インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~ 作:さすらいの旅人
大変遅れてしまい申し訳ありませんが、どうぞ!
「かずーおかえり~。ねぇねぇ、ちょっと聞きたいんだけど~」
「何をだ?」
夕食後、俺はトレーニングルームでいつも通りの軽い訓練をし部屋に戻ると、ルームメイトの本音がいきなり尋ねてきた。
「かずーって学年別トーナメントのペア決めは決まったの~?」
「いいや、まだ決まってない」
そもそも俺と組みたい何て言う女子はいないからな。保健室にいた女子達の大半は俺を嫌っているし、鈴とセシリアは怪我とISの損傷により不参加で組めない。
「じゃあ私と組もう~」
「そうか。ならトーナメントまでに連係プレイが出来るよう、暫くは俺の訓練に付き合って――」
「ごめん、やっぱり止めとく~」
「おいコラ」
急に撤回する本音に顔を顰める俺。まさか本音までもアイツ等と同じ事をするとは。
保健室にいた時はペアの相手は誰でも良いから抽選で決めてもらおうと思っていたが、後になって色々と考え直した。もし俺を嫌っている女子と当たってしまったら面倒な事になりそうだと考え直し、一組の女子の誰かと組もうと思って誘ったのだが、『神代君の戦い方には付いていけないから無理』と言って断られた。箒にも声を掛けたのだが、『今の私では足手纏いになってしまうから遠慮しておく。それにお前とは一度本気で戦いたいからな』なんて言われたので諦める事にした。
「まさか本音が薄情な人だったとは思わなかったよ。そんなに俺とペアを組むのは嫌なのかい?」
「だってー、かずーってちょおちょおちょお強いから私じゃ無理だよー」
「別に俺はそんなに強くないんだがな」
「代表候補生のセッシーやリンリンを量産機の打鉄で倒した時点でー、ちょおちょお強いよー」
「その時はまだアイツ等が油断してただけだ。今度戦ったら最初から一切油断無しの全力で来るから分からんよ」
本音の台詞を適当に言い返しながら着替えを取り出し、そのままバスルームへと入ろうとする。
「私がかずーの背中を流すよー」
「結構です」
バシュッ。
本音が入ってこないように洗面所の扉をロックし、着ている服を脱いでバスルームに入りシャワーを浴び始める。
(しかし本当にペア決めをどうしようか……。抽選で決まった即席ペアだとちょっとなぁ……)
一夏・シャルル・セシリア・鈴・箒の内の誰かとなら確実にペアを組めると思っていたんだが誤算だった。既に知っての通り一夏とシャルルは保健室の一件で組めなく、セシリアと鈴は怪我で不参加で、箒は辞退。望みを賭けて(本音を含む)一組の女子達の誰かと組もうにも断られる始末。今の俺には抽選での即席ペアになる選択しかない状況だ。
抽選で一組の女子の誰かと当たれば良いんだが、問題は一組以外の女子と組んだら面倒な事になる。何しろ鈴を除く一組以外の女子達の大半は俺を嫌っているからな。そんな相手とペアを組んだら何をされるか分かったもんじゃない。
妨害程度の嫌がらせならまだ良い。だがペアを組んでる際にセクハラされたとか、暴力を振るわれたとかの言いがかりをつけられたら速攻で俺は試合終了だ。何しろ今は女尊男卑の世の中だからな。俺がどんなに否定したところで聞く耳持たずに、女子の方を必然的に擁護するだろう。
(そうならない為に一組の誰かと組みたかったんだけど……。やっぱりここは本音に無理してペアを頼んだ方が……あれ?)
誰かを忘れているような気が……。え~っと、俺が頼んだ一組の女子達でまだ話していない相手は確か……。
「あ、まだボーデヴィッヒがいたんだった」
と、思わず口に出す俺。
放課後の時に戦っていた相手とはいえ、同じ一組のクラスメイトの事をすっかり忘れてしまうとは……。
けどアイツが俺と組んでくれるかどうかが問題だな。何しろ俺との戦闘が中断される前まで憎しみを込めた目で睨んでいたし。果たして組んでくれるだろうか。ハッキリ言ってかなり確率は低いと思う。
「う~ん………駄目元でも一応言うだけ言ってみるか。もしかしたらボーデヴィッヒ専用の
そう結論した俺は体を洗い終えてバスルームを出た。そしてすぐに用意した着替えのジャージに着替え、ロックした扉を解除して部屋から出ようとする。
「かずー、どこ行くの~?」
「ちょっとした野暮用だ」
本音の問いに一言で済ませた俺は部屋を出て、そのままボーデヴィッヒの自室に向かう。
その途中で一夏とシャルルの部屋の扉を通り過ぎると、
『わあああああっ!!??』
「っ! な、何だ!?」
突如そこからシャルルの悲鳴が聞こえた。
ガチャッ!
