インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~   作:さすらいの旅人

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第43話

「………またコイツは」

 

「う~ん……かず~」

 

 月曜日の朝五時。

 

 俺はいつも通りに起きたのだが、何故か本音が俺のベッドに潜り込んでいた。

 

 今回が初めてではなく、数週間前から何度も起きている出来事だ。何度注意しても本音は全く聞かず、『かずーと一緒だとグッスリ寝れるから~』なんて言う始末だ。あんまり強く言い過ぎると『かずーは私と一緒に寝るのは嫌?』と涙目の上目遣いで訴えるので、何故かそれ以上注意する事が出来なかった。

 

「ったく。本当にしょうがない奴だな……」

 

 そう言って俺は抱き付いている本音をソッと離してベッドから起き上がる。そして洗面所で一通りの準備を済ませて、朝錬をしに行くために部屋を出た。

 

「あ、そう言えば今日は一夏と一緒に朝練をやるんだった。アイツ起きてるかな」

 

 昨日の事が色々あり過ぎたから、恐らくまだ寝ているだろうと思っている俺だったが、取り敢えず起こしに行こうと一夏の部屋へと向かう。

 

 

 

 

 

「ほれ一夏、早く素振りを終わらせろ」

 

「そ、そんな事言われても……! こ、この鉄棍いきなり重くなって……!」

 

 俺と一夏は現在、鉄棍 (俺は5kg、一夏は2kg)の素振りをやっている。最初は問題無く素振りをしていた一夏だったが、2~30回辺りまでなると動きが鈍くなっていた。

 

 一夏が持っている鉄棍は俺が以前、師匠の家で久々に修行した後、師匠から初心者用の修行道具を借りた物。他にもパワーリスト(1kg×2)やパワーアンクル(1kg×2)があるが、今の一夏にはまだ無理なのでソレ無しで朝練をさせている。いずれ装着してもらうがな。

 

「最初は軽くても、後になってから2kgと言う重さを実感するだろ? それがこの鉄棍素振りのミソだ。普通の竹刀では腕力が鍛えられるが、この鉄棍だと同時に握力も鍛えられて一石二鳥だ」

 

「あ、握力なんか鍛えて意味あるのか?」

 

「あるさ。拳を武器にする俺にとっては握力を鍛える事で手首をより強く固める事が出来るからな。一夏の場合は武器を安定して持てる」

 

 とは言え、ISを使っての戦いには補助があるから武器の安定性はあるからあんまり必要無い。だがそれでも使うのは人間だから自身が鍛えないと意味が無い。

 

 IS操縦者にとっては無意味だと思われるだろうが、自分自身の訓練を疎かにしては機体に振り回されるだけだ。だから訓練は必要不可欠。

 

「ほれ、素振りが終わったら次はスクワットだ。早くしないと間に合わなくなるぞ」

 

「くっ……! やっぱり和哉は化け物だ。ただでさえ俺がこうして素振りをやるのが精一杯だってのに、パワーリストやアンクルを付けて何事も無く終わらせてるし」

 

「だから俺はまだ化け物染みた師匠の領域にまで到達してないっての。そりゃ一夏と違って俺は日頃から鍛えられたからな。コレくらい出来なきゃ師匠の弟子はやってられん。あと言っておくが一夏、お前にもいずれ俺と同じリストやアンクルを付けての訓練をやってもらうからな」

 

「………勘弁してくれ」

 

 素振りをしながらも泣き言を漏らす一夏。そんなんじゃこの先強くなれないぞ。

 

「ところで一夏。俺は一昨日の夕食以降には本音に色々と付き合わされたんだが、シャルルの方は大丈夫だったか?」

 

 無論、これはシャルルが女である事がバレていないかの確認であり、一夏もそれは分かっている。

 

「平気だ。俺が持って来たご飯をシャルルに食べさせて、その後はお互いすぐに寝ちまったよ。昨日も特に問題なかった」

 

「そうか……ん? シャルルにご飯を食べさせたってどういう事だ?」

 

 思わずスクワットを止めて一夏に尋ねると、

 

「シャルルが箸を使うのが不慣れだったから、俺が代わりに食べさせたんだ。それにシャルルが食べさせてってお願いをされてな。ちょっと恥ずかしかったけど」

 

「……お前はシャルルに和食を持って来たのかよ」

 

 普通は洋食を選ぶだろうと付け足して呆れると同時に、シャルルは絶対に一夏に惚れたと確信した。

 

 いくらお願いとは言え、『はいあーん』等と言う恥ずかしい事を異性に頼むのは相手に好意を寄せている証拠だ。これは本格的に一夏争奪戦が開始されるのは時間の問題か。

 

「……シャルルが女だってバレたら一大事になりそうだ。何とかしないと」

 

「ん? 何か言ったか和哉?」

 

「何でもない。さっさと素振りを終わらせろ、一夏」

 

 一先ず朝練を終わらせる為、一夏に催促をさせるのであった。

 

 

 

 

 

 

「そ、それは本当ですの!?」

 

「う、ウソついてないでしょうね!?」

 

 教室に向かっている最中、廊下にまで聞こえる声に何事かと思った。

 

「なんだ?」

 

「さあ?」

 

「さっきの声はセシリアと鈴の声だな。アイツ等は一体どうしてあんなデカイ声を出してんだ?」

 

 一夏の問いにシャルル(男装バージョン)は不可解な顔になり、俺も分からなかったが声の主は分かった。

 

「本当だってば! この噂、学園中で持ちきりなのよ? 月末の学年別トーナメントで優勝したら織斑君と交際でき――」

 

「俺がどうしたって?」

 

「「「きゃああっ!?」」」

 

 何だ? 教室に入った一夏が声を掛けただけで、クラスの女子達が取り乱した悲鳴を上げてるし。ってか、アンタ等はしたないぞ。

 

「で、何の話だったんだ? 俺の名前が出ていたみたいだけど」

 

「う、うん? そうだっけ?」

 

「さ、さあ、どうだったかしら?」

 

 一夏の問いに鈴とセシリアはあははうふふと言いながら話しを逸らしている。一体どうしたんだ?

 

「じゃ、じゃああたし自分のクラスに戻るから!」

 

「そ、そうですわね! わたくしも自分の席につきませんと」

 

 何処かしら余所余所しい様子で二人はその場を離れていくが、

 

「和哉、ちょっと良い?」

 

「ん?」

 

 教室から出ようとする鈴が名指しして来たので、俺は言われたとおり鈴に近付く。

 

「どうした?」

 

「訳は後で話すからさ。放課後になったら至急第三アリーナに来て。勿論アンタ一人で。それじゃ」

 

「はあ? それはどう言う……ってもう行っちまったし」

 

 質問しようにも鈴は颯爽と自分のクラスへと戻ってしまった。一体どう言う事だ?

 

 まぁ後で話すなら良いかと思って席に着こうとする俺だったが、

 

「和哉さん、ちょっとよろしいですか?」

 

「何だ?」

 

 今度はセシリアが俺に話しかけてきた。お前席に着いたんじゃなかったか?

 

「えっと、申し訳ないのですが放課後すぐ第三アリーナに来てくれませんか? 一夏さん抜きで」

 

 鈴に続いてお前もかよ。まぁ良いか。鈴も第三アリーナに来てくれと言われたから、纏めて理由を聞けるから手間が省ける。

 

「構わないが、理由を聞いても良いか?」

 

「そ、それは後ほど話します。ではわたくしはこれで……」

 

 そう言ってセシリアは自分の席に戻ったので、俺も一先ず席に着くと一夏