「お」
「あ」
森の向こう、城の方角で、輝かしい大空の炎の光が照らし渡った。
ヴァリアーの人間であれば、あの炎が誰のものかわかる。
絶対的な強者、XANXUSによる、炎の弾丸が、敵に止めを刺したその瞬間であった。
敵の大将を討ち取ったということを理解し、信じられない思いのミルフィオーレの残党兵と、勝利を喜ぶヴァリアーの隊員達。
が、この場にいるベルとフランの二人は、若干残念そうだった。
「ちっ、もう終わっちまったよ。見たかったなぁ。大空の匣って超レアだしよ」
「結局、わらわら出てくる敵の相手してて間に合いませんでしたからねー」
ため息をつくベルと、そのそばで無表情気味にしゃべるフランの二人。
野次馬根性満載の王子様は、どうやら天空ライオンを見てみたかったようだが、数だけは無駄に多かったミルフィオーレの兵隊を潰しまくってたら、先にXANXUSの戦いの方が終わってしまった。
兵隊はあらかた片付けたが、そのせいで遅れてやはり残念そうにしているベルだった。もはやテンションが微妙に下がっている。
「おらあぁ!」
隙だらけ、チャンス!とばかりに後ろから攻撃を仕掛けるミルフィオーレの兵隊。
もっとも、ベルにはどこにも隙やチャンスなどが全くなかったのだが、相手が相手なだけしょうがないと言えるだろう。手元の袖からナイフを取り出して、しゃがんでいた態勢から起き上がろうとしたが、直前で思い留まった。
瞬間、横から飛んで来た無数の
「なんだかがっかりした顔だな、ベル」
枝から枝へと飛び移って姿を現したのは、黒い下地に、銀色のラインのあしらわれたリヴォルバー銃を持った考魔だった。他にミルフィオーレの人間がいないことを確認すると、くるくるとりヴォルバーを回して大腿のベルとに固定されたホルスターにしまった。
「てめっ、こんなところで何してやがる。西側は終わったのか?」
「こっちは片付いた。二人が見えたから来てみたが、どうやらボスの戦い見れなくて残念、ってところか」
「さすが考魔センパイ。まさにその通り、ベルセンパイもレヴィさんとおなじボス大好きらしいですよー」
「あんな変態親父と一緒にするな!このカエルが!」
ザクザクと、オリジナルナイフを投げてフランのカエルのかぶりもの越しに頭に突き指す。が、それでも平然としているフランにベルはやはり不満気である。
「でも良かったんじゃないですか、ベルセンパイ」
「あん?何がだよ」
「ほら、ボスって、周りを見ないというかー、関係ないというかー」
「・・・だからなんだよ」
回りくどい言い方をするフランに、だんだんとイライラとしてくるベル。考魔は枝に腰を下ろしてフランの話を静かに聞いている。
「ミー達もそばにいたら、巻き込まれたかもしれないじゃないですかー。ほらただでさえ、敵はセンパイの兄弟ですしー。まとめて、ドカーン、と」
手を広げて大げさに言うフランだが、当のベル本人はなんだか本当にありそうで頬に一筋の汗が流れていた。
「確かに。こんな暗がりで、顔とかかなりそっくりな双子の兄弟。もしこれでやら
れても、「敵と間違えた」、と言っても通じそうな話だよな」
うんうんと納得するように冷静に呟く考魔。
その言葉に、さらにだらだらと冷や汗を流すベル。フランも考魔も、冗談半分で言っているのだろうか、XANXUSの性格を知っていうベルとしては、妙に本気で信憑性が高かった為、足取りが少し重くなった。
「・・・・・・もう少し、ゆっくり行くか」
ベルはそう言いつつ、若干城へと向かう移動速度を落とすのであった。
***
一方、古城跡地の瓦礫の山の中では、先ほどと全く同じ体制でいるXANXUS。静かに、深く椅子に座って楽な姿勢で目を閉じていた。そばにいたのは無傷のルッスーリア。
どうやら古城の破壊と同時にメガネ(サングラス?)を落としたらしく、あたりが見えないまま瓦礫の山を歩いて、先程見つけたらしい。
あえてもう一度言おう、XANXUSが戦闘中も目が見えないまま歩いて、無傷で戻ってきたらしい。古城が壊れた際も全くの無傷とは、さすがXANXUSとルッスーリア。ヴァリアーの幹部とボスなだけある。
さっそくXANXUSの傷を発見して、自分の匣を開匣して治療しようとするのだが、やはりというか当然というか、「構うな」の一言であった。
