インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~   作:さすらいの旅人

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第4話

「うう…………」

 

「大丈夫か一夏?」

 

「ぜ…全然大丈夫じゃない……」

 

 放課後、机の上でぐったりとうな垂れている一夏に俺は声をかけるが、当の本人がノックアウト状態だった。

 

「い、意味がわからん……。なんでこんなにややこしいんだ……?」

 

「それに関しては俺も同感だ」

 

 一夏の台詞に同意する。

 

 今回の授業でとにかく専門用語の羅列と呼ばれるくらい多かった。辞書が無ければやっていけないのだが、ISの辞書は存在しないので、俺は覚えるのに必死だった。一夏の場合は事前学習をやっていない状態なので、授業の殆どが分かっていなかった。

 

 余談だが、放課後とは言え全く状況は変わっていない。また女子が他学年・他クラスから押しかけ、きゃいきゃいと小声で話し合っている。

 

 尤もそれは一夏だけであり、俺の方はかなり変わっているが。

 

『聞いた? あの神代くんって子、クラスの女の子達に喧嘩売ったみたいよ』

 

『何それ。自分がISに乗れるからっていい気になってるのかしら?』

 

『調子に乗らないで欲しいよね。ただISに乗れるだけなんだから』

 

『いっその事、自分の立場を分からせる為にあの生意気な鼻をへし折る?』

 

『男は黙って私達に従っていれば良いのに』

 

 三時間目に起きた出来事があっと言う間に他のクラスにも広がり、女子達が俺に対する評価は下落し、侮蔑しながらヒソヒソ話をしていた。あそこの連中も俺の嫌いなバカ女の部類みたいだな。

 

「っ………!」

 

「止せ一夏」

 

 さっきのヒソヒソ話を聞いてた一夏が立ち上がって抗議しようとするが、俺が即座に止めた。

 

「和哉は良いのかよ? さっきから好き放題言われてるのに……!」

 

「構わん。あの程度のバカ女共など、その気になれば一瞬で黙らせる事は出来る」

 

 一夏の言う『さっきから』とは放課後前までにも女子達が俺を遠くからヒソヒソと罵倒していた。

 

 特に酷かったのは昼休みだ。俺が一夏に迷惑を掛けないように一人で学食へ行こうとしたが、一夏も一緒に行くと言ってきて結局二人で昼飯を食べた。その時に学食で昼飯を食べていた他の女子達が一夏に対しては友好的に見ていたが、俺を見た瞬間に一夏とは対照的で見下すような目で見た。それはつまり、もう既に三時間目の時に俺がやった事が広まって女子達が俺を敵視していると言う事だ。更には何処からともなくヒソヒソと俺を罵倒する始末で、俺がチラッと話している女子達の方を見ると何事も無かったかのように昼飯を食べていた。そこ以外にもヒソヒソと俺を罵倒する話し声が聞こえたりと、とにかく学食では物凄く煩わしい昼飯だったのだ。

 

「目障りだと思えば、また『睨み殺し』を使えば良いだけだし」

 

「そうしたらまたお前の印象が更に悪くなると思うぞ?」

 

「別にいいさ。あの程度の事で怯える女共など、所詮ISが無ければ強気になれない口先だけの女だと証明されるからな。逆に女共の評価が落ちるだけだ」

 

「けど初日からそんなんだと、この先やっていけないと思うんだが……因みにコレはお前が言った言葉だぞ?」

 

「そう言えばそんな事を言ってたな」

 

 俺が今思い出した感じで言ってると……

 

「ああ、織斑くん、神代くん。まだ教室にいたんですね。よかったです」

 

「はい?」

 

「え?」

 

 突然呼ばれた声に俺と一夏が振り返ると、そこには副担任の山田先生が書類を片手に立っていた。この人、俺の『睨み殺し』で怯えていた筈だが何事も無かったかのように振舞っているな。あそこでヒソヒソと俺を罵倒するバカ女共とは大違いだ。

 

「えっとですね、寮の部屋が決まりました」

 

 そう言って部屋番号の書かれた紙とキーを俺と一夏によこす山田先生。

 

