特異点の白夜   作:DOS

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100話記念の番外編。
もう少ししたら別の番外編も書いてみようと思います。


番外編『RJP、つまり・・・・』

 

 

R(リアル)J(ジュラシック)P(パーク)だー!」

 

焼き付けるような太陽が照りつける中、原始的な巨大な植物が生い茂る森の中で、少年は叫んだ。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

白い、柔らかそうな髪をしている少年。

背丈も手足も小さいその姿は、年の功10歳にも満たないほどに幼い子供。今で言うと幼稚園に通っていてもおかしくはないほどに小さい。

 

来ているのは作務衣のような和服のような服。服に入った幾何学模様を見ているとどこかの一族の民族衣装のようにも見える。

 

幼いその顔には、じりじりと照りつける太陽にあたって暑いのか、少し汗をかいているがとても楽しそうに笑っている。頬が膨らんで咀嚼をしているようなので、何かを食べているようだ。

 

ズズズ・・ズズ・・・・。

 

何かを引きずるような音。それも重量のあるものを引きずるような音。

少年が歩くに連れて地面に跡が残る。けど少年の後ろからではなく少年がの左手に握られているものから跡が出ている。

 

頑丈そうな鱗に覆われた巨体。簡単に木を切り裂きそうな爪。

強靭な顎と牙。意識はなく引きずられたまま。尻尾を少年は掴み引きずっている。明らかに子供が引きずれる体重ではないのだが、少年はなんの苦もなく引きずっていた。反対の手には果実。りんごのように赤い果実。まるで小さい赤いパイナップルのような果実。小さくかじられた痕があることから、少年が先程から咀嚼しているのはその果実のようだ。

 

シャクシャク。

 

「あま~い♪」

「お?でかいの仕留めたな」

 

声がした。

少年が上を向くと、巨大な木の上に人影があった。

 

「みてみてー!」

 

少年が嬉しそうな顔をして勢いよく果実を持つ手を木の上に向かって振る。

人影はそれに答えるように木の上から飛び降りて少年の前に降り立つ。

少年より大きい人影。Tシャツを来て、七分丈のズボン。素足にサンダルを履いて頭には麦わら帽子をかぶった男。

 

太陽を遮るようにして目深にかぶった麦わら帽子からは、白銀の長い髪が溢れていた。後ろで一つに括ったその髪、そして服装。その男の格好はこの場所に置いて明らかに異様だった。

 

そして少年も。というより、この場所に人がいるのがすでに異様。

周りに異常な大きさの植物が生い茂り、獰猛な爪や牙を持った動物、というには凶暴そうな生物。つまり恐竜とよばれる生物たち。

 

 

ここは、恐竜の住む世界だった。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

パチパチ。

焚き火の中にある薪が爆ぜる音。

 

「♪~~♪~~」

「ほら、もう少しだ」

 

少年は鼻歌を歌いながら待ち遠しそうに体を揺すっている。

男はそんな少年に声をかけながら手を動かす。

 

焚き火の上にあるのは木の枝に刺さった肉。先ほど少年が引きずっていた恐竜の尻尾から切り出した肉である。

 

男は木の枝に刺した肉を二本持って焚き火の上からくるくると回しつつ肉を焼いていた。男の足元には何枚もの葉っぱの上に乗った色様々な木の実。全て砕かれて粉状になっている。

 

男は片手で肉を焼き、もう片方の手で粉状の木の実をつまんで肉にふりかける。そんなことを繰り返して肉に少し焦げ目が付いたら焚き火から離した。

 

「よしできた!ほら」

「やったー!」

 

男が枝についた肉を少年の方に投げると少年は両手で掴む。

 

「いっただっきまーす!」

 

そう言って肉にかぶりつく。硬そうな鱗や皮膚などは取り除いて焼かれたので肉は柔らかくなり、男のふりかけた粉で味と香りを付けられた肉は香ばしい香りを出す。少年は夢中で食べてあっという間に自分の分は食べ尽くしてしまった。

 

「おかわり!」

「おいおい、食べ過ぎだぞ」

 

