「俺たちの、仲間!?」
ツナや獄寺を始め、守護者達は入江の言葉に驚いた。
敵だと思い、過去からここへ来た原因を作り出したといってもよい人物である入江正一。だが本人の口からでた言葉は、自分たちが想像していたのと全く逆だった。
「普段僕の行動は、監視カメラと部下とで24時間白蘭サンに筒抜けだったけど、こうして君らが基地をめちゃくちゃにしてくれたから、ミルフィオーレと関係の無い立場で話せるよ」
やっとこの時が来た、待っていた。そういうような入江の口調。とっさのでまかせにしては入江自身はすごく安心してリラックスしている様子。
その入江の口から語られることは、まるでツナ達の予想もしてなかったこと。
ミルフィオーレはボンゴレリングとフィオーレリングを手に入れるため、過去であらゆる画策をして、この時代にツナ達を連れてきた。
そこまではミルフィオーレの意思だったのだが、そこから入江を目的としてツナ達が攻めるようになったのは、全て入江個人が秘密裏に仕組んだことだった。
それもこれも、ツナ達を鍛え、短期間に強くなってもらうため。
だがそう簡単に信じられうこともなく、それは作り話だという獄寺たちだが、よくよく考えればおかしい点はいくつもある。
わざわざ誰かと戦わせる、なんてことをしてリングを回収するのではなく、閉じ込めてガスを使うなど、他にもやりようによっては簡単に捕まえられるはず。基地が自由に動かせるのに、ここまでツナ達が全員まだ無事、というのも中々に奇跡的である。
段階的に戦わせ、だんだんと経験を積ませ、短期間で成長させる。
それが入江の考えた成長方法。
「随分と危ない方法を使うな。というかその中って俺も入ってるの?」
「・・・・・・」
光努の疑問に入江はなぜか黙って目線少しずらしている。
「あの・・・イリスのみんなには悪いけど、ここの戦力を削ぐのに使わせてもらったよ」
「それってどういうこと?」
ツナの質問に、入江は少し乾いた笑い声だしてポツリと語る。
「実際綱吉君達が戦うにしても、途中までは良かったけど後半はこっちの戦力の方が圧倒的に高かったからね。だからグロやジンジャー、太猿達は綱吉君達とぶつかる前にイリスの彼らに倒してもらう予定だったんだよ」
ツナ達が攻めた時には全員は無傷でほぼ問題なかったが、ツナはずっと匿われていたので別として、他の獄寺、了平組と山本、ラル組は、A級のγと幻騎士をぶつけただけで2組は戦闘不能状態。やってきた10年後の雲雀も、その後幻騎士に結果としてはやられる。
このまま同じA級のグロや、やってきた界羅、他にも残っているジンジャー、太猿達を使えば、彼らは弱ったツナ達を全員始末してくれただろう。メローネ基地の構造を使えばぶつけるのもたやすい。だがそうなっては、入江の計画が台無しになる。
だからこそ、イリスのメンバーが攻めているとわかったときは、驚き焦りもしたが、チャンスだと思ったのも事実である。
ツナ達が戦えない相手を、代わりに倒してもらおうと。
「だとしても解せねーな。この時代のリルやコルはともかくとして、お前はどうし
て光努も戦力として数えられるんだ?確か昔の光努の資料はほとんど残ってねーはずだぞ」
リボーンの言うとおり、光努は10年前に行方不明になり、それ以前の資料としては限りなく少ない。名前と存在は記されているが、その戦闘能力に関してはほとんど資料に出るほどに明らかになっていののも事実である。昔は有名なところでボンゴレ10代目を決めるのリング争奪戦の大空戦には参加していたが、そこまで強敵と戦った、というわけでもないのだから当然と言えば当然である。
「確かに、10年前から来た光努君にはどんな力があるか僕は知らない。でも連れてくる必要があったのは事実だよ。それにできれば戦力外の人間はいたほうが良かったんだ」
「どういうことだ」
「戦力ではないイーピン、笹川京子、三浦ハルを連れてきたのは、君たちの成長へとつながるから。守る物がある強くなれる。そのために必要だと判断したんだ」
その言葉を聞いたとき、真っ先にツナは動いて乱暴に入江の肩を掴む。ツナらしくないその行動が、逆にツナが心底怒っていることを証明している。
「そんな理由で!もしも京子ちゃん達に何かあったらどうするんだ!獄寺君達も、
成長の前に戦闘で死んでたかもしれないんだぞ!」