「ほっとけルッスーリア。この程度でどうにかなるほど、やわなボスじゃねーよ」
瓦礫の欠片を踏みつけて声をかけてきたのは、いつの間にか戻ってきたスクアーロ。
「おせぇぞ、ドカス」
そんなスクアーロに労いの言葉をけけるべくもなく、もちろん悪態をつくのであった。そんなことにいちいち起こっていてはスクアーロもキリがなく、元々こういう人間とわかってるからXANXUSの悪態に特に苛立つ反応を示すべくもなかった。
「他の連中が、思ったより役に立たなくてな」
「それって、」
「ミー達のことですかー」
スクアーロの言葉のすぐ後に聞こえた二人分の声。
見てみると、積まれた大きめの瓦礫の上に腰掛けていた、ベルとフランの二人がいつの間にか戻ってきていた。
「事実だろうが!敵をあっさりと通しやがって」
「それについてはー。ベルセンパイがお兄さんより弱かったってことで」
「俺の方が強いって、の」
ザクリ。
の、のタイミングで自前のオリジナルナイフをフランに突き立てる。例によって平然としているフランであった。
「でもあっさり通したのは事実だから説得力ないぞ」
見てみると、別の方向からやってきた考魔。
ベルとフランと会ったときには持っていなかった長めの大きなバッグを背負ってることから、西側の敵を迎撃に行った時に森の中に隠したバッグを回収してきたのであろう。
スコープ越しだがベルとジルの戦いを見ていた考魔は、割と辛辣な意見をベルにするのだった。
「てめ、考魔。おめーこそ、城からの迎撃が役目なのに何出張ってんだよ」
「敵が多いのだからしょうがない。四方から囲まれたのだぞ」
「そいつらを城からぶっ倒すのがてめーの役目だろ」
「それならベルの役目は南に現れた6弔花を倒すことじゃなかったのか?いや、さすがに兄貴に勝つというのは難しかったな。すまん」
「この野郎・・・・・・狙撃銃なんてガラクタ使ってる奴に言われたたかねーよ」
「ガラクタ?・・・聞き捨てならないな」
ベルの言葉に、考魔がぴくりと反応を示す。
明らかに悪いと思っていない考魔の謝りに対して、ベルから殺気が漏れ出し、手元に用意したナイフをだし、ヴァリアーリングの光とともに、真っ赤な嵐の炎を纏わせる。
「バラバラに解体してやる」
対する考魔は、ホルスターから白地に銀色のラインの入ったリヴォルバーを抜き、ヴァリアーリングの光とともに、
「綺麗に風穴開けてやろう」
考魔の目が少し細くなり、ざわりとした殺気がわずかに漏れる。
「あれ?考魔センパイ少し怒ってますかー?」
「考ちゃんが怒るなんて、珍しいわねぇ。フランも覚えときなさい。考ちゃん自分の銃けなされると怒るから」
「ベルセンパイと同じですねー。ナイフ捨てたら怒りましたしー」
「二人共~、ほどほどにねぇ~」
お互いにナイフと銃を構え、殺気を放出する。
そんな二人をよそに、反対側から体を引きずるようにやって来たのは、割と重傷なレヴィだった。
「ボス・・・」
「まぁ、レヴィったら、ズタズタのボロボロじゃないの」
「俺の・・ことは、いい。ボスさえ・・・・無事・・なら」
ボロボロの傷だらけの自分のことよりボス絶対。ヴァリアー内でも珍しく、かなり度を越す忠義心。ここまでくると一周回ってレヴィがなんだかすごく見えてくるから不思議である。が、そんな忠義もボスがボスだけに報われないものであった。
「健気よね~」
「でも、情けないですよねー、レヴィさん。・・・・やっぱり見掛け倒しかー」
「なぬ!」
無表情ながら結構辛辣で毒舌を吐くフラン。だがヴァリアー幹部全員が戦い、レヴィが確かに一番ズタズタのボロボロの傷だらけなのだからしょうがない。さすがヴァリアー幹部内でも一番鈍重と言われるだけはある。攻撃力だけなら高いのだが。
その後、ルッスーリアの晴クジャクによって傷を治したが、この晴クジャクは体組織を活性化させて治癒を施す為、傷も治るが一緒に髪や髭、爪も思い切り伸びる。
その為、治療後はいっそうむさい容姿になったのは言うまでもなかった。
「さてと、残りの残党を片付ける前に、
戦うベルと考魔を置いておいて、スクアーロはため息を吐きながら通信機を用意するのだった。
***
メローネ基地の入江正一の研究室。
