「さて、ここにいくつかの設計書がある」
キーボードを操作して、ディスプレイに映し出された画像を一先ず閉じ、どこからか取り出したのは、薄汚れて茶色く変色した紙の束と、ぴっしりとした真っ白い封筒に入れた手紙らしきものと、クリップで止められたA4の紙の束を取り出して、ルイは言った。
「設計図?これ全部?」
どこからどう見ても設計書ではないようにしか見えないものまであるが、一応設計図らしい。というかなんの設計図かもよくわかっていない光努に、ルイは笑いかけた。
「ジェペットの残した343編の設計書を元に、アニマル匣が作られたのは知ってるな」
「ああ。確かそのあとにヴェルデ達が装備とかのオリジナルの匣を作ったんだよな」
槍や刀、トンファーなどの武器を取り出すような匣や、テントランプなど、サバイバル用品などの匣などの多くがヴェルデ達が新たに作ったものである。
「実はその343編の設計書の他に、一般には知られていないがもう2編、ジェペットの残した設計書が存在したんだ」
「初耳だなそれは。けどその設計書も既に完成してるんだろ?」
「いや、その設計書はヴェルデ達が、
イノチェンティ、ヴェルデ、ケーニッヒ。匣を作り出した彼らは、ジェペットの残した343編の設計書を元にしてアニマル匣を作り出した。設計書はジェペットの時代と比べても、まだまだ問題が山積みとなっており、やはり誰にも見向きされなかった。
それを解決した技術力、頭脳を備えた三人は、オリジナルのアニマル匣を作り出した。実際は他にもいくつも問題があったのだが、偶然にもできた、というような言葉が似合うような偶然が多々起こり、結果として匣は無事に完成することができた。そのことに続き、多くのオリジナル匣も作り出した。にもかかわらず、天才的な科学者である彼らが不可能の烙印を押した設計書が、知られていないだけで2編、存在した。
「なんでそんな設計書をルイが持ってるんだ?」
机の上に置かれた古ぼけた紙の束を見ながら、光努はルイに最もな疑問をする。
三人の科学者が自分たちで不可能とした設計書。彼らにしてみれば、自分には無理ということを言ったこと。天才的な科学者であるがため、自分ができないことを公表することは自分たちのプライドにも関わり、あまり考えにくい。
その為、人知れず破棄したというのは当然といえば当然だ。だが、破棄されたにもかかわらずにルイが持っているのは、やはり不可解。だがその疑問は、案外簡単なことで解けるものだった。
「簡単なことだ。俺も匣作りしてたからな」
「ルイも!?それって・・」
「そう。イノチェンティ、ヴェルデ、ケーニッヒ。俺はあいつらを知ってる。あい
つらの匣作りを、俺も手伝ってた」
イノチェンティ、ヴェルデ、ケーニッヒの三人によって匣は作られた。
表向きはそうだったが、細かいところを説明すればその匣の製作過程には、彼らに協力した幾人かの人間もいた。ただの雑用だったり具材の調達係だったりと、様々な人間がいたが、ほとんどのものは彼ら三人の会話や研究についていくことができない者たちばかりだった。
だがその中には、彼らの研究を理解できる者もいた。
イリスファミリー技術研究主任、ルイ。
彼も、匣制作に携わっていた人間の一人だった。
「ジェペットの残した設計書を解読し、ほとんどの匣制作を可能にした。だけど、天才的な科学者のあいつらが頭をひねっても、度重なる偶然の産物とも呼べる成功が重なっても、ついに製作できなかった2編の設計書が残ってる」
「けどさ、今さのその設計書を持ち出してもどうしようってんだ?ルイも匣作りしてたなら設計書を持っていても不思議じゃないけど、まさか自分なら作れるっていうのか?」
「そうだ」
迷いなく、即答するルイに光努は少し驚いた。
その目は自身に溢れてる、というよりかは、何か確信をしているような目だった。
「ヴェルデといえば、『ダ・ヴィンチの再来』って呼ばれたアルコバレーノの一人