ツナの言うことも、もっともだ。現に、獄寺や山本はγや幻騎士との戦いで、それぞれ死にかけた。
だがそんなツナの怒りを知らない入江ではない。
むしろ、彼はこれこそが唯一の方法だと考えて行っていた。
「僕だって一生懸命やってるよ!これは、君達が思ってる程、小さな問題じゃないんだ!!それにこの計画は、この時代の君の意思でもあるんだ、綱吉君!!」
「オレの!?」
入江一人で全て決めたというわけではない。この時代に置ける極わずかな人間とだけの計画。
その内の一人が、10年後の沢田綱吉だった。
「この計画を知っているのは、僕と10年後の綱吉君と10年後の雲雀君。それに10年後のルイだ」
「ルイ!?」
かなり聞き覚えのある名前に光努とリルとコルが反応する。
10年後のルイといえばこの時代のルイ。そもそもルイは入れ替わっていないからそのまま。
というか結構最近通信していたはずだが。
「光努君に関する詳しいことを知ってるのは、ルイに聞いたからなんだ」
確かに、それなら納得。
資料として残っていない光努の戦闘データだが、当時の彼を知っている人間なら、その力は語ることができる。
そこそこの戦いを見たツナと雲雀もいたが、二人より長い時間共にいたルイなら、その実力をよく知っている。
他にも光努に関しては戦闘データ以外にも謎が多いが、ルイに聞いたというならそれなりに納得できる。
「あいつ、そんな話一言も聞いてないのにな」
「誰にも明かさないように計画したからね。悪気はなかったから攻めないでやってくれ」
特にそれらしい話をせずにいたルイを弁護する正一。
そう言われればいろいろと不可解な謎も割ととける。
入江は過去の自分を使って10年バズーカを当てたが、当時海外にいた光努にはどうしようもないはず。その為にこの時代のルイが多分意図的に過去に干渉して光努をこの時代に来るように仕向けたのかもしれない。リング戦の後に、イタリアに飛んで、珍しくやる気のルイが10年バズーカの弾を見せる。その頃ツナ達も10年後と入れ替わったのなら、タイミング的には出来すぎてる。
光努も過去へ帰る目標を入江正一に定めたのには、ルイの言葉もあった。元々こうなるように計画していたのなら、光努が入江へ向かうようにさりげなく誘導していたのかもしれない。
「ふむ、帰ったら聞き出さないとな」
「私もルイに聞いて来たから一緒に聞こうっと」
「右に同じ」
何やらいい笑顔を浮かべる光努達3人に、入江はあわあわしているが割とどうでもいい。
というかルイも結構無責任に押し付ける。いや、負けることはないと確信していたのかもしれない。なんだかんだで、イリスの人間は光努の力や技術に信頼を置いているからである。別に信頼を置いているのはそれだけというわけではないが。
「10年後の綱吉君は、関係の無い仲間が巻き込まれるのは反対していたが、最終的には過去の自分達の成長のため必要だと判断したんだ」
「ツナが了承したって?考えにくいな」
「そーだ!10代目はチビを巻き込んだりしない!」
獄寺の言うとおり、ツナが関係の無い人間を巻き込むとは考えにくい。
そのことは先程入江の言ったとおり。おそらく本当。だとすれば、本当に10年後のツナにとっては、この計画は苦渋の選択だったのだろう。
「あー、もう!それくらいやばい状況ってことでしょ!話の流れで察してくれ!」
ツナの事を皆知っているため、中々に信じにくい内容だが、入江も本当の事を言っている。なので若干入江も逆ギレ気味である。
「全てを賭けて対処しないと、君達も仲間も全滅なんだ!下手すれば、人類の危機なんだぞ!」
人類の危機、とは穏やかでない。話のスケールが一気に大きくなってきた。
「それは、これから来る戦いってのと関係あるんだな」
「リボーン!?」
「オレは信じてやっても言いと思うぞ。今のところ、オレの感じていた疑問とつじつまは合うからな」
突拍子もない話の数々だが、つじつまの合う、真実味を帯びた話。
それぞれ考えていた小さな疑問の数々か、入江の話の中で答えが出されていた。
リボーンの信じるという言葉に、獄寺も押し黙るしかない。
一先ず皆信じてくれるという方向性で話が纏まったため、入江も若干ホッとしていた。
「ありがとう。そうだ・・・君たちの敵となるのは・・・・・白蘭サンだ!」
白蘭!
