インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~ 作:さすらいの旅人
「ほ、本当に俺の白式にシールドエネルギーを回す事が出来るのか?」
「普通は無理だが、シャルルがちょっと工夫してくれたおかげで出来るようになったんだ。で、どうする?」
「だったら頼む!早速やってくれ!」
「そうか。だがこれだけは言わせてもらう」
俺は真剣な顔で一夏にこう言う。
「負けたら承知しないからな」
「もちろんだ。お前に啖呵を切ってまで飛び出すんだ。負けたら男じゃねえよ」
「なら結構。では負けた時の罰として明日から一夏は女子の制服で通ってもらおう」
「うっ……! お、お前……最悪な罰を考えるんだな……」
「何だ? やっぱり止めるか?」
「だ、誰が止めるとは言ってねえよ! よ、よ~し、良いぜ! なにせ負けないからな!」
ジョークを交えた会話によって、一夏は緊張が解れていた。こう言う会話をさせれば大抵の人間は落ち着くからな。
「よし、では始めるか。……シャルル、このコードを一夏のガントレットに繋げれば良いんだよな?」
「そうだよ。そのコードを差し込んだら、和哉がエネルギー流出の許可を出すんだ」
「って、シャルル! お前いつの間に!?」
俺の後ろにいたシャルルに確認していると、一夏が驚いている。さっきまで俺と会話していたから気付いていなかったようだな。
因みにシャルルは今ISを纏ってない状態だ。本当ならさっきまでシャルルにやった事を謝りたい所だが、今はそれどころじゃない。無論それはシャルルも分かっているようで、俺にエネルギー流出の方法を教えている。
「……打鉄のエネルギー流出を許可する。これで良いのか?」
「うん。一夏、白式のモードを一極限定にして。それで零落白夜が使えるようになるはずだから」
「おう、わかった」
打鉄から出したケーブルを篭手状態になってる白式に繋いでエネルギー流出の許可を出すと、打鉄にあったシールドエネルギーがドンドン無くなっていた。それを白式が受け取っていると、一夏は何かを思い出しているように目を瞑っている。まるで俺が始めてISを動かした時の様な感じで。
「む、打鉄が消えていく」
「打鉄のエネルギーは残量全部渡したって事だよ、和哉」
シールドエネルギーが全て白式に渡すと、俺の打鉄は光の粒子となって消えていくと、シャルルがそれを説明してくれた。いつも分かりやすく教えてくれてありがとな。
そしてエネルギーを受け取った一夏は、白式を出す為に一極限定モードを使って再構成を始めたが、
「やっぱり、打鉄からエネルギーを貰っても武器と右腕だけで限界みたいだね」
やはり不完全な状態でしかだせなかったようだ。
「一夏、それだけでやってけるか?」
「充分さ」
問題無く答える一夏は右腕装甲だけを具現化する。
今の一夏は右腕以外のところを攻撃されて当たったら即死、運良く重傷だ。ま、それは一夏次第だが。
「なら行って勝ってこい。俺から言える台詞はこれだけだ」
「おう。あ、ところで和哉」
「ん?」
「あの時は悪かった。頭に血が上ってて訳分からねえこと言ってたけど……千冬姉は今でもメチャ強いけど頑張れよ」
「ほう? それはつまり俺が千冬さんを倒しても良いって事か?」
「そう言う事だ。言っとくがそれ以上は絶対認めないからな」
「……訳の分からんことを言ってないで、さっさと行け」
ひょっとして恋愛関連での事を言ってるのだろうか。だったらそんな心配しなくても良い。俺は十歳近く離れてる年上に興味無いし、家庭的な人が良いからな。千冬さんのような家事がズボラな人はちょっと……ヤバイ。これ以上は止しておこう。何処からか俺に殺気の念を送っているような気がするし。
誰かさんからの殺気を感じてる中、一夏は黒いISへと向かっていた。
「ねぇ和哉、一夏が言ってたそれ以上って何の事?」
