インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~ 作:さすらいの旅人
それではどうぞ!!
「よしっ。初めての集団戦闘にしては先ず先ずってところか。鈴、かなり被弾してたが大丈夫か?」
爆発したのを見ても俺は一切警戒を緩めずに無人島を見ながら、鈴の安否を確認する。いくら福音があれをまともに喰らったとしても、撃墜したとは限らないからな。
「この程度何でもないわよ。っていうか和哉、アンタ指揮官役に徹するって言ってたくせに何で前に出たのよ? 更には美味しいところまで掻っ攫うんだから……!」
鈴はいつもの憎まれ口を叩きながら文句を言って来て、俺は内心安堵しながらも溜息を吐いた。
「よく言う。お前が気を抜いたから前に出ざるを得なかったんだ」
「なっ! べ、別にあたしは――」
「そんな事より、今は目の前の敵に集中しろ。まだ斃したのを確認してないんだからな」
「え? あれをまともに喰らったら流石に――」
鈴が言ってる最中、突然無人島にある周囲の自然が強烈な光の玉によって吹き飛んだ。
「チッ……。やはりそう簡単には倒せない、か」
若干ボロボロになっている福音が姿を再び現した事により思わず舌打ちをする俺と、驚愕している箒達。
そんな中、光の球状によって無人島の部分が抉り取ったかのように無くなっており、まるでそこだけスプーンで掬ったかのようにへこんでいた。その中心には、青い雷を纏った福音が自らを抱くかのように蹲っていて、被弾した装甲が修復されつつあった。
「っ! 装甲が修復されているだと……! まさかこれは!」
「!? まずいぞ師匠! これは――『
俺とラウラが叫んだ瞬間、まるでその声に反応したかのように福音が顔を向ける。
無機質なバイザーによって覆われた顔からは何の表情は読み取れないが、そこからは明確な敵意、そして俺に対する殺意が伝わってきた。
「全員! すぐに散開を――」
『キアアアアアアア!!!!!』
福音が獣の咆哮の様な声を発して、そのまま俺へと飛び掛かって来た。
「くっ!」
あまりに速い動きだったが、俺は即座に『疾足』を使い、足を掴もうとした福音から辛うじて逃れる事が出来た。だが福音はすぐさま俺を捕まえようと接近してくる。
翼を毟り取られた仕返しをしたいのか、俺を指揮官の頭と認識して先に潰そうとするかのどちらかと思うが、顔が見えずとも殺意が伝わってくるから間違いなく前者だ。
『キアアアアアアッ!!』
「このっ! そんなに俺が憎いか福音!?」
近接戦で挑んでくる福音に、俺は刀を展開して防御に徹していた。本当なら刀は不要だと思われるだろうが、何故か奴に掴まれたら不味いと俺の防衛本能が叫んでいた。
俺が福音の攻撃をかわしている最中、鈴が切断した部分と俺が引っこ抜いた部分から、ゆっくり、ゆっくりと、まるで蝶が
「何…だと!?」
思わずエネルギーの翼を見てしまった為に、福音はその隙を突くかのように俺の両腕を掴もうとした。
「和哉をやらせないよっ!」
シャルロットが俺を援護する為に、すぐさま武装を切り替えて近接ブレードによる突撃を行う。
だが、その刃は俺を掴もうとした片手で受け止められてしまった。その直後、福音は眩いほどの輝きと美しさを併せ持ったエネルギーの翼でシャルロットを包み込もうとする。
「やらせるかよっ! 『飛燕双脚』!!」
両脚を交互に高速で振り上げ、二つの衝撃を福音に命中させて怯んだのを見た俺は、シャルロットを片腕を掴んですぐに離脱する為に全速力でその場を離れた。
「ご、ゴメン和哉!」
「謝るのは後にしてくれ!」
逆に助けられてしまった事に謝るシャルロットだったが、俺はどうでもいいかのように切って捨てる。そして離脱する俺を見た福音は逃さんと言わんばかりに、凄まじい機動力で俺目掛けて追跡して来た。
(あくまで俺が狙いか。ならばシャルロットがいたら不味いな)
「か、和哉! もう大丈夫だから早く放しうわぁぁぁぁ!!!」
福音の攻撃に巻き込まれないよう、俺は投げ捨てるようにシャルロットを海へと放り投げた。いきなりの事にシャルロットは体制を立て直す事が出来ずにそのまま海に激突する。
俺はそのまま上空へ向かうと、シャルロットを無視して俺と同様に上空へ追いかけて来る福音。凄まじい機動力ゆえに、俺との距離がドンドン縮まっていく。
(奴との接触まであと300……200……100)
俺と真下から追いかけて来る福音との距離があと100メートル。そしてあと50メートルになったところで、福音は右手を伸ばして俺の片足を掴もうとする。
それを見た俺は笑みを浮かべて、
「引っ掛かったな!!」
『!』
すぐにスラスターを急停止をして、そのまま垂直に急降下し、
ダァァァァァァンッ!!