ミルフィオーレファミリーのボスであり、この時代に置ける絶対的な独裁者。
自分に従わない者は容赦なく始末する冷徹さ。彼がこの世界を手に入れたとき、一体どんな地獄絵図が出来上がるのか。白蘭の人となりを知っている人間からしてみれば、考えるのは簡単であった。
「だとすると一つわかんねーな。なんで今まで白蘭に手を貸してきた?」
リボーンの疑問も確かに。
白蘭が
にも関わらず、入江が10年バズーカを研究してツナ達を過去から連れてきたのには、理由があった。
まず、自分の力など借りなくても、おそらく白蘭は自力でツナ達を過去から連れて来る手段を見つけるということ。ただ早いか遅いかの差。
そして、入江がこの方法にこだわった理由は、白蘭を止めるため。
入江は語る。この時代でしか、白蘭を止める方法がないということを。
「今この時代で倒すしか、白蘭サンの能力を封じる手はない!」
「能力!?」
白蘭の能力。
入江がここまで回りくどく、危険な計画をみんなで立案し、実行したのは、全てこのため。世界のため、人類の危機のため、白蘭を止めるため。
壮大すぎて嘘のようだが、この事態は本当に深刻な事態なのだった。
「説明すると長くなるが・・・・あっ!忘れてた!」
唐突に入江が、何かを思い出したように大声を上げた。
そうするとリボーンに対し、何かボンゴレ基地へと連絡があったのか尋ねたが、疑問符を浮かべたリボーンは特にないと答える。
その答えを聞いたとき、少しがっかりとしたが、すぐに持ち直して再び向き合った。
「君たちがここへたどり着くことが白蘭サンを倒すための一つ目の賭けだった。それを第一段階とすると、クリアすべき第二段階があるんだ」
「第二段階?」
「知ってるだろ?今日は全世界のミルフィオーレにボンゴレが総攻撃を仕掛ける大作戦にでるって」
確かに知ってる。
ツナ達がメローネ基地へと襲撃したように、世界各地にあるミルフィオーレ支部へとボンゴレの残った戦力が攻撃を仕掛けている。実はこの攻撃はボンゴレだけではなかった。
「それも計画の一部だったのか」
「そうだよ光努君。ちなみにこの攻撃にはイリスも参加してるんだよ」
「イリスも?」
「人数はかなり少ないけど、個々の戦闘力が高い彼らなら、6弔花のいない支部くらい少人数で壊滅できるからね。正直助かるよ」
元メローネ基地の指揮官としてその言葉はどうなのだろうかと思ったが、あえて口に出さないでおいた。
「彼らの心配はしてないが、クリアすべき第二段階というのはボンゴレ側の戦闘。一番の鍵は、イタリアの主力戦」
***
イタリアの某所。
広大な森が広がるその場所には、ポッカリとした場所。深い森の中の中央程にある、木々の生えていない場所には、一つの古城が建っていた。
全体的に石畳で作られており、古めかしいが立派な城として建築された建物。中からところどころ黒い煙が立ち上り、どこか攻められたあとのような場所。
立派な古城の突き出るいくつもの塔の上方には、この場を占拠したと主張せんばかりの旗が掲げられていた。
荒ぶる黒い獣をあしらった漆黒の旗が、夜の風に揺れてバタバタとはためく。
そして近くには小さめの白い生地でもって、何か書かれた旗が一緒になびく。
「んまぁ、素敵な旗!レヴィったら、ここまでしてボスのご機嫌とったりして~」
「ししし、いつまでもムッツリしたおやじだぜ」
「ていうかあの旗、手書き感半端ないからもっとうまく作れば」
「むっ!」
古城のバルコニーとなるような場所で、数人の人物がいた。
全員がお揃いの制服に身を包み、一癖も二癖もありそうな人物たち。
男性にしては長い長髪に、左手首に固定された両刃の剣を携え、鋭い眼光を持つ人物。
モヒカンのようなカラフルな髪型と、夜に関わらずかけられたサングラスの人物。
髪を逆立たせ、口と顎に長い髭を持った、背中に8本の剣のようなものを刺した男。
目元を隠すように、少しはねたような髪型と、その頭の上に乗せられた小さめの王
冠が特徴的な男。
カエルのように見える大きめの黒いかぶりものをし、無表情で外を見据える男。
ゴーグルの付けられたツバ付きの帽子をかぶり、大きめの長いバッグを肩に背負った男。
「ゔお゙ぉい!!そろそろおっぱじめるぜぇ!!」
彼らは獰猛な獣。独立暗殺部隊ヴァリアー!!
ついにメローネ基地も終わった!
次回はまたも噂のロン毛さんがやってくる。
次回に向けて一言どうぞ!
「ゔお゙ぉい!!」