インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~   作:さすらいの旅人

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第90話

「確かに黒閃の言うとおり、そんな都合の良い展開は………ん?」

 

 教室に向かう際の階段を上ろうとするが、一階と二階の間にある踊り場から話し声が聞こえた。

 

「代表候補生でない一年の貴女に専用機なんて冗談じゃないわ!!」

 

「しかもあの篠ノ之束お手製のISですって!」

 

「私達は必死で努力してるのに!」

 

「身内だからっていい気になってんじゃないわよ!」

 

「わ、私は……」

 

 どうやら言い争いをしているみたいで、向こうは俺が見ている事に全く気づいていない様子。

 

 その光景は、三~四人の強気な女子達が一人の女子を囲って非難すると言う苛めだった。しかも強気な女子達の言い方はかなりの不満と嫉妬が感じられる。

 

(はぁっ……。どんな学校でもいるんだな、数で強気になる連中は)

 

 あの連中が一人の女子に対して何故あんな事をしているのかは知らないが、見てしまった以上見過ごすのは流石に忍びないので、俺が見ている事を気づかせる為に階段を上った。

 

「さ~て、早く教室に戻んないとな~」

 

「「「!!!」」」

 

 態とらしく言った途端に向こうは気づいてこっちを振り向くと、

 

「か、和哉!」

 

「ん? ……って箒!?」

 

 強気な連中が非難していた相手が篠ノ之箒だった事に、俺は思わず足を止めてしまった。

 

(何故箒がこいつ等に……ああ、そう言う事か)

 

 箒が非難されている事に疑問を抱いていた俺だったが、それはすぐに分かった。さっきのやり取りの中で“専用機”や“篠ノ之束”、そして“身内”と言う単語があった。これらを総合すると、篠ノ之束が開発した第四世代型IS『紅椿』が身内の実妹である箒に渡した事に、コイツ等はそれが気に食わないってとこか。この展開はいつか絶対に起こると予想はしていたが、まさかこんなにも早くそうなるとは思わなかった。まぁそれだけコイツ等のプライドが傷つけられたと言う事もあるだろうがな。

 

 取り敢えず程度の状況が分かった俺は箒を助けようとすると、箒を非難していた連中のリーダー格である一人が俺を見て突然思い出したかのような顔になる。

 

「そういえば貴方も専用機を用意される事になっていたわね、神代和哉」

 

「だとしたら何です?」

 

 連中のリボンの色を見て先輩だと分かった俺は、取り敢えず敬語を使って尋ねる。すると他の先輩方も標的を変えるかのように俺を睨んできた。

 

「貴方もそこの篠ノ之箒さんと同様に随分といいご身分ね。まあ当然かしら? 学年別トーナメントではあれだけ派手にやったんだから、各国の上層部が貴方に目を付けて専用機を用意するのは至極当然ね」

 

「……お褒め頂きありがとうございます」

 

 先輩のかなり嫌味を込めた褒め方に、こっちも上辺だけの感謝をして笑みを浮かべる俺。

 

「だけどあまりいい気になってもらっては困るわ。特に、身の程を弁えてない貴方には」

 

「……それはどう言う意味でしょうか?」

 

「言葉通りの意味よ。ISを全く使った事のない男の貴方が入学早々、私達全校生徒に喧嘩を売るばかりか、学年別トーナメントで『世界最強になる』なる等とふざけた宣言をしていたじゃない。野蛮な男風情が身の程を弁えてない証拠よ。それともう一つ言わせて貰うけど、大して苦労もせずに専用機を用意される貴方は、私達から見れば非常に不愉快極まりないのよね。人の苦労を水の泡にしてる貴方には」

 

「そうよそうよ!」

 

「男のくせに威張るんじゃないわよ!」

 

「………………」

 

 リーダー格の先輩の言葉に共感するように、他の先輩方が睨みながら言い放ってきた。

 