男は自分の分の肉を食べつつとなりをチラリと見ると、巨大な骨が土の上に横たわっていた。少年はその体に似合わず、かなりの大食漢のようだ。

10メートル程もあった恐竜の肉の大半は少年の腹の中に消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

少年は身軽だった。

 

大樹に脚を付けて跳び、恐竜の背を踏みつけ進む。途中にやってきた生物達は、少年を捕らえることができずにいた。決して鈍いわけではない。少年のスピードと反射神経が動物以上にずば抜けており、全て躱して進んでいた。

 

少年が向かっているのは川。肉の次は魚が食べたいと思ったのか、男に魚を獲ってくると言って駆け出した。

 

森を抜け、広大な草原を駆け抜け、川に到着した少年。

 

すぐに川の中に飛び込んだ。

 

一足で跳び、川の中にあった岩の上に飛び乗り流れる川を覗く。幼い澄んだ瞳を開き、注意深く水の中を見る。

 

川の中には魚が多く泳いでいる。少年は手を伸ばして取ろうと思い手を止めた。

水の表面に振動があったとき、波紋が水の中に広がり魚はすぐに気づく。人に強い風が当たるように、魚は何かくると察知して素早く逃げる。

 

だからというわけではないが、少年は本能的にむやみに水に手を入れるのをやめた。すぐに逃げられるから。だから少年は手から力を抜いた。

 

力を抜き、スピードを上げるため。水面の振動を察知して逃げる魚よりも早く手を動かして魚を獲るために。

 

ヒュッ!パシャ!

 

一瞬。少年の振り上げた手が一瞬ぶれたと思ったら水面か水しぶきがたち、反対側に手があった。

 

少年は一瞬で川の中に手を入れ、魚が動くよりも早く魚の腹を掴み、水の中から押し出した。熊が川で魚を取るような態勢。だけどそれよりも明らかに早く、少年は魚を取った。

 

ヒュッ!パシャ!

 

ヒュッ!パシャ!

 

ヒュッ!パシャ!

 

ヒュッ!パシャ!

 

それを何度も繰り返すと、魚を飛ばした川辺には大量の魚がピチピチと陸の上で跳ねていた。少年は満足したのか、岩から跳んで川辺へと脚をつけ、魚を大きな葉に包んだ。少し長めの木の枝に、袋状にして魚を入れた葉をつるでしばり、満足そうに歩き出した。

 

否、歩こうとした。

 

ドオオォン!!

 

少年は背後、川のある方に振り返った。

いきなり起こった巨大な爆音。

少年が川を見ると、驚愕して瞳を見開いた。

 

()()()()()()()

 

先程まで川のあった場所には大きなクレーターができており、川の水は蒸発していた。巨大なクレーターにはしゅうしゅうと蒸発した川の水の蒸気が立ち上り、中央には真っ赤に燃える少し大きめの石があった。

 

「これ・・・隕石?」

 

隕石。宇宙に漂う個体物質、岩などの物が惑星に飛来した物を言う。

大気圏で燃え尽きるものも多いが、中には物質としての形を保ったまま落ちてくるものもある。この隕石もその一つだろう。

だがそれで終わりではなかった。

 

キラッ。

 

少年の異常なる視力ははるか上空が見えた。飛来してくる燃える岩。こちらに向かってくる。

 

少年はすぐにその場を離れるが、少年が先程までいたところに再び隕石が飛来した。

 

 

ドオオオォオォン!!

 

 

先ほどよりも大きい岩は、あたりに衝撃を放った。少年は踏ん張って飛ばされないようにしたが、まだ終わりではなかった。

明らかに以上に、空にから飛来してくる物質は多かった。

 

ドオオォン!ドオン!!ドオオォォオン!!

 

あちこちで爆発音が、木々が焼ける音が、生物の鳴く音が聞こえてきた。

少年がすぐに先ほど男と別れた森の中に戻っていこうとしたとき、

 

「止まれ。もう火の海だ」

 

男は現れた。上空から鳥類に乗ってきたのか、巨大な影はそのまま過ぎ去っていって小さな人影が上から降って少年の行く手を阻んだ。

 

「流星群か?見る分にはいいが、喰らう分には面倒だな」

 

ドゴオオオォオオオォ!!