 このIS学園は全寮制ゆえに、生徒は全て寮で生活を送る事が義務付けられている。これは将来有望なIS操縦者達を保護すると言う目的らしい。自国の優秀なIS操縦者が他所の国に勧誘させない為の防止対策でもある。現にどの国も優秀な操縦者を勧誘に必死だからな。

 

「しかし山田先生、俺や一夏の部屋はまだ決まってない筈では?」

 

「そうですよ。前に聞いた話だと、一週間は自宅から通学してもらうって話でしたけど」

 

「確かにお二人の言うとおりなんですけど、事情が事情なので一時的な処置として部屋割りを無理矢理変更したらしいです。……二人とも、そのあたりのことって政府から聞いてます?」

 

 最後は俺と一夏にだけしか聞こえないように近づいて小声で言って来る。

 

 政府ねぇ……政府と言うのは勿論日本政府。何しろ今まで前例のない『男のIS操縦者』だから、国としても保護と監視の両方を付けたいようだな。

 

 あのニュースが流れてから、俺が師匠の家で修行中にマスコミだの各国大使だの、挙句の果てには遺伝子工学研究所の人間までやってきたな。『是非とも生体を調べさせて欲しい』って抜かしてきたし。当然そんな事頷くわけが無い。その時は俺と師匠による『睨み殺し』により帰ってもらった。手加減するのに苦労したな。麻痺の一歩手前まで恐怖を与えるというのは。

 

「となると、言うまでも無く俺と一夏は相部屋になるんですね?」

 

「あ…いえ。政府特命もあって、とにかく寮に入れるのを最優先したことにより、部屋割りに関してお二人は別々の部屋に入ることになりまして……」

 

 おいおい、俺と一夏が別々って事はそれぞれのルームメイトが女子なのかよ。面倒な事になりそうだ。

 

「それはちょっとなぁ……」

 

 一夏も俺と同じ気持ちみたいだ。

 

「だ…大丈夫です。一ヶ月もすればお二人の相部屋が用意できますから、それまで暫らく我慢してください」

 

「俺や一夏が我慢してもルームメイトが我慢してくれるかが問題ですが」

 

 とうでもいいんだが、山田先生はいつまで俺達に顔を近づけたまま話しているんだ? さっきからクラス内外の人間がジッとコッチを見ているんだが。

 

「あっ、いやっ、これはそのっ、別にわざととかではなくてですねっ……!」

 

「分かってますよ。けど部屋は分かっても、荷物は今持ってないですし……」

 

「今日はもう帰っていいですか?」

 

 俺と一夏が帰る準備をしている。早く帰って持って行く物を決めないとな。

 

「あ、いえ、荷物なら――」

 

「私が手配をしておいてやった。ありがたく思え」

 

 はて? 千冬さんの声を聞くと、何故か未来からやってきたターミネーターの曲が頭の中に流れているのは俺の気のせいだろうか?

 

「ど、どうもありがとうございます」

 

「まあ、生活必需品だけだがな。着替えと、携帯電話の充電器があればいいだろう」

 

 おいおい千冬さん。確かにそうでしょうけど、人間には日々の潤いも大事だと思いますよ? 貴方だって何かあるでしょうに。

 

「それと神代の方は、お前の師匠と名乗る老人が用意したみたいだぞ」

 

 何ですと? 師匠が俺の為に用意してくれるなんて珍しい……じゃないな。多分主に修行道具だ。暫らくは師匠と修行出来ないからな。師匠もそれを考慮して、一人でも修行出来る道具を寄越してくれたんだろう。

 

「なあ和哉。前から気になっていたんだが、お前の師匠って一体どんな人なんだ?」

 

「一言で言えば……強い老人だ」

 

 もし師匠がIS一機と戦う事になっても、百パーセント師匠の勝ちだろうな。

 

「強い? どれくらい強いんだ?」

 

「そうだな。まぁ……」

 

 織斑先生より強いと言おうとしたが……。

 

「お前ら、そう言った話は余所でやれ」

 

 話題に出そうとした織斑先生が遮ってきた。

 