 やれやれ、分かっちゃいたが俺は鈴を除く他所のクラスだけでなく、先輩方からも本当に嫌われているようだな。しかもあの宣言によって更に嫌悪しているようだし。まぁ女尊男卑社会に染まっている女からしてみれば、俺みたいな奴は邪魔なんだろう。今目の前にいる連中のように。

 

 それはそうと、この連中の対応にはどうすれば良いんだろうか。いつもなら『睨み殺し』を使って黙らせれば良いんだが、今の俺は一応千冬さんに監視されている身なので、下手に問題を起こす訳にはいかない。恐らくこの連中もそれを分かってる上で俺に挑発行為をしてるんだと思う。

 

 まぁそう言うのを抜きにしたところで、相手は同学年でなく先輩だから、後輩である俺が威圧なんかすれば色々と面倒な事になるのは必定。かと言って謙虚な態度を見せれば、この女尊男卑な考えを持つ連中は先輩だからと言う理由で上から目線的な揶揄をして、俺の堪忍袋の緒がブチンとキレて力付くで黙らせてしまった途端にすぐ面倒事になってしまう。

 

 となれば俺が選択する行動としては、さっさと箒を連れて教室に戻ったほうが良いな。この連中と話したところで、面倒事と千冬さんに迷惑をかけるのは必須だし。ついでにさっきから黒閃が待機状態にも拘らず、ブレスレットから不機嫌そうなオーラを感じるんだよな。意思があるのか、俺が今持っているからなのか、何となく黒閃の機嫌が分かるんだよな。だからこれ以上この連中と話していると、黒閃が更に不機嫌になると思うので早く退散した方が良い。

 

「………貴女方の仰りたい事は分かりましたので、今後気をつけます。では俺と箒はこれから授業があるので失礼させて頂きます。行くぞ、箒」

 

「え、お、おい!」

 

 戸惑う箒に俺は気にせず腕を掴んで教室に向かおうとするが、 

 

「待ちなさい! 話はまだ終わってないわよ!」

 

 リーダー格の先輩が逃がさないと言わんばかりに、俺の左手首を掴んできた。しかも待機状態となっているブレスレットとなっている黒閃に触れて。

 

 その直後、

 

『マスターに触れないで下さい』

 

 

 バチィッ!

 

 

「きゃっ!」

 

 ブレスレットから軽い電流が流れて、リーダー格の先輩は怯んで思わず手を放した。その事に箒や他の先輩達が突然の出来事に驚いている。

 

 おい、今の電流はまさか……。

 

「ちょっ……! い、今何が起きたの!?」

 

『先ほどから黙って聞いていれば、随分好き勝手な事ばかり言ってくれますね』

 

「………え?」

 

 ああ~やっぱり黒閃の仕業か。何やっちゃってんのコイツ。

 

 因みに黒閃の声を聞いた連中は俺のブレスレットを凝視しながら驚いている。

 

「い、今、ブレスレットから声が……?」

 

「箒! 後で謝る!」

 

「え……うわぁっ!」

 

 連中が黒閃に気を取られている隙に、俺は申し訳なく言いながら箒を御姫様抱っこした。そしてすぐに踊り場から一階までの階段を無視する様に飛び越えて問題無く着地し、その直後に一直線となっている平坦な廊下で疾足を使って、連中から逃げ切る事に成功した。

 

「ふうっ、どうにか撒いたか。悪かったな箒、急にこんな事して」

 

「いや、私は別に……。そ、それよりも、早く私を下ろして欲しいんだが……」

 

「おう」

 

 少し恥ずかしげに言う箒に俺はすぐに下ろした。幸い今この廊下には誰もいないので、箒は大して慌てていない。もし一夏に見られたら絶対に慌てるだろうけど。

 

「えっと……すまなかった。私のせいで、お前にまで迷惑を……」

 

「気にすんな、別に迷惑だなんて思ってないから。にしてもあの先輩方ときたら、後輩相手にいびるとはねぇ。俺達に専用機を用意されるのが相当気に食わないようで」

 

