インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~   作:さすらいの旅人

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第57話 (第三巻開始)

「あれから数日経っていますが、未だに俺についての問い合わせが殺到中ですか?」

 

「いや、今度はお前に対するクレームが殺到中だ」

 

「問い合わせの次はクレームですか。ま、そのクレーム内容は大体察しがつきますが……せいっ!」

 

 早朝六時過ぎ。今日は俺一人だけ朝五時から早朝筋トレをしてる最中、ジャージ姿の千冬さんが来たので久々に組み手をしている。今は会話をしながらそれをやっていて、互いにパンチやキックを回避、もしくは受け流して反撃と言う状態だ。

 

 本当だったらこの場に先日ルームメイトとなった一夏がいるのだが、アイツは諸事情により不参加。

 

 因みに俺と本音が部屋で寛いでいた時、山田先生が来て部屋割り変更宣言したすぐに前のルームメイトであった本音が凄く寂しそうな顔をしていた。

 

 その時のやり取りについてだが、

 

『ねぇかずー、ホントに行っちゃうの~? 私このままかずーと一緒が良い~』

 

『子供みたいに駄々捏ねるなっての。決まりは決まりなんだから仕方ないだろうが』

 

『ぶ~~。でも私、かずーと一緒じゃないと寝れないよー。かずーと寝ると気持ちいいからー』

 

『き、気持ち良いって……! ままままままさかああああなたたち!! いいい一緒に寝てるって事はもももしや……!』

 

『言っておきますけど、山田先生が考えてるような展開には一切なっていませんので』

 

『ほほほ本当ですか!? 本当ですね!? 信じて良いんですね!?』

 

『はい。ですからそんなに慌てないで下さい。教師がそこまで慌てふためいてたら、他の生徒に舐められちゃいますよ』

 

『そ、そうですね……ゴホンッ。では至急部屋お引越しを――』

 

『かずー、私がかずーを求めたくなったらまた一緒に寝ていい~?』

 

『神代君! 本当に何もしていませんよね!?』

 

『してませんから! ってか本音! お前誤解を招くようなこと言ってんじゃない!』

 

 と言ったプチ騒ぎがあった。

 

 全く本音には困ったもんだ。あんな発言をしたら山田先生が騒ぐのを分かっていたと思うんだがな。それもあたかも恋人みたいな事を言うし。俺とお前は友人だっての。

 

 とまあ、そんな事があった後に俺と一夏は晴れて同じ部屋になれたと言う訳だ。これに関しては一夏が喜んでいて、本当の意味で気兼ねなく過ごせると一安心していた。俺も同様だが。

 

「ふっ! まぁクレーム以外にも、学園宛ての手紙が未だに世界中からわんさか届いているが、な!」

 

 俺の右正拳突きを左腕で受け止めた千冬さんは、そのまま右足を使って前回し蹴りを仕掛けてきた。

 

「おっと! 尤もそれは手紙と言う名の恨みの声ですけどね。と言うか女性権利団体って実は暇なんですか? 俺からも不幸の手紙みたいに送られてくるんですが」

 

「連中はそれだけ神代のやろうとしている事が気に入らないという証拠だ。とは言え、私や学園側としても連中の行動にいい加減ウンザリしてるがな」

 

 千冬さんの前回し蹴りを左腕でガードしても話しを続ける俺と千冬さん。

 

「あのモンスター集団をどうにか出来ませんか?」

 

「それが出来ればもう既にやっている」

 

「ですよね。ま、奴等としては俺みたいな存在を早々に消したがっているんでしょうけど、俺がIS学園に在学してる事によって手が出せないから、今は間接的妨害しか出来ないと言ったところですか」

 

「そういう事だ」

 

 はぁっと溜息を吐く千冬さん。奴等のやってる事に相当ウンザリしてる証拠だ。

 

「だが奴等の事だから、お前が学園から出ている隙を狙って暗殺する可能性が全く無いとは言えんが用心しておけ」

 

「そうします。ま、もしそんな奴がいたら心底後悔させますけど」

 

「余りやりすぎるなよ……。さて、そろそろ時間だから今日はここまでにしておくか」

 

「あ、もうこんな時間か」

 

 千冬さんが受け止めていた俺の右拳を離したので、近くに置いてあった時計を見ると六時半丁度となっていた。本当ならまだ千冬さんと組み手をしたいところだが、朝の支度や朝食を済ませないといけない。

 

「じゃあ俺は荷物を片付けたら戻りますので」

 

「分かった。ああそれと神代、奴等のクレームなどがあって言い忘れていた」

 

「何をですか?」

 

 俺が荷物を片付けると、千冬さんは戻ろうとしたが急に訪ねてきた。

 

「トーナメント後にラウラから聞いたぞ。ペア決めの際、ラウラとペアを組む為に私をダシにしたそうだな」

 

 げっ! アイツ、千冬さんに余計な事を……! やっぱ慕っている相手にはペラペラと喋るのか。

 

 俺が焦った顔をしていると千冬さんは何やらしてやったりと言った表情をしていた。

 

