インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~   作:さすらいの旅人

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第68話

ムニュッ!!

 

 

「!?!?!?」

 

 突然セシリアの尻を鷲掴みにする千冬さん。それによってさっきまで眠りかけてたセシリアは一気に覚醒する。

 

「おー、マセガキめ」

 

 そう言う千冬さんの顔は悪戯が成功した顔になっているが、それは子供っぽさの欠片も無く、言うなればアレは豹の笑みだ。

 

「しかし、歳不相応の下着だな。そのうえ黒か」

 

「え……きゃあああっ!?」

 

 千冬さんはセシリアのお尻を下から掬い上げるように掴んだ事により、捲くれ上がった浴衣の裾からヒップが露わになっていた。

 

 っと、いかんいかん。思わず見てしまったが、ちゃんと後ろを向いておかないとセシリアに何言われるか分からんからな。

 

 しかしまあ、セシリアが黒の下着を穿いて来るとはな。千冬さんの言うとおり、おませにも程があるっての。確か黒い下着ってのは大人びた女性が穿くものだと聞いたが、セシリアにはまだ早いと思う。

 

 因みに一夏も俺と同じく捲れ上がった下着を見ないように顔を背けているが、セシリアは見られてしまってる事に気付いてた。

 

「せ、せっ、先生! 離してください!」

 

 真っ赤になってそう叫ぶセシリアに、千冬さんはあっさりと離した。

 

「やれやれ。教師の前で淫行を期待するなよ、十五歳」

 

「い、い、いっ、インコっ……!?」

 

「冗談だ。あと、それと――」

 

「そこの4人。いつまでもドアの前で聞き耳を立ててないで、いい加減入ってきたらどうだ?」

 

 千冬さんが言おうとする前に俺がドアに向かって言うと、

 

「「「「……………」」」」

 

 沈黙の中の数秒後にはドアがゆっくりと開き、そこに立っていたのは旅館の浴衣を着た箒に鈴にシャルロットにラウラだった。

 

「何だ。やはり神代も気付いていたのか」

 

「当然です」

 

 だってアイツ等、気配丸分かりだったし。特に軍人のラウラですら、気配を隠さず聞き耳を立てる事に集中してたからな。

 

「一夏、マッサージはもういいだろう。ほれ、全員好きな所に座れ」

 

 俺の返答を聞いた千冬さんは一夏にそう行った後、経っている箒達を手招きし、四人はおずおずと部屋に入る。そして各人が好きな所に座っていると、マッサージを終えた一夏が汗を掻いている様子だった。

 

「ふー。さすがにふたり連続ですると汗掻くな」

 

「あのなぁ一夏、少しは後先考えてマッサージしろよ。セシリアにもする予定なら、軽めに済ませるとか」

 

「全くだ。神代の言うとおり、少しは要領よくやればいい」

 

「いや、そりゃせっかく時間を割いてくれてる相手に失礼だって」

 

「はぁっ……。お前って相変わらずバカ正直だな」

 

「愚直とも言えるな」

 

「和哉、千冬姉、たまには褒めてくれても罰は当たらないって」

 

「だそうですよ、千冬さん? どう思います?」 

 

「さあ……? どうだかな」

 

 この部屋の住人である俺達の会話を見て、箒達は漸く状況を飲み込んだようだ。特に箒と鈴はシャルロットとラウラを連れてくる前まで、未だに誤解してたからな。

 

「は、はは……はぁ」

 

「ま、まぁ、あたしはわかってたけどね」

 

 マッサージをしてると分かった箒はズルリと脱力し、鈴は妙な強がりを見せてる。ってか鈴、今更そんな強がったところで誤解してたのは分かってるからな。

 

「「………………」」

 

 そして、ついさっきまで聞き耳を立てていたシャルロットとラウラは、顔を真っ赤にして俯いていた。どうせコイツ等も箒達と同じくエッチな事をしてると誤解してたんだろう。もし小学生の綾ちゃんだったらマッサージをしてるとすぐに分かるんだが……年頃と言うか耳年増と言うか、ついソッチ方面に考えてしまうんだな。