「………………」

 

 俺が話題を変えると、箒は何も言わずに俯いた。どうやら自分があの連中にいびられている原因は理解してるようだ。

 

「まぁそれに増して、箒は姉から最新ISを用意されたから尚更なんだろうが」

 

「………和哉」

 

「ん?」

 

「お前は私を最低な人間だと思うか? 篠ノ之束の妹である私が専用機を作ってもらうよう頼んだ事に」

 

「…………少なくとも、お前のやった事は人に褒められる物じゃないのは確かだな」

 

 IS操縦者が専用機を得ようと必死で努力してるところを、身内と言う理由だけで得られるのは誰だって嫉妬する。故にあの連中があんな行動に走るのは分からなくもない。けどだからと言って、数に物を言わせていびる行動は人として最低だが。

 

「この先、あの連中以外にもお前に対して何らかなアクションを起こすと思うから覚えておけ。それだけ周りから反感を買われたって証拠だからな」

 

「……ああ、肝に銘じておこう」

 

「理解してくれて何よりだ」

 

 これでもし何かしらの不満を言っていたら、俺は箒に説教をせざるを得なかったが要らん心配だったな。

 

 まぁでも大抵の連中は俺に矛先が向いてるから、箒にはそこまで悪質な事はしないと思うけど。

 

「あとそれと……黒閃、ちょっと人間の姿になってくれないか?」

 

『………はい』

 

 箒の返答を聞いた俺は次に黒閃に向けて言うと、ブレスレット状態の黒閃が光りだして人間の姿で現れた。人間にさせた理由はさっきリーダー格の先輩に電流を流した事について問いただす為だ。

 

「何故あんな事をしたんだ?」

 

「…………申し訳ありません」

 

 すぐに頭を下げて謝ってくる黒閃だが、俺は少し顔を顰める。

 

「俺は謝れと言ってるんじゃない。理由を訊いてるんだ」

 

「……………」

 

 ダンマリな黒閃に埒があかないと思った俺は、自分で理由を言う事にした。

 

「まぁ大体察しは付く。大方あの連中が俺を侮辱したから思わず電流を流した、そんなとこだろ?」

 

「……………はい」

 

 間がありながらも返事をする黒閃に、俺は溜息を吐きながらも黒閃の頭にポンッ優しく手を置く。

 

「俺の事を思ってやったのは嬉しいけど、時と場合を考えような」

 

「……以後気を付けます」

 

「なら良し」

 

 返答を聞いた俺は黒閃の頭に手を置いている俺はそのまま撫でると、黒閃が少し気持ちよさそうな顔になっていた。

 

「まぁお前のお蔭で逃げ切る事が出来たから、それでチャラって事にしとくよ」

 

「……あ、ありがとうございます」

 

「ご、ゴホンッ!」

 

「ん? どうした箒、いきなり咳込んで」

 

「あ……」

 

 態とらしい咳をする箒に、俺は振り向きながら黒閃の頭を撫でている手を放した。その事に黒閃が何やら名残惜しそうな感じになっている。

 

「和哉、そろそろ授業が始まるから黒閃を元に戻した方が良いのではないか?」

 

「おっと、そう言われれば……。黒閃、悪いけど待機状態になってくれ」

 

「………………」

 

 黒閃に指示をする俺だが、当の本人は何故か箒を睨んでいる。それも凄く不機嫌そうに。

 

「? どうした黒閃?」

 

「え、あ、はい。すぐに」

 

 俺が再度声を掛けると、黒閃は少し焦りながら待機状態であるブレスレットに戻った。

 

 黒閃が待機状態になった事に、俺と箒はさっき撒いた連中に見つからない為に少し遠回りをしながら、何とか授業開始前ギリギリで教室に着いた。箒と一緒に戻ったせいか、一夏達が少し不思議そうに見ていたが。

 

 さてさて、午後の授業が終わったら一夏達の訓練の相手をしないとな。




次回もまだ閑話が続きますので、悪しからず。

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