特異点の白夜   作:DOS

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『真紅の大鷲VS九尾の狐』

 

 

 

 

 

 

 

赤みがかった明るい髪を揺らし、目を細めて笑っている界羅に対し、獄燈籠は後ろの嵐鷲(アクィラ・テンペスタ)のフゼに命じた。そうすると、所どころ黒い色の混じった全体的に赤色の羽を羽ばたき、嵐の炎の纏われた羽が相手に向かって飛ばされた。

 

一つ一つが鋭く、破壊力の秘めた嵐の炎で纏われた羽は、十分な凶器となり得る。その上、広範囲に向かって飛ばされる羽は、避けるのすら容易ではなかった。

 

「避けるのは面倒やね。(コウ)、迎撃」

「カァ!」

 

牙をむき出し、コウと呼ばれた狐が威嚇するように吠えると、嵐の炎の纏われた九本の尾が振るわれ、そこから飛ばされた無数の火球が羽とぶつかり、派手な爆発音と共に二人の間で爆炎が広がり、もうもうと煙が両者を覆うように噴出される。

 

「全部迎撃するとはのぅ。それにその生物、一体なんじゃ?」

 

眼前で獄燈籠とフゼに対して威嚇する嵐の炎の纏われた九尾の狐。

この世界における匣兵器は、全てにおいて地球上に存在する生物の形をなしている。これは地球上の生物だけ造っているというわけでなく、地球上の生物を元にしか造れないということ。さすがに今の科学技術でも容易でなくその為、人の想像が生み出した物語の中のドラゴンや、空想上の生物などは造ることはできない。匣を使うものにとっては常識のことだが、今獄燈籠の目の前にいる生物は、通常の狐でなく、尾が九本存在する、いわゆる九尾の狐。

 

世界各地の伝承や神話に残る、場所によっては悪しき存在とも、幸運の象徴とも呼ばれる妖狐。伝説としてはいくつも存在するが、その証明が成されず、年月を経た狐が化生化したとも言われる存在。しかし、通常妖怪と呼ばれる生物は地球上に存在するといえば言い難い。

 

科学の世界においてはあくまで人の想像、もしくは別の何かがただたんにそう見えただけの架空の生物扱いだが、眼前にいる生物は確かに九尾の狐と言うにはふさわしかった。

 

だからこそ解せない。こんな匣兵器が存在するのかと。

 

「生物は長い年月を経て進化するものやけど、それは必ずしも正しい進化だけや無いってことや」

「進化じゃと?」

「おしゃべりは割りと好きやけど、俺もこんな場所に連れてこられて少し面倒思ってんや。悪いが、さっさと帰りたいとも思ってる」

 

そう言って瓦礫の山の上からあたりを見渡す。

こんな場所とは、メローネ基地のことではなく、移動した先のこの人工島のこと。

 

この島へとやって来たのは、白蘭に頼まれて日本まで来た界羅にとっても予想外のことだったらしい。獄燈籠にも予想外で、光努達と後で落ち合う予定だったリルとコルは大丈夫だろうかと思ったが、この程度でくたばるほどにやわではないと知っているので、一先ずその心配は置いておいて、眼前の敵を見る。

 

ミルフィオーレ側にも意外と強い奴がいる、と。もっとも、この人物がミルフィオーレ側に完全についているかと言われたら微妙なところだが。

 

「つーわけで、やること済ませたろか」

 

 

バゴオオォン!!

 

 

 

その瞬間、獄燈籠が右足のミリタリーブーツの踵を少し浮かせ、地面を踏み鳴らしたその時、獄燈籠の背後の方で激しい爆音が鳴った。

 

そして爆音の方向を見た界羅の頬が、少し引きつった。

 

「おいおい・・・出鱈目やなあんた」

 

獄燈籠の背後から界羅に向かって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

メローネ基地の構造は全体の縦の直径がおよそ2キロにその中に含まれるのは、一辺300メートルの立方体が多数組み込まれている。その区画の一つ、300メートルの立方体の塊が、爆音と共に飛ばされてきた事実に、さすがの界羅も少し笑顔が引きつっていた。

 

(この基地に入った時から、あらかじめいくつか仕掛けはしておいたってとこか。にしても、こんなやり方するなんて、予想異常に危ないやっちゃな、獄燈籠!)

