特異点の白夜   作:DOS

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『まだ壊滅はしてないさ』

 

 

 

 

 

「ん?綿毛?」

 

ふよふよと光努の目の前をよく切るようにして飛んでいる綿毛を目でおい、そのまま開けた扉から外(地下なのに外?)へと飛んでいったのを見送った。そんな様子を見ていたルイが、「あ、そうか」というふうに口を開いた。

 

「光努はまだ知らなかったな」

「ん?何が?」

 

ルイが懐から取り出したのは、紫色の下地に、白いアヤメの花のあしらった模様が付けられた匣。

 

「さっきの綿毛は、雲綿毛(ソッフィオーネ・ヌーヴォラ)。俺の匣の試作品だ」

「試作?」

「多数増殖監視装置。それがこの匣」

 

雲綿毛(ソッフィオーネ・ヌーヴォラ)は雲属性の炎が内部をとおり、傍目には普通の綿毛にしか見えない少々変わった匣兵器。綿毛の一つ一つが監視カメラになっており、くっついた場所から他の場所を監視することができる。

 

そして、雲属性の匣の特徴は〝増殖〟。

 

匣から出してから風に乗って普通の綿毛のようにあちこちに飛んで行き、くっついた場所からさらに同じ綿毛を増殖させ、そこからさらに風に乗って飛んでいく。そんなことを繰り返し、一度の開匣で多く、遠くに監視カメラを運ぶことができるという、監視目的の匣である。

 

花となる過程を吹っ飛ばしていることに若干の疑問があるか、そこは匣使用ということで納得することにした。

 

だが、これにはいくつか欠点がある。

 

「欠点?」

「まず一つに、普通の綿毛よろしく、耐久力がほぼ無い。普通に潰れるし、鳥に食われることもある」

「なるほど」

「そして二つ目の欠点は、移動手段が風だより」

「つまり思い通りの場所に設置できないと」

 

しかも無風状態なら運ばれもしないし、風が弱ければ広範囲に広がらない。

まさに普通の綿毛の特徴そのままである。しかも場所によっては本当にどうでもいいことしか監視できない。

 

「そして三つ目の欠点」

 

それは、増殖能力が多すぎるということ。

最初に大量の綿毛が空を飛び、一つ一つがさらに大量に増殖させ、とんでもない数のカメラが次々に製造される。優に1000を超える監視装置だが、それを最終的にルイ本人が見るのは、ひとつのディスプレイからである。つまり、こんなに多く見てられるわけがない、ということ。分割してみるのも難しいし、一つの映像を切り替えて見るのも効率が悪い。

 

「ま、まだまだ改良の余地ありかな」

 

そう言って匣を懐にしまった。

 

「ちなみに、この匣は一度ばらまくと回収は不可能だ」

「え、それって匣として微妙じゃね?」

「しかも炎が切れるとただの綿毛になるという地球にやさしい設定だ」

「まあ確かに優しいな」

「だが一度開匣すれば、多分3日くらいは持つ」

「すげぇ!」

「限りない省エネ設定だからな」

 

普通はそれだけで持つのか?という疑問だった。

廊下の扉を一つあけ、中は中々に高級ホテルの一室のような部屋。

人まずソファに座った光努、ルイ、獄燈籠の三人は、どこからか持ってきた紅茶を飲み、一息付いた。

 

「さて、まずイリスの壊滅とそれに伴う被害なのだが」

「うん」

「意外と被害が少ない」

「少ない?」

 

壊滅、という言葉の割に被害が少ないとはこれいかに。

ミルフィオーレファミリーがイリスファミリーを攻めたのは事実だが、攻撃された場所は2つ。

 

一つはイリスの母屋、他にも技術舎等が建っている本拠地。そしてもう一つが、日本の黒道邸。

 

「灯夜の家もか」

「そう、ミルフィオーレが狙ったのは、マフィアとしての部分だけだったんだ」

 

元々大企業であるイリスファミリーは、そもそもマフィアらしい部分の方が割合が少ない。

 

なので戦う対象としては、戦力がいると仮定されている二つを狙うのが当然だった。だが、ミルフィオーレが破壊したのは、既にほとんどがもぬけの殻となっていた二つの場所。

 

黒道灯夜は、事前にミルフィオーレが来ることを知り、家を残して家族共々日本を一先ず離れ、避難させた。

 

本拠地にいたルイは、こちらも事前ミルフィオーレが来ることを予想、その場所にいたスタッフたちを日本へと送り、ここ、地下アジトへと拠点を映した。

 

他のファミリーメンバーは、『アヤメ』もそうだがほとんどが世界中を飛び回っていたので襲撃には合わなかったが、一先ず全員の無事は確認。

 

未だに世界中を飛んでいるものと、日本にいる元とで、イリスファミリーは別れた。

 

残った企業的な部分は、ミルフィオーレが吸収合併とでも言うのか、会社を乗っ取り、一先ず従来通りに会社は動くことで特に問題もなく、せいぜい会社名が変わったくらいであった。

 

そうして結果として、イリスに残ったのは、もはや日本のアジトのみだった。

 

「なるほど、もはやイリスは壊滅的だね。ほとんどが企業の部分だっただけに、マフィアの部分が壊滅しても全体的に見ればボンゴレと比べて確かに被害が少ないといえるな」

「ま、言えるだけで実際には被害は被害。今このアジトの他の建物には、元々本拠地にいた奴らもいる。あとはあちこち飛び回っているやつらだな」

「そして、今やミルフィオーレが世界一のマフィアとなりました、と」

「そういうことだな」

 

10年後は面倒だな。どうやってイリス復活させるか。いや、まだ壊滅したわけじゃないけど」

 

