インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~ 作:さすらいの旅人
それではどうぞ!
「神代和哉、分かっていると思うが――」
「しつこい奴だな。アンタとはあくまで取引上でのペアだって分かってるよ。それと打ち合わせた通り、俺はアンタの戦いを邪魔しないで見物に徹してる」
「――ならいい」
「けどアンタが負けそうになる時は参戦させてもらうからな」
「それはあり得ない。貴様の出番は一切無く、私の優勝で終わる」
「………そうかい」
「あともう一つ。このトーナメントが終わった後は教官の――」
「それも分かってる。後で携帯番号とメアドはちゃんとアンタのケータイにデータを送信する。だからそんな念を押さなくても分かってるっての」
試合が始まる前、俺は控え室でボーデヴィッヒと最後の打ち合わせをしながらアリーナへと向かった。
俺とボーデヴィッヒがアリーナに着くと、目の前にはISを纏っている一夏とシャルルがいる。二人とも、俺を見て複雑そうな顔をしているが。
そして、
『出たわね神代和哉!』
『アンタなんか織斑君とデュノア君に負けちゃいなさい!』
『女の敵!』
『頑張って織斑君! デュノア君! そんな奴はぶっ飛ばしちゃって!』
観客席側から俺に対する罵倒が来るが一切無視だ。
「一夏とシャルル、俺に言いたい事があると思うが、今は試合に専念してくれ」
「………ああ。だがその代わり」
「後でちゃんと聞かせてもらうからね」
「勿論だ」
言及する確約をした二人はすぐに頭を切り替えて、ボーデヴィッヒの方へと視線を向ける。
「まさか一戦目で貴様と当たるとはな、織斑一夏。待つ手間が省けたというものだ」
「そりゃあなによりだ。こっちも同じ気持ちだぜ」
よく言うよ。ボーデヴィッヒの方を見ながら言っても、チラチラとコッチを見て警戒してるのが丸分かりだっての。
「さて、そんじゃボーデヴィッヒ。アンタに任せるよ」
「ふんっ」
『……え?』
俺がクルリと背を向けて壁際まで移動すると、一夏とシャルルが困惑な声を出した。
「お、おい待て和哉! お前、戦わない気か!?」
「どういうつもりなんだい、和哉?」
「さあ……? 何だろうな」
二人の問いにはぐらかす俺は腕を組みながら壁に寄りかかると、一夏が甘く見られていると思って激昂しようとするが、すぐにシャルルが宥める。
「一夏、落ち着いて。和哉がどういうつもりかは分からないけど、これは逆にチャンスだよ。今はボーデヴィッヒさんを倒すことに専念しよう」
「………そうだな」
(流石はシャルル。冷静に分析しているな)
ボーデヴィッヒと一緒に戦うより良いと判断するシャルルに、やはり厄介な相手だと認識する。もしボーデヴィッヒが戦えなくなったら、早々にシャルルを倒したほうが良いな。
「一応言っておくが、神代和哉はただの見物人だ。貴様らは私一人で片付ける」
「そうかよ。ならやれるもんならやってみろ。和哉と一緒に戦わなかった事を後悔させてやるぜ」
試合開始まで5、4、3、2、1――スタートの合図が鳴った。
「「叩きのめす」」
一夏とボーデヴィッヒの言葉は珍しく同じだった。
そして一夏は試合開始と同時に
「おおおっ!」
「ふん……」
だがそんな一夏にボーデヴィッヒが右手を突き出すと、先日の戦いで使ったバリヤーが展開された。それにより一夏は先日の俺と同じく動きが止まってしまう。
因みにあのバリヤーの正式名称はアクティブ・イナーシャル・キャンセラーと呼び、略してAIC。そして日本語に訳すと
それを知ったのは先日、俺とボーデヴィッヒとの戦いの後に鈴とセシリアと一緒に意見をしていた時だ。
『成程な。それであの時、俺の動きが止まったって訳か。ドイツはそんな凄い兵器を作る事が出来るんだな。恐れ入るよ』
『……あたしから言わせれば、AICをあんな原始的なやり方で攻略するアンタのほうが恐れ入るわよ』
『同感ですわ。至近距離でなかったとはいえ、あんな大きな叫び声をする和哉さんがすごいです。鼓膜がやぶれるかと思いましたわ』
『アハハハ……。それはすまなかった』
『あの兵器って本当だと一対一で戦うと負けるけど、アンタは例外ね』
『和哉さんはわたくしたちの常識をどこまで壊せば気が済むのですか……?』
『………お前等、いくらなんでも失礼だぞ。人をそんな非常識な存在みたいに――』
『『あんな無茶苦茶な戦い方をする時点で充分に非常識よ(ですわ)!』』
『……………………』
何かあれは意見交換と言うより、単に俺を罵倒したかっただけなんじゃないかと思った。