「じゃあ、時間を見て部屋に行ってくださいね。夕食は六時から七時、寮の一年生用食堂で取ってください。ちなみに各部屋にはシャワーがありますけど、大浴場もあります。学年ごとに使える時間が違いますけど……えっと、その、お二人は今のところ使えません」

 

 やっぱりそうなるか。俺、大浴場に入るの好きなんだが。

 

「え、なんでですか?」

 

 一夏がいきなりアホな事を言うと……。

 

「アホかお前は。まさか同年代の女子と一緒に風呂に入りたいのか?」

 

「あー……」

 

 千冬さんの発言に気付くのであった。

 

「一夏、友人として言わせてもらう。犯罪はダメだぞ? まぁそれでも入るんなら止めはしないが」

 

「いやいや、女子とは一緒に入りたくないから!」

 

 あのさ、それはそれで問題発言な気がするぞ?

 

「ええっ? 女の子に興味がないんですか!? そ、それはそれで問題のような……」

 

 ホレ見ろ一夏。山田先生が誤解してるし。それに廊下にいる女子達が俗に言う『腐女子談義』が花咲いてるし。

 

「織斑くん、男にしか興味がないのかしら……?」

 

「それはそれで……いいわね」

 

「もしかして……あそこの神代くんとそう言う関係じゃ……?」

 

「それ以外にも中学時代の交友関係を洗って! すぐにね! 明後日までには裏付けとって!」

 

 あの連中には『睨み殺し』で黙らせようかな? ってか俺や一夏にそんな趣味ねぇし。

 

「えっと、それじゃあ私たちは会議があるので、これで。二人とも、ちゃんと寮に帰るんですよ。道草くっちゃダメですよ」

 

 校舎から寮まで大して距離が無いと言うのに、どうやって道草を食えと言うんだ山田先生は。

 

 まあ本当だったら師匠に言われたとおり、このIS学園にいる男性用務員の轡木十蔵さんに挨拶しに行こうと思ってたが、今日は色々あり過ぎて疲れたからまた今度にしよう。身体は大して疲れてないんだが、心がかなり疲弊している。主に女子の視線によって。

 

「ふー……」

 

「やれやれ……」

 

 千冬さんと山田先生が教室から出て行くのを見送り、一夏と俺は溜息を吐く混じりに立ち上がった。

 

「一夏、アイツ等はもう無視だぞ」

 

「分かってる」

 

 教室内外であれこれと騒がしい声が聞こえるが、一夏に言ったとおり完全無視だ。

 

 

 

 

 

 

 

「えーと、ここか。1025室だな」

 

「俺は1030室だからもうちょっと先か。それじゃあ一夏、また明日」

 

「ああ」

 

 一夏が部屋番号を確認したので、俺はもう少し奥へと進む。

 

「しかしこの寮も校舎並みに広いな。まぁ全生徒が泊まる寮だから仕方ないが」

 

 オマケにホテルと思うくらいに豪勢な作りだ。恐らく部屋の中もかなりいい物なんだろう。

 

「え~っと……1030室は……お、ここか」

 

 ある程度歩いていると目的の部屋を見つけた。1025室から若干離れているが問題無いな。多分一夏の事だから、何か遭ったら此処に必ず来ると思うし。

 

 俺がそう思いながらドアに鍵を入れようとすると……。

 

 

ズドンッ!

 

 

『って、本気で殺す気か! 今のかわさなかったら死んでるぞ!』

 

 

「ん?」

 

 何やら突き刺さった音と一夏の叫び声が聞こえた。

 

 一夏に何か遭ったかと思って俺はすぐに一夏がいる部屋へと向かうと、ラフな格好をしてる女子達が一夏を囲んでいた。

 

「悪いけどちょっと退いてくれ。どうした一夏、何が遭った?」

 

 囲んでいる女子達を退けて、尻餅を付いてる一夏に尋ねる。

 

「た…助けてくれ和哉!」

 

「はあ?」

 

 俺を見た一夏が縋りつくように言って来る。

 

「ってか落ち付け。状況を説明してくれないと分からないんだが」

 

「そ…それが部屋に入ったら箒がいて……」

 

「箒? ああ、篠ノ之さんか」

 

 確か聞いた話では一夏の幼馴染だったな。

 