 

巨大なコンクリートや耐炎製の壁等で構成された塊を飛ばすという常軌を逸している獄燈籠。だが、界羅は少し顔を伏せたと思い、再びあげたとき、細かった目をわずか広げて笑っていた。

 

その瞳は、燃える炎を閉じ込めているかのような紅い瞳をしていた。

膝を少し曲げて足に力を込め、右手に持つ小太刀を構える。そして小太刀の刃を伝うように、真っ赤炎が煌々と燃え盛り、刃の表面を伝い取り囲むようにぐるぐると回転している。

 

そして迫り来る巨大な塊に向かって、地面を蹴って飛び出した。

 

 

天火流(てんかりゅう)炫毘古(かかびこ)!」

 

 

莫大な炎を回転させて纏わせた刃を突き出し、前方のメローネ基地の一ブロックに刃を突き立てる。

 

その瞬間、激しい閃光と共に、瓦礫の崩れる音。ブロックに亀裂が入り、そこを炎が伝う。その瞬間からボロボロと分解されていき、最終的にはブロック全体が炎によって包まれた。そして炎を纏うブロックの反対側から、突き破って出てきたのは、和服のような服の袖をひらりと揺らし、小太刀を突き出している、無傷の界羅だった。

 

そして、ガラガラと崩れ落ちて山となったブロックの上に降り立った。

 

「いやぁ、中が空洞で助かった。ラッキー☆」

 

楽しげに笑う界羅と、上からの瓦礫を全て避けて界羅の足元に来たコウを見る獄燈籠。

 

(ふむ、この基地の訓練室に使われとる耐炎製の壁じゃったんじゃが、簡単に突き破るとはのぅ)

 

死ぬ気の炎が主流の時代の為、耐死ぬ気の炎用の素材だって開発されている。今回吹き飛ばされたブロックの中は訓練室で頑丈な作りとなっており、壁全体は耐炎用の素材で死ぬ気の炎と斬撃打撃による抵抗力は高い。にもかかわらず、界羅は簡単に刺突技によって貫通させた。炎の規模や純度もそうだが、その剣の扱いももはや化け物じみていた。

 

獄燈籠は地を蹴り、界羅に肉迫する。瓦礫の上という不安定な足場にもかかわらず、その速度は速い。その手に持つナイフは正確に界羅の喉元に向かわれたが、その前に小太刀によって防がれ、激しい火花を発した。

 

 

キイィン!!

 

 

すかさずナイフを振るうが、界羅は少し足を動かし最小限の動きで交わして小太刀でもって受ける。小太刀は元来、他の刀と比べてリーチが短いため、その戦い方は自然と剣術と体術の中間程に位置し、どちらかといえば体術寄り。その為、刀よりも近接戦には長けている節がある。界羅は手に持つ小太刀を、炎を纏わせながら上から獄燈籠に向かって振るった。

 

「天火流、石折(いはさく)!」

 

峰の部分に手を添えて炎と共に獄燈籠の上から斬撃を振り下ろす。獄燈籠はその刃をナイフでもって受け止めようとしたが、刃が触れる突然でその軌道を逸らし、小太刀をこすらせるようにして斬撃を受け流した。そして振り下ろした小太刀が地面へと到達した瞬間、地面に一文字の深い斬撃の後が走った。先ほどの耐炎製の瓦礫の山にもかかわらず、深い斬撃は瓦礫の中へと沈んだ。

 

その瞬間のわずかな隙に、炎の纏われたナイフを突き刺すように界羅にむけたが、咄嗟に小太刀を手元に戻して峰で受ける。だがその威力に、後ろへと吹き飛ばされた。

 

瓦礫の山の上から吹き飛ばされたが、一回転するようにして着地し、九本の尾を揺らしたコウが心配そうに擦り寄ってくる。そんなコウに、界羅は笑いながら頭を撫でだ。

 

「キューン」

「俺は平気や。それより、予想以上やな『アヤメ』ってのは。少しおもろくなってきたなぁ」

 

そう言って細い目を更に細め、楽しげににやりと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「さすが♪どちらも十分に怪物級だね。それにしてもあの狐くんだけど・・・」

 

モニターに映る様子を見る白蘭。二人の戦闘技能にももちろん興味津々だが、それよりも気になったのは、界羅のそばにいる九尾の狐。

 

実を言うと、空想上の生物を匣で再現することは、可能か不可能かで言えば可能である。昔から、架空の生物は何かの生物が進化した姿、もしくは複数の生物がかけ合わさった姿とも言える。ドラゴンは爬虫類に羽をはやして進化させた姿、という考えもある。だがそう単純にできるほど簡単でなかったのが匣兵器だが、ミルフィオーレの最先端科学はそれすらも可能にしている。

 

といっても、さすがに大量生産可能というほどに簡単な代物でなく、そうそうなんでも作れるわけでない。ミルフィオーレにだってそんな匣は1つくらいしか存在しない。

 

にもかかわらず、目の前にいる狐。

そもそも本当に匣兵器なのか、それとも本物の妖怪か?