まあ、あんなこんなでAICについての事をあの二人から学んで対策は練る事が出来た。あくまで俺限定での対策だが。
(しかし、一夏は何やってんだか。この前の俺とボーデヴィッヒの戦いを見た筈だろうに)
一夏の行動に思わず嘆息する俺。
けれど、近接戦の武器――零落白夜――しか持ってない白式では突進せざるを得ない。
「開幕直後の先制攻撃か。わかりやすいな」
「……そりゃどうも。以心伝心で何よりだ」
「ならば私が次にどうするかもわかるだろう」
ボーデヴィッヒがそう言った直後、シュヴァルツェア・レーゲンに装備されている大型カノンがガキンッと巨大なリボルバーの回転音が轟いた。
動きが止まってる一夏に大型カノンが狙いを定める。これにより一夏の敗北は決まるが、
「させないよ」
そうは行かないと言わんばかりにシャルルが一夏の頭の上を飛び越えて現れた。同時にシャルルが両手に持っている六一口径アサルトカノン《ガルム》による
「ちっ……!」
大型カノンをシャルルの射撃によってずらされ、一夏へ向けて放った砲弾は明後日の方へと行ってしまった。そして更に畳み掛けるシャルルの攻撃に、ボーデヴィッヒは急後退をして間合いを取る。
残念だったなボーデヴィッヒ。一対一だったら勝利してたが、今回はタッグ戦だ。パートナーもいる事を考えないとダメだぞ。
「加勢した方が良いか、ボーデヴィッヒ?」
「いらん!」
さいですか。
「逃がさない!」
ボーデヴィッヒが拒否の台詞を言った直後、シャルルは即座に銃身を正面に突き出した突撃体勢へと移り、左手にアサルトライフルを呼び出した。しかも一秒とかからずに。
アレがシャルルの得意とする技能『
俺にとってシャルルは一番厄介な相手だから、もし俺も加勢するとしたら真っ先にシャルルを倒す。『
さてさて、ボーデヴィッヒはどうやって一夏とシャルルを倒すのやら。
「良いのかラウラ!? 和哉がいた方が確実に勝てるかもしれないぜ!」
「ふんっ。人の事を心配する暇が貴様にあるのか?」
わお、これは凄い。一夏と接近戦を繰り広げながら、同時にワイヤーブレードを駆使してシャルルを牽制して引き離してるよ。流石に六つ同時には操ってはいないが、上手く順番に射出と回収を行い、連射による多角攻撃を繰り広げていた。
ふむふむ。やはりボーデヴィッヒは一対多に特化しているようだ。もし下手に俺が加勢でもしたら、アイツの事だからあのワイヤーブレードを使って俺を放り出すかもしれないな。アイツは最初から一人で戦う事しか考えておらず、自分側が複数の状態での戦いを想定していないし。
あ。ワイヤーブレードがシャルルの腕に絡まって放り投げられ、アリーナ脇にいる俺の方へ投げ飛ばされてコッチに来る……って、おい。
「よっと」
ガシッ!
投げ飛ばされたシャルルを俺は受け止めるようにキャッチした。羽交い絞めで。
「大丈夫か、シャルル?」
「あ、ありがとう和哉……って、僕を助けてどうするの? 一応僕と君は敵なんだけど」
「いや、何となく……」
「……はぁっ。どうやら本当に和哉は僕たちと戦う気が無いみたいだね」
俺の行動にシャルルは完全に呆れている様子。
だが、
「安心してるところを悪いけどさぁシャルル。お前、自分が今どんな状態なのかを分かってる?」
「!!!」
俺が羽交い締めしてる事に気付いて逃れようとするが遅かった。
「ぐぐぐぐっ! ぬ、抜けられない……!」
「ハッハッハッハ。ほらほら、早くこの場を切り抜けないと一夏がボーデヴィッヒにやられてしまうぞ?」
抵抗して逃れようとするシャルルに俺は全く微動だにせず羽交い締めを続ける。
「くっ……! 和哉、まさか君は態と戦わないフリをして僕を足止めする為に……!」
「それこそまさかだ。ボーデヴィッヒがあんな事をしたのは俺も予想外だった。ま、お前がコッチに来た以上は少しばかり俺の暇潰しに付き合ってもらうぞ」
「生憎だけど、僕は君とそんな事をしてる暇は無いよ! ぐぐぐぐっ!」
「そうかい。ま、頑張るんだな」
必死に抵抗しているシャルルだったが、未だに俺から逃れられない。そんな光景に一夏とボーデヴィッヒがコッチを見ていた。
「シャルルッ!」
「ちっ。神代和哉め、余計な事を……。だがまあ良い。奴を足止めしておけば余計な邪魔が入らずに済むか」
「おい和哉ぁ! シャルルを離しやがれぇ!」
一夏がシャルルを助けようとコッチに向かおうとするが、
「どこへ行く? 貴様の相手は私だぞ?」
「ぐっ! テメェッ!」
ボーデヴィッヒに邪魔されて助けに行く事が出来なかった。