「で、その篠ノ之さんと早速一悶着でも起こしたのか?」

 

「いや、間の悪いときに箒がバスタオル一枚で……」

 

「……成程な」

 

 風呂上りの姿を一夏に見られたからか。いきなり男女相部屋の問題が起きてしまったな。政府の方もこう言う事に少しは考慮して欲しいもんだ。

 

「事情は大体分かった。で、あのドアに突き刺さってる木刀と穴は何だ?」

 

「あれは箒が木刀で突き刺した穴だよ」

 

 ほう、木刀ねぇ。と言う事は篠ノ之さんは剣術の心得があるみたいだな。

 

「おい篠ノ之さん。憤る気持ちは分かるが、いくらなんでもやり過ぎだと思うが?」

 

「…………………」

 

 俺がドアに向かって言うが沈黙しか返ってこなかった。その代わり、木刀の切っ先が室内に引っ込んでいった。

 

「返答が返って来ないな。どうする一夏。向こうのほとぼりが冷めるまで、俺の部屋に来るか?」 

 

「そ…そうさせてもらう」

 

「そうか。ほら退いた退いた」

 

 一夏を1030室へ案内しようとすると……。

 

 

ガチャッ

 

 

「……入れ」

 

「お?」

 

 ドアが開く音が聞こえて、剣道着を纏った篠ノ之が入るように言ってきた。

 

「良かったな一夏。どうやら向こうは入れてくれるらしい」

 

「そうみたいだな」

 

「じゃあ俺は部屋に行かせてもらうから、後はお前が……」

 

「い…いや、できれば和哉も一緒に入ってくれないか?」

 

「何でだよ」

 

 相手が幼馴染なら別に大丈夫だと思うんだが。

 

「とにかくお前も入ってくれ!」

 

「お…おい!」

 

 一夏は俺の腕を引っ張って1025室へと入った。俺がいたところで何の解決にもならないと思うんだが。

 

 そして部屋を見ると、俺の予想通り豪勢な作りだった。特に一番注目するのは大きめのベッド。それが二つ並んでいる。奥のベッドには篠ノ之が座っているが。

 

「あ、奥側のベッド狙ってたのに」

 

「んなこと気にしてる場合じゃないだろうが、一夏。で、篠ノ之さん。アンタ随分とやる事が過激だね。木刀でドアの穴を簡単に突き刺すなんて、下手したら一夏が大怪我するぞ?」

 

「………………………」

 

 俺の発言に篠ノ之はムスッとした顔だった。俺の言い方が気に入らなかったか? まあコイツも俺の『睨み殺し』を受けたからな。おまけに俺が一夏と一緒に部屋に入ったから気に食わないんだろう。

 

「あ~、もしかして俺があの時言った事が未だに許せないのかな?」

 

「………別に私は気にしてない」

 

 おや? これは予想外の返答だ。そう言えば篠ノ之は俺が三時間目の授業で言った事に対して怒る様子が見受けられなかったな。まるでどうでもいいような感じで。ISに対する執着があまり無いのか、ただ無視していただけなのか……まぁどっちにしろ、篠ノ之は他のバカ女共と違ってISに何かしらの感情を抱いているに違いない。

 

「なら良いけど。まぁ取り敢えずだ篠ノ之さん。アンタの持ってるその木刀と竹刀は明日まで俺が預からせてもらうぞ」

 

「なっ!?」

 

 俺が近くに置いてる剣道道具の袋から木刀と竹刀と取り出すと、篠ノ之が止めようとする。

 

「何故貴様が勝手にそんな事を決める!?」

 

「あのドアを木刀で簡単に突き刺せるって事は、アンタが相当な実力者だってのが分かったからな。それにアンタさっき自分が何をしたのか忘れたのか? ついさっきこの木刀で一夏を叩きのめそうとしただろうが」

 

「それと貴様に何の関係がある!?」

 

「俺の友人が木刀と竹刀によって無残な姿になるのを見たくないからだ。ついでにアンタは気が短そうだし、一夏がアンタを怒らせるような発言をした時に、また木刀を使いそうな気がするからな。違うか?」

 

「……………………」

 