だろ?そいつらに作れないものが、なんで作れる?」
イタリアのルネサンス期を代表する芸術家、『レオナルド・ダ・ヴィンチ』。
有名なところで言えば、『最後の晩餐』や『モナ・リザ』などの絵だが、ダ・ヴィンチはその他にも、生物、音楽、科学、発明など、多方面で多くの業績を残し、『万能人』の異名で親しまれるほどの偉人。その再来とまで云われるヴェルデだが、そのヴェルデ本人の頭脳はその時代の先を行く頭脳。三人よれば文殊の知恵というが、ヴェルデ級の頭脳が三人集まり作り出したにもかかわらず、彼らの全員が匙を投げた。
「343のアニマル匣を作り出したにもかかわらず、なんで残りの2つは作れないと言ったかわかるか?」
「?技術的に不可能だったんだろ」
「いや、ほとんどの問題はクリアできた。まあ確かにいくつか問題もあったが、最大の理由はそこじゃない」
「最大の理由?」
「やつらのいた時代においても、この時代においても、匣の製作に使える物がなかったのが最大の理由だ」
匣の製作過程において、ジェペットが設計書を作ってから何世紀も放置されたのは、机上の空論、つまりその時代においてオーバテクノロジーということもあったが、動力となるものの強大さなども問題としてあった。
ヴェルデ達はこの問題において、高密度のエネルギーである死ぬ気の炎を使うことでクリアしたが、この炎が発見されなければ、まだまだ匣は実用化には程遠かった。
簡単に言ってしまえば、彼らが製作不可能と判断したのは、「死ぬ気の炎なしで匣を作り出せ」という程に無理難題だった。
もしかしたら先の未来、その難題を可能にする動力や技術が発見されるかもしれないが、その前に彼らは変死してしまった。死後残った設計書は、彼らと共に匣制作に携わったものの手に密かに渡っていた。
「あの頃のヴェルデ達と、今の俺とでは違うことがある」
「違うことか。その使える物ってのが手に入ったってことか」
「そういうこと。光努、おまえのことだよ」
「俺?」
「籠から修行場で出したお前の炎の話を聞いたとき、作れると思った。ま、まだ詳
しく調べみないとわからないけどな」
わからない、といったけどルイはなぜか確信していた。
獄燈籠に話を聞いて、映像を見た。
光努がフィオーレリングから、溢れ出すような、真っ白な透き通るような炎を出した映像を。
部屋を埋めるような強大な炎もそうだが、その純度の高さも伺えた。前例がない炎であるため、純度によって何が変わり、炎にどんな特性があるのかはまだ何もわからない。だが、混じりけのなく、透明感溢れるような純白の炎をみて、とてつもなく純度の高い炎だというものは、すぐに分かった。
これならあの設計書を、三人の科学者が不可能とした、あの匣を造ることができる。
「ま、その間はいくつかある匣を持っていくといい。多分お前なら使いこなせるだろ」
「ここにも幾らか匣があるのか?」
「いろいろとあるからな。研究の傍ら、新しい物も作れたしな」
このイリスのアジトには、最先端技術もかなり持ち込まれ、ルイ独自のルートから持ち出された謎の機器の数々も存在する。何かしらの製作するにはうってつけの環境が備わっている。
「じゃ、とりあえずはじめるか」
***
満月のよく映る夜。
既に人は寝静まり、しんとした静かな夜の中、並盛町は全身を黒く染め、月明かりだけが町を照らしていた。
その静かな町の上空を、音も立てず飛ぶ人影が見える。一人や二人ではない、何十何百という数の人物が、並盛町上空より、目的地を定めて向かっていた。
並盛の南西。住宅地の外れとなっていて、特に建物があるわけでもある、地面が見える更地となっている場所を目的地に、人影は進んでいた。
全身黒ずくめの人物と、白ずくめの人物。
