まばゆい光が、トレーニングルームを包み込んだ。
ニゲラと鬼熊は、突然の光に目を覆うように腕で隠すが、前を見ようとする、
そして光の中に、何かを見た。
ザワザワザワ!
(あれは・・・・木の根!?)
ニゲラの見たのは、茶色い苔むした木の根。ざわざわと床を這い、障害物を囲う。さらには、地面には草が生え、いつの間にかニゲラと鬼熊の足元には、カーペットのごとく草が敷かれていた。そして、天井まで届くような大木がいくつも生え揃い、ツルがぐるぐると巻き、花や植物がいくつも咲き誇る。
光がやんだとき、ニゲラは目を疑った。
そこには、広大な森が広がっていた。
しゃがみこんで足元に生える草に触れる。確かな草の手触りが、触感として手にあたる。
「幻覚ではない。これは一体・・・」
「イリスが作り出した、フィールド
上空より降りかかった声のした方を見ると、多く生える大木の枝に座っている光努の姿があった。
イリスの作り出した、フィールド匣シリーズ。
基本的に動物、武器、道具などの物が匣の中から取り出せる。
だがこの匣は、イリスが独自に作った試作型の匣兵器の一つ。
簡単に言ってしまえば、簡易的にフィールドを匣から取り出すという物。
この匣の場合は、匣用に改造されている植物の種が大量に入っており、晴れの死ぬ気の炎の〝活性〟により急成長させ、一瞬にして森のフィールドを作り出す匣である。
自らの得意分野、障害物がある方が力を発揮するタイプ、水が流れている方が戦いが有利なタイプと、自分によって得意なフィールド、相性のよいフィールドが存在する人物は幾らかいる。
そんな人物用にフィールドを作り出す匣を、イリスによって開発されたのである。
だが、まだまだ試作段階であり、問題もあるため、実用化には至っていなかったはずだったのだが。
「ま、せいぜい部屋を改造するくらいかな」
「部屋を改造だと!?ここはトレーニングルーム。その一室を、深い森に変えるなど・・」
「ほら、熊だから森の中かなって。よっと」
枝から降りて草の上に着地する。
獲物を見つけたためか、鬼熊は激しく両手の炎を燃やし、激しく吠えて光努に向かっていった。周りの木々を、その豪腕で折り倒しながら光努に突っ込むが、そう簡単には行かなかった。
ピシッ!
光努が右手に握った物を親指で飛ばす。弾丸のごとく飛ばされた丸いものだったが、ただの粒ではなかった。
飛んでいる間に、めきめきとして中からた草が生え枝が生え、巨大な大木となって鬼熊に向かった。その全体には、晴れの炎が纏われていた。
「いきなり大木になるだと!なんて活性力、受け止めろ!」
光努が先ほど飛ばしたのは、木の種。
晴れの炎を纏わせ、活性力によって一瞬で大木まで成長させた。
このフィールド内に存在する多くの植物や種は、最初から晴れの炎が多く流れており、通常より遥かに高い活性力、成長力を持つ。そこからさらに光努が晴れの炎でブーストさせることで、飛ばした種を大木にするという荒業をしてのけた。
だが、さらに巨大となった鬼熊は、その手の炎をさらに増幅させ、正面から大木を受け止めた。少しばかり威力に押され、地面を少しえぐったが、なんとか踏みとどまり、大木を受け止めることに成功させた。
「が、それも一瞬だ」
すでに、光努が拳を引いた状態で、鬼熊の受け止めた大木の後ろに跳んでいた。
「しまっ!」
ドゴオオォ!!
後ろから大木を殴りつけ、鬼熊ごと吹き飛ばした。
後ろにいたニゲラ事巻き込んで、トレーニングルームの壁を崩壊させたのだった。
***
「あれが、白神光努か」
メガネの奥の瞳を鋭くさせて、モニターを見ていた入江がつぶやいた。
ニゲラとの戦いは最初から見ていたが、光努が匣を使用してからは、植物に邪魔されて監視カメラを作動させることができなかったが、光努の戦いを見ることはできた。
(今見た限り、驚異的なのはあの身体能力か)
光努の身体能力は、人間離れしている。ニゲラの鬼熊は、入江の目から見ても強力な匣兵器。にもかかわらず、無傷で完封する光努の実力は、入江の予想を超えて高かった。
(それとイリス独自の匣兵器。炎は僕とおなじ晴れの炎か)
フィールド匣はイリスが独自に開発した匣兵器であり、入江も詳細を詳しく知らない匣である。モニターで見た限り、幻覚などでなく、間違いなく本物の森が形成されていく様を見てみると、使い方次第では中々に驚異的な匣だと思った。
他にどのようなシリーズがあるのかというのも疑問だが、それよりも入江が不可解だったのは、光努自身のことだった。
(まさか彼が晴れの炎とは。フィオーレリングを使っていないが、少なくとも晴れ
の波動が流れているということ。つまり複数の炎を扱えるってことか)
冷静に光努を分析している入江だが、冷静な分析とは裏腹に現状は非常にまずかった。
光努のフィオーレリングを取りに向かわせたニゲラはやられてしまった。
ツナは用水路でスパナと交戦したが、その後の音信不通。行方がわからなくなってしまったのが入江にとっての誤算。
そして、ホワイトスペル〝白の殺戮者〟の異名を持つ、ランク上位のバイシャナと、笹川了平が交戦し、バイシャナが敗北した。
とある一室に入った了平、獄寺、山本、ラルの4人だったが、そこで待ち構えていたのはバイシャナ。彼の持つ
嵐属性の炎の特性は、〝分解〟!