「どうしたシャルル! 一体何が起き……」
「か、和哉っ!?」
俺はノックもせずすぐに扉を開け、部屋に入ってシャルルの安否を確認するが言葉を失って目が点になった。何しろ目の前には下着が下ろされて四つん這いの格好で思いっきり
「……お邪魔しました」
「ちょっ!? ちょっと待って和哉! 君絶対に誤解してるから!」
シャルルは今の自分の格好を忘れて引き止めようとするが、俺はソレを無視して全力で部屋から退散した。
「はあっ……! はあっ……! ま、まさかアイツ等、いつの間にかあそこまで進んでいたとは……!」
ある程度移動して息を整えている俺は二人の関係に驚いていた。
普段から鍛えてる俺が走った程度でそんなに疲れはいないんだが、あの二人の思わぬ展開に心臓がバクバクと動いているから息切れしているのだ。
「はっ、はっ……な、なんか……二人の重大な秘密を目撃したカメラマンのようだ……すぅ~~、はぁ~~」
一先ず心を落ち着かせるように深呼吸をする俺。こうでもしないと、このバクバク動いてる心臓を大人しく出来ないから。
そして深呼吸を5~6回すると、漸く落ち着き頭の中も正常に戻り始めた。
「ふうっ……。一先ず今回見た事は俺の心の中に締まっておくとしよう。もし箒達が知ったら不味い事に――」
「おい、そこで何をしている?」
「!」
言ってる最中に突然誰かが声を掛けたので、俺が少し驚きながら振り向く。そこには制服姿のボーデヴィッヒがいた。通りかかった際に偶然俺を見つけたと言った感じだ。
「な、何だボーデヴィッヒか……ふぅっ」
「……貴様は私に喧嘩を売っているのか?」
安堵しながら息を吐く俺にボーデヴィッヒが少し苛立つ様子を見せる。相手の顔見て早々にそんな事をしたら誰だって苛立つだろう。それに加えてコイツは放課後での戦闘で、情けを掛けたと勘違いして俺を一夏並みに憎んでいるし。
「別にそんなつもりは無い。気を悪くしたなら謝ろう。だがそれでもお前の気が晴れないなら、今此処であの時の続きをやろうか?」
今度はIS抜きの生身で、と付け加える俺に、
「バカか貴様。『学年別トーナメントまで私闘の一切を禁止する』と仰った教官の言葉を聞いてなかったのか?」
呆れながら不満そうに答えるボーデヴィッヒだった。
「へぇ。てっきり襲い掛かってくるかと思っていたんだが、意外と冷静なんだな。織斑先生には絶対遵守、ってか?」
千冬さんと呼ぼうとした俺だったが、千冬さんを心から尊敬しているコイツの前でそんな事したら余計にイザコザが起きると思って敢えて苗字にした。
「教官の命令は絶対だ」
「さいですか」
何か千冬さんを尊敬してると言うより、神聖視と言った方が正しいかもしれない。コイツにとって千冬さんが全てみたいな。
そう言う事を俺が指摘したとしても、どうでもいいように突っ撥ねると思うから本題に入るとしよう。
「ま、それはそうとボーデヴィッヒ。運良くアンタを見つけられて良かったよ。ちょっと話があるんだが、今良いか?」
「断る。私は貴様と談笑する気など無い」
「別にそんなんじゃない。今度の学年別トーナメントのペアについての話だ。どうせアンタの事だからまだ決めてないんだろ?」
「だから私とペアになれと? そんなの願い下げだ」
どうやらボーデヴィッヒは俺とのペアはお断りのようだ。まぁ一夏と同様に俺を倒そうとする相手に、何故そんな事をするのかを疑問を抱いているだろう。
「貴様は織斑一夏と同様、トーナメントで倒すと決めている。故に貴様と組む気は毛頭無い」
「なら取引しても無駄か?」
「当然だ。用件がそれだけなら戻らせてもらう」
詰まらないとでも言わんばかりにボーデヴィッヒは部屋に戻ろうと去っていく。
まぁこれは俺の予想通りだから、早速例の手を使うとするか。
「残念だよボーデヴィッヒ。もし俺とペアを組んでくれたら、俺の携帯にメモリーしている織斑先生のプライベート用の携帯番号とメアドを教えてやろうかと思ったんだが」
「!!!」
これもまた予想通り、俺の呟きを聞いたボーデヴィッヒはピタッと足を止めた。そんなボーデヴィッヒに俺は諦めるように去りながら更に呟く。
