特異点の白夜   作:DOS

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光努の現在の所持武器。

フィオーレリング〔A級以上〕
晴れ系リング(イリスのアジトにあった)〔B-級〕
雲系リング(元々ニゲラのリング)〔B級〕
イリス製匣 ×5




『10年間の空白』

 

 

 

 

 

「ん~」

 

細い指でつままれたのは、楕円形の石がはめ込まれ、たたまれた羽の意匠が施されたリング。つまり、マーレリング。

 

自分の瞳に近づけて、天井の照明に透かして見ているように、つまんだリングを掲げていた。

 

「雨のリングだし、コルにあげよっと」

 

ポケットに雨のマーレリングを入れたリルは、後ろを振り向いてとことこと歩いた。

 

歩いた先にいたのは、グロ。いや、いたというには訂正がある。床に投げ出されて大の字で倒れていた。メガネが割れて、そばには大破した匣が転がっていた。

グロの顔のそばまできてしゃがみこみ、グロの顔を覗き込んだ。

 

ペシペシペシ。ツンツン。のびぃ~。

 

「(意外と伸びる・・・)うーん、(ロウ)のかけた暗幻(アンゲン)はまだ解けてなかったみたい。」

 

よいしょと立ち上がり、剣のしまわれた4つの匣をしまう。

 

西洋剣を出す匣が二つと、『4本のグラジオラス(グラディーオロ・クァットロ)』の匣が二つ。この時代になると、コンパクトな匣からいろいろな物が出せるだけ、携帯にとても便利なのである。

 

最も、匣に入ることのできない武器も、この世界に存在するのだが。

 

「えっと、みんなの居場所はっと」

 

ポケットから取り出したのは・・・・・・ただの木の枝。

 

そのまま床の上に立てて置き、そっと木の枝から指を話した。

独りでに倒れる木の枝は、まっすぐと扉の方へと倒れた。

 

「よし、あっちだ!」

 

そのまま駆けていき、訓練室の扉から廊下へと出て行ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・はあぁ~」

 

入江正一は、そろそろ頭の容量がガタガタになりかけてきた。

 

ボンゴレの突然の襲撃にも、いきなりのことにかなり驚き焦った。

 

ミルフィオーレの人間もだんだんとやられ、自分の最重要な研究室へと真っ直ぐに向かってきているのにもとても焦った。

 

だが、メローネ基地を起動させ、部屋を移動させることで研究室から遠ざけるだけでなく、信頼できる戦闘能力を持つ兵隊をぶつけることにも成功した。その焦りも抑えられ、冷静になってきた入江。

 

 

だが、次に来たのが光努達イリス勢。

 

光努と獄燈籠の二人にも焦った。

光努の情報はほとんどなく、過去の戦闘記録もデータとして残っていない。最も、光努がわかりやすい所で戦うということ自体少ないということもあるのだが。

 

その点、イリスの戦闘部隊と名が高い『アヤメ』に所属している獄燈籠は、ある程度にデータもあり、その実力が伺える。だからこそ、誰を当てるかにも考え、どうにも攻めあぐねていた。

 

幸い、二人は分かれて行動したため、光努の方には近場にいたニゲラ・ベアバングルを送り込むことでとりあえずの対処とた。

 

獄燈籠の方も、ちょうどやってきた界羅に相手を任せることで、一先ず全ての襲撃者に対して入江は安心する。

 

 

が、ここでまたもやってきた襲撃者。

 

鉄の甲冑を付けた騎士と、和風の鎧を備え付けた武者。

その正体は、イリスファミリー第二戦闘部隊『シャガ』のリーダーであるリルと、その双子の弟であるコルの二人。できてまだ5年と立たない戦闘部隊だが、その実力は、ミルフィオーレでも知るところとなる。

 

襲撃者、襲撃者、襲撃者と三回も続くと、入江もさすがにまいってくる。

 

実はこのあとにまたボンゴレ側のクローム、草壁、ランボ、イーピンの4人が侵入するということもあったが、それも入江の悩みの種の一つ。

 

しかし、『シャガ』の内一人は来ていないようだが、残りの二人がいるのに、入江は再び焦る結果となる。A級のグロ、C++級の太猿と他野猿に部下10名程を二人に差し向けたが、結果は無残としてやられてしまった。

 

(あの剣は見たことのない匣兵器だ。多分イリスのオリジナルだろう。だが、問題はそこではない。彼女達は、剣技をほとんど使っていなかった)

 

リルとコルの真骨頂は、父親より習いし剣刀術。山本の時雨蒼燕流のように、彼女達も自分たちの剣術がある。匣だけを使ううちは、まだまだ本気でないということ。

 

(幻騎士を向かわせるか?いや、それでは研究所の警備がいなくなる・・・・)

