「うわぁあ!」
「怯むな!撃てぇ!!」
ミルフィオーレホワイトスペルの下級兵が、その手持った黒く塗りつぶされたような配色のされたマシンガンの銃口を、眼前の相手に向かって撃ち鳴らす。
下級兵は匣やリングを持たないが、通常の相手では銃があれば十分に制圧できる。
今となっては時代遅れと言ってしまっても差し支えないが、かと言って匣を支給すれば誰もが自在に使いこなせるのかといえばな、そう簡単にはいかない。
その為、相手に向けて撃つという、比較的に誰で扱える銃や刃物類が下級兵には支給される。実際は銃を扱うにあたり、様々な手順や使い方があるのだが、そこのはミルフィオーレの科学力。使いやすい銃を開発したりする事などは朝飯前である。
が、その銃の高性能さも、相手が相手では豆鉄砲のごとく、防がれてしまうのである。
ガガガガガガ!
眼前の敵は、弾丸を物ともしないで正面から突っ込んでくる。
鮮やかなシルバーの色に、赤い十字架の意匠が施された鉄製の盾を、自分の体を隠すようにして構え、銃弾を全て受け止めるという荒業をしながら、ミルフィオーレの兵隊を一撃で地面に伏していた。腰の刺さっている、洋風の剣を抜かずとも、その手を覆うガントレットの一撃により、なすすべなく相手を伏せる。
「これでもくらえ!」
ガシャリという機械音を鳴らしながら、担ぐようにして兵が持ってきたのはバズーカ。
狙いを迫り来る眼前の騎士に定め、トリガーを一気に引き抜く。くぐもった爆発音を出しながら、銃口から飛び出した小型ミサイルが火と煙を出しながら、騎士に向かって飛んでいった。
甲冑自体が割と体積があるのと、この場の通路には床や壁に配線やパイプが通り、通常よりも狭い通路の為、多少の隙間があったとしてもこの場でミサイルを避けるのは不可能。兵の誰もがそう思っていたが、結果は驚愕だった。
腰から抜いた剣を、目にも止まらぬ速さで振い、小型ミサイルを
後ろでミサイルが爆発する音を最後に、詰め寄った騎士にやられたミルフィオーレの兵隊は、全て地面に倒されてしまった。
佇む盾と剣を備えた騎士は、静かに倒れた兵を一瞥すると、そのまま先へと進んでいった。
***
「ボンゴレとイリスに騎士と武者か。今日は千客万来だな。はっはっは」
明るい不敵そうに聞こえる言葉と裏腹にその表情はかなり引きつっている入江正一。
後ろに板2人の部下も「ああ、入江様がご乱心だわ」という感じにあわあわしているが、そんなことも目に入らないくらいに入江の目の焦点は結構ボケていた。別に目が悪いからボケているわけではない。
「まずは、この近くにいる奴らをピックアップして、送り込む」
少しボロボロだったが、伏せた目を上げた入江は、再び冷静に思考を開始した。
この辺の状況の切り替えはさすが、伊達に晴れのマーレリングを持つ6弔花であり、メローネ基地の指揮官という立場をやっていない。
基地のカメラ情報を探り、現在近くにいる兵を見てみると、いい具合に分かれていた。
光努のいる区画から3ブロック程離れたところにいるのはジンジャー。人形とはいえ、結果的にはラルを戦闘不能状態まで追い込むほどに実力の高い。光努の足止め、もしくは撃破するにもなんとかなるかもしれないという期待も一応はある。だがニゲラがやられた手前、どう転ぶかも今だわからないというのも現状である。
一先ず光努のところに向かわせて、フィオーレリング回収させるのはジンジャーに決定。すぐに指示を出す入江に、他の二体を考える。
今見た限りの映像だと、下級兵をいくらつぎ込んでも倒すのは不可能そう。かと言って、このままにしておくのもまずい。
今、あの二体の元に行ける人物で、近くにいる人物は・・・・・。
「あの二体の元へは・・・・・・奴らを行かせるか」
***
その頃光努は、通路を突き進み、またもや新たに発見された部屋へと入っていた。
「さっきから地震があるし、何か配置が変わってるっぽいな」
それもそのはず。全てのブロックが立方体に作られ、パズルのごとく移動が可能なメローネ基地だが、何分全ての部屋が同じ構造、通路に至るまで同じ見た目をしているわけでない。
どこかしら移動を繰り返すと、見た目でマッチしない微妙な部分が出てくるはず。途中まで網目の床が、ある一点から白い床に変わっている、なんてことも多少はある。そのことから光努は、先程から頻繁に起きている地震と結びつけ、基地自体が移動しているのでは?と考えているがまさにそうである。
「これほど基地を頻繁に動かせるとなると、一度に全部見る必要があるからな。多分監視カメラとかは復活してるかもな」
少々嘆息しているが、その表情は逆に楽しそうに笑っている。この状況下においても、光努は光努であった。
目の前にあるノブをひねり、鉄製の扉を空けて中に入る。特に躊躇もせずに入っていくさまは、無謀とも見て取れるが、光努の場合にはその際に判断力、対応力、適応力がずば抜けているため、たいていの状況下での攻撃の回避などが可能となっている。
なので、
ドドドドドドド!!