「けどまぁ、取引に応じてくれないのなら仕方ないな。別の誰かに当たって――」
「ま、待て神代和哉!」
俺の呟きをバッチリと聞いたボーデヴィッヒが待ったを掛けて詰め寄ってくる。
「何だ? アンタ部屋に戻るんじゃなかったのか?」
「そんな事はどうでもいい! 何故貴様は教官の携帯番号とメアドを知っている!?」
う~む……自分で吹っかけたのも何だが、コイツって千冬さんの事となると目の色が変わるな。さっきまで俺をどうでもいいような感じで話していたと言うのに。
「そんなのアンタには関係の無い事だ」
「関係ある! 教官の部下として見過ごす訳にはいかん! さっさと答えろ!」
「そんな理由で……。けどアンタがそこまでして俺を問い詰めるって事は……ひょっとして知らないのか? 織斑先生の番号とメアドを」
「!」
おいおい、何も言い返さないって事は図星かよ。意外と分かり易い奴だな。
「どうやらその反応を見る限りだと、本当に知らないみたいだな」
「くっ……!」
「いやはや、これは意外だった。まさか織斑先生の元教え子だったアンタが知らなかったとは」
「うぐっ……!」
「てっきりお互いプライベートで電話やメールをしてる間柄だと思っていたんだが、実はそうでもなかったようだな」
「ぐはっ!」
あっ。ボーデヴィッヒが吐血して両手と両膝が床に付いた。分かりやすく言えば“OTL”な状態だ。同時に哀愁も漂い始めて来ているし。
「どうせ……どうせ……私と教官はその程度の関係だ……」
「………………」
何だか途轍もなく申し訳ない事をしてしまった気分だな。ちょっとやり過ぎたか。
しっかしまぁ、まさかコイツにこんな意外な面があったとは驚いた。てっきり更にしつこく言及してくるのかと思っていたんだが、ちょっとした脆い部分を突っつかれただけで
クールでありながらも意外と激情なイメージがアッサリと壊された気分だ。人は見かけによらないもんだな。
「えっと……気が変わったからもう一度訊くんだが、織斑先生の携帯番号とメアドを教える代わりに俺とペアを組んでも良いか? トーナメントが終わった後になるが」
「…………………」
何も言わないボーデヴィッヒに、やはり無理だったかと諦めようとしたが、
「………良いだろう。貴様とペアを組むのは非常に気に食わないが、それだけで教官の番号とメアドを知る事が出来るなら安いものだ。今だけはこの屈辱に耐えよう……!」
「そんじゃ取引は成立って事で」
「だがこれだけは覚えておけ神代和哉。貴様とペアを組むのはあくまで取引に応じただけだ。それ以降は必ず貴様を……!」
「はいはい。肝に銘じておくよ」
あくまで取引だけの関係と強く強調するボーデヴィッヒに適当に返事をし、用を終えた俺は部屋に戻る事にした。
「よし。これでペアについての条件はクリアした」
ボーデヴィッヒは俺を嫌っていても、鈴を除く一組以外の女子達とは違って妨害や言いがかりをするなんて事はしない。ドイツにいた頃の千冬さんの元教え子であると同時に軍人のボーデヴィッヒが、女尊男卑を利用しての下らない事はしないからな。アイツはあくまで自分の力のみで戦うタイプだから、そこら辺のバカ女共とは違って信用出来る。
あとそれと、多分トーナメントの後から鈴とセシリアが色々と文句を言うだろうから、それ相応の謝罪と詫びをしておかないとな。あの二人にはアップルパイ以外にも、何か手伝って欲しい事があったらすぐに手を貸すことにしよう。手を貸すにしても内容によるがな。
「さてと、トーナメント開催前には前もってボーデヴィッヒと軽い打ち合わせをしておかないと」
ペアが決まったとは言え、予めの方針を決めておかないといけないからな。そうでもしないと互いに足を引っ張る事態になってしまう。
「取り敢えず明日に話をしてみるか」
そう決めた俺は部屋に戻ろうとしていると、
「やっと見つけたよ和哉!」
「へ?」
「今から大事な話があるからちょっと部屋に来てね!」
「お、おい!」
途中でシャルルと出くわすと同時に有無を言わさずに連れて行かれたのであった。