インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~ 作:さすらいの旅人
やっと更新する事が出来ました。
とは言え、内容が短いですが……。
取り敢えずどうぞ!
本音の飛び入り参加発言の翌日の早朝。
「ったく。ちゃんと時間通りに来るようにって言ったのにアイツは……」
「まあ、のほほんさんだから仕方ないだろ」
学園寮の外で竜爺の道場へ行く準備を終えた俺と一夏は本音を待っているが、集合時間が過ぎても未だに来る気配が無かった。
因みに今は朝七時過ぎ。ちゃんと七時までには来るようにと本音に言った筈だが、もう十分以上経っている。
「それにしても和哉、何で箒たちには内緒にしなきゃいけないんだ? 別にそこまでする必要は無いと思うんだが」
「昨日言ったろ。教えたら絶対自分も行くって言うだろうし、絶対に何かしらの騒ぎを起こして修行どころじゃなくなるって」
主に一夏関連でな、と内心付け加える俺。
「そ、それはいくらなんでもオーバーじゃ……」
「おいおい、先日の臨海学校の事をもう忘れたか? お前が夜の海で箒と二人っきりになってた時、アイツ等が何を仕出かしたのかを」
「……………ああ、そう言われれば」
夜の海でISを纏った鈴達に襲われたのを思い出すと、少し顔を青ざめる一夏。完全武装の人間相手に生身で襲われれば、誰だってそうなる。ISを使ってる一夏は色々な意味で耐性が出来てるからまだ良いが、もしただの一般人なら確実にトラウマとなるだろう。
因みにあの時は箒だったが、もし鈴達のだれかになってたとしても、箒も絶対に同じ事をしてると確信して言える。アイツは普段大人しいが、一夏関連の話題になるとバーサーカーの如く暴走するからな。尤も、それは鈴達にも言える事だが。
とにかく、箒達には何が何でも俺と一夏の修行の事を教えるわけにはいかない。さっき言ったように、箒達が道場に来たら絶対騒ぎを起こすのでそれだけは避けたい。もし騒いで大事になったら竜爺や綾ちゃんに多大な迷惑を掛けてしまうからな。
「まぁそれはそうと、俺は未だに部屋で寝てる本音を叩き起こして連れて来る」
「え? 何でのほほんさんが寝てるって分かるんだ?」
「これだけ待っても来ないって事はまだ寝てるって容易に想像出来るんだ」
恐らく本音の事だから、ルームメイトに起こされても『あと五分~』とか言いながら寝てるだろうな。因みに元ルームメイトの俺はもうそれは既に経験済み。
「取り敢えず一夏は此処で待っててくれ。もし箒達に見つかって何処へ行くと訊かれたら、そうだな……負けた罰ゲームで俺の地獄の訓練を受ける事になったって嘘を言えば大丈夫だ」
「………それって嘘なのか? 殆ど本当の事だぞ」
「大丈夫だ、アイツ等は俺の名前を使えば簡単に信じる。何せセシリア達は俺のペナルティを身をもって経験したからな。そんじゃちょいと行ってくる」
そう言った俺は一夏を置いて、すぐに学生寮に戻って本音のいる部屋へと向かった。
早朝の事もあって学生寮の廊下には誰もいなく、障害となるものが無いから疾足を使い、あっと言う間に本音のいる部屋前に到着。
部屋の号室を確認した俺はドアの前に立ち、コンコンっとノックをすると、すぐにドアが開く。開けたのは本音では無く、本音のルームメイトと思われる眼鏡を掛けたセミロングの女子だった。
「……貴方は」
「こんな朝早くたずねて申し訳ない。君は本……じゃなくて、布仏本音のルームメイトかい?」
「……そうだけど」
俺の問いに少し若干間がありながらも答える本音のルームメイト。何かこの人どこかで見たような気がするんだが、俺の気のせいだろうか。
「えっと、俺は一年一組の神代で――」
「知ってる。用件は?」
「おや、俺の事をご存知で?」
「貴方は有名だから学園中の誰もが知っている」
ですよね~。今更自己紹介なんて要らないのは分かってたよ。取り敢えず初対面だったから形式上に挨拶したけど余計だったか。
「だったら自己紹介は省かせてもらうよ。俺が此処に来たのは本……布仏に用があってな。アイツは今何してる? 今日出かける約束したんだが、未だに来てなくて」
「……本音ならまだ寝てる」
はぁっ……。やっぱ寝てたか。あれだけ時間通りに来いって言ったのにアイツは……本当にしょうがない奴だ。
「あ~、すまないけど布仏を起こしてもらえないか?」
「一応私も何回か起こしたけど、『あと五分』って言って未だに起きない」
「…………はぁっ」
ルームメイトの返答に俺は思わず溜息を吐きながら手を頭の上に置いた。本当に俺の思った通りの行動をしてるし。
「じゃあ布仏にこう言ってくれ。『起きないと俺は二度とお菓子を作らない』って。そうすれば絶対に起きると思うから」
「? ……分かった。ちょっと待ってて」
俺の伝言に本音のルームメイトは不可解に思いながらも頷いてドアを閉めた。
そして数秒後、
『わぁぁぁぁ~~! ご、ゴメンかず~! す、すぐに準備するからちょっと待ってて~!』
部屋の中からやっと起きた本音が慌てふためきながらバタバタと準備をしてる音が聞こえた。
お菓子を作らないと言われただけで、あそこまで焦るとは……。そんなに俺が作るお菓子が食べれなくなるのが嫌なんだろうか。
本音の行動に内心呆れているとドアが開き、再び本音のルームメイトが姿を現す。
「今やっと本音が起きて準備を始めてるから、少し待ってて」
「ああ、分かった」
頷いた俺は近くの壁に寄りかかって腕を組みながら待とうとしてると、本音のルームメイトが何故か部屋を出て俺をジッと見ていた。
「あの、そんなに警戒しなくても本音が来たら俺はすぐに――」
「……少し、貴方に訊きたい事がある」
「――え?」
突然の本音のルームメイトの台詞に俺は少し目を見開いた。
「訊きたいって何を?」
「……貴方は以前学年別トーナメントで宣言したあれは本気なの? 『IS学園最強』を目指すって」
「宣言? ………ああ、あの時のアレか。無論本気だ」
以前の事を思い出しながら答えると、彼女は不可解な顔をしている。俺何かおかしな事言ったかな?