「おっと」
上方よりも飛んで来た攻撃を、横に飛ぶようにして回避した。その際に被弾した扉はひしゃげてしまい、もはや開けられそうになくなっていた。
室内を見てみると、天井付近にいた人物を誰かと答えるのなら、魔法使い。
シルバーの髪色に、真っ白いトンガリ帽子とマントを羽織り、その手に持っているのは、箒。
見た目だけは、童話の中に出てくるような魔法使いのような風貌の少年がそこにいた。だが、いきなり攻撃する分、童話よりも現実の方がずっと厳しいのではあるのだが。
彼の名、ジンジャー・ブレッドは、第8グリチネ隊、つまりグロ・キシニアが隊長として率いる部隊の副隊長である。その魔法使いのような見た目と、自分の分身の人形を自分の代わり操り戦わせる為、
襲撃したボンゴレチームのラルに撃破されたが、その撃破されたジンジャーは人形であったため、こうしてまた新たなジンジャーが出現したのである。
「やあ、君が白神光努くんだね」
「そういうお前は一体誰?飛ぶのに箒は使わないのか?」
どういう原理で浮いているのか、魔法使いのような風貌のジンジャーは箒を手には持っているが、そんなもの関係なしに天井付近をふわふわと滞空している。
まあ、今の時代死ぬ気の炎を動力に使えば、いろいろな方法で空を飛べるし、そこまで深く考えていない光努だった。
「あはは、何を言ってるのか。箒っていうのは掃除に使うものだよ。こうやって、君を掃除するのにね」
箒を光努に向けるように構えると、中から飛び出して来たのは先ほどと同じもの、鋲のようなものがいくつも飛び出し、光努の方へと向かっていった。
「なんか変な感じがするな、おまえ」
床を蹴って鋲を避ける光努。そのまま壁に足を付けて、態勢を変えずに壁を駆け上がっていった。床と天井、距離が離れていたにもかかわらず、壁を駆け上がって蹴った光努は、あっという間にジンジャーの前まで到達していた。
「しまった!」
光努がジンジャーの元まで行くのに、わずか数秒。
その間にも攻撃していたにもかかわらず、全て避け、縫うように移動した光努は、一旦打ち終えたのか、一度空中で停止したままのジンジャーの元へと跳んだ。
そのまま光努は拳を振り抜き、ジンジャーへと振り下ろした。
「・・・・・・な~んちゃって☆」
「!」
バサリ!
マントを両手で広げると、マントの奥の方から何かきらりと輝くような複数の光が見えた。
その瞬間、光努に向かって大量の弾丸のようなものがマントの中から飛び出した。
さしもの光努といえど、空中では身を翻し、多少は避けることもできるが、いかんせん、なぜこんなにあるのか?と思うほどに大量に放たれた物は、光努を包むようにして打ち込まれた。しかもそれだけでなく、周りの壁の一部も開き、そこから白い、蜘蛛の糸のようなものが光努に向かって飛び出していった。
そのまま左右からぐるぐると巻かれた光努は、全身糸でぐるぐる巻きになり、繭のような姿へとなってしまった。
「いっちょあがり♪そういえば自己紹介がまだだったね。僕はジンジャー・ブレッド・・・・・って言っても、聞こえないか☆」
***
ゴゴゴゴゴ!
