雨属性の匣兵器である、
およそ20匹程の小型ヒトデ郡が匣から飛び出し、雨の炎を纏って回転しながら相手に向かっていく攻撃兵器。一発一発の威力も高いが、ヒトデ達はそれぞれ合体することもでき、巨大ヒトデになって破壊力を増して突撃することも可能である。
まあそれも、匣を使う物の使い方次第なのだが。
「さあて、その仮面はがしてやろう」
いたぶれる標的を見つけたことに、グロのテンションは微妙に上がっていが。すごく上がっていないのは相手が相手、無骨な甲冑だからであろう。これがクロームのような少女ならテンションは最高潮だったろう。
上空に滞空している雨ヒトデを、回転させながら甲冑姿の騎士に突っ込ませる。
対して騎士は、その手に持つ大きめの盾を巧みに操り、飛んでくるヒトデを防ぐ。
ただ正面から受けるのではなく、角度を付けて受けることで、ヒトデの攻撃を受け流している。
その為多数のヒトデの攻撃を受け流すことに成功している。
(ほほぅ、なかなかの手練。だけど、甘い!甘い!甘いぞ!)
グロが思う通り、受け流すことはしたが、ヒトデは匣兵器であり生命体。受け流したそばから再び回転して攻撃を仕掛けてくるため、受け流すだけはきりがなかった。
その為、騎士は腰に指した剣を抜いた。
柄頭に紅い石がはめ込まれて少しアクセントのある点以外、シンプルな両刃の西洋剣。
(!こいつ・・・・)
歴戦の猛者ともなれば、相手の力量を図る眼力が備わってくる。そうでなくとも、一定の相手となれば、その力がわずかな所作からこぼれ落ちる。
腰に刺さった剣を抜いた騎士を見たとき、グロの認識が少し変わった。
「いいだろう、やってやろうではないか。
マーレリングから放出する雨の炎でもってヒトデを操り、滞空するヒトデに指示を出す。
20匹あまりの雨ヒトデが騎士をぐるりと囲うようにして上空を漂い、グロの合図と共に、一斉に騎士に向かって弾丸のごとく雨ヒトデが飛び出した。
ドドドドド!
「これで終わりか・・・ん?」
床を破壊して土煙を出しながら、中から飛び出して来たのは甲冑を付けた騎士そのまま。盾を持っていないことから、盾を犠牲に雨ヒトデを全て避けたと見える。
甲冑と剣には特に傷らしい傷が見えないから、実質は無傷で避けた。
「だが、まだ終わらないぞ」
額の血管、右目の周りをピクリとさせながら、グロは自分に向かってくる鉄の塊を見ながら、再びリングの炎でもって雨ヒトデに指示を与える。
土煙がまだ立ち上る中、20匹の雨ヒトデが飛び出し、背後から騎士を襲う。
再び強力な炎を纏った雨ヒトデが、騎士に向かって飛んできたが、剣を持った騎士はその重そうな体をひねり、後ろから迫る雨ヒトデが当たる瞬間、剣の先でもって雨ヒトデの中央を貫いた。
さすがのグロも驚愕したが、それだけに収まらず、さらに飛んで来た雨ヒトデを回転しながら、剣の先で刺したそばから新たに突き刺す。
途中からグロに向かわず、床や壁からところどころ生える鉄柱を蹴り、三次元的な動きをしながら雨ヒトデを避け、避けたそばから雨ヒトデを突き刺し、剣がもはや団子の串状態になっていた。
(雨ヒトデがこうもたやすく、しかし解せんな・・・)
雨ヒトデには、雨の死ぬ気の炎が纏われている。
強度という点においては雷の死ぬ気の炎に比べて劣るが、それでも死ぬ気の炎を纏ってなおかつ回転している生物。ただの剣でもってそう簡単に貫けるとは思えないにもかかわらず、簡単に突き刺して動きを止める。
(・・・・・・試してみるか)
剣に突き刺さっていた雨ヒトデと、残り半数となっていた雨ヒトデが全てバラバラと崩れるように落ち、一箇所に集まり固まると、1匹の巨大な雨ヒトデとなった。
全ての雨ヒトデが一匹に集約された分、その纏う雨の炎も強大となった。
ギュルギュルと回転をし、青い筋を描きながら騎士へと飛んで来た。
騎士は相対するように、剣を振り、巨大雨ヒトデに向かって振り下ろした。
パキィン!
「!」
振り下ろして巨大雨ヒトデとぶつかった剣が、
無骨な甲冑姿の人物が、わずかに反応を見せた。
折れた剣を持ったまま、ヒトデを回避する。だがそんな回避も長く続かない。
剣も盾もなくなった為、残るは全身に纏う甲冑のみ。
「さてその鉄くず、はがしてやろう」
にやりと笑い、馬上鞭を振い、巨大雨ヒトデは高速で回転していき、甲冑のみとなって手ぶらの騎士へと突っ込んだ。
ドゴオォン!!