「知らん。そんな事よりもシャルル、あそこを見ろ」
シャルルの問いを切り捨てるように答えた俺は戦いに集中するように促す。
「じゃあ、行くぜ偽物野郎」
一夏の右手に握り締めた《雪片弐型》が意思に呼応するかのように刀身が開いた。
「零落白夜――発動」
その台詞を言った直後に発動し、全てのエネルギーを消し去る刃が本来の刃の二倍近い長さに展開された。しかし、それは余りにも無駄な長さで余計なエネルギーを消費するだけ……だったがすぐに解消された。
一夏が意識を集中するように目を閉じると、さっきまで無駄にあった刃の長さがドンドンと短く細くなるが、逆に鋭さが増していった。
やがてそれが収まると、今の零落白夜は日本刀の形に集約した姿となった。一見、さっきまでとは迫力が違うと思うだろうが、あの刃はかなり凝縮されているから、切れ味はかなり増している筈だ。
「凄い……。あそこまで巧く凝縮することが出来るなんて……やっぱり一夏は凄いね」
「だが、アレを使いこなせなければ意味は無いが」
賞賛するシャルルと辛口気味に言う俺は、ゆっくりと構えて目の前の相手だけに集中する一夏を見据える。
「………………」
黒いISが一夏を見てすぐに刀を振り下ろした。早く鋭い袈裟斬りを。そんな黒いISからの攻撃に一夏は、
「ただの真似事だ」
ギンッ!
そう言って腰から抜き取って横一閃し、相手の刀を弾いた。
そして一夏はすぐに頭上に構え、盾に真っ直ぐ相手を断ち斬った。
「やった!」
「ほう。一閃二断とは……一夏にしては結構やるじゃないか」
ま、千冬さんからみれば『まだまだだな』なんて言いそうな気がするけど。
黒いISが一夏によって真っ二つに割れると、割れた中からボーデヴィッヒが出てきた。いつも付けていた眼帯が外れて、露わになった金色の左目を右目と共に一夏を見ている。
ボーデヴィッヒは酷く弱っている様子で、すぐに力を失って体勢を崩して倒れそうになるところを一夏が抱きかかえた。
その後は言うまでも無く、非常事態警戒が解かれて教師陣がすぐにボーデヴィッヒを医務室へと連れて行くのであった。
◇
「ではボーデヴィッヒが俺に攻撃したのは、そのVTシステムというやつが原因ですか?」
「そうだ。言っておくが神代、これは――」
「分かってます。前回の電流事件と同様に口外するな、でしょう?」
「ならいい」
保健室でボーデヴィッヒがベッドで眠ってる中、俺は前回と同様に千冬さんと話しをしていた。ボーデヴィッヒがパートナーである俺に攻撃をした事について。
ボーデヴィッヒが使ったVTシステム、正式名称はヴァルキリー・トレース・システム。何でも過去のモンド・グロッソの優勝者の動きをトレースするシステムらしい。
だがそのシステムはIS条約によって国家・組織・企業においても研究・開発・使用が全て禁止されているとの事だ。やっぱり条約なんて物は所詮表面上の口約束に過ぎないんだなと俺は思った。もしかしたら他の国でも禁止されている事を極秘にやっているんじゃないかと疑問を抱いてしまう。
「しかし分かりませんね。何故アイツが俺にだけ執拗に攻撃したのかが」
「あのシステムは特定の条件によって発動する仕組みになっていたが……恐らくボーデヴィッヒが何らかの感情を抱いた事によって、お前を敵として認識したんだろう」
「何らかの感情って……」
それって俺に殺意を抱いたって事? 確かにボーデヴィッヒに恨まれる事をしたのは憶えているが、何も殺すほど恨まれる事はしてないぞ。
「ではまた今後あのシステムが発動する事があるんですか? 確か今ボーデヴィッヒのISは修理中と言ってましたが……」
「いや、それはないから安心しろ。学園側としてはそんな事をさせない為、修理する際にシステムを消去する」
「良いんですか? そんな事したらドイツが黙ってないんじゃ……?」