 

古来より妖怪が住まう、とは言うが、本当に見たものなどいない。ただの人が想像しただけなのか、それとも実在するのか。

 

考えればキリがないが、一先ずあの狐は本当に匣平気なのか、最初から二人の戦いを見ていたわけでいない白蘭なので、そこまで安易に判断はできないが、目の前のモニターに映る生物に好奇心を向ける。

 

「やっぱり彼を連れてきて正解だった。おかげで彼にたどり着くまでに結構兵隊がやられちゃったけど、いいもの見れたしね♪」

 

墓造会は、ミルフィオーレファミリーに入ったというわけではない。だが、いくらかの取引や条件等で、戦力を少し借りている。

 

10年前から得体のしれない墓造会だが、白蘭の能力によってある程度だけだが分かり、接触をすることに成功した。もっとも、この成功になるまでいろいろと問題などが大量にあったことは言うまでもない。おかげで白蘭の言うとおり、ミルフィオーレの戦力の一部を削られるハメになったというが、それはまた別の機会の話。

 

「しかし、やっぱり()()は彼らが持ってるのかな・・・・」

 

一瞬、ぞっとするような笑顔と、威圧のある瞳を貼り付けた表情を出したが、すぐに霧散させてさきほどまでの楽しげな笑みを浮かべた。

 

「ま、今はいっか。しかし、彼らが戦ってるんじゃ、あそこに兵力は送り込めなさ

そうだし。もう少し見てようかな♪まだまだ10日もあるしね」

 

そう言って、手元の袋からマシュマロを取り出して一口食べ、机に置かれているジュースを一口のむ。

 

楽しげに笑う白蘭は、再び深くソファに座りなおすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

場所は戻ってメローネ基地跡地。

畳の上でちゃぶ台の周りを囲む光努、リル、コル、入江、スパナ、そしてツナのヘッドホンから照射されるホログラムのリボーンの計6人。

いつも明る者も中にはいるのだが、今は微妙に空気が沈んでいた。

 

その原因は獄燈籠。

 

光努と共にこの基地へと侵入し、入江は丁度白蘭の紹介で来た界羅と基地を動かして戦わせた。二人の戦いも見ていたが、他の所でもっと重要な事、ツナの発見やリルとコルの出現等もあり、すっかり獄燈籠と界羅の二人の戦いをほぅっておいたが、その為、途中からすっかりと忘れていた。

 

そしてメローネ基地が転送され、今に至ってようやく思い出したのである。

 

「・・・君たちが来て舞い上がって、すっかり忘れていたよ。あの二人の事」

 

顔を伏せて語る入江だが、その頬を冷や汗が伝っていた。

 

「メローネ基地はどこに飛ばされたのかわからないのか?正一」

「いや、僕も超炎リング転送システムがあるとは知らなかったし、白蘭サンの事だから邪魔にならない海の上の無人島とかに転送したんじゃないかな。メローネ基地って大きいから場所によっては大惨事だし。さすがにそこまで白蘭サンもしないと思うからさ」

 

確かにメローネ基地は現在ミルフィオーレの作り出した人工島に落とされているが、さすが入江正一、どんぴしゃり。長年白蘭と一緒にいただけのことはある。お互いの性格や思想は結構理解しているみたいだ。それがいいことなのかどうなのかは知る由もないが。

 

「でも籠だし、大丈夫じゃないの?」

 

リルが割と無邪気に言うが、光努やコルからしてみれば確かにそう思う。

光努は獄燈籠と一週間程しか一緒にいなかったが、その実力の高さは割と理解した。

 

刃物や銃火器の扱い、他にも罠作りに関してはトップレベルである。さすがイリスに設置されている罠や、黒曜組特訓で行った獲洞山の凶悪な歯車の罠を仕掛けた張本人といえよう。それにその身体能力も光努から見ても常人を遥かに超えていた。

 

本当に老齢なのかと思ってしまうほどに。

 

入江も確かに『アヤメ』である獄燈籠の強さは理解しているが、それよりも入江は、界羅のことが不安の一つだった。

 