 

光努と戦っているジンジャーを除けば、今現時点で無傷で残っている者たちは、わ

ずか二人。

 

幻騎士と〝妖花〟アイリスの二名。

 

だが、幻騎士は現在研究所の警備態勢に入り始め、アイリスは入江の命によりスパナと共にいるツナを発見し、交戦を始めていた。

 

実を言うと幻騎士が山本を倒したあと、研究所の警備に入るまでにいろいろとあったのだが、ここではあえて割愛。後に語る時が来るだろう。

 

 

アイリスには、死茎隊と呼ばれる直属の部下がいる。いや、部下というより、ただ相手を殺そうとするだけの兵隊人形と成り果てた、元人間。

 

元々ミルフィオーレの人体覚醒部にいた研究者たちであったが、助手であったアイリスをみんなで喜ばせようと、自ら進んで人体実験の被検体になり、最終的にはもはや言語すら忘れ、攻撃能力の覚醒した兵隊と化した。

 

改造された肉体が、全身を覆う特殊なスーツと、アイリスの持つ鞭から発せられる雲の炎によって異常な体質変化を起こし、雲の肉体増殖を起こす。

 

自らの筋繊維、骨格、全てを増殖させることで、スピード、パワーを増殖させ、人体を超越する力を発揮する。

 

「一先ず沢田綱吉はアイリスに任せて、今はジンジャーの方か」

 

そうつぶやき、画面に映るジンジャーを見る。

ふよふよと浮きながら、前に置かれた糸でもってぐるぐると巻き付かれた中身が光努の繭が見えた。

 

「ジンジャー!フィオーレリングの回収だ!」

『了解入江隊長☆』

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

入江からの指示を受け取り、早速ジンジャーも命令実行に移る。

手に持つ箒を構え、ぐるぐる巻きとなった繭に目を向ける。

 

そしてそこにあったのは、破れて空っぽの中身がよく見える状態の繭だった。

 

・・・・・・空っぽ?

 

「・・・・・あれ?」

 

その瞬間、自分の後ろに気配を感じた。

咄嗟に振り向いたときにはすでに遅く、目の前に叩き込まれたのは、足。

 

ドゴオォ!!

 

「所詮は糸の塊。簡単に破ることなど造作もないな」

 

軽く地面に着地し、楽しげに笑うのは、光努。

いつの間にか繭の中から抜け出して背後からジンジャーに奇襲したのであった。

 

「おかしいな・・・晴クモ(ラーノ・チエル・セノーニョ)の卵をくらって無傷とか。ていうか

傷がないから体内まで届かなかったの?・・・・・馬鹿な!」

「そういうお前も意外と頑丈だな」

 

頑丈は当然も当然。元々が人形を操るジンジャー故に、人形そのものが頑丈に作ることも可能なのである。最も、それでも見た目はまるで普通の人間のよう(格好は普通ではない)なのではあるが。

 

「次は叩き潰す、人形くん」

 

既に光努は、ジンジャーが偽物だと見破っている。

対した眼力、洞察力。どこをどう見たのか知らないが、もはや光努には手加減するつもりなど毛頭なかった。問答無用で破壊しそう。

 

「ふ、白神光努。なぜ君はここにきた?」

 

だが、対するジンジャーはにやりと笑い、質問をしてきた。

 

「なぜ?お前らのボスの仕業だろ?」

「その通り、つまり、君はこの場所に呼び寄せられたということ」

「その心は?」

「この部屋は、君を撃退するように改造されているってことさ!」

 

箒を横凪に振るうと、箒の中から黄色く輝く晴れの炎の塊が飛び出した。そして壁にぶつかると同時に、壁の一部が開いて、黒光りする、少し細めの砲台が突き出てきた。

 

中が黒く染まる放題の中が、だんだんと黄色い光が貯められていき、レーザーのごとく晴れの炎が放射された。

 

「レーザー?しかも、追尾式か」

 

少し避ける素振りを見せただけで、レーザーの角度が光努の方へと変更した様子を見て、自分方へと向かってくる追尾式(ホーミング)タイプだと判断した光努は、後ろの壁際の方まで退避した。その際、地雷式に設置されていた罠が発動し、炎爆発が起こったが、なんでもないようにほぼ無傷だったことにジンジャーも呆れていた。

 

壁に当たる前に一度止まり、レーザーが飛んできて、タイミングを見計らって飛び上がることで、レーザが移動する前に壁にぶつかって攻撃を止めることに成功した。

 

「ま、それくらいはできるよね。でも、空中に飛べば避けることは、」

 

ダン!