 

「まあ、一夏はもう一度風呂にでも行ってこい。部屋を汗臭くされては困る」

 

「ん。そうする」

 

 千冬さんの言葉に頷いた一夏は再び風呂に入るためにタオルと着替えを持って部屋を出て、

 

「じゃあ俺は土産物コーナーにでも行くか。買いに言っても良いですよね? 千冬さん」

 

「ああ、構わん」

 

「そんじゃ皆さん、どうぞごゆっくり」

 

 土産を買いに千冬さんから許可を貰った俺も一夏と同じく部屋を出た。

 

「あれ、和哉も風呂か?」

 

「いいや。俺は土産物に用があるんだ」

 

 俺も一緒に部屋に出たのを見て尋ねる一夏に俺がそう答えながら、途中まで一緒に歩く。

 

 そして土産物コーナーに着き、俺は早速どれを買おうかと品定めを始めた。

 

「さてさて、ここは無難に食べ物でもするか」

 

「誰にやるんだ? ひょっとして和哉の師匠にか?」

 

「まあな。もうついでに綾ちゃんにも買う予定だ」

 

「綾ちゃん? 確かその子って、和哉の師匠の孫娘だったか?」

 

 思い出すように訊いて来る一夏。臨海学校前に少しだけ綾ちゃんの事を話したのを憶えていたみたいだな。

 

「ああ、機会があったら一夏に紹介するよ。先に言っとくが、綾ちゃんは小学生だから間違ってもいつもみたいに口説くんじゃないぞ」

 

「何でそうなる!? ってか俺は誰も口説いてなんかいないぞ!」

 

 よく言う。中学時代ではたくさんの女子を散々口説いたろうが。と言ってもコイツは絶対に否定するけど。

 

 まぁ実際は無自覚で女子を落としていたんだがな。

 

「ハッハッハ、冗談だ。でもあの子は結構可愛いから、もしかしたら綾ちゃんが無自覚にお前を惚れさせるかも」

 

「お前なぁ……何で俺が小学生の女の子に惚れるんだよ。普通ありえないだろ」

 

 ハハハ~、一夏は綾ちゃんに会った事ないからそんな台詞が言えるんだよ。あの子はこれまで無自覚に年上の男を惚れさせたから、色々な意味で凄いぞ。ある意味一夏と同類かもしれないが。

 

 因みに俺は小さい頃から綾ちゃんを見てるから、別に恋愛感情はなく妹としか見てない。

 

「まぁそんな事より、俺としては今一番気になるのは………お前さ、アイツ等の事をどう思ってるんだ?」

 

「え、アイツ等って……?」

 

「今俺達の部屋でガールズトークしてる箒達だ。まぁ一人だけは少々歳食って“ガール”と呼ぶには無理があるがな」

 

 俺の発言に一夏は少々焦ったような顔をする。

 

「おいおい、もし千冬姉がそれ聞いたら絶対怒るぞ?」

 

「ほう? 俺は別に千冬さんと一言も言ってないが、お前はそう思っていたみたいだな」

 

「え? ………あっ!」

 

 嵌められた事に気付く一夏だったが既に遅い。

 

「フッ。じゃあこの事はお互い千冬さんには内緒に、な」

 

「くっ……」

 

 ニヤリと笑みを浮かべてポンポンと一夏の肩を叩く俺に、一夏は一杯食わされたように悔しそうにしていた。

 

「とまあ、それは置いといて、だ。話しを戻すが、一夏は箒達をどう思ってる?」

 

「どうって……別に箒はファースト幼なじみで、鈴はセカンド幼なじみで、セシリアとシャルとラウラはクラスメイトで……」

 

「………俺が訊いてるのはそうじゃなくてだな」

 

 やっぱ根っからの唐変木だなコイツ。箒達が異性として好きだって事を全然気付いてないよ。まぁ箒達も中途半端なアプローチばかりしてるから、一夏に想いが伝わらないし。一応ラウラはストレートに想いを伝えてるんだが、偏りすぎた日本の知識を吹き込まれている所為で逆に一夏を戸惑わせているので箒達と大して変わらないし。

 

「はぁっ……。この鈍感は何でこう――」

 

「誰が鈍感だよ。ってか、鈍感は和哉だろうが」

 

「は?」

 

 何言ってんだコイツ?

