インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~ 作:さすらいの旅人
凄く短いですがどうぞ!
通常授業が終わった後のSHR。やっと終わったと安堵の声が所々聞こえていた。無論、隣にいる一夏もそう言っている。
IS学園の生徒とは言っても所詮高校生に変わりなく、クラスの大半は勉強するのが苦痛のようだ。かく言う俺もその一人だ。勉強より修行した方が良いしな。けど、だからと言って勉学を疎かにする訳にはいかない。そんな事してたら師匠に怒られるからな。
「一夏、シャルロットと一緒に放課後の掃除頑張れよ」
「………俺を見捨てたお前にそんな事を言われると凄く嫌みだぞ」
「仕方ないだろ。あの時は俺も必死だったんだから。それに千冬さんに釘を刺された以上、俺は手伝う事が出来ないからな」
「けどだからと言って、こんな広い教室を俺とシャルロットだけやれってのは酷だぜ。俺はともかくシャルロットにしたら重労働だし」
「そうとは限らないぞ……。寧ろ一夏と二人っきりになれる事がシャルロットにとっては幸福な時間とも言えるからな(ボソボソ)」
「え? 限らないって……ってか何ブツブツ言ってるんだ?」
「何でもない。おっと、織斑先生が来たぞ」
俺の小声を訊こうとする一夏だったが、タイミングよく千冬さんが教室に戻ってきたので帰りのSHRが始まる。
「ではSHRを始める。連絡事項については先ず神代。お前が使っている訓練機の打鉄についてだが、無期限貸し出しの期間が終了したので今後は――」
ザワザワッ!
千冬さんが言ってる最中に周囲が驚くように教室中がざわめくと、隣に座ってる一夏がガタッと立ち上がる。
「ちょ、ちょっと待てよ千冬姉! それってつまり和哉はもう用済みって事なのか!?」
パアンッ!
「ぐおおおおっ……!」
「織斑先生と呼べと何度も言わせるな、馬鹿者が」
抗議しようとする一夏だったが千冬さんから出席簿アタックを喰らい、当たり所が悪かったのか頭を手で押さえながら痛そうな顔をしていた。
いつも疑問に抱いてる事なんだが、あの出席簿には何か仕込んでいるのではないかと思うくらいに凄い音と威力を出すよな。まぁ調べたところで何の変哲も無い出席簿だから、千冬さんの実力ゆえにあそこまで見事な一撃を出しているんだろう。
「一夏、俺の為に怒ってくれるのは嬉しいが話は最後まで聞こうな。まだ言ってる最中なんだから」
「全くだ。それに何故ヒヨッコなお前より数段強い神代を用済みにせねばならん」
ちょっと千冬さん。いくらなんでも言い過ぎなのでは?
確かに一夏はまだ未熟なところはあるけど、俺との訓練でそれなりに実力は付いていますよ。
「分かったならさっさと座れ、織斑。あとお前らも静かにしろ」
「は、はい……」
千冬さんの命令に一夏は気圧されながら座ると、クラスメイト達もさっきまでざわめきが無くなって全員静かになっている。
「さて、織斑によって話の腰を折られてしまったが続けるぞ。神代の訓練機無期限貸し出し期間が終了したのは他でもない。漸くお前に専用機が用意される事が正式に決まった」
へぇ。俺もついに一夏と同じく専用機を……って専用機だと!?
「ついに神代君にも専用機が用意されるのかぁ~」
「神代君の実力を見れば当然と言えば当然だけど」
「かずーすご~い!」
クラスメイトの女子全員は俺が専用機を用意される事に騒ぎ立てるも何の文句一つ無く受け入れており、
「良かったじゃないか和哉」
そして一夏が笑顔で俺の肩を叩きながらそう言った。
しかし俺は素直に喜べなかった。何故今頃になって俺に専用機を用意するのかと少々疑問を抱いているからだ。
「? どうした? 嬉しくないのか?」
「いや、嬉しいと言えば嬉しいんだが……学年別トーナメント後に専用機を用意するって、何だかまるで手の平を返したかのような感じがしてな」
『…………………』
素直に喜べない理由を言った途端、クラスメイト全員が急に無言となって『……ああ、そう言われれば』みたいな顔をしていた。
その前まで俺は一夏と同じ男性IS操縦者でも、千冬さんのような有名人の親族でも無い全くの無名だから大して注目されていなかったからな。それが今になって専用機を用意されると、とても素直に喜べない。
恐らく各企業に専用機を要請をしていた学園側も現金な連中だと思っているに違いない。その証拠に千冬さんはクラスメイト達と同様に無言となって何も言い返さないからな。
「……まあとにかく、お前のISに関してはもう暫く時間がかかる。向こうは臨海学校が終わるまでに用意すると言ってたので、それまで待つように。次に――」
俺の専用機受領の話しを終えた千冬さんはその他の連絡事項に移り、あっと言う間にSHRを終えた。
そしてこの後、朝のSHR前に千冬さんから処分を下された一夏とシャルロットは教室の掃除をする事になり、クラスメイト達は早々に教室から出て行った。
俺はさり気なくシャルロットに近付き、
「なぁシャルロット。いっそ二人っきりの掃除時間を利用して、アタックしてみたらどうだ?」
「! か、和哉の言ってる意味が分からないなぁ~!」
ちょっとしたアドバイスを送ると、顔を赤くながら怒鳴られた。
「いっその事、朝見ていた夢を現実にしてみろよ。これはチャンスなんだから」
「~~~!! い、いい加減にしてよ和哉~~~! 僕本当に怒るよ~~~!!」
「? お前ら、一体何を話してるんだ?」
会話の内容を全く理解してない一夏が意味不明になっているのを余所に、俺は掃除用具のモップで殴りかかろうとするシャルロットの攻撃をヒョイヒョイッと避けながら退散したのであった。
次回は和哉が千冬と一緒に買い物に行きます!