっと」

「僕も寝るよ」

 

ぞろぞろと立ち上がって荷物を持ち、出口に向かう光努とリルとコルの三人。ルイは別に戦っているわけでないし、まだやることもあるらしいので今のところは入江達と一緒にいるそうだが。

 

「ルイ、詳しいことは明日聞くからよろしく~」

「ああ。今日は三人ともゆっくり休め」

「どこで寝よっか」

「僕は布団で寝たい」

「じゃあ恭弥の所が一番近いからそこで寝るか」

 

何やら堂々とお邪魔してなおかつ布団を借りる気満々の相談ごとに、聞いている入

江はあははと苦笑いをするのであった。

 

 

 

 

 

 

 




戦間期はもう少し続くと思います。

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