怪我をした者達にはキャスター付きの移動ベッドを用意して寝かせ、一先ず落ち着く。入江の話を聞いてとりあえず敵意は無いことはわかったが、それでも腹の虫が収まらない人間もいる。獄寺と雲雀がいい例で、せめて入江を一発は殴りたいと思っている。いや、思っているというかむしろ言っているが、ツナはストップをかけているのであった。
「ちょ、見捨てる気!?」
そんな中、割りと焦る入江の声と、その後ろで怒気をふくらませて佇む獄寺と雲雀の二人。そして前に立つ両手を広げてストップをかけてるツナ。背を向けた入江は正面を向いて小さめのノートPCを操作している。そして画面には、テレビ通信をしていたのか映像が映っていた。
長めの金色の髪を後ろで縛った髪型に、ディスプレイ搭載のメガネをかけて白衣を着た大人の男性、ルイ。その表情はどこか面倒そうにしていた。
『見捨てるとは人聞きが悪いな』
「だったらルイからも説明してよ!なんか僕だけ怒りの対象が向いてるんだけど!」
『いや、だって俺ボンゴレ達の邪魔してないし』
「いやいや、そういう計画だったんだから仕方ないじゃん!フォローしてよ!」
『別にいいじゃないか。減るもんじゃないし。・・・・・それに面倒だ』
「ルイ!君って人は!!ていうか今ぽろっと本音漏れたよね!?」
わやわやとしゃべる入江とルイの二人。
その光景を見ている光努、リル、コルの三人は中々愉快そうに笑っていた。
「はは、ルイは相変わらずだな」
「でも結構面倒くさがりは改善したんだよ」
「そうなのか?」
「それに肉体的疲労も結構軽減されてる。灯夜に昔少し鍛えられた」
「灯夜に!?なんかとんでもない事を知ってしまった気が・・・・」
一先ずこの後の状況は他の戦いの行方によって方針が決まるため、しばらく休息しているのであった。
「!」
「どうした、リボーン」
そんな折、ツナの持つヘッドホンに内蔵された機能によって、ホログラムとしてその光景を見ているリボーンの変化に、隣にいた光努は訪ねた。
何かあったのかと思ったが、予想よりもいいことだったのか、リボーンはにやっと笑ってそのことを告げた。
「たった今ジャンニーニからイタリアの主力線の情報が入ったぞ。XANUXSが敵の大
将を倒したみたいだ」
その報告に、一同は喜んだ。
しかし入江はまだまだ不安の表情。ミルフィオーレの兵隊はとにかく数が多い為、たとえ大将がやられたとしても、別の大将を立ててさらに攻め込んで来るかもしれない。現に最初の指揮官は瞬殺されたが、新たにジルを指揮官に立てて攻めてきたのだから。
が、さらにリボーンがボンゴレ基地に来た追加の報告として、敵が撤退を始めたということを知って、今度は入江も喜んだ。
「これならいける!ボンゴレの戦力は想像以上だ!主力部隊を追い込むなんて!」
「急に興奮しやがって・・・・」
結構なはしゃぎようで喜び、急にテンションが高くなった入江に隣の獄寺は若干ジト目である。
そんな様子を見ているリルだが、隣の光努がどこから用意したのか、ビデオカメラを回して入江を映していたので、リルは不思議そうな顔をした。
「何してるの光努?」
「ん?いやなに、普段と違う姿を映したらあとでいい思い出になるかと」
「光努って結構サディストだよね」
「リルからそんな言葉が出るとは、これも時間というものか」
しみじみとそんなことを光努だが、この世界ではリルとコルの二人は18歳なので本当に時間が経っているのである。
と、こっちよりも入江のテンションが高いのは事実。
その喜びように、ツナも顔を綻ばせる。メローネ基地はボンゴレの手に落ちたといっても良い。そしてイタリアでの主戦力の戦いはボンゴレ側の勝利で終わった。
あとは、白蘭を倒すだけ。
「いいや、ただの小休止だよ」
天から聞こえてくるような、周りの広さに関わらず、響くような声が聞こえた。
上機嫌そうなその声と裏腹に、入江の背筋は凍りつき、冷たい汗が流れてきた。
その場の全員は、いきなり出現した人物に対して、一様に警戒の色を強めた。
跳ねるような白髪の髪と、左目の下の三つ爪のマーク。真っ白な服に身を包み、目を細めて楽しそうに笑っている姿は天の使徒にも見えるが、地獄の悪魔のようにも見える。
「イタリアの主力戦も、日本のメローネ基地も、すんごい楽しかった」
――――白蘭。
ミルフィオーレのボスにして、この時代の支配者。
ついに彼は、その姿を現したのだった。