避けることもできず、鉄の甲冑に突っ込んで、騎士を共に壁を砕いていった。
土埃の中から転がるように、銀色のガントレットが転がり、鉄柱にあたってその動きを止めたのだった。
***
「よし!よくやったぞジンジャー」
眼前のモニターに映る、繭のごとく糸でぐるぐる巻きにされ、中身が全く見ないほどにくるまった光努と、そのそばにふわふわとたたずむジンジャーの姿が映し出されていた。
入江の目的はフィオーレリング。これであとは光努からリングを奪えば、ジンジャーの任務は完了となる。
正直ジンジャーで勝てるか微妙だと思っていた入江だが、予想に反して簡単にジンジャーが捕まえてくれた。だが、簡単に捕まえたという点に入江は、違和感を覚えていたが、一先ずよしとした。
他のモニターに映る人物たちを見て、入江は再度思考の渦に身を寄せる。
ここからが正念場。一つを制しても他が壊滅させられたらどうしようもない。
獄寺、γの二人は激闘を繰り広げ、どちらも互角の戦いをしている。
二人共中距離攻撃が可能な人物であるため、死ぬ気の炎と匣兵器が派手に飛び交っている様がモニターによく写っている。
山本、幻騎士の二人の戦いは、幻術と剣術の戦いだったのだが、すでに終了した。
山本の時雨蒼燕流を駆使し、幻騎士に剣を抜かせ、幻術を破ることにも成功した。だが、山本の見破った幻術は、幻騎士の使う幻術の本の一部。最初から幻騎士は、鋼鉄製の障害物が多大にある匣兵器用実験室を、広々とした空間へと霧の匣によって幻覚を重ねて作り替えていた。
山本は幻騎士に対して、スクアーロの剣技の一つである、
その大きな隙を逃さず、山本の編み出した大技、特式十一の型である
予期してない障害物の出現に、自分の技の特攻力も相まって、自らの技にやられた山本は、そのまま崩れ落ちてしまった。
これで戦いの行方がわからないのは、獄燈籠と界羅。
太猿率いるブラックスペルと鎧武者。
そして・・・・・・・、
「グロと騎士。だがこの戦いもそろそろ終わるかもしれないな」
グロの匣兵器の集合体である、
強度があった訓練室の壁を、甲冑ごとえぐった為、さすがにただでは済まないはず。
意識が回復したばかりのグロを前線に出したが、今見た限りだと油断のようなものは見えず、冷静に相手を潰そうという意思も見られた。実力は高いのだが、性格に難ありなのと、相手によって油断するのがグロの悪い癖でもあるのだが、この調子なら大丈夫そう。さすが6弔花と言える。
だが、入江はこのあとすぐに、驚愕することになるのだった。
***
「~♪~♪」
グロは鼻歌を歌いながら気分よく、ヒトデがバラバラになって集合体となった巨大雨ヒトデが突撃した様を見ていた。
グロが、骸に盗られた(?)
だがその分、巨大となって頑丈になり、雨の炎も強大に纏い、相手を回転しながら突っ込んで粉砕する。
所詮鉄の塊の甲冑では分が悪かったのだろう。
今マフィア間で死ぬ気の炎が乱発する時代では、鉄の武器や防具はそこまで驚異的ではない。過去死ぬ気の炎を纏い、その炎熱によって骸の三叉槍を容易に捻じ曲げたツナだが、それほど死ぬ気の炎単体でのエネルギーは強い。
直に熱を持ち、様々な特性のある炎。
その炎を動力源とした匣兵器は、まさにこの時代における最先端の兵器。
「さて、入江殿に報告する前に、朽ちた鉄くずの中身でも拝もうか」
雨の炎を纏った馬上鞭を振いながら、コツリと靴音を鳴らしながら鉄柱の間を移動しながら壁際まで歩く。
砕けた壁の欠片がコロコロと転がり足に当たるが、そんなことはお構いなしに歩く。
土埃の立ち上る壁際によると、カランと何か蹴ったと思ったが、よくとくと見れば銀色の鉄の塊。ヒビの入ったガントレットが転がっていたが、それを見たグロの口角は釣り上がり、一層楽しくなってきた。
「ど~れどれどれ」
馬上鞭を振い、ぶわりと土埃をはらう。
中から飛び出してきた巨大雨ヒトデは、雨の炎を纏ったままくるくると周りつつ、グロの頭上で滞空した。そしてグロは、巨大雨ヒトデが出てきたところに目を向けた。
横たわる鉄の甲冑。甲冑の足は床の上に投げ出されるように置かれており、そこにつながる体はえぐれた壁の中にもたれ掛かり、肩腕のみ肩から伸びており、反対のうでは肘から先が外れている。
ヘルムや全体はひしゃげ、もはや哀れな程その姿を変えた甲冑が横たわっていた。だが、そんなことよりも、グロはある一点にのみ、視線を向けていた。
「何!?」
確かに騎士は横たわっていた。ところどころひしゃげ、破損し、えぐれている。
だが、首下から胴体にかけて甲冑の正面が破壊され中が見えたが、
横たわっていたのは、完全に中身が空洞となっていた甲冑だった。
「中身がないだと!?どういうことだ!」
トン。
(!・・・後ろ!)
軽い音がしたと思ったグロは後ろを振り向いた。
音のした音源を探り、後ろにそびえる多数の鉄柱の一つに目を向けた。そしてそこいたものを見たとき、グロの目が驚愕に見開いた。
軽い靴音を鳴らして鉄柱の上にたったのは、一人の人物だった。
ふわりと、広がるように袖のない膝下まである薄紫に近い真っ白な上着の裾が広がり、ブーツのつま先が鉄柱の上をつき、その場に降り立つ。
柔らかな黒髪に、リボンで結んだ少し短めのポニーテールの髪型。
手の甲から二の腕まであるアームガードに備え付けられた甲と腕についた銀色のプレートアーマーが部屋の光を反射させる。
その指には、背中に宝石を付けたディフォルメされたドラゴンが、自らの羽を下に向けて円を描いたような、独特でありながら可愛らしいデザインの、色違いのリングが二つはめられていた。
まだ10代後半ほどの年齢に見えるその顔は、幼さの残る女性的な顔立ち。
その表情は、鉄柱の上からグロを見て、楽しげに笑っていた。
「貴様・・・『シャガ』のリル!」
イリスファミリー第
「よし!反撃開始だね♪」