色の違いこそあれ、その出で立ちは全員同じ。ガスマスク常備の覆面に、暗闇でも周りを見渡せる暗視ゴーグルも備わっている。左肩に付けられたアーマーには、Xのように組まれた花の紋章が付けられていることから、この何百といる人数は、全てミルフィオーレファミリーの人間。しかもそのすべてが、C級以上という戦力的には高い部隊。
そんな部隊が更地となった場所にやってきて、嵐属性の匣、
事の発端は、第8グリチネ隊のリーダーである、グロ・キシニアがメローネ基地へと帰ってきたこと。
少しボロボロになり、基地へと戻るなり意識不明となった。入江正一は、そんなグロと面会しようとしたが、何をしようと、グロが目を覚ますことはなかった。
だがつい先日、グロが目を覚ました。
そして起きたグロは入江に対し、、
調べたところ、発信機の反応は確かにあり、その地点が更地となっている、建物がない場所に反応があった。このことから入江正一は、ボンゴレのアジトが地下にあるということを突き止めた。そして部下を用意し、装備を整え、並盛町の人々が寝静まり、動いても誰にも見られない時間帯に大部隊を派遣して、地下への穴を掘り始めた。
そして真夜中の丑三つ時頃から初め、空がだんだんと明るくなり始めた頃、嵐モグラは地面を掘りきった。その下にあったのは、鉄の塊。つまり、地下にあるシェルターのような物の天井にぶち当たったということ。ミルフィオーレも知らない地下施設、十中八九ボンゴレのアジトで間違いないと、入江正一は確信した。
そして一気に殲滅すべく、A級やB級辺りの何人かはメローネ基地の防衛もあり残しておき、それ以下C級以上の者たちで部隊編成をしてボンゴレのアジトへと攻め込んだ。
もぐらで掘り終わったあとは爆薬を用意し、鉄の天井を一気に爆発させた。
空いた大穴より部隊が入り込み、下にあったのは広大な広間。特に何かあるわけでもなく、ただただ広い空間が広がっていたことに戸惑いがあったが、突如入り込んだ穴を塞ぐように鉄格子が出現した。これにより、中に入ったミルフィオーレの部隊は閉じ込められう形となった。
コツンコツン。
鉄格子の上を踏みしめる靴の音が響く。ミルフィオーレの部隊が上を見上げた時、鉄格子の隙間から落ちてきた物を受け止めた。小さな機械、発信機。グリチネの花をモチーフにして作られた第8グリチネ隊の隊長であるグロの持っていた発信機である。
「弱いばかりに、群れをなし」
男の声。
ミルフィオーレの部隊を見下ろすように鉄格子の上に立つ人影は、男。黒いスーツを来て、手に持ったのは金属製のトンファー。そして、そのトンファーを覆うようにして燃える雲属性の死ぬ気の炎。
「咬み殺される、袋の鼠」
まるで獰猛な肉食獣のように鋭い瞳は、ミルフィオーレの部隊を見下ろし、トンファーに纏った雲の炎をはためかせ、その身に秘められた強大な殺気が突き刺すように、下の人間達にに向かって向けられた。
「わ、罠だ!!」
そこで彼らは気づいた。発信機をたどってきた場所は、ボンゴレのアジトのありかではない。自分たちを閉じ込めて一網打尽にするために、ボンゴレ側によってわざと発信機を置かれたということ。まんまとミルフィオーレはハメられてしまった。
そしてその前に立ちふさがるのは、ボンゴレ最強の守護者である雲の守護者、雲雀恭弥。
そしてその頃、ツナ達はミルフィオーレのアジトに向かっていた。
今時点でほとんどの戦力がメローネ基地にいないこの状況が、何よりの好機。
雲雀が大舞台を足止めしているのを無駄にしないため、一人雲雀を残すのは苦渋の決断だったが、ツナはメローネ基地へと攻めることを決意した。
「開けてくれ、ジャンニーニ!」
『了解!Fハッチ開口!!』
通信機器から聞こえたジャンニーニの声と同時に、ツナ達の正面の、地上へ出るためのハッチが開いた。
ツナ、獄寺、山本、了平、ラル。
彼ら五人は、この時代のボンゴレの為、過去へ変えるため。
過去からきた仲間の為に固めた決意を胸に、敵のアジトへと襲撃を開始した!
ついにメローネ基地へ襲撃開始!