「彼と戦っている界羅っていうのは、墓造会の一人で〝天狐(てんこ)〟と呼ばれているんだ。彼らの実力は、光努くんなら知ってるんじゃない?」

 

そう言う入江の言葉で光努が思い出すのは、かつてボンゴレ10代目候補を決めるリング戦に乱入してきた3人の人物を思い浮かべる。風のように現れて、風のように去っていった、〝暗殺者〟アドルフォ、〝棟梁〟ウィーラ、〝道化師〟ジャンピエロの3人。

 

「といっても、俺はアドルフォしか戦ってないからな。結構面倒だけど、籠なら倒せない事ないんじゃないか?」

 

もっとも、神器を持っていたウィーラならどうなるか、神器というものをそこまで知らない光努には判断できないが。

 

「界羅は墓造会の中で二人いるNo.2の内の一人。はっきりと言ってしまえば、6弔花よりも強いよ」

 

6弔花といっても、入江のように完全に戦闘タイプ出ない人間もいるため、一概に何とも言えないが、それでも入江の言葉には説得力があり、実力の高さは伺える。

 

「けど墓造会って10年前は謎だらけの組織だったらしいけど、この時代はもうほとんど解明されてるのか?」

「いや、白蘭サンがどうにかしてコンタクトをとったらしいけど、僕もそこまで詳しいわけじゃないんだ」

 

この時代で起こっているありえないことの数々は、白蘭が原因と入江はツナ達にも言った。確かに、この時代に置いて科学技術によって全てが説明がつく、というわけでない。奇跡、偶然、など、ありえているが、ありえない出来事。この墓造会とのこちらからの接触も、本来はありえないことの一つであった。

 

どういう手段で居場所を掴み、連絡をとって、さらには一人借りる、なんてことはほとんど10年前ならほぼ不可能に近かった。

 

「へぇ~。白蘭って結構すごい人だったんだね」

 

素直に感心しているリルだが、入江はなんと答えていいものか苦笑いしている。

 

「けどどうする。籠ならそうそう負けはしないと思うけど、どうにかして回収しないと」

 

コルはそう言うが、現状中々難しい。獄燈籠が今どうしているかもわからないし、どこにいるかもわからない。沈黙する彼らの中、ルイの操作するノートPCのキーボードの音だけが広い部屋に響いた。そして唐突に止まったキーボードの音とともに、ルイが顔を上げて黙っていた口を開いた。

 

「よし見つけた」

『どーしたんだルイ?』

「籠を見つけた。太平洋に浮かぶミルフィオーレ所有の人工島にいるな」

「はやっ!」

 

いつの間にやら、入江も驚き、ルイが反転させて皆に画面が見えるようにPCを置くと、そこには世界地図の太平洋に浮かぶ赤い点と、そこから伸びる小さな画面には、獄燈籠と界羅の二人が瓦礫の上にいる映像が映っていた。

 

「二人が来たとき、念の為に発信機をつけてあったんだ」

「てことは俺にもついてるのか?」

「もち・・・・いや、籠だけだ」

「今絶対にもちろんって言おうとしただろ」

「うわぁ、本当に太平洋のど真ん中。こんなところに島なんてあったっけ?」

「多分、白蘭サンの作った人工島だね。この瓦礫はおそらくメローネ基地みたいだけど、ていうか二人とも戦ってるの!?転送されてからも!?」

 

入江はとても驚き、よく驚くな~と思っている全員だが、確かに驚きである。転送してからも戦い続ける二人に、というかまだ決着つかなかったのか。

 

「しかし、これが界羅か。顔を晒してる奴は初めて見たな」

 

光努のポツリとしたほんの感想だが、入江は少し目を細めた。

 

(確かに、10年前はまだ隠さざるを得なかったみたいだしね)

 

ノートPCを見ながら、さてどうしようかと相談する皆。

場所はわかったのはいいが、ここから2500キロも離れた人工島。通常の手段ではそこまで行くのにどれだけ時間がかかるか。

 

「皆、その心配は大丈夫だ」

 

大丈夫、というルイ。その言葉は嘘でもなんでもなく、本当に大丈夫、既に手は打ってあると言わんばかりに自信に溢れている言葉。冷静な表情でそう言うルイは、キーボードを操作している手と反対の手で携帯を取り出し、その画面を見せた。

 

画面に移されている、『灯夜』の2文字。

 

 

「すでに連絡はした。時期に迎えがつく」

 

 

 

 

 

 


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