魔法使いとなった少年 作:199
翌朝起きると、すでに父さんがロンドンへ向かって車を走らせていた。おかしいなぁーまだ日が昇って間もない時間だと思っていたんだけど。そんな風に思考を飛ばしていたら助手席に座っていた母さんが、僕が起きたのに気付いたのか
「おはよう、優希」
と優しく声を掛けてくれた。思わず僕は
「なんで、もう車の中に僕は乗っているの!?」
と叫んでしまった。叫んだ僕は何らおかしくないだろう。誰が起きたらすでにロンドンに向かっていると思うものか。いや思うまい。
「別にいいじゃないか優希。それよりももうすぐロンドンにつくぞ。いやー楽しみだなぁ~魔法使いの世界!」
「そうね、あなた!魔法使いなんておとぎ話の中にしかないと思っていたから」
なるほど、ただ単に父さんと母さんが速く行きたかっただけなんだね。まぁ気持ちは僕にも分かるけどさ。いくらなんでも速すぎるよ……それにしても僕みたいに一般の人から魔法使いになるのはどれだけいるのだろう?少し気になるな。
そんなこんなしているうちにもうロンドンについた。ここが霧の都ロンドン!かのシャーロックホームズ生誕の地!まぁ読んだことはないけれど。
「よし、ちょうど駐車場も空いていたしこの漏れ鍋というところを探してみようか」
父さんから漏れ鍋を探すとの言葉を受けて僕たち一家はロンドンを歩き回った。昨日から思っていたことだが、漏れ鍋って何だ?手紙にはパブと書いていたが、いかにも繁盛しなさそうな名前だな。鍋が漏れていたらただの不良品じゃないか。魔法使いの感性が僕に理解できるであろうか。これでも僕はイギリスに移住するまで技術大国である日本に住んでいたのだ。やばい心配してきた。
歩き回ってもなかなか見つからず、どうしようかとポーとしていたらそれは見つかった。本屋とレコード店に挟まれたちっぽけなパブを。あわてて僕は二人に話してみた。
「父さん、母さん!あれ、本屋とレコード店の真ん中!」
「一体どうしたんだい?優希あそこに真ん中は無かった……あったねぇ」
「えぇ、本当にあったわねぇ。これが魔法の効果なのかしら?」
「とりあえず、入ってみようか。せっかく優希が見つけたんだから」
ということでさっそく入ってみた。入ってみると外見通りと言うべきなのか、暗くてみずぼらしい。よくつぶれてないなと思えるくらいだ。とてもここで教材などを売っているようには見えない。二人もそう思ったのか、ここの店員と思わしき人に尋ねていた。
「失礼、ここが漏れ鍋で間違いありませんか?」
「ええ、ここが漏れ鍋ですがどのようなご用件で?」
「いや、良かった。いえ実は今度うちの息子がホグワーツという学校に入学するのですが、その教材を買うのにここで聞いて下さいと手紙に書いてあったもので」
「おぉ、それはおめでたい!それならばご案内いたしましょう。ついて来て下さい」
どうやら、ここで買うわけではないようだ。ということは入口なのかな?ひとまず店員さんについて行くと壁に囲まれた小さな中庭についた。いや中庭といえるのか?
「それでは、見ていてください。ここを三回叩くと……」
凄い変化だった。父さんと母さんもビックリしている。いや普通そうなるよな。先程までただの壁だったレンガが見事なアーチになればさ
「ダイアゴン横丁にようこそ」
店員さんの歓迎の言葉も僕ら一家には届いていなかった……
さて気を取り直した僕たちは店員さんに両替するための銀行と大まかな店の場所を教えてもらってから初の魔法世界へと足を踏み込んだ。
さて、ここで一言いわせてもらいたい。なんだ!この場所は!突っ込みどころが色々ありすぎるぞ!魔法世界!いや実際に突っ込むと限りないから突っ込まないけど!そんな思いを抱きつつも無事にグリンゴッツなる魔法世界の銀行に到着した。……白いなぁー。
銀行に入ってみると何とも小さい人がいた。というか制服着ている奴らのほとんどが小さいし、頭が残念なことになっている。とりあえず驚きを胸に秘めつつカウンターへと足を運んで行った。
「失礼、こちらで両替できると聞いたのですが」
「はい、承っております。いくら両替いたしますか?」
「あぁ、この金額なんだが……」
カウンターについてから二人は小さい人と両替に口座・金庫の設立とドンドン進めていった。いや二人ともなんでそんなに早く理解できているの?あり得ないよ。ガリオンにシックルにクヌート?訳が分からないよ。というより凄い笑顔だなぁ~二人とも。もしかして新たなビジネスチャンス到来とか思っていないよね?確かめる勇気が僕にはないや。
幾ばくかの時間が過ぎてからようやく話し合い……もとい、両替が済んだようだ。二人はとてもいい笑顔だけど対する向こう側は見ているこちらが謝りたくなるくらいに悔しがっている。一体何をしたんですか、父さんに母さんは。
「優希にはまだ早いかな?いやそれにしても久々にいい戦いが出来たよ」
いや戦いって何ですか!?