俺の両足は福音の顔面目掛けて激突した。
急降下で落ちてくる俺の攻撃に、凄まじいスピードで急上昇してくる福音。途轍もない音が聞こえるのは当然だ。
俺の攻撃をモロに顔面ヒットした福音は凄まじい衝撃とありえない攻撃だったせいか、金縛りにあったかのように動きが止まっていた。
当然、その僅かに出来た隙を俺は見逃す事無く、踏んでいる福音の顔面を踏み台にするかのようにジャンプし、持っていた刀を上空へ放り投げてすぐ福音に攻撃を仕掛ける。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
拳の高速ラッシュを繰り出す俺に、福音は攻撃を受けながらも俺の腕を掴もうとすると同時にエネルギー翼を展開するが、俺はさせんと言わんばかりに福音の右腕を両手で掴み取る。
「おらぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!」
ブンブンブンッと全力で福音を振り回し、
「そのまま海に激突しやがれぇぇぇ~~!!!」
振り回す勢いが最高潮になってすぐ真下にある海目掛けて投げ落とした。
「はぁっ……はぁっ……これで少しは……なっ!?」
しかし福音は海に激突する寸前に急停止して海のダイブから逃れ、そのまま翼を広げてエネルギー弾を俺に向かって撃ってくる。急な反撃により、俺はすぐにそこから離脱する事が出来なかった。
「くっ! 逃げ切れん!」
大量のエネルギー弾がコッチ目掛けて撃ってくると、突然スローになった。エネルギー弾、福音の動き、周囲の物全てが何もかもスローだった。そして同時に俺の今までの過去が鮮明に思い出してくる。
それは俺が幼い頃に初めて師匠の竜爺に会った時、竜爺の厳しい修行を受けている時、一夏や弾と友達になった時、そしてIS学園での出来事が全て浮かんできた。
(そうか。これが竜爺が言ってた、死の直前に起きる走馬灯って奴か。まさかこんな早く見る事になるとは)
俺はもうじき死ぬんだと理解し、目の前にあるエネルギー弾からも逃れられないと悟り、諦めが付いたかのように目を閉じた。
(すいません千冬さん。やはり俺、生きて戻る事が出来ないみたいなので、責任は全てあの世で取ります。それと悪いな一夏、俺はここまでだ。俺の分まで長生きしてくれ)
千冬さんと一夏に深く謝りながら過去のことを思い出してると、
『このばかもんがぁぁl!!』
(!!!)
突然、師匠の竜爺が『咆哮』を使っての怒鳴り声が浮かんで閉じていた目を開いた。
『ワシを倒すのが目標ならこのような所で死ぬでないわ!! お主それでもワシの弟子かぁぁ!!?? ワシの弟子であるならこの程度の死地を乗り越えて見せよ!!!』
(………そうだ! 俺は……まだ!!)
◇
「「「和哉っ!!」」」
「和哉さんっ!!」
「師匠っ!!」
福音が上空にいる和哉に大量のエネルギー弾を放つのを見て、箒達が悲痛な叫びをあげる。誰もが理解してるからだ。あの大量のエネルギー弾はいくら和哉でも避けきれなく、そして死んでしまうと。
和哉を助けに行こうとする箒達だったが、距離が余りにも離れすぎてソレが叶わないと分かりながらも必死に向かっていた。
そしてエネルギー弾が和哉に当たろうとする瞬間、和哉がいきなり決意するかのように上空から落ちてくる刀を片手で掴み、
「でぇぇぇりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!!!!」
和哉は途轍もない速度で刀を振り回して、向かって来るエネルギー弾全て弾き飛ばした。そして弾き飛ばされたエネルギー弾は四方八方へと散らばり、海や無人島に激突して爆発した。
余りの出来事に箒達だけでなく、エネルギー弾を放った福音までもが呆然と動きを止めているのであった。
「え……な……な、い、今……何が……起きたんだ……?」
「え、えっと……あ、あ、あたしの目には……和哉が……」
「か、か、か和哉さんが……あ、あ、あ……あの……た、た、た大量の、弾幕を……」
「ぜ、ぜ……全部、か、か、刀一本だけで……」
「す、全て……は、は、弾き飛ばしたのか師匠!?」
余りにも驚きすぎて言葉の呂律が回っていない箒達。途轍もなく人間離れした荒技を和哉がやってのけたのだから、彼女達がそうなるのは無理もない。
加えて、福音すらも和哉のとんでもない行動をした事によりデータ解析をしているが、
「ぜえっ! ぜえっ! ぜえっ! は、はは。やっぱ人間その気になれば、何でも出来るな……」
エネルギー弾を全て弾き飛ばした和哉は大きく息を荒げながらも笑みを浮かべていた。
しかし、今の和哉はさっきの刀弾きでかなり体力を消耗し、必死に福音を注視して構えているのが精一杯だった。
そんな和哉に福音は、エネルギー弾を放つより接近して倒した方が良いと判断したのか、そのまま一直線へと和哉に向かっていく。それを見た箒達は一気に覚醒して、すぐに和哉の援護に向かおうとするが一足遅かった。
「ちっ! やっぱそう来るか! さあ来い!」
そして福音が翼を使って俺を包み込もうとするのを、和哉は迎撃しようとするが、
ィィィィンッ……!
『!?』
「んなっ!?」
ぶつかり合う寸前に、突然割って入るかのように何かが福音に命中してそのまま吹き飛んだ。
(い、今のはセシリアか? いや、さっきのはレーザーじゃ――)
戸惑う和哉の耳に届いたのは、予想外の声だった。
「俺の仲間は、誰一人としてやらせねえ!」
和哉の視線の先には、白く、輝きを放つ機体がある。
「お、お前……」
突然の乱入者に和哉は驚愕するばかり。
何故なら和哉の視界には、今までと違う白式を纏った一夏がいるからだ。