特異点の白夜   作:DOS

100 / 170
ついに100話!記念に一話入れときます。


『獲洞山、そこは入口であった』

 

 

 

 

 

ドオォン!!

 

突然の音に、小さな小鳥や大きな鳥も、森から空へと驚いて羽ばたいていった。ギギギという歪な音がすると同時に、倒れた大木が他の木や草を巻き込む。近くで様子を見ていた小動物も、鳥たちと同じように一目散に逃げ去った。

 

自然災害か、人為的手段か?

通常倒れそうにないような木だが、根元の方からぼっきりと折られている。

 

そう、折られている。

 

自然の力でもなく、明らかに人の手によって、ありえないことだが、人の拳によって大木が折り倒されていた。

 

その張本にである人物が、自身の右手の拳を振りかぶったままの姿勢で止まり、そのそばに、その拳を避けたと思われる、首をかしげた体制で止まっている人物がいた。

 

柔らかそうな白い髪に、右手にハメられて白い石の付いたリングが特徴的な少年。

その表情は少年らしくない、無表情だった。

 

そしてもう一人は高齢の男性。白髪をバンダナで多い、深緑の軍服のような服を着たスタイル。その眼光は年齢とは売って変わり、鋭く生き生きとしている。

 

拳を振ったのは少年。

 

そして避けたのは男性。

 

少年は白神光努。男性は獄燈籠

二人の何があったのか?何か確執があったのか?

それを知るのもはこの場において、本人たち以外誰もいないのであった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

話は遡ること数時間前。

ボンゴレの地下アジトから出てルイのいるイリスの日本アジトへと目指す光努と獄燈籠の二人。

 

基本的にリングを使わなければミルフィオーレファミリーも、レーダーなどで拾えず、地上を普通に闊歩することができるため、二人は歩いているミルフィオーレの人間に見つからないようにするだけでひとまず簡単に並盛町を出た。

 

そのあとは基本的に公共機関を特に使わず、徒歩とあとは走るという原始的な移動手動によって移動した。光努は場所を知らないため、基本的に獄燈籠に道案内をまるなげ。しばらく走り続けること数時間、着いた場所はどこかの山の中だった。

 

先ほどまで普通の山道だったのに、だんだんと木が曲がりくねり、何やら童話のなかに入り込んだような不思議な雰囲気を醸し出す森の風景へとなった中、光努はどこかで見たことあるような、引っかかる感じを覚えた。

 

割と前に、ここに来たことがあるような気がする。

 

光努は自分の気のせいかと思ってその考えを切り捨てようとしたが、山道のなかにぽつんと立つあるのものを見てその考えをやはり拾い直した。

 

山道のなかにぽつんと立っていたのは、鳥居。

 

なんの変哲もないはずなのに、どこか不思議な、この森と同じような雰囲気を出すその鳥居に、確かに光努は見覚えがあった。

 

そう、それは割と前、大空のリング戦よりも前、ヴァリアーが日本へと襲来するよりももっと前の話。

 

灯夜の家にクローム、千種、犬の三人が居候させているとき、犬がどこからともなくもってきたチラシに乗っている、幻覚強化のトレーニングを受けたことがある。その際にチラシに載っていた場所に来た光努とリルとコルと黒曜組の3人だったが、その場所で割とひどい目にあったのを子供のリルとコル以外はとてもよく覚えている。

 

まさにその場所の入口にたっていたのが、山道にぽつんと建った場違いな鳥居だった。

 

不思議な感覚の雰囲気、曲がりくねるような木の森の中。

 

間違いない、ここは確かに、黒曜組特訓の際にきた場所だと、光努は確信した。

 

「なあ、籠。ここってどこだ?」

「ん?ここか?ここは『獲洞山(かくどうさん)』といってのぅ、わしの山じゃ」

「は?お前の山?」

 

光努の質問に対して、帰ってきたのは予想外の答え。

このどこぞの場所ともしれない山は、まさか獄燈籠の所有物だったとは。

 

「わしが大量に罠を仕掛けた、一種のテーマパークのようになっとるぞ」

「罠、ね。それってもしかして幻覚トレーニング用の罠とかあるか?」

「ほぅ、よく知っとるのぅ。他にも格闘能力向上とかもできるぞ」

「・・・・・・」

 

思い返せばあの黒曜組の特訓。

光努は常常あの最中に思っていた。理不尽に危なすぎるくらいの罠。

光努に傷をつけるほどに罠としてのレベルは遥かに高かった。

にもかかわらず、最終ゴールに到達地点で特になにもなく、あっさりと帰ることでなんともやり残した感が残り、不満気だけが微妙に残るという感覚。

光努はあの時、主催者ぶん殴ると思ったが、今目の前に主催者がいた。

 

とくればやることはもちろん一つ。

 

「せい!!」

「おっと」

 

ドゴオオォン!!