「……理解出来ない。いくら貴方が強くても、絶対勝てないのに」
「いきなりだな。何故そう言い切る?」
否定された俺は思わず顔を顰めると、彼女は何か分かっているような感じで言ってくる。
「今まで自分の力に自信を持っていた人達が、姉さんに戦いを挑んで負けた後に打ちのめされていたのを何度も見てる」
「ほう……」
“姉さん”、ねぇ。この人もしかして、更識先輩の……。
「だから止めた方がいい。貴方もいずれその人達と同じ運命を辿るから」
「ご忠告どうも。生憎だけど、そんな事を言われて『はい、分かった』何て言って諦めるほど利口な人間じゃないんだ」
それに俺は実力差がある人との敗北なんてとっくに慣れてる。主に師匠である竜爺で。
「……負けると分かってても挑むの?」
「負けたら負けたで今後の参考にして、また挑戦して勝つつもりだ」
「………………」
「こっちも言わせて貰うが、更識さんは自分の姉を超えようとは思ってないのか?」
「! 名乗ってないのに何で私の名字を……!」
「いや、話の流れで君が更識先輩の妹だって分かったから。それに君、さっき自分で姉さんって言ってたし」
「………あ」
俺の指摘に本音のルームメイト――更識さんは思い出したのか、恥ずかしそうに少し顔を赤らめた。意外と抜けてるところあるんだな、この人。
「何かそう言うところ、あの勘違いしたドジっ子お姉さんとちょっと似てるな」
「………え?」
俺がボソッと呟くと、それを聞いた更識さんが物凄く信じられないような顔をした。俺、何か変な事を言ったか?
「それ、どう言うこと? 姉さんが――」
バタンッ!
更識さんが急に俺に何かを問いただそうとするが、突然本音の部屋のドアが開いた。
「かず~ごめん~! 準備できたよ~!」
「ったく。やっと終わったか」
準備を終えた本音が部屋から出てきて謝りながら近寄ってくる事に、俺は呆れながら溜息を吐く。言いたい事はあるが、今はそうしてる暇は無いので、俺はすぐに本音を連れて行こうとした。
「悪い更識さん。ちょっと急いでるんで、話はまた今度な」
「ま、待って! せ、せめて姉さんの事だけでも……!」
「それじゃ」
「それじゃあね、かんちゃ~ん」
本音を抱えた俺は疾足を使って一夏のいる所へと向かった。
◆
「き、消えた……?」
和哉が疾足を使っていなくなった事に、更識
(あれは確か学年別トーナメントでやってた。まさかISが無くても出来るなんて……)
さっきまで驚いていた簪だったが、すぐ冷静になって思い出す。そして、もう追いかけるのは無理だと分かった簪は諦めて部屋に戻ろうとした。
だが、
(でも、あれは一体どう言うこと? 姉さんが勘違い? ドジっ子? いつも完璧なあの姉さんが……)
和哉が姉の楯無に対して言った、あの言葉が物凄く気になっていた。和哉は何を根拠にあんな事を言ったのかを。
優秀で常に完璧と言われてる自分の姉が勘違いなドジっ子である訳がないと言い聞かせているが、簪は納得出来ないばかりか更に疑問が深まっていた。
(今度また会ったら絶対に……!)
和哉と会ったその時は何が何でも楯無の事を聞こうと決意し、現在開発中の専用機を組み上げようと――
(あ……彼の専用機について訊くのを忘れてた)
――していたが、姉の事ばかり考えてたせいで、和哉の専用機“黒閃”について尋ねる事を失念する簪であった。
今回は楯無の妹、更識簪との初会合でした~!