「本当ね。私も久し振りに現役に戻ったみたいだったわ」
まさか母さんも同類なの!?
魔法世界の銀行で両親の知られざる一面を知った僕であった。
銀行から出た僕たちはいよいよリストにある様々な教材を買うことにした。ここで全部話すと小説一本分になるんじゃないのか?と思うくらいに様々なことが起きた。というより二人が巻き起こした。おそらく、このダイアゴン横丁で一躍有名人になったことだろう。その証拠に最終的には道行く人々に敬礼されていた。どうして、こうなった!?
そして、最後に魔法の杖を買うということで、敬礼をしていた人に聞いたお勧めのオリバンダーの店へと向かった。着いて看板を読むとこれまた突っ込みどころがあったが割愛することにする。そして僕はここで同じ一般人生まれの友達を得ることに成功した。
「優希見て御覧、高級杖メーカーだってよ?凄いね~」
「うん父さん凄いのは分かったから今までみたいな問題を起こさないでね。もちろん母さんもだよ?」
「?ねぇあなた、私たちなにか問題を起こしたかしら?」
「いや、特に問題は起こしていないはずだよ。せいぜいが疑問点について詳しく聞いたのと交渉をしたぐらいだし」
「いや、その二つが大きな問題なの!ハァ~もういいよ。さっさと店に入って杖を買おうよ……」
両親に少し釘を刺しつつ店内に入ってみるとすでに先客がいたようで、女の子が杖を振るたびにものが吹っ飛ぶといういかにも魔法らしい展開が僕たちを待ち受けていた。店長らしきおじいさんがこちらを向いて二言
「いらっしゃいませ。少々お待ち下さい」
と喋ってきたので、すぐ近くに居た女の子の両親らしき人達がいるのでそこに避難することにした。彼らに話を聞いてみるとあの、女の子も今年からホグワーツに入学するようだ。それに僕と同じ一般からの入学だ。友達になれるかな、どうかなぁ~と考えているうちにやっと女の子の杖が決まったようだった。何で分かったのかって?それは女の子が杖を振った瞬間になんだか共鳴みたいなことが起こっていたからさ。
「パパ!ママ!私の杖がやっと決まったわ!これで私も本格的に魔法使いになれるのね!……ってあら?あなたもこの店で杖を買いにきたのかしら?」
「うん、そうだよ。おっと、あいさつがまだだったね。僕は日本・ルーカス・優希と言います。よろしく」
「これは、どうもご丁寧に。私の名前はハーマイオニー・グレンジャーよ!ここで会ったのも何かの縁ですし、こちらこそよろしく!」
彼女の名前はハーマイオニーというらしい。僕からもよろしくと挨拶をして、少し話をしていた。生まれの話やら、魔法の存在を知ってどう思ったのかなどだ。話をしているうちに僕の杖を選ぶ準備ができたので、ホグワーツでまた互いに会う約束をして彼女と別れた。いや~ここまで性格的に合う子っているもんだなぁ~と思っていたら後ろで両親がにやにやしていた。なんとなく、恥ずかしい気分になった僕はおじいさんのところへ杖を選びにいった。
杖は何事もなく選び終わった。材質は桜の木で日本で生まれた僕としてはちょっと嬉しかった。やっぱし桜は日本人の心だよね。
全ての買い物が終わった僕たちは魔法世界に別れを告げて、家へと帰ることにした。帰る際に道行く人々から敬礼された。いや、正確にいうと店の人達からだ。本当におかしいよ。肉体的疲労よりも精神的疲労がものすごく大きかった一日だったな。