例えば未来編もメローネ基地突入編とチョイス編とかに細かく分けようかな。
丸く、白いテーブル。その周りを囲うように置かれた、同じカラーリングの白い椅子が全部で3つ。テーブルの上に乗っているのは、お菓子と紅茶。
3段重ねの皿の乗ったティースタンドには、茶色や白にアクセントの加えられた少しカラフルなクッキーがた並び、机の上に置かれたティーカップの中から立ち上る湯気と、鮮やかな紅い色をした紅茶。食器には細やかな装飾が施されており、Xを描く花のような模様がつけられていた。
そんなカップを取り、一口中の紅茶をすする。
静かに音を鳴らし、皿の上にティーカップを置いた人物、白く柔らかそうな髪を揺らし、楽しげな雰囲気を出しているが、少しため息を吐くようにして、言葉をだした。
「さてと、これからどうしようか」
誰に問うたとういうこともないが、隣に座っている人物、柔らかな黒い髪。若干無表情にも見えるその表情。隣から聞こえるその問に答えた。
「ん?目的は入江正一のところに行くはずじゃないのか?」
「いや、そうなんだけどさ」
苦笑する白髪の人物に対し、反対隣の人物、柔らかな黒髪に、ティースタンドの中のクッキーをつまんでさくさくと食べている人物は答える。
「わかった!どこにいるのかわからないんでしょ。コルもそう思うでしょ」
「ふっ。なんだ、よく分かってるじゃないか、リル」
「光努、そこはあまり威張って言う事じゃないと思うけど」
中々に楽しげに談笑していたのは、光努、リル、コルの三人。
少し広めの一室で、食器棚が多数置かれた倉庫のような部屋。
机にお茶とお菓子を載せ、椅子に座って談笑している三人の足元では、大量のミルフィオーレの兵隊が崩れ落ちていたのだった。
***
ジンジャーとの戦いを終わらせ、一先ず訓練室から出た光努達三人。
一先ずどこかで話でもしようかと入った部屋が倉庫のように食器棚が大量に置かれているが、倉庫らしい割には意外と清潔で広い部屋。
入ると中にいたのが、ミルフィオーレの兵隊十数名程。何やらダンボールを持っていたので入り用な物を取りに来たのだろう。
一先ず光努達三人は入口から覗いて中にいる人物を確認したら、一瞬だけアイコンタクトをして扉からこっそりと侵入し、割と穏便に静かに、後ろから気絶させた。あるときは後ろから強打を与え、あるときは雷の死ぬ気の炎をスタンガンのごとく当てて、叫ぶ暇もなく床の上に沈めたのだった。
しかも倉庫だからなのか、監視カメラがついておらず、隠れるにはなんともってこいなところをピンポイントで見つけた3人であった。
その後、部屋の中にあったテーブルと椅子を用意し、食器棚からティースタンドとティーカップにポット。そして非常用に置かれていた天然水のボトルと小型ガスコンロとガスボンベを使用して紅茶を沸かす。ちなみに紅茶葉も棚に置いてあった。しかも棚の中には何やら高級そうなお菓子もあったのでついでに並べる。
ティーカップやお皿にミルフィオーレのXを描く花の模様が付けられているのは流石だなと思ったのは余談である。
さくさくとティータイムの準備をし終えた光努たちは、敵地とは思えぬ程に寛いでいるのであった。
「しかし、現実的にどうするか。この基地ってもはやマップがデタラメだろ?」
「ミルフィオーレの部下の持ってるマップだって、新しく部屋を動かしたら意味なくなっちゃうしね」
「ていうかここがどこだかもよくわかっていないからな」
まず言っておくが、この三人は別に方向音痴というわけではない。いや、約一名は方向音痴だがそれは今はいい。
にもかかわらずにこの場所で停滞しているのは、やはり入江がメローネ基地の構造を変えているから。
どこがどこに繋がっているのかがわからないのであれば、入江がいるであろう場所につけない。ちなみに、現時点で入江がいるかもしれないと思っているのは専ら白くて丸い装置の置かれている入江の研究室である。
「ま、こんな時の為にうちの作戦参謀(仮)いるんだけどな」
「なんで(仮)なの?」
「なんでって、別にうちに参謀とかいないから」
「・・・・・・」
ゴソゴソとポケットを探り、小さめのノートPCを取り出す光努。
単行本のコミックスサイズという手頃な大きさのPCを開き、カタカタと操作することしばし、画面上に映った人影を見て、リルやコルは喜びの声を上げた。
「「ルイ!」」
『元気そうだな二人共。光努も無事みたいだな』
画面に映ったのは、長めの金髪をし、白衣を羽織った男性、ルイ。イリスファミリーの誇る頭脳であり、光努の持ってきた匣のほとんどを作った張本人である。
PCに備わっているカメラから、こちらの様子もむこうに見えているらしく、リルとコルの姿を見て向こうも笑っていた。