通常、拳でも打ち込もうなら、逆に拳が嵐の分解力で破壊されるはず。だが了平は、超高速活性能力の持つ晴れのグローブを備え、その得意の拳でもって、嵐の分解をものともせずに、バイシャナを圧倒して倒した。
これでこのメローネ基地内で戦力として数えられるのは、6名。
ミルフィオーレ6弔花である、γと幻騎士とグロ・キシニアの三人。
γの弟分である、太猿。
〝妖花〟アイリス・ヘプバーン。
〝
グロに関しては、つい先日目を覚ましたにもかかわらず、傷らしい傷は全て完治して、戦闘に問題なく参加出来るとのことであった。
ラルの倒したジンジャーは人形であったため、無事な本体もしくは人形がまだ残っているため、戦力として数えることが可能である。
しかし、戦力として数えることができても、すぐに敵の元へと送り込めるかと言えば否である。
ボンゴレ側の目的は、白くて丸い装置のある入江正一の研究室。先ほど了平達がバイシャナを撃破した展示室は、研究室からさほど遠くない場所。
このままではそこに誰かが到達する前に、了平達の方が先に研究室へとたどり着いてしまう。そうなってしまってはもう遅い。
その為入江は、自分の持つ奥の手を出すことにした。
二人の部下のみを引き連れて通信司令室から離れてやって来たのは、厳重な管理のされている一室。
中は広々とした空間と、下の方に機械の配線が多く伸びた部屋。中央の円形上の広い台座の上には、床から伸びた2つの操作盤のような物。
片方は球体を動かして操作するようなタイプの機械に、もう片方には、匣が最初から置かれているのではなく、すでに盤と一体化していた。
入江は右手にはまったマーレリングから、眩い晴れの炎を噴出し、部屋に備わっていた匣に注入した。
白蘭と入江、あとは二人の部下以外その存在を知らない兵器。
いざという時の、最終切り札である匣兵器。
「さあ、目覚めてくれ。僕の匣、メローネ基地」
ウィン!
正面のモニターに映し出されたのは、この基地の全て。
このメローネ基地は、よくよくと観察すれば、縦横高さの全てが同じ長さの立方体で区切ることのできるという、特殊な構造をしていた。
そして各階には、同じように立方体の何もない空間が空いている。
つまりメローネ基地とは、立体のパズルの匣兵器。
入江がコントロールルームから晴れの炎を送り込むことで、基地全体に張り巡らされたコケの成長を利用し、立方体の格ブロックを空いた空間へ上下左右に動かすことのできる兵器。
これにより、入江は好きな部屋を、好きな場所へと動かすことが可能となる。
敵の行く手を動かして、別の場所へと送る。敵のいる部屋を動かして、目的と逆の部屋と繋げることも可能である。
新たに監視カメラを復旧させ、了平達のいる場所を見つけた入江は、メローネ基地を操作して、了平と獄寺、山本とラルの2組に分断させ、研究所と反対の方向へと部屋を移動させた。
そして了平と獄寺の二人のいる場所には、ちょうどγのいた訓練室を繋げ、三人は交戦していくのだった。
山本、ラルのいるところには、開いた扉を閉じ、閉じた扉を開き、二人を誘導して、幻騎士とぶつけた。
これで今のとこボンゴレ側は、行方知れずのツナを除いて、ミルフィオーレの敵と交戦したのだった。
「あとは、白神光努と獄燈籠の二人か」
そういってカメラに映っている光努を見る入江。そばには倒れているニゲラもいて、ニゲラのリングをもらっている光努の行動に、少々不可解さもあったものの、さほど気に求めなかった。
その時、入江の端末に通信が入った。
『入江様!こちら第二ゲートですが、入江様に面会したいという人物がいらしてますが』
基地への入口の一つである第二ゲートの部下が画面に顔を出して報告してきた。面会、という言葉に、そう言った予定がないことを知っている入江は不可解な客と、今やそれどころではない状況に少々いらだちを覚えた。
「後にしてくれ。今はそれどころじゃない」
『いえ、それが、白蘭様より紹介状を預かっているとのことで・・・・』
「白蘭サンの?」
白蘭には、ボンゴレが攻めてくる情報を話してある。今この現状も、知っているはず。にもかかわらず、白蘭の紹介状を持ってきた人物ということは、白蘭が何か意味を持って入江の元へ送り込んだということ。
(けどこのタイミングで、白蘭サンは一体誰を?)
このタイミングで送り込むなら、戦力となる人物というのが一番考えられる。ボンゴレ襲撃に対抗できるだけの人物を。
「わかった。直接会うのは今は無理だが、通信をつないでくれ」
メローネ基地のほとんどの人間も知らないコントロールルームにいる為、直に会うのに離れるわけにもいかず、かといってこの場所に連れてくるのもまずいため、少々礼儀をかくがモニター越しでの会話を希望するのだった。
そしてモニターに映し出されたの人物を見て、入江は目を見開いた。
赤みがかった明るい髪色に、和服のような服を来た男。腰に巻かれた帯には、鞘に収められた小太刀が一本刺さっており、反対側には、楽しげに笑った狐の面がつけられていた。口元には笑みを浮かべ、細い目と相まって、その表情はとても楽しそうに見えた。
『いや~、すまんのぅ。急に邪魔してもうて。けど現状人手不足らしいし、ちょうどよかったんかな?』
男は頭をかきながらはははと軽く笑っているが、反対に入江は少し冷や汗を流していた。
タイミング的にはジャストタイミング。
白蘭の先を見る力に少々驚いたが、それよりも連れてきた人物に驚いた。
一体白蘭はどこからこんな人物とコンタクトをとったのか、と。
「ああ。来てくれてありがたいよ、