 篠ノ之が言い返さないって事は、俺の当てずっぽうは正解みたいだな。

 

「だ…だからと言って、人の持ち物を勝手に……」

 

「それに関しては申し訳ないけど、アレを見てしまった以上、アンタがこの後にコレを絶対に使わないって保障は無いからな。それとも篠ノ之さん、アンタもしコレ使って一夏に大怪我させたら責任持てるの? そうなったら織斑先生も黙ってはいないと思うけど」

 

「…………………………」

 

 流石の篠ノ之でも千冬さんには逆らえないと言ったところか。あの人の名前を出すと何処でも通用するから本当に頼もしい。

 

「じゃあコレは預からせてもらうぞ。一夏との話し合いにこんな物は不要だからな。一夏、後はお前だけでやれよ」

 

「お、おう、分かった」

 

 一夏は俺が篠ノ之の木刀と竹刀を持って行くのを見て安堵していた。これ以上もう厄介事を起こさないでくれよ。

 

「それじゃ俺はこれで。篠ノ之さん、さっきも言ったが明日には返すから」

 

 そう言って俺は部屋から出た。廊下には女子達が未だにいたが、俺の姿を見て即座に自分の部屋へと戻って行く。

 

「やれやれ、一夏も随分と強烈な幼馴染と会ったもんだな」

 

 女子達の行動に気にせずに、俺は木刀と竹刀を持ったまま1030室へ向かっていると……。

 

 

『おい一夏! 何なんだあの神代という男は!?』

 

『だからさっきから言ってるだろ? アイツは中学の頃からの友達で……』

 

『そう言う事を聞いてるんじゃない! 私の大事な木刀と竹刀を没収されたと言うのに、お前は止めもせずに黙ったままで……!』

 

『けどさぁ箒。和哉の言うとおり、お前何かあったら絶対に木刀で殴る気だったろ?』

 

『幼馴染の私よりあの男の言葉を信じるのか!?』

 

 

 1025室から篠ノ之と一夏の会話が聞こえた。殆どは篠ノ之の怒鳴り声が聞こえるが。

 

「あの様子だと篠ノ之は絶対に一夏を木刀で殴っていたな」

 

 会話を聞いた俺は木刀と竹刀を没収して正解だったと安堵する。

 

「さてと、期間限定とは言え、俺のルームメイトは一体誰なのやら……」

 

 出来ればセシリア・オルコットだけは勘弁して欲しいと思いながら俺はドアを開ける。

 

「あ、いらっしゃいー。来るの遅かったねー」

 

「…………………」

 

 部屋に入ると、奥側のベッドで横になってノートパソコンを使っている女子がいた。

 

「えっと……君は確か同じクラスの布仏(のほとけ)本音(ほんね)さん……だったかな?」

 

「そうだよー。よろしくねーかず~」

 

 パソコンから離れてベッドから起き上がって、ほにゃらとした笑顔で挨拶してくる。どうでも良いんだが、制服の袖のサイズが合ってなくてブカブカだな。ってか『かずー』って?

 

「あのさ、ちょっと聞きたいんだけど良いかな?」

 

「なに~?」

 

「君は俺に随分と友好的だけど、あの時の事を恨んでいないのかな? それにかずーって?」

 

 俺が確認して問うと……。

 

「私は別に恨んで無いよー。それとかずーはかずーの呼び名~」

 

「…………………」

 

 調子が狂う返答をする布仏に俺はどういって良いのか分からなくなった。

 

 篠ノ之に続いて、この女子も結構変わり者だな。

 

「……と…取り敢えず期間限定だけど、よろしくな」

 

「うん、よろしくね~」

 

 俺が一応挨拶をすると、再び挨拶をする布仏だった。

 

「ところでかずー。その木刀と竹刀はなに~?」

 

「え? ああ、これか。ウチのクラスの危険人物から取り上げたんだ。と言っても明日になったら返すが」

 

「そんな人いたかなー。誰なの~?」

 

「…………………」

 

 本当に調子の狂う相手だった。まあ篠ノ之やセシリアや俺を敵視しているバカ女共よりは良い。

 

 こうしてIS学園入学一日目が過ぎたのであった。


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