 

 俺が不可解な顔をしてると、一夏は反撃するかのように追求しようとする。

 

「お前、のほほんさんとは未だに友人だとか言ってるけど、コッチから言わせれば恋人同士みたくイチャ付いてるように見えるぞ。特にのほほんさんに抱きつかれてるところとか……」

 

「何故そこで本音が出てくるのかは知らんが、アレは単に本音のスキンシップだろ。現にアイツはお前相手にも引っ付いてくるんだから」

 

「それは、そうだが……でも俺の時はあくまで腕だけで、和哉の場合は身体全体に抱き付いてくるから、明らかに違うと思うぞ……?」

 

「そうか? 俺はあまりそこまで考えてはいなかったが……」

 

 てっきり相手を問わず引っ付いてるだけだと思っていたんだが、一夏は意外と観察してるところがあるんだな。

 

「あと前から思ったんだが、和哉ってのほほんさんに抱き付かれても大して驚いてないよな? 何か抱き付かれ慣れてるみたいな感じが……」

 

「ああ。そう言うのは綾ちゃんで慣れたんだ。あの子は少々甘えん坊なところがあって、何かあると俺に抱き付いてくるから、それでもう慣れてしまったんだよ。だから本音が俺に抱き付いても、つい綾ちゃんみたく――ん?」

 

 

 ギュッ!

 

 

 突然気配が感じた俺は振り向こうとするが一足遅く、誰かが俺の背中に抱き付いて来た。と言っても、抱き付いて来た相手はもう分かってるけど。

 

「ちょっとかずー、綾ちゃんに抱きつかれ慣れてるってどういうこと~?」

 

「あ、のほほんさん」

 

「やれやれ、また君か」

 

 不機嫌そうに抱き付いて不服そうな声を出してくる浴衣姿の本音に一夏は少し唖然としており、俺は呆れた顔をしながら振り向いて本音を見る。

 

「君は普通に俺に話しかけるって事はしないのか?」

 

「そんなことはどうでもいいよ~。私が今聞きたいのは綾ちゃんとどういう関係かどうかだよ~」

 

「それはもう旅館に着いた時に話した筈だが……」

 

「あの時は中途半端に終わっちゃったから、今度はじっくり聞かせてもらうよ~」

 

 じっくりって……一応あれで真実を言ったつもりなんだが。そもそも何で本音はこんなに不機嫌そう追求してくるのかさっぱり分からんぞ。

 

「ったく。しょうがないな、君は。一夏、悪いが話は後で今は本音に……って、いないし」

 

 俺が本音に気を取られてる最中に逃げたな。あの野郎、後で覚えてろよ。

 

 

 

 

 

 

「ところで、神代のやつは布仏とかなりいい雰囲気のようだが、アイツらは付き合っているのか?」

 

 一夏の事についてガールズトークを終えた箒達だったが、突然千冬が和哉の話題に変えて聞こうとしていた。

 

 その問いに、

 

「いえ、和哉は彼女の事を……」

 

「未だに友人関係だって断言してるし……」

 

 箒と鈴はそう答え、

 

「わたくしたちとしても、いい加減に和哉さんが布仏さんと付き合って欲しいんですが……」

 

「僕たちから見れば恋人同士のような関係に見えるんですけど、和哉は全然気付いてなくて……」

 

「私はてっきり、師匠はあの女とそう言う関係だと思っていたのですが……」

 

 セシリアと鈴は和哉に物凄く呆れていて、ラウラは見当違いな事を言っていた。

 

「……………はぁっ。神代も神代で色々な意味で驚かせてくれるな」

 

 ラウラを除く箒達の返答を聞いた千冬は、和哉の鈍感振りに深い溜息を吐いて呆れるのであった。




次回は束が再登場して、和哉と一触即発な雰囲気になります……あくまで予定ですが。

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