「こっちのことより、お前は過去に帰る方法を調べた方がいいんじゃないのか?」

 

ルイの言うこともごもっとも。

 

イリスとボンゴレの情報を合わせたところ、やはり光努も入江正一の元へと向かうのが、一番過去に帰る近道になるそうだ。

 

ボンゴレ上層部が決めた、日本に置けるミルフィオーレ支部のメローネ基地へと攻め入るのは、あと4日。もしも行くとしたら、ボンゴレがせめて基地内がバタバタとしている時に行ったほうがいいというのはおおよそ予想がつく。

 

「ま、確かに単独で行くよりかはそのほうがいいかもしれないな。メローネ基地は

広いし敵も多い。負けるとは言わないが、戦わないに越したことはないからな」

「あとは、ツナが行くかどうか決めるだけだけど、多分昨日の時点で決めてると思うから連絡してみるか。ここからボンゴレアジトに連絡できるか?」

「造作もないな」

 

ノートパソコンを用意してカタカタと操作する。少ししてこちらに画面をくるりと向けると、ロード中という画面が数秒した後に、驚くツナの顔が映し出された。

 

「よう、ツナ。1日ぶり」

『光努!今どこにいるの!?』

 

相変わらず軽い光努の挨拶に、よく驚いた表情を見せるツナ。そんなツナの顔を見るのが中々に面白いなと思っている光努だが、一先ず本題に入ることにした。

 

「結局どうした?メローネ基地襲撃」

『うん、やっぱり、行くよ』

「いいのか?」

『敵のアジトに行けば、まだわからないことの手がかりもつかめるかもしれない。それに』

 

モニター越しにでも分かる。臆病な性格ながらも、その目には戦いの決意を、覚悟を宿していた。

 

『俺はやっぱり、こんな状況でみんなにいて欲しくない。もちろん、光努もだよ』

「・・・ふっ、お前らしいな。ツナ」

 

じつはこの時、ボンゴレ側では、クローム髑髏が急に容態が悪くなっていた。

何が起こったのか、クロームの幻覚の内蔵が崩れ始めた。このことを意味するのは、クロームの内蔵を厳格で補っていた張本人、六道骸になにかあったと考えるのが妥当。

 

今現在は、クローム自身の持つ幻覚能力を、霧のボンゴレリングの力により増幅させ、自分自身で自分の内蔵を補うという、まだまだ応急処置程度だが、それでも命の危機は脱出した。

 

しかし、それでも状況がよくなったとは言えない。骸に何が起こったのかということも、ツナは敵のアジトに行けば手がかりがつかめるかもしれないと考えたのである。

 

「それでだツナ、俺も敵の基地襲撃するからよろしく」

『・・・やっぱり行くんだ』

「あれ?驚かないのな」

『うん、まあ光努の言いそうなことだからだんだんと驚きに慣れてきたよ』

 

確かにいつまでも驚いていたらキリがない。

 

「ま、当日は現地集合。それまで修行頑張れよ」

『うん。光努も頑張ってね』

 

そして通信を切った光努は、室内を見渡して、そういえばというふうにルイに質問する。

 

「籠は?いつの間にかいなくなってたな」

「籠はいろいろやることがあるからな。それより光努。俺たちもさっさとはじめるぞ」

 

そう言ってノートパソコンを閉じて懐にしまい、立ち上がって部屋を出る。光努もついていくようにして部屋を出て、二人して廊下を歩く。

 

外の景色が地面の中という光景に、光努は珍しく、楽しさ半分呆れ半分といった心情だが、その表情は中々に楽しそうに笑っている。

 

「それで、このあとは?修行?」

「何言ってる。お前をここに読んだのは調べるためだ」

 

廊下をしばらくあるき、一つの扉の前に立ち止まり、中を開く。

その中は、中々に広々としていて、機械が山のように積まれている。他にもジャンク品の大量に入った箱があったり、床や壁が配線をしてあったり、よくわからない巨大なカプセルがあったりと、まさに研究所といっても差し支えないような部屋が光努の目の前に広がっていた。

 

「さて、籠からおまえの修行場での話は聞いている」

「そうか」

「ここではお前の持っている、白い炎を調べる」

 

光努のフィオーレリングから発せられた白い炎。

どの属性のも当てはまらず、どんな特性があるかわからない。この時代において死ぬ気の炎を使うことと使わないことでは、戦力に確実に差がでる。自分の力を知り、完全に使いこなすことができなければ、いくら光努とはいえ、やられるのは時間の問題かもしれない。

 

ならば調べるまで、解析するまで!

 

「おまえの炎に少しだけだが心当たりもあるしな」

「心当たり?」

 

全く知られていない、というかあるかどうかもしれない炎の存在に心当たりなど、なぜルイが持っているのか。

 

疑問の占める光努に向かって、ルイは言葉を出した。

 

「ハクリだよ」

「ハクリ?そういえばあいつこの時代って」

「ハクリも行方不明だ、10年前からな」

「!それってもしかして・・・」

「まあそれはあとでいい。今回の調べによる目標は、」

 

カチリ。

キーボードの一つを押すと、大型のディスプレイに映し出されたのは、何かの設計書。動物のような、おそらく生物かもしれないようなイラストや、古ぼけた文字の羅列。単体では意味のなさない文字列が、薄汚れた纸に書かれていた。その横にキーボードで打ったような文字も多く見られる。

 

よくわからない設計図だが、その中で光努も知っているような形を見つけた。縦も横も奥行も、全て同じ長さの立方体の箱のイラスト。

随分古い設計書だが、これがなんの設計書か光努は理解した。

そして光努が思った通りの言葉を、ルイは口にした。

 

「目標は光努、おまえの匣の完成だ」

 

 

 

 

 

 


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