そしてボーデヴィッヒはすぐにプラズマ手刀+ワイヤーブレードの波状攻撃を一夏に仕掛ける。それらを何とか捌ききっている一夏は、何とか接近戦を維持し続けていた。
「貴様の武器はそのブレードのみ。近接戦でなければダメージを与えられないからな」
まぁ確かにそうだが、一夏が下手にボーデヴィッヒから距離を取るとあの大型カノンの的になってしまうからな。それにワイヤーブレードがある以上、一度距離を取られたらまた無駄な時間とエネルギーを奪われるし。
「ほほ~う。頑張ってるなぁ一夏は」
《雪片弐型》を右手に任せて、左手はボーデヴィッヒのプラズマ手刀を扱ってる手自体を払っている。そして両足は姿勢維持に加えて、ワイヤーブレードを蹴るのにフル稼働状態。訓練では見せた事のない捌きをしている。
思ったとおり、やはり一夏は実戦に近い戦いをする事によってどんどん成長していくタイプだな。そして追い込めば追い込むほど更に伸びるときた。これはもう少しボーデヴィッヒには一夏を追い込んでもらわないとな。
因みにシャルルは俺の隙を窺って羽交い締めから逃れようとしているが、そうは問屋が卸さないかのように俺がガッチリと締めてるので、それは叶わなかった。
「うおおおおおっ!」
ギンッ! ガィンッ! と、零距離での高速格闘戦をする一夏。あの戦いぶりから察すると、シャルルが抵抗してる様子を見て、この状態から抜けるのを待つために時間を稼いでいるんだろう。
「……そろそろ終わらせるか」
一夏の戦いに飽き始めてきたボーデヴィッヒがプラズマ手刀を解除した。――あ、これは不味いな。
その刹那、一夏の体がピシッと凍り付いたかのように止まった。ボーデヴィッヒは両手を交差して突き出し、その掌を一夏に向けている。
「一夏っ!」
(そろそろシャルルを放したほうが良いかもしれないな)
一夏のピンチにシャルルが叫ぶと、俺は顔に出さずにシャルルを解放しようと考え始める。
「では――消えろ」
ボーデヴィッヒがそう言うと、六つのワイヤーブレードが一斉に射出し、一夏へと突き進んだ。
「くそおおっ!」
叫びも虚しく、一夏の白式はワイヤーブレードに全身を切り刻まれる。装甲が散文の一ほど持って行かれた。あの様子を見る限り、恐らくシールドエネルギーもかなり失われただろう。
更にボーデヴィッヒの攻撃はそれだけで終わらず、一夏の右手をワイヤーブレード二本掛かりで拘束し、捻じ切るように回転を加えながら、床へと一夏を叩き付けた。アレは先日、俺がボーデヴィッヒにした奴とよく似ている。
「がはっ!」
背中から思いっきり衝撃を喰らった一夏は、苦しそうな声をあげる。すぐに態勢を整えようとする一夏だったが、ボーデヴィッヒの大型レールカノンが照準を合わせていた。
「くっ! このままじゃ一夏がっ! 和哉っ! いい加減に……!」
「ほれ、さっさと行きな」
「んなっ!?」
あっさりと開放する俺に、シャルルはいきなりの事に面を喰らった。
「き、君は一体何を考えて――」
「今は俺のことより、早く一夏を助けに行った方が良いと思うが?」
「っ!」
俺の指摘にシャルルはすぐに一夏の所へと向かう。
そしてボーデヴィッヒが放たれた大型レールカノンの砲弾が一夏に当たろうとする瞬間、
「お待たせ!」
ガギンッ! と重い音を響かせてシャルルの盾が砲弾を防いだ。そしてすぐに一夏の右腕に未だ絡まっていたワイヤーブレードを切断し、一夏はすぐにその場から離脱した。
その直後、一夏がいた場所は砲弾の雨で吹き飛んだ。間一髪だったな。
「シャルル……助かったぜ。ありがとよ」
「どういたしまして」
「良く和哉から抜け出せたな」
「いや、それが……和哉がいきなり僕を解放したんだよ」
「は? 和哉が……?」
シャルルの台詞に一夏がコッチを見てくるが、俺は気にせずに再び壁に寄りかかり腕を組んでいる。そんな俺にボーデヴィッヒが俺に怒鳴ってきた。
「神代和哉! 一体何のつもりだ!?」
「何の、とは?」
「惚けるな! 私の邪魔をするなと言った筈だぞ!?」
「ソレはすまなかったな」
「貴様が余計な事をしなければ……!」
「へえ? となるとアンタはひょっとして俺を頼りにしてたのか? それは本当に悪い事をしてしまった」
「……………ちっ」
ボーデヴィッヒはもう言い返すのを止めて舌打ちをしながら、戦いに集中しようとする。下手に言い返すと、自分が俺を頼りにしてると認めてしまうと言う事になってしまうから、俺への追求を止めたんだろう。
けどまぁ、我ながら意地の悪い事をしてしまったな。聞いてくれるかは分からんが、後でボーデヴィッヒには詫びを入れておくか。
箒がいない分、オリ展開にしました。