「さっそくだけどルイ。入江正一の研究室の場所がどこか知りたいんだよ」
『ふむ、ボンゴレに送られてきたメローネ基地の図面と、おまえたちの歩いたルート。そしてボンゴレ側からこちらにも流れた戦闘状況などを考察した結果』
「結果?」
『研究室はここから4ブロックくらい先のところにある』
「割と近っ!」
広大なメローネ基地内でなら、4ブロックというのは割と近い。一体どういうルートを通ったらそんなところへ来るのか謎である。
PC画面に3Dのメローネ基地の画面が浮かび上がり、そこに赤く塗りつぶされたブロックと、青く塗りつぶされたブロックが見える。どうやら赤いブロックがターゲットとなる研究室で、青ブロックが現在の光努達の居場所を指しているようだ。
他にもオレンジのブロックや紫のブロックも存在する。
『ボンゴレ側に入った情報だと、雲雀がその紫のブロックで幻騎士と対峙したそうだ』
「幻騎士って、確か6弔花の霧の剣士って言ってたな。二人共知ってるか」
「うん。幻騎士って剣を4本使って戦うんだよ」
「4本って、どうやって持つんだよ」
「手と足で掴んで持つんだって」
「何それ見てみたい」
剣士、という言葉に反応したリルとコルだが、二人共幻騎士を知っているようだ。口ぶりからして直接戦ったことは無いようだが、戦いは見たことある、もしくは聞いた事はあるってところだろうか。
霧のマーレリングで幻覚を操り、四肢を使って剣を振るう。聞いただけで中々に面白そうな敵だなと思い、光努は割と楽しげな表情を浮かべるのだった。
『ちょっと待ってろ。少しボンゴレ側の通信に混ざってくる』
「よろしく。ツナ達どうなったのか聞いといてくれ」
『わかった』
といって一旦切れるルイ。向こうの方でボンゴレと通信すれば、現在のツナ側の状況がつかめるだろう。そうすればいろいろと動きやすい。敵がどれくらい減ってるかも重要なことだしね。
「そういえばここって6弔花がたくさんいるって聞いたけど、幻騎士とグロの他に誰がいるんだ?」
「あれ?光努知らなかったの?目的の入江正一も晴れのマーレリングを持ってる6弔花だよ?」
「あ、そうだったんだ」
6弔花と言っても、全員戦闘ができるわけではないのか。そんなことを考えている光努だった。
言ってしまえば6弔花とは、ボンゴレの守護者と似たような役割の人物。ボンゴレの争奪戦では血で血を争う戦いを行っていたため、マーレリングの守護者もそんな感じのやつらばかりだと思ったら、技術畑出身でおもいきり指揮官タイプの入江のような人物もいるのであった。
「あ、そうだ。マーレリングといえば、コルにこれあげる」
と言ってリルが取り出したのは、グロを倒したら手に入れた雨のマーレリング。
コルにあげようと持っていたものだが、すっかり忘れていて今思い出したのである。
「マーレリングか。雨のDリング持ってるけど、もらっとこ」
もらえるもんは一先ずもらっとけ、と言うように雨のマーレリングを手にとってしげしげと眺める。
よくよくと見ればコルの指にも、指に体を巻きつけるようにして背中に青い石のはめ込まれた、竜を模した蒼いリングがつけられていた。
コルの持っている、雨系統のDリング。特にいくつもリングをける必要性も無い為、そのままポケットにリングをしまおうとしたコルだが、光努が途中でストップをかけた。
「コル、少しそれ見せてくれ」
「?いいよ、はい」
弧を描くように放るリングを、光努は片手でキャッチする。そうそう投げてもいいものでもないのだが、割とその扱いは使っていた本人が本人なだけ結構軽かった。
「ふーん、雨の・・・マーレリングねぇ」
興味深そうに見ていた光努だが、なぜか、その瞳の奥では、どこかつまらなさそうにしている光が見えたが、気のせいだったのか、すぐにそんな気配は霧散してしまった。
ピンと親指ではじくように放るリングを、今度はコルがうまくキャッチして、そのままポケットにしまった。
「それで、ここの6弔花はこの3人か」
「あともう一人いるよ」
「まだいるのか。なんで白蘭は、自分のいない日本なんかにマーレリングの過半数を置こうとするのか、よくわからないな」
「僕も同感」
「最後の一人はγって言って、雷のマーレリングを持ってる人だよ」
その名前を聞いたとき、光努が一瞬ピクリと反応したが、次第に楽しげに笑っていた。
「ふぅん、γねぇ。そういえば、この時代のジッリョネロファミリーってどうなってるんだ?」
「あれ?知らなかったの?ミルフィオーレって元々白蘭がボスだったジェッソファミリーとジッリョネロが合併してできたんだよ?」
「合併?」
「そ。けど結果的には合併というより、ジェッソに吸収されたっていう方が正しいだろうけどね」
コルの言葉に確かに、と納得する光努。