「ふんっ。適当にカマをかけたつもりだったんだが、その顔を見る限りでは本当に私を利用したみたいだな」

 

「…………え? ラウラから聞いたのでは?」

 

「アイツがそう簡単に喋るわけがないだろう。あれでも奴は軍人だ。そう簡単に口を割る奴じゃない」

 

 …………くそっ、やられた。それを逆手にとって俺から聞き出そうとするとは…………俺もまだまだか。

 

「さて、どうやって私を利用したのかを聞かせてもらおうか?」

 

 有無を言わせない千冬さんに俺は逆らう事が出来ず、千冬さんの携帯番号とメアドを教える為と白状するしか手はなかった。

 

 そしてそれを聞いた千冬さんは、軽い説教の後に罰として今度の買い物の荷物持ちとの厳命を受けるのであった。

 

 

 

 

 

 

「あ~あ、今度の休日は千冬さんの付き添いか」

 

 千冬さんの説教が終わった後、俺は荷物を持って部屋に戻りながら少し愚痴っていた。

 

 女の買い物って言うのは長いから、俺にとっては正直酷だ。

 

 けどまぁ、千冬さんに黙ってアイツに携帯番号とメアドを勝手に教えようとしたからNoとは言えない。

 

「にしても確かに今回の罰は俺にとっては酷だと思うが……」

 

 あの千冬さんが下した罰にしては何か軽いような気がするのは俺の気のせいだろうか。

 

 そう疑問に思いながら部屋に戻っていると、部屋のドアの前に一夏の幼馴染である篠ノ之箒がいた。髪型を確認したり、咳払いをしていたが。

 

「よぉ箒、人の部屋の前で何してんだ?」

 

「うわっ! な、何だ和哉か。いきなり驚かすな!」

 

「別に俺は普通に声を掛けたつもりなんだが……」

 

 まぁ何故箒があんな事をしていたのは分かる。それは大好きな一夏に髪型や声を指摘されない為の心の準備だ。

 

 あの朴念仁は気にはしないだろうが、箒にとっては重要なんだろう。女……と言うより、恋する乙女は色々と大変な事で。

 

「まあ良いや。で、一夏に用なのか?」

 

「う、うむ。一緒に朝食をとろうと思ってな。あ……よ、良かったら和哉もどうだ?」

 

「そんな取ってつけたように誘われてもな……」

 

「……す、すまん」

 

「冗談だ。けど一夏はまだ寝てると思うぞ。多分7時くらいには起きると思うから、その時にまた来てくれ」

 

 俺はさり気なく箒に出直すように言った。そうするには理由がある。俺と一夏の部屋には何故かアイツ(・・・)がいるからな。

 

「む? 一夏のやつめ、まだ寝てるとは弛んでるな」

 

「そう言うなって。一夏はここ最近、色々と災難な目に遭って疲れてるんだからな。例えばラウラ・ボーデヴィッヒが一夏にプロポーズとキスをした際、本気で一夏を殺そうとした誰かさん達とか」

 

「う……」

 

「しかもその内の一人は日本刀を使っていたし。なあ、箒?」

 

「うう……」

 

 俺が先日の件について言うと箒が物凄く痛いところを突かれた顔になった。

 

 さっきも言ったようにボーデヴィッヒが一夏にプロポーズと同時にキスをした時、一夏は冗談抜きで殺されそうになった。ISを纏っていた鈴は俺が『睨み殺し』によって動きを封じていたんだが、セシリアや箒、そしてシャルロットまでもが暴走して散々な朝だった。

 

 因みにセシリアは《スターライトmkⅢ》とビットを展開し、箒はいつの間にか日本刀を出し、シャルロットはいつの間にか修復されたパイルバンカーを展開。とにかく三人に共通して言える事は……恐ろしいほど嫉妬深いと言う事だ。まぁ俺が何とか鎮圧して、その後は千冬さんが一夏ラヴァーズ全員纏めて説教したけど。

 

 しかしセシリアと箒はまだ分かるとしても、まさかあのシャルロットがあそこまでやるとは思わなかった。あれが俗に言うヤンデレってやつだろう。シャルロットの意外な一面を見た事に、今後は怒らせないようにしようと誓ったぐらいだ。俺にとってシャルロットみたいなやつは一番厄介だからな。戦闘だけじゃなく日常も含めて。

 

「だからさぁ箒。また此処に来る時は、その手に持ってる日本刀を部屋に置いてから来るように。分かったか?」

 

「………そうしよう。じゃあまた後で」

 

 言い返すことが出来ない箒は俺に従って自室へと戻って行った。

 

「……ふうっ。一先ず流血沙汰にならずに済んで良かった」

 

 箒が戻った事に一息吐いた俺は鍵を掛けたドアに、ポケットに入れていた部屋の鍵を使って解除し、そのままドアを開けて入った。

 

 そして部屋に入ったその先には、

 

「た、助けてくれ和哉!」

 

「む? おお、師匠ではないか」

 

 ベッドの上で全裸のボーデヴィッヒが一夏の唇を奪おうと覆い被さっていた。言っておくが、俺はボーデヴィッヒの裸を見ないようにちゃんと目を瞑って後ろを向いている。ってか一夏、助けてくれと言ってる割には抵抗らしい抵抗を見せていないのは俺の気のせいか?

 

 何故ボーデヴィッヒがこの部屋にいる経緯についてだが、最初に俺が五時頃に起きて不意に一夏のベッドを見た際、何故か奇妙な膨らみがあった。それを見て疑問に思いながらそっと布団を捲ったら、すると全裸のボーデヴィッヒが寝ていた。本当だったら一夏を起こそうと考えたが、そうしたら寝ているボーデヴィッヒも起きて面倒な事になりそうだと思ったので、敢えて起こさずに俺一人で早朝訓練をしたって訳だ。

 

 因みに俺が箒を部屋に入らせなかった理由は、目の前の場面に遭遇したら、間違いなく手に持っていた日本刀を抜いて一夏を殺そうと予想したからだ。尤もそれは箒だけでなく、他の一夏ラヴァーズである鈴やセシリア、そしてシャルロットも同じ事をしていただろう。アイツ等の行動パターンは簡単に予想が付くからすぐ対処出来る。

 

「………お邪魔だったら退散するが?」

 

「いや、全然邪魔じゃないから! とにかくラウラをどうにかしてくれ!」

 

「はいはい……。そんでボーデヴィッヒ、いつまでも裸でいないで早く服を着ろ。そうしてくれないと俺は振り向けないんだが」

 

「問題ない。そもそも師弟関係と言うのは、裸の付き合いをするほど強い絆で結ばれているものだと聞いたぞ。だからコッチを向いてくれ師匠。それと私の事をボーデヴィッヒではなく、ラウラと呼んでくれ」

 

 ………ボーデヴィッヒに変な知識を教えたのはどこのどいつだ? 今物凄くソイツを殴りたい気分だ。

 

「……あのさぁボーデ……じゃなくてラウラ、俺はお前を弟子にするとは一言も言ってないんだが?」

 

 そもそも俺はまだ弟子の身だってのに、何故俺がコイツを弟子にせにゃならん。もし師匠が知ったら、『まだまだ未熟者だと言うのに弟子を取るとは随分偉くなったのう』なんて言われるのがオチだ。

 

「師匠が何を言おうが私は絶対に諦めない。だから師匠、私を強くする為に鍛えて欲しい!」

 

「って、全裸のままで来るな! さっさと服着ろ!」

 

「むぅ……師匠がそう言うなら仕方ない」

 

「と、取りあえず助かった……」

 

 近付いてくるラウラに俺が服を着るように怒鳴ると、ラウラは師匠命令と思ってか近くに置いてあった制服を着始めた。その事に一夏は安堵している。

 

 そして服を着終えたラウラにと俺が振り向いていると、

 

「ん? ラウラ、今更気付いたんだが、眼帯外したのか」

 

 一夏が少し驚くようにそう言ったので俺も不意にラウラの左目を見た。それは金色に輝く左目だった。

 

 確かあの目は特殊なナノマシンを注入して疑似ハイパーセンサーとなったが、事故によって目の色が金色に変化したとラウラが昨日俺に教えたな。変化と同時に常に稼動状態のままカット出来ない制御不能であると。故にラウラはそれを防ぐ処置として眼帯をしているそうだ。

 

 それを聞いた俺は不謹慎ながらも、『じゃあ何故トーナメントでそれを使わなかったんだ? 使えば状況が変わっていたと思うが』と尋ねた。俺の問いにラウラは『この目は嫌いだから使いたくなかった』だそうだ。

 

「確かに、かつて私はこの目を嫌っていたが、今はそうでもない」

 

「へぇ、そうなのか。それは何よりだ。うんうん」

 

 どうやら今のラウラはもうそんなに嫌っていないみたいだ。

 

 頷いている一夏にラウラの顔が何故か桜色に染まった。

 

「よ、嫁がきれいだと言うからだ……」

 

 あぁそう言う事ですか。好きな人に褒められたからか。ラウラも何だかんだ言って、恋する乙女になっているな。無論、これは良い意味で言ってる。以前まで無表情で抜き身の刃みたいに冷たい目が、今はこうも完全に感情豊かな一人の少女だ。

 

「やっぱり俺はお邪魔虫みたいだから、シャワー浴びてるわ。それまでどうぞ二人でイチャ付いて下さい」

 

「おい待て和哉! 俺を助けてくれるんじゃなかったのか!?」

 

「嫁よ。師匠が気を利かせてくれたから、それまで二人っきりの時間を過ごそう」

 

「頼むからラウラも悪乗りしないでくれ!」

 

 そして俺は洗面所に入って施錠してシャワーを浴びるのであった。

 

 因みに箒が再度来た時には、一夏がラウラと一緒にいる事に騒いだのは言うまでもない。




原作では箒が一夏の部屋に入ってドタバタ騒ぎとなっていましたが、ここでは和哉が阻止したので大した騒ぎにならずに済みました。

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