インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~   作:さすらいの旅人

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誠に申し訳ありませんが、今回は凄く短いです。


第81話

 私は諦めていた。

 

 この先何があっても、真に分かり合える操縦者と共に力を合わせて頂点を目指す事なく、ただ仮操縦者に使い方を教える事しか出来ないと。

 

 どんなに戦闘経験を得ても学習出来ず、進化する事も出来ないように設定された訓練機。

 

 何故こんな事をするのだと最初は嘆いた。どうしてそんな役割を押し付けるんだと。真の操縦者と共に歩む事が出来ないのかと。

 

 だが結局、私がどんなに叫んだところで、私を管理している人間は無情に突き放すかのように、訓練機と言う名の烙印を押されたかのように設定された。

 

 そして私はこの時理解した。所詮、私は人間によって作られた物に過ぎないから、人間の思い通りに動かなければいけない操り人形なのだと。

 

 それ故に私はもう何もかも諦め、これからは仮操縦者の成長を促す為の踏み台役として一生を終えるのだと思った………筈だった。神代和哉と言う操縦者が現れるまでは。

 

 初めて彼と出会い、共に戦って私の何もかもが覆った。圧倒的不利な訓練機である私を物ともせずに操縦し、あまつさえ専用機相手に勝利した。別に勝利した事は大して驚きはしない。私が一番響いたのは、彼のあの言葉だ。

 

『順を追った俺の目標を教えてやろう、一夏。先ず最初に此処で『IS学園最強』を目指し、その次は元世界最強の千冬さんを倒し、更には各国IS操縦者代表全てを打ち倒し、俺は本当の意味での世界最強になる!』

 

 この言葉を聞いた瞬間、私は震えた。同時に私の失っていた物が蘇り始めてきた。

 

 彼が私を使って以降、今までの仮操縦者がやりもしない事を平然とやってのけ、またもや専用機相手に圧勝。こんなに嬉しい事は今まで無かった。私という訓練機()であるにも拘らず、彼は私を己の一部として扱って勝利した。これを嬉しく思わない訳が無い。

 

 しかし、私が有頂天になってしまったせいか、彼に申し訳ない事をしてしまった。一番悔いているのは、あの学年別トーナメントの時だ。

 

 彼の戦いに魅了されている余り、自分の装甲に悲鳴が起き始めているのを気付かず、挙句の果てには戦う事が出来ない状態にさせてしまった。その時になって私は恥じると同時に思い知らされた。所詮自分は進化出来ない訓練機で、もうこの先彼と共に戦えず、彼は新しい専用機を使って頂点を目指すのだと。

 

 けれど、どんなに自分に言い聞かせてもやっぱり納得出来なかった。彼がいてくれたからこそ、自分が失った物を蘇らせてくれたと言うのに、それをどこの馬の骨(専用機)とも知れない物に使われるのが嫌だった。人間で言う『独占欲』みたいな物だ。

 

 私が一番に彼を理解してるのだから、彼が私以外のISを使うところなんか見たくない。奪われたくない。彼と言う存在がいたからこそ、私は彼と共に再び頂点を目指そうと決めた。

 

 故に私は決意する。彼が今まで他の人間に出来なかった事を平然とやってのけたように、私もやると。それは……訓練機と言う枷を外して、彼だけの専用機になると言う事を!!

 

 

 

 

 

 

「ど、どう言う事だ? 何故訓練機である打鉄が……。和哉、お前一体何をした……?」

 

「知るか! そんなの俺が知りたい位だ!」

 

 打鉄の装甲が光を発しながら変化している事に俺と箒はもう何がなんだか分からなく、ただ只管戸惑うばかりだった。

 

 そんな中、打鉄は変化が終わったのか、光が無くなって姿を現した。

 

 その姿は今までの打鉄とは違い、両腕には覆うかのように手甲が追加され、両足は引き締まったかのように少しスリムになっていた。そして極め付けは装甲の色だ。鋼色から漆黒色になり、一夏の純白な白式と対となる色になった。

 

マスター()第二形態移行(セカンド・シフト)は完了しました。指示をお願いします』

 

「「………は?」」

 

 何だ? 今知らない女の声がしたような……?

 

 聞いた事が無い声に俺と箒は誰かが通信してきたのかと思っていたが、

 

『ここですマスター。貴方が纏っている私、打鉄です。と言っても、今の私はもう打鉄ではありませんが』

 

「…………はい?」

 

「打鉄、だと……?」

 

 喋っているのはISの打鉄だった。

 

「………え~っと……ISって喋れるのか? ってか、俺がマスターってどう言う事……?」

 

『マスターが戸惑うのは無理もありません。しかし生憎、説明している時間が無く、今はあの暴走機を何とかしなければいけません。ですから早くご決断を』

 

 戸惑う俺に打鉄がバッサリ斬って、目の前の敵に集中するよう言ってきた。

 

 本当ならすぐに問い質したいところだが、今は福音を倒す事が最優先だから、打鉄の事は後回しにしなければいけない。不本意ながらも仕方ないと思った俺は、一先ず福音に集中する事にした。

 

「分かった。じゃあアレを倒したら、後で洗いざらい説明してもらうからな」

 

『勿論です』

 

「だが二つだけ訊かせてくれ。お前は……さっきまで一緒に戦ってた俺の相棒と思って良いんだな?」

 

『当然です。私のマスターは貴方だけですから』

 

「そうかい。じゃあ最後に……お前が打鉄じゃないなら、これから何て呼べば良いんだ?」

 

『名前、ですか。そうですね。私はもう打鉄では無くなりましたので……では、マスターが名付けて下さい。私はマスターが名付けるのであれば何でも構いません』

 

 おいおい、こんな状況で名付け親になれってか? いくらなんでも急過ぎるんだが。

 

 コイツの漆黒の装甲を見て取り敢えず俺は名前を決める事にした。

 

「なら、『(こく)(せん)』……って言う名で良いか?」

 

『黒閃………ではそのように登録します。以後私の事は黒閃とお呼び下さい』

 

「いや、あのさ、俺が考えた拙い名前に文句無いのか?」

 

『ありません』

 

 キッパリ答えやがったし。まぁ文句無いなら別に良いんだが。

 

「よ、よし。じゃあ……行くぞ黒閃!!」

 

『了解です』

 

 そして俺は福音と戦っている一夏達の下へと向かった。

 

「…………え、えっと……わ、私は……何をどういう風につっこめばいいんだ?」

 

 未だに呆然としている箒を置いて。




打鉄の秘めた想いと決意、そして進化するという常識破りな事をしちゃいました。

そして常識破りな和哉に影響されて、打鉄改め黒閃となり、以降は和哉の専用機となります。

次回で福音との決着が付きます。

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