 

「「!!」」

 

先ほどの隕石と比べ物にならないひときわ大きい爆音が辺りに響いた。

少年と男は同時に同じ方向を見ると遠くに見えたのは山。

それは火山。煙をだし、山の頂上からは溶岩が漏れ出てきていた。

 

「隕石が火山にあたって爆発したか。ここももうすぐ焼け野原だな」

「どうするの?」

「さすがに隕石はお前にはまだ危ないし、ひとまず」

 

ドオゥ!!

男が手を少し顔の当たりに掲げると、その手のひらに一瞬にして石のような物が現れた。現れたというには少々語弊がある。ギュルギュルと高速で回転し、真っ赤に熱せられていることから、この拳大の石も空から降ってきたということ。

 

それを受け止めて平然としている男は、一先ず手に収まった石を捨てて、少年を持ち上げて自分の肩に乗せた。

 

「逃げるか♪」

「うん!」

 

地面を砕きながら上空高くへと飛び上がり、空中に滞空したと思ったら、男は宙を蹴って横へと跳んで行った。正確には、跳んで来た隕石を蹴って宙を移動しているのである。そんなことを繰り返しながら、上空を駆けていき、隕石到達地点から割と離れたところまで跳んで来た。

 

スタリという、はるか上空から直で地面に降り立ったとは思えないような着地音を出しながら、どこかの山の頂上へと降り立った二人は、一先ず少し歩き、男は大木を折って横におき、その上に二人共腰掛けた。

 

目の前、山の向こうの風景はもはや真っ赤に燃え上がり、空は火山灰で黒く染まりつつ、空から赤い光がどんどん地面へと落ちている。その度にドーンドーンという大きな音がし、物騒な光景がどんどんと出来上がっていくのだが、少年の方は無邪気に笑って割と楽しそうだ。

いや、男の方も結構楽しそうだ。

 

「たーまやー」

「?たーまやー!」

 

男の言った言葉を聞いて、少年は意味はわからなくとも無邪気に楽しそうに同じ言葉を叫ぶ。そんな光景をみて、男は穏やかに微笑むのだった。この場において男のセリフも正しいとは言えないのだけれど、それを指摘する者はこの場にいなかった。

 

特に止まる気配の見えず、範囲を拡大し続ける流星群を見てる二人は、だんだん飽きてきたのか、よっこらせというふうにして丸太のから降りて、地面の上に立った。

 

「よし、じゃあ次どこいこうか」

「うーん・・・海!」

「よし、じゃあアトランティス大陸でも行こうか」

「わーい」

 

二人が会話をしているさなか、男が見える範囲外に、ソレは迫っていた。

再び軌道上より、直径10メートル級の隕石が迫った。大気圏を突入し、全体的に赤く染まり高温の熱を纏ながら、空気を焼いて降ってきた隕石は、寸分違わず、神のいたずらが、少年と男の元へと跳んで来た。

 

パン!

 

男が手を叩いたと同時に、隕石が衝突。

山を凹ませ、地面をえぐり、あたりの木々を吹き飛ばして燃やしながら、地面を潜った隕石は大規模な地殻変動起こす。

 

だが隕石がぶつかったのは地球だけだった。

 

誰にぶつかるもなく、地球を壊す。

 

隕石が衝突する直前にいた二人だったが、手が叩かれた瞬間に、まるで最初からその場にいなかったように消えてしまった。

 

あとに残ったのは、隕石が落ちたクレーター。

 

この地球上も、あと少しで生き物が住めなくなるだろう。

恐竜は絶滅し、そのほかの生物も滅びる。そこから新たな生物が生まれ、発展していくのに、一体何年何百年、何万年何億年とかかるのだろうか。それは誰も知ることのない。先の未来のことなど誰も知らない。知っていないからこそ、その時に頑張れる。可能性ということを、奇跡ということを、不思議なことを信じることができる。

 

あとはその邪魔をしないようにするだけ。この世界はこの世界に任せる。

 

既にこの世界には誰もいなかった。

 

彼らはまたどこかへと行く。

 

旅行と称して、知らない場所、未発見の場所、空想上の場所、そんな不思議なところへ行く。

 

どこにだって行ける。

 

だって、彼らを止める者など、誰もいないのだから。

 

 

 

 

 


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