インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~   作:さすらいの旅人

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第55話 (第二巻終了)

「そう言えば織斑先生から訊きそびれたんだが、今後トーナメントはどうなるんだ?」

 

「中止だって~。でも今回のトーナメントはデータ収集も兼ねてるから、一回戦は全部やるみたいだよ~」

 

「ふ~ん」

 

 鈴とセシリアに誤解を解いた後、二人からボーデヴィッヒとペアを組んだ理由、一夏と戦った時に俺が言った世界最強宣言、各国が今後どうでるか等々と色々と話し終えた俺は、学食で本音と一緒に夕飯を食べていた。俺はトンカツ定食、本音はハンバーグステーキを。

 

 因みに一夏とシャルルは教師陣から、今回の件についての事情聴取がまだ続いているようだ。俺は織斑先生からの聴取だけだったから楽に済んだがな。

 

「となると、一回戦を終えた俺は暫く見物する事になるって訳か。いや、俺が見物なんかしてたら周りにいる観客が何か嫌がらせされそうだから止めた方が良いか……」

 

「そんな事言って~。どうせかずーの事だから『睨み殺し』を使って怯えさせるんでしょ~?」

 

「当たり前だ。下らん事をする奴には相応の報いを受けさせないとな」

 

「あんまりやりすぎないようにね~」

 

 そうは言うけどな本音。俺を嫌ってる連中はすぐ調子に乗って同じ事を繰り返すから防止的な事をしないとダメなんだよ。と言うか今回の試合で、俺の戦いを見て認識を改めて下らない事をしないで欲しいんだが。

 

「あ、そうだ~。かずー試合中におりむーに世界最強になるって宣言したよね~? 私応援するよ~」

 

「ありがと」

 

「でもその前に最初はお嬢様をたおさないとね~」

 

「………そうだった」

 

 俺が千冬さんを倒すとちゃんと言ってなかった事によって、あの生徒会長さんは勘違いしちゃったんだよな。けどまぁあの人も倒す目標の一人だから頑張らないと。本人は前座扱いされた事に凄く怒っていたが。

 

「お嬢様は強いよ~。IS学園最強だから~」

 

「………そのIS学園最強は以前勘違いして恥掻いたけどな」

 

「え? お嬢様が勘違いってどういうこと?」

 

「ああ、本音にはまだ教えてなかったな。実は――っ!」

 

「? かずーどうしたの?」

 

 本音に教えようとした直後、どこからかいきなり強烈な視線と殺気がコッチに向けられているのを感じた。しかし本音は全く気付いていない。

 

 となると俺にだけ集中していると言う事は……あ、俺の前方約30メートル先にあの人がいた。以前出会ったIS学園最強の生徒会長である更識楯無先輩が。

 

 凄いなあの人。食堂には人がたくさんいて結構離れているのに、俺と本音の会話を盗み聞いてるとは。いや、もしかしたら唇を読んでいるかもしれないな。もうついでに目が物凄く訴えてる。『余計な事を言うな』ってな感じで。

 

「………ゴホンッ。いや、悪い。俺の勘違いだった」

 

「………ねえかずー、何か私に隠してない~?」

 

 咳払いをしながら誤魔化そうとする俺だったが、本音は疑いの眼差しを向けてきた。

 

「別に何も隠してないぞ」

 

「やっぱり何か隠してる~」

 

「おい、無いって言ったのに何故すぐに否定するんだ?」

 

「だってかずーは嘘吐くときや隠し通すときには、いっつもすぐに違うって言うからね~」

 

 …………本音、君は意外と侮れないな。そのゆったりとして俺にいつも甘えてくるのは、実はよく相手を観察する為の演技なのではないかと一瞬思ったよ。

 

「さあかずー、教えてもらうよ~」

 

「………その前にコレ食うか?」

 

 ズズイッと顔を近づけてくる本音に、俺がソースをかけたトンカツを箸で取って本音に食べさせようとすると、

 

「うん、食べる~。あ~ん……(モグモグ)……このトンカツ美味しいね~」

 

 すぐに口を開けて疑いもなく食べた。

 

 ここで更にもう一息として、

 

「そうか。もうついでに後でアップルパイを作る予定だが、食べるか?」

 