「うおっ!また地震だぜ兄貴」
「ああ。入江のやつ、面倒な仕掛けしやがって」
入江の動かすメローネ基地に対して悪態をつく二人の人物。
片方はまだ若い、紫色の長髪をした少年。もう片方は、金髪の顎鬚に褐色の肌をした体格の良い男性。
二人共、ミルフィオーレブラックスペルの証である黒い服に身を包んでおり、胸に付けた階級章から、第3アフェランドラ隊の隊員であることが伺える。
第3アフェランドラ隊は、γが隊長を努める隊でもあり、基本的にミルフィオーレのブラックスペルの人物たちは、若干気性が荒いのが特徴であり、この二人も例外ではなかった。
いちいち配置が変わり、自分達の持つマップが使いものにならなくなったため、普段から不満げに思っていた入江に対するいらだちが如実に態度に現れていた。
ウィーン。
二人のいる、頑丈に作られたコンテナの並ぶ訓練室にある、二箇所ある入口の一つが開き、二人がそちらに視線を向けると、そこからは同じ黒い服に身を包んだ人物が、およそ10人程歩いてきた。
「あ、太猿さんに野猿さん!」
「なんだ、てめーらか」
よくよくと見れば、同じ第3アフェランドラ隊の部下である男たち。
驚いたような表情をしていることから、太猿は大体の経緯がわかった。多方、メローネ基地の構造が変わった為、いつもどおりに入ろうとしたら別の場所にでて、なおかつ上司もいたから驚いた、といったところだろうか。
「俺ら部屋に戻ろうと思ったんすけど、ここって訓練室ですよね」
「ああ、入江の野郎がごちゃごちゃ配置変えやがったみたいだからな」
一先ず中央ほどに固まる全員だが、基地の配置が変わっているので無闇に動くかここでしばらくじっとしているか、どうしたものかと相談する。
が、その思考は部下の入ってきた反対の扉が開くことで一度中断させた。
ガギャリという音を鳴らして入ってきたのは、彼らにとって異常な物。
兜、面具で顔を全て隠し、腕、胴、足、全てにおいて和風の鎧によって隠され、その腰には日本刀が刺さっているスタイルに、彼らは一体何事だという驚きの表情だが、約一名反応が違っていた。
「兄貴!見てみろよ!あれって確かジャッポーネのSAMURAIってやつだぜ!かっけぇ!」
野猿だけが瞳をキラキラさせて現れた鎧武者を指差してはしゃいでいた。
まだまだ成人もしていない少年であり、出身地は国外なため、日本的な文化や、少年の心を掴みそうな先頭装束にはとても楽しそうに反応しているのであった。
となりに立つ太猿も、野猿のような理由でというわけでないが、その口角をにやりと上げていた。
「なるほど。入江の野郎はこいつをどうにかしろってことか」
基地の構造が入江の自由自在になっているのなら、この出会いも偶然ではない。おそらく偶然いた自分たちと鎧武者を戦わせて、不安要素を排除しようとしてのことだろう。部屋と部屋を繋げばそれも造作もないことである。
入江の思い通りになるのは気に食わないが、太猿もそろそろ戦わずに謹慎しているのにも飽き飽きしていた。この瞬間だけは、入江にも少しは感謝していた。
「さて、覚悟してもらおうか。侍さんよぅ」
太猿、野猿、以下10名の隊員。
ブラックスペルを前に、鎧武者は静かに佇んでいたが、その腰の刀の柄頭に手をかけ、わずかに戦闘の意思を見せるのだった。
***
メローネ基地の構成人図は多く、その為いくつも訓練室が存在する。
他にも匣兵器用の実験場や、機械系統をいじることのできる整備室なども、複数存在する。
そんな訓練室の一つ、壁や天井、床などから白い鉄柱がいくつも生えているような構造をした広々とした部屋。
自動扉が開き、廊下側から出てきたのは、銀色の塊。
全身に甲冑を纏い、大きめの盾と洋剣を携えた、こ場所に異彩を放つ存在。あたりを見渡しながら訓練室の中央ほどに入ってきたとき、その場から飛び退いた。
ドゴォン!
飛び退いた場所にどこからか飛んで来たの物体を、警戒するように距離をとった。床から巻き上がった土埃の中から飛び出して滞空したのは、青い雨の炎を纏った小さめの塊。
「来た、来た、や~っと来た」
コツリと靴音を鳴らし、鉄柱の影から出てきた。
少し長めのおかっぱ頭にメガネの男。
ホワイトスペルの真っ白い服装に、毛皮のついたマント。馬上鞭を持ち、青い石にたたんだ羽をあしらった指輪、雨のマーレリングをつけたその人物は、まさしく、第8グリチネ隊の隊長、グロ・キシニア。
「新しく頂いた匣を試すには、ちょうどいい」
にやりと笑うと、その手にはめられたマーレリングから青い雨の炎を放出したと思うと、鉄柱の影から飛び出してきた複数の青い塊が、回転しながら滞空した。
「さて、どう料理してやろうか」
役者は出揃った!
あとは戦うのみ!