そのまま光努は壁を蹴り、水平に壁を走った。

重力を無視するようにした動きをしてのける光努だが、その光景にジンジャーは、なんら焦ることがなかった。

 

「それも、予想通り☆」

 

パチン!と指を鳴らすと、光努の速度ががくんと落ちた。

 

(!?これは、糸?)

 

壁の隙間を見てみれば、晴れの炎を帯びた小さなクモ。たくさんある壁の隙間にクモが糸を吐きながら、確かにそこにいた。

 

最初から光努の動きを阻害しようとする糸ではない。小さく長い糸が何重にも重なり、光努の動きを鈍らせるほどに頑強な糸へとなっている。

 

ちりも積もればなんとやらというが、まさにその通りに、光努の動きは確かに阻害されていた。ただの糸でなく、晴れの炎を帯びて活性能力も高く、多少のちぎれはすぐに修復されるというおまけ機能付きなので余計面倒である。

 

(ここら辺全部一掃する必要があるけど、少し面倒だな。どっかにリング落ちてないかな)

 

少し動きが止まった光努に、好機と判断したジンジャーは、再び指を鳴らすと、壁がさらに開いてレーザー用の砲台がいくつも突き出てきた。

 

レーザーなんて物がこの時代でもよく使っているというわけでないが、入江による基地全体に張り巡らせた晴れの炎と、ジンジャーの晴れの炎と匣兵器がかけあわせてレーザーらしきものが完成したという。実際には実験段階の武器だが、今のところ有用に使えているため、ジンジャーも入江もラッキーだと思っていた。

 

 

キィン!キィン!

 

「!」

 

笑っていたジンジャーの耳に、何か甲高い金属音が響いた。

 

音のした方向、光努を閉じ込めるように固く閉じてロックをかけられ、なおかつ表面には、床や壁と同じように晴れの炎の纏われたクモの糸も這わせている入口の扉。扉へと目を向けた瞬間、何かが扉の向こうから飛び出してきた。

 

ザシュ!

 

「な!剣先!?」

 

扉の向こう側から両刃の剣と思わしき先が突き刺され、そのまま横に移動して扉を切り裂き、抜いてまた刺して縦に切り裂きを繰り返していく。

 

そしてあらかた向こうまで貫通した切り傷が出来た時、派手な爆音と共に扉が吹き飛ばされた。

 

そのまま扉の向こうから現れた人物を見て、ジンジャーは驚いていた。

 

「すっごい晴れの炎だらけ。扉開かなかったし、誰か戦ってるのかな」

 

ジジジ、という細かい音を鳴らす、緑色の雷を纏った両刃の剣を片手に持つ人物。

 

柔らかな黒髪を、リボンで少し短めのポニーテールにしていて、その表情は楽しそうに、入った部屋を観察していた。

 

「『シャガ』のリル!?なんでこんなところに!ていうかさっきまでうちの隊長と戦ってなかった!?」

 

もちろん知っていると思うが一応言っておくと、ジンジャーが副隊長を努める第8グ

リチネ隊の隊長はグロ・キシニアである。

 

そして、その隊長のグロを倒して今部屋に入ってきたのが、リルであった。

キョロキョロと部屋を見て、ジンジャーと光努に目を向けたリルは、嬉しそうな笑顔になった。

 

「おーい光努ー!やっほぉー!」

 

剣を持ってない方の手をぶんぶん振りながら、普通に光努の元へと歩み寄ってきた。

 

「――て、そんなことさせるか!」

 

パチン!

 

驚いたがすぐになんとか持ち直し、ジンジャーが指を鳴らすと、壁の砲台から晴れのレーザーが飛びだし、リルの下へと一直線へと向かった。

 

対するリルは、雷の死ぬ気の炎を剣の表面から先端に這わせ、一直線に飛んで来たレーザーを、正面から突き破った。

 

一点に集中された雷の炎による強力な硬化力と、リル自身による剣さばき。その二つが重なったとき、飛んでくるレーザーすらも容易に突き崩した。

 

そのままリルは懐から少し太めの針を取り出して指のあいだに挟み、そのまま周りに手を振るようにして投げつけた。

 

(あれは、雷の炎・・・まずい!砲台が!)

 

ジンジャーの雷の炎の纏われた針が砲台の中に寸分違わず入り込むと、内側から爆発し、砲台は使い物にならなくなった。

 

唖然とするジンジャーをよそに、リルは駆けていき、光努の元までやってきて、勢いよくその首筋に腕を巻きつけるようにして抱きついた。

 

「光努!」

「リル、でかくなったな!」

 

光努からしてみればリルと会うのは数日ぶりだが、リルから見れば、10年前にいきなり行方不明となり、それ以降10年間会うことはなかった。

 

10年ぶりの再会を果たしたリルは、花のような笑顔で嬉しそうに笑っていた。

 

 

 

 

 

 


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