特異点の白夜   作:DOS

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『白い少年、ミステリーツアーに行く』

 

 

 

 

とある二人の人物による、不思議な会話が繰り広げられた。

 

「なあなあ光努(こうど)くん、今とても面白い旅行プランがあるんだが是非とも行ってみないか?大丈夫、こちらでセッティングは全て終わっているさ」

「旅行?どこ行くんだ」

 

どう見ても不自然な怪しげな会話にも拘わらず、光努と呼ばれる少年はいたって普通に対応する。どうにも慣れている、というような対応だった。

 

「別の世界。こことはまた違った楽しみがあると思うぞ」

「へー、どんな世界なんだ?」

「楽しいぞ。そこらへんにマフィアとかいるしな」

「マフィア?それって治安が悪いってことか?」

「そんなことはない。普通にいい世界できっと楽しいぞ」

「ふーん。ま、ここにも飽きてきたからいいかな。いいよ、旅行に行こうか」

「うむ、そうこなくてはな」

 

どこかの世界の、国かどうか曖昧な所の、どこかの山の頂上にて、二人の間でそんな会話がされていた。

 

冷たい空気にさらされて、山頂から見える白夜の景色を眺めつつ、二人の人物は唐突に姿を消した。まるで空気に飲み込まれたかのように、もしくは最初からそこにいなかったかのように、ふと消えた。

 

後に残されたのは、山頂を撫でつける柔らかな風のみだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

「……ん……ここは」

 

ちかりと、瞼の裏からでもわかる眩い光。直射日光が目に辺り、わずかに細めながら自分のいる場所を見渡す。目が覚めた場所は、生い茂る木々に囲まれた、深い森の中だった。

 

目に優しい新緑に囲まれ、むくりと枝の上で器用にバランスよく起き上がったのは、見た目的には中学生程度に見える一人の少年。

 

柔らかそうな白い髪を風に揺らし、特徴的ではないありふれた私服に身を包んだ少年、白神(しらがみ)光努(こうど)は周りを見回してみる。

 

「森の中……みたいだが、どこだろうか?」

 

これまで何度か似たような旅行(?)をした事がある。事セッティングを楽し気に買って出たハクリの旅行プランは、毎回目的地へ、目覚めるといつの間にか着いていた、というような物だ。今回もそうだし、森の中で目を覚ました事は別に1度や2度ではないので特に不満や疑問は無い。

 

さて……どうするか。

どうせしばらくしてればハクリの方からコンタクトを取ってくると思うから、その間にこの辺りを散策してみるのもいいだろう。

 

まず楽しむ為には、それその物を知らないとな。

全く知らないで行き当たりばったりというのもまた楽しいが、知っている事で楽しめる事もある。

 

例えるならば、どこかの遺跡を探索するなら、その遺跡の名称、歴史、などを事前に知っていれば、また楽しみ方も変わってくるという物だ。

 

そんなわけで、とりあえず高めの木に登ってみるかな。

別に何とかは高い所が好き、という理論で登るつもりでは無いのであしからず。ただ単純に高い所の方が知らない場所では周りを見渡せるからいいというだけだ。

 

ちなみに狙撃手に狙われているなら目立つ場所は控えるように。狙われた事無いけど。

 

木々の高さはおよそ10メートル程。

足先に力を籠め、地面をわずかに凹ませつつ、中腹の枝へと一息に飛び乗った。

 

「さーて、どこかに面白そうな物はあるかなった。といってもそう簡単に建物が……あったよ!」

 

およそ1キロ程離れた場所に見えるのは、石造りでできた城のような豪華で堅牢そうな建物。結構大きく、敷地も広い。公共物には見えないし、ちらほら人が見えるから誰かの屋敷か?

 

掲げられた旗を見てみると貝とXの模様に動物のようなイラストが着いた赤黒い旗。

見たことない旗だな。そう思って旗の意味を考えるべき思考にふける――つもりだったけど、なんだか面倒そうだったし実際に行って現地人にでも聞けば一発だろうしな。

 

困った事があれば、人の聞くのが一番早い。

最も、そこに人がいる事と言葉が通じる事が前提条件だけどな。

 

「この世界の事が分かるといいな。楽しみ♪」

 

世界を旅してきた少年、白神光努は、木の上で髪をなびかせ、服をはためかせ、楽し気に笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

地球上の某所。

 

「さてと、落ちた場所はよりにもよって独立暗殺部隊ヴァリアーの本拠地か。光努君がどれだけ相手になるのやら。いや……彼らがどれだけ光努君の相手になるのか……かな?」

 

旅行と称して、光努をこの世界に連れてきた人物、ハクリ。

何を考えているのか、何を思っているのか、何をしているのか。

誰にも覚られず、誰にも気づかれず、どこかの誰かを彷彿とさせるように楽し気に、笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 


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