「あのシステムは本来禁止されている物だ。こちらが消去しても条約に反したドイツは何も言い返せないからな。だが私としてはドイツよりも、他の各国の相手が面倒だ」
千冬さんは呆れるように溜息を吐きながら言う。それは俺に対してじゃないのは分かってる。
「それはつまり……俺ですか?」
「そうだ。今回の学年別トーナメントによって、各国がお前に対しての認識を改めたようだ」
まるで手のひらを反すかのようにな、と千冬さんは嫌そうに付け加えた。おまけに疲れてる表情もしてる。
「おかげで今は各国が学園に問い合わせの嵐だ。特に中国が五月蝿くてな」
「あ、それは大体想像付きます。俺が使った技である『破撃』や『飛燕脚』を使ったからでしょ?」
「ほう。脚を使ったアレは飛燕脚と言うのか。まぁそれらの技によって、『神代和哉はどうやって我が国の兵器を利用した』と訳の分からん事を言ってたそうだ」
「阿呆臭い問い合わせですね。俺が使った技は師匠との修行によって会得した技なのに」
「それほど連中にとってはあり得なかったんだろう。生身で衝撃砲を使えるお前がな」
だとすると、中国は俺に対して何かしらの行動をする可能性が高いだろうな。特に学園にいる中国代表候補生の鈴に妙な指令を下すかもしれない。
ま、別に中国に限った話じゃなく各国からも色々と何かするのは予想してるけどな。
「あともう一つある。お前、試合中に世界最強になると宣言をしたそうだが……」
「お気に召しませんでしたか?」
「いいや。私としてはお前が世界最強になる事を望んでいる。寧ろやれ。お前の実力を世界に知らしめろ」
「そうですか。ではそうさせて頂きます」
「だがその前に私を倒すんだな。言っておくが私はそう簡単に貴様に勝ちを譲らんからな」
「上等です。この学園を卒業する前に、必ず織斑先生を倒しますので」
「ふっ。期待しているぞ」
俺の事実上の宣戦布告に千冬さんは笑いながら受け取った。
そして、
「う、ぁ……………」
ベッドからボーデヴィッヒの声が聞こえた。恐らく目が覚めたんだろう。
「では織斑先生、俺はこれで」
「ああ。今日はゆっくり休め」
俺がいたらボーデヴィッヒは千冬さんと素直になれないと思ったので、保健室を後にして去った。
「あ! かずー見つけた~」
「ん?」
ギュッ!
突然誰かが正面から声を掛けられたと同時に抱き付かれた。こんな事をするのは俺の知る中で一人しかいない。
「今日の試合お疲れ~。すっごくかっこよかったよ~」
「それはどうも。と言うか本音、何故君はいつもいつも俺に抱きつくんだ?」
「かず~を癒すためにやってるの~」
「………あ、そう」
本当なら引き剥がしたいところだが、本音はまた抱き付いてくるので無駄なのは分かってるから敢えてやらなかった。
今は運良く人がいないとはいえ、もうちょっと周囲を気にして欲しいんだが。もしこんな所を誰かに見られてしまったら絶対に誤解されそうだな。
「あ、和哉。ここにいたの。今日は色々と聞きたい事が……あ……」
「どうしましたの鈴さん? いきなり止まって……あ……」
「あ、リンリンとセッシーだ」
そうそう、あそこにいる鈴とセシリアに思いっきり誤解を……あ、やば。
「ごごごご、ゴメン和哉! あ、あ、あ、あたし達お邪魔だったわね! は、話は後でいいわ!」
「しししし失礼しました和哉さん! ど、どうぞごゆっくり! で、でもそう言う事は部屋ですべきですわよ!」
「おい待てコラお前等。何を誤解して……って、もう行っちまった」
素早い奴等だな。『疾足』までとはいかないが、それでも充分速かった。
アイツ等の様子を見た限りだと完全に誤解されたようだが……後で説明しとくか。
「ってか本音、やっぱり離れてくれ。あの二人の誤解を解く前に色々と面倒な事になりそうだ」
「…………私は別に気にしないんだけどな~」
「君が良くてもコッチは色々困るんだっての」
そう突っ込みながら俺は本音を引き剥がして、鈴とセシリアの後を追って説明しに行くのだった。