鳥居を目に入れた瞬間、間髪いれずに獄燈籠の顔めがけて拳を振るったが、とっさの攻撃だったにもかかわらず、獄燈籠は光努の一直線な拳を、首をかしげることで躱したが、代わりに後ろにあった大木がばっきりと折れて倒されてしまった。

ここで冒頭の文に戻る。

 

「いきなりなんじゃい。危ないじゃろ」

「実はな、籠。俺は昔クローム達と一緒にここの幻覚強化トレーニングに来たことがあるんだ」

「ここの幻覚コースに?」

「そして俺はここをクリアしたときこう思った、主催者ぶん殴ると!」

「それって理不尽じゃないんじゃ・・・」

「というわけで、一発だけだ安心しろぉ!!」

「ぬおっと!」

 

ビュン!

風きり音を残し、再び獄燈籠の顔に向かって拳を振るうが、今度の攻撃も紙一重で躱される。今回は後ろに木があったわけでもなかったので普通に空を切っただけで終わった。

 

「まてまて、わしと無関係じゃろ」

「何か最後の文章がイラっと来ました、まる」

 

ちなみに最後の帰り道に載っていた文章は、『おめでとう。これで君も最強に一歩近づいた。帰りは燈籠の下にある階段から帰ってね☆』である。

命懸けで登った山の頂上でこれは腹立つ。特に最後の☆がイラッとくる。

 

「ほら、俺もたまには殴りたい衝動に駆られてさ、この右手がどうしてもって」

「絶対嘘じゃろ。お前実はどうでもいいんじゃろ」

「うん、実はどうでもいいが・・・何かこう・・・・違和感があるから、殴ってすっきり、みたいな?」

「それでわしを殴るのはお門違いじゃろ」

「ほら、よく言うじゃない、部下の責任は社長の責任と」

「それを言うならわしの所属してる『アヤメ』のボスってお主じゃからお主の責任じゃ」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

 

その時、一際強く吹いた風に乗ってきた白く、細かい物体が光努と獄燈籠の間を横切った。

 

「綿毛?」

 

ふよふよと浮いている綿毛を目で追い、視線と反対から足音が聞こえた。

 

「ほら、二人共。遊んでないで速く来いよ」

 

サクサク、という草を踏みしめる音とともに、木と木の間から姿を見せたのは、およそ20代程の男性だった。男性にしては長い鮮やかな金色の髪を、首の後ろあたりで一つに縛って流している髪型に、顔にかけられた縁のないメガネ。来ている真っ白な白衣が、風に揺れて裾がふわりと広がっている。

 

最後にあったのは数日前だったのに、なぜか懐かしく感じる。その人物が自分のしてっている人物と同一ながら、別の人物とわかっていたから。それでもやはり、久しぶりに会ったということに、笑いがこみ上げてきた。

 

「ルイ!相変わらずだるそうだな」

「そういうお前も相変わらず楽しそうだな、光努」

 

イリスファミリー技術主任ルイ。獲洞山にて、光努と再会した。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「お、懐かしの鳥居」

「ここが入口になってんだよ」

 

黒曜組特訓の際に、入口として用いられた鳥居。

山道のなかにぽつんと立っているため、違和感はありまくり。大きさがおよそ2メートルと、家の扉ほどのサイズしかないからさらに違和感だらけ。

 

ルイが柱の一つに手を当て、カパッという軽い音ともに一部が開き、中には1~9の数字のスイッチが載っているパネルが設置されていた。その中の数字を、高速で指を動かして入力する。ものの2、3秒で入力は終わったが、確実にこれ2桁以上入力しただろとも思ったが、あえてスルーする。そうすると、鳥居の下の地面がスライドし、地下へと続く階段が現れた。

 

「イリスのアジトって地下にあったのか」

「まあ山の中は全部アジトになってるからな」

「それってどんだけ広いんだよ・・・」

「そのためにわしの罠を幾らか撤去しなくてはならなくなったんじゃがの、残念じゃ」

(それ大正解だな)

 

獄燈籠のつぶやきに光努は一瞥してスルーし、ルイに続いて地下への階段を降りていく。

 

「そういえばルイってメガネしてるけどどうして?悪くなったの?」

「ん?これはメガネらしからぬメガネ。映像ディスプレイだ」

「というと?」

「最近の技術力は、コンタクトに映像を映し出すことも可能となっておってのぅ。ルイのつけているメガネも、中々に多機能じゃよ」

 

石のレンガで作られたような通路を歩いていき、しばらく歩くと、開けた空間が現れた。そしてそこにあった物をみて、光努は若干呆れていた。

 

(イリスの母屋がある!マジか!)

 

出口にでて目に入ったのが、イリスファミリーの本拠地で、少しの間光努が暮らしていた母やだった。形的には『口』の形の建物。中には芝生と一本の木が生えている中庭がついているはずだが、ここはどうなっているのやら。

 

それよりも、この空間の母屋の向こう側や横に、別の建物がいくつも見えるから、もはやアジトというより軽い地下都市になっているのに驚きである。

 

「いや、苦労して山をくりぬいた甲斐があるというもの」

(どうやったんだろう、これ・・・)

 

驚愕、呆れを通り越して若干ドン引きの光努であった。

 

「ま、とりあえず中に入るか」

 

ひとまずルイの言葉に従って、懐かしの母屋へと入っていったのであった。

 

 

 

 

 


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