「勿論食べる~!」

 

 アップルパイと言う切り札を使うとすぐに陥落する本音だった。一応俺もコイツの手懐け方は大体分かってるからな。

 

「なら夕飯を食べ終えたらお菓子を食べずに部屋で待つんだな」

 

「分かった~」

 

 そう言って本音はアップルパイを食べたい為か、夕飯のハンバーグステーキを早く食べ始めた。別にそんなに急いで食わなくてもちゃんと用意するんだが。

 

 本音の行動に呆れながら、俺は夕飯のトンカツ定食を食べ終えた。

 

「ごちそうさま~! ねえかず~! 早くアップルパイ作って~!」

 

「君は夕飯直後に食べる気か?」

 

 夕飯を食べた本音がすぐアップルパイを作るように強請って来る事に俺は呆れながら問う。

 

 あのハンバーグステーキは少し多めだったのに、もうすぐに食えるのか?

 

「甘いものは別腹だよ~」

 

 ………女の胃袋と言うのは意外と逞しいかもしれないな。特にお菓子関連だと。

 

 本音の台詞に内心そう思っていると、

 

「和哉、ちょっといいか?」

 

「ん?」

 

 誰かが声を掛けたので、俺が振り向いた先には箒がいた。

 

「あ、しののんだ~」

 

「箒じゃないか。俺に何か用か?」

 

「いや、別に大した用ではないんだが……一夏と一緒じゃないのか?」

 

 どうやら箒は俺と一夏をセットと認識してるようだ。まぁ大抵一夏と行動してるから、そう認識せざるを得ないから仕方ないか。

 

「一夏ならまだシャルルと一緒に先生達からの事情聴取をされてると思うぞ。何しろあの事故の目撃者だからな」

 

「そ、そうか。だがそれならお前はどうしてもう終わっているんだ? お前も事故の目撃者の筈だが……?」

 

「俺の場合は織斑先生だけだったから早く終わったんだ」

 

 ま、その分脅し気味で口外するなって言われたけど。何て言ったら後から知った千冬さんに説教されそうだから敢えて言わないが。

 

「それはそうと、今回は箒に申し訳無い事をしてしまったな。トーナメントが中止になって、お前の目的を潰してしまったから」

 

「い、いや、それは別に気にしてない。仮に続いたとして、もしお前と戦っても今の私で優勝は無理だからな」

 

「何もそこまで言わなくても……」

 

「専用機二人相手に訓練機だけで圧倒していたお前が言う台詞じゃないと思うぞ。あの試合を見て今の私ではまだ勝てないと痛感させられたからな。だがお前の戦い方は今後の参考にはなったぞ」

 

「ほう。それはそれは……」

 

 箒の言い方に俺を倒すと言うニュアンスを感じた事に俺は内心笑みを浮かべた。

 

 コイツもいずれは俺と互角に戦えそうになるな。楽しみだ。

 

「和哉、言っておくが私は一夏より先にお前を倒すからな。覚悟しておくんだな」

 

「ああ。楽しみに待ってるよ」

 

「………………むぅ~~~~」

 

「ん? どうした本音?」

 

 俺が箒と話してると、いきなり本音が不機嫌そうな顔をしながら俺に強く引っ付いてきた。

 

「かずー、早くアップルパイを作ってよ~」

 

「分かった分かった。すぐに作るから離れてくれ。と言う訳で箒、悪いが俺これからアップルパイ作んなきゃいけないから」

 

「あ、ああ。こちらこそ邪魔して悪かったな。お邪魔虫の私は退散するとしよう」

 

 お邪魔虫? 何を言ってるんだ?