合併となっているらしいが、今の白蘭の独裁政権、マーレリングの所持など考えると、何らかの手段を用いてジッリョネロを手に入れたようにしか見えない。
元々のジッリョネロファミリーを知っている、光努だからこその考えだった。
二つのマフィアが合併したあとは、元々ジェッソの連中はホワイトスペル、ジッリョネロの連中はブラックスペルとしてミルフィオーレで活動をしているのである。
なのでγ、幻騎士、太猿、野猿、他ブラックスペルの人間は、大多数が元々がジッリョネロの人間である。あとから入った者もいるが、合併時何があったのか、この二つのファミリー間のわだかまりは意外と深く、組織内でも定期的に揉め事があるくらいである。
「ジェッソファミリーに白蘭ね。この時代には不思議がたくさんだな」
「私達からしてみれば光努の方が不思議だけどね」
「僕もそう思う」
「はっはっは、お前らは正直だな」
パッと、画面から消えていたルイが戻ってきた。
「おかえりルイ。どうだった?」
『どうやらボンゴレ側でもいろいろとあったみたいだな』
ツナがスパナに匿われていた事と、10年前の雲雀の出現。
そして、10年前の雲雀が開いた、今まで10年後の雲雀が使用していたコピーでなく、オリジナルの
ちなみに、獄寺はγと引き分け、そこをメローネ基地に侵入したクローム達によって救出されたのである。
「ふむ。ということは、ボンゴレ側で無事が確認できてるのはツナだけか」
『でも今は幻騎士と戦ってるみたいだけどな』
「あ、やっぱ無事じゃなかった」
スパナと共に、研究室まで飛んでいくツナの前に立ちふさがったのが、メローネ基地最終防衛ラインの幻騎士である。
ここを突破すれば、研究室まで後一歩のところである。
ちなみに、雲雀の匣兵器が暴走して大量増殖したため、壁を大量の針が貫通して部屋が固定され、研究室が動かせなくなっている為、入江も研究室を動かせず、ツナとの間に幻騎士を配備するしかなかったのである。
『よし、ただいまの戦闘を実況中継してやる。映像は無いがな』
「なんだか楽しそうだねルイ」
『おっと、ツナと戦っている髑髏の騎士は、ツナの
「思いっきりすごい展開になってる!」
『ツナ、その攻撃を白羽取り、しかも炎を吸い取った!』
「ちょ、何重要な場面軽く中継してるの!」
結構な重要な場面。炎を吸い取ったということは、ツナのゼロ地点突破・改。相手の死ぬ気の炎を吸い取り、自分の力を増幅させるツナの編み出したボンゴレの奥義。
剣を持っていることから幻騎士らしいが、髑髏というのが気になる。
『どうやら幻騎士は、
「ヘルリング?」
ヘルリングは、死ぬ気の炎が発見されるよりさらに昔より存在した、6種類の「霧属性」最高ランクの呪いのリング。
リングそれぞれによって違う呪いが施されており、身につけるものにはその呪いがまとわりつくという。さらにはそのリングに自分の精神を食わせるという、地獄との契約を行うことで、絶対的な力を手にい入れることができるという。
しかし精神を食わせるということは、使用者の人格が変わることも、理性を失うこともありえる、極めて危険なリングである。
「だけど、いくらボンゴレ10代目といえまだ中学性。幻騎士がそこまでするほどか?」
『ないな。確かに過剰戦力すぎるなだが』
「?」
『リボーンの話だと、どこか幻騎士は、途中から動きが悪くなってるらしい』
「動きが?」
『どうも、最初の方の幻騎士程の冷静さがなくなってるらしい』
どちらが劣勢か、優勢か。という質問を投げかけても、中々に答えにくい状況が、いまのツナと幻騎士。
普通に叩けば、10年後の雲雀並に強い幻騎士に分があるのだが、どうも幻騎士の様子がおかしいらしい。そうなってくると、戦いの行方がさらにわからなくなってくる。
「よし、じゃあとりあえずみんなで研究室行くか」
と言って立ち上がってカチャカチャとティーセットを片付ける光努に、リルとコルは少し疑問符を浮かべている。
一体どういう話の流れで「じゃあ」になったのだろうか、と。
「いいの?ツナ結構危なくない?」
「平気平気、ツナは強いし大丈夫だろ。それより、そんな状況なら入江正一は多分そっちの戦いに釘付けだし、俺らはこっそり研究室まで行こうぜ」
どこからか取り出したバッグにひょいひょいと食料を詰める光努に対して、二人共若干呆れていたが、その表情は中々に楽しそうに笑っていた。
「やっぱり光努だね」
「じゃ、僕らも行くか」
大胆不敵に、全てを見透かしたように、笑う光努と共に、リルとコルも立ち上がる。無責任に見えるが、無責任じゃない。大丈夫だと思っているからこそ、自分は自由に動ける。
「さてと、先に研究室でツナを待つか」
そう言って光努達は、部屋を出るのだった。
割とさくさくと進んでいるツナサイド。