 

 不可解に思ってる俺に箒は食堂から去っていったので、取り敢えずアップルパイを作りに行こうと台所に行こうとしたが、

 

「あ、神代君。ここにいましたか。今日の試合お疲れ様でした」

 

「山田先生こそ。各国からの問い合わせ対応が大変じゃありませんでしたか?」

 

「そうなんですよ~~~! もうずっと電話が鳴りっぱなしで大変なんですから~~~!!」

 

 さっきは俺を気遣うかのような笑顔だった山田先生が一転して、涙を出しながら泣き言を言い始めた。山田先生が大声を出して叫んでる事に、食堂で夕飯を食べている生徒全員がコッチを見ている。

 

「神代君の非常識な戦いを見ただけでも大変だったのに、事故が起きた後には各国から神代君に対する問い合わせがず~っと続いたんですよ!! 神代君はどこまで私達の常識を壊せば気が済むんですか!? もう頭がパンクしそうですよ!!」

 

「……え、えっと……それは……その……すいません……」

 

 詰め寄りながら怒鳴ってくる山田先生に俺は気圧されて謝ることしか出来なかった。本当に申し訳ない気持ちで一杯に。隣にいる本音も山田先生に気圧されて何も言えない状態になっている。

 

 俺は別にそこまで非常識な事をした憶えは無いんだが……まぁ山田先生の顔を見る限り、俺のやってる事は非常識だったんだろう。少し自重しなければ。

 

「ううう………神代君、私は……私は君の事は応援してますよ。でも、でも……あんまり先生を……先生を……!」

 

「………ほ、本当にすいません……」

 

「まやまや~。元気出して~」

 

 謝る俺と山田先生の頭を撫でる本音。ってコラ、先生の頭を撫でるんじゃない。

 

 それと後でお詫びとして山田先生にアップルパイを作って渡しておこう。本音には悪いが、この人のこんな状態を見てそうせざるを得ないからな。

 

 因みに山田先生が俺を尋ねてきたのは、今日から男子の大浴場使用が解禁されたので、試合の疲れを癒す為に今日の大浴場は男子だけの貸切だと言いに来たのだった。

 

 

 

 

 

 

(ふうっ。やっぱり大浴場って言えばサウナだよな)

 

 本音用と山田先生用のアップルパイを作った後、俺は大浴場を使って体を洗い終えてすぐにサウナに篭っていた。まだ5分しか経っていないが。

 

 俺がサウナを好む理由としては、師匠と修行を終えた時には時折銭湯に行っては必ずサウナに入って何度も競い続けた事によって、いつのまにか好きになっていた。まぁ競っていたとは言っても、いつも俺が根負けしてたが。俺は10分が限界なんだが、師匠なんか最高30分以上はいる。もしサウナ耐久レースなんかあったら師匠の優勝は確実だ。

 

 因みにサウナの中で喋ると口の中が熱くなってしまうので注意するように……って、俺は誰に向かって言ってるんだ?

 

(けどまぁ、久々のサウナだからここまでにしとくか)

 

 いきなり十分間篭るのは流石に不味いので、俺はすぐにサウナから出ようとする。

 

 が、

 

(ん? 一夏と……っておい! 何でシャルルがいるんだよ!?)

 

 サウナのドアの窓越しから一夏とシャルルが湯船で背中をくっ付けながら入っていたので、俺はすぐに出ることが出来なかった。

 

(いや、確かにシャルルは今周囲から男だと認識されてるんだが……だからと言って、これは不味いんじゃ……)

 

 けど、シャルルの様子を見る限り一夏と風呂に入る事に対して満更でもない様子。好きな男と一緒に入るなら裸を見られても大丈夫みたいな感じだ。俺としてはそれは別に構わないし邪魔する気もない。ただ、

 

(あの二人が妙にイチャ付いてる雰囲気を出してるから、コッチは出るに出れねぇ!) 

 

 お前ら大浴場に入ってまでイチャ付くなよ! そう言うのは部屋でやってくれ!

 

 と言うか今の俺、完全に女湯を覗いている覗き犯みたいだよ。いや、此処は女湯じゃなくて男湯なんだが。けどシャルルがいる事によって今は混浴湯になってると言った方が正しいか。

 

 よし! 雰囲気をぶち壊すようで悪いが、さり気なく出てシャワーで汗を流した後に出るとしよう。

 

 そう俺が決意していると、

 

(っておいシャルル! お前何やってんだ!?)

 

 最悪な事にシャルルが背中を向けている一夏に、胸を押し付けるように抱き付いていた。

 

 だが今の俺はもう流石にこれ以上サウナに居続けるのは限界だった。 

 

 

 バンッ!

 

 

「お前等いい加減にイチャ付くの止めろ!」

 

「か、和哉!? お前いつからいた!?」

 

「うわぁっ! 和哉のエッチ!」

 

「男湯に入って一夏とイチャ付こうとするシャルルに言われたくねぇよ!」

 

 こうして俺の登場によって大浴場がハチャメチャ展開の場となってしまった。

 

 

 

 

 

 

「……今日はみなさんに転校生を紹介します。けど紹介は既に済んでいるといいますか……」

 

 ハチャメチャ展開が起きた翌日。朝のホームルームで山田先生が訳の分からない事を言っていた。

 

 だが、それはすぐに解消された。

 

 何故なら、

 

「シャルロット・デュノアです。皆さん、改めてよろしくお願いします」

 

 シャルルが女子の制服を着て登場したからだ。

 

(おい一夏、これはどう言う事だ?)

 

(い、いや、俺もさっぱり分からん……)

 

 本来の性別をバラしたシャルルの行動に俺がすぐ一夏に目での会話をするが、一夏自身も分からなくて首を横に振っていた。

 

「ええと、デュノア君はデュノアさんでした。……はぁぁ……また寮の部屋割りを組み立て直す作業がはじまります」

 

 成程な。道理で山田先生があんなに覇気が無い状態になっていたのか。ご愁傷様です。

 

 っておい、ちょっと待て。

 

 シャルルがこんな事をしたら、

 

「え? デュノア君って女の子……?」

 

「美少年じゃなくて美少女だったのね」

 

「って、織斑君、同じ部屋だったから知らないってことは――」

 

「ちょっと待って! 昨日って確か、男子が大浴場使ったわよね!?」

 

 女子達が騒ぐ事決定じゃんか。

 

 あ~あ、もう教室が喧騒に包まれて、あっと言う間に溢れかえったよ。

 

 となればこの後には、

 

 

 バシーンッ!

 

 

「一夏ぁっ!!!」

 

 予想通り、一夏ラヴァーズの一人である鈴が教室のドアを蹴破って登場した。それもISの甲龍を纏って。

 

「死ね!!!!」

 

「おい待て鈴! お前一夏だけじゃなく俺まで殺す気かぁ!?」

 

「死ぬ死ぬ! 俺絶対死ぬぅ!!」

 

 両肩の衝撃砲をフルパワーで撃とうとする鈴に俺が『睨み殺し』で動きを止めようとしたが一足遅かった。

 

 放たれた衝撃砲はそのままコッチに向かっていくが、 

 

 

 ズドドドドドオンッ!!

 

 

「ぼ、ボーデヴィッヒ……?」

 

「ら、ラウラ!?」

 

 突然一夏と鈴の間に割って入って来たボーデヴィッヒが一夏を助けた。『シュヴァルツェア・レーゲン』を纏ってAICで相殺して。

 

 そんなボーデヴィッヒに一夏はすぐに礼を言おうと近付く。

 

「助かったぜ、サンキュ――むぐっ!?」

 

「…………は?」

 

 礼を言ってる一夏にボーデヴィッヒが突然、一夏の胸倉をつかんで引き寄せてキスをした。

 

 余りの超展開に俺は目が点になって呆然としていた。それは俺だけじゃなく、鈴やこの場にいる全員があんぐりとしている。当然一夏も。

 

「お、お前は私の嫁にする! 決定事項だ! 異論は認めん!」

 

「……嫁? 婿じゃなくて?」

 

「いやいや一夏、突っ込むところはそこじゃなくて……」

 

「日本では気に入った相手を『嫁にする』と言うのが一般的な習わしだと聞いた。故に、お前を私の嫁にする」

 

「ちょっと待てボーデヴィッヒ。それはあくまで男が女に言う事であってだな……」

 

 あ、俺も一夏の事が言えなくなってきた。ってか誰だボーデヴィッヒに出鱈目を教えた奴は。

 

「そ、それと神代和哉……ではなく師匠!! 私を弟子にしてくれ!!」

 

「………………はぁ?」

 

 ボーデヴィッヒの発言によって俺は言葉を失って素っ頓狂な声しか出せなかった。




ラウラが和哉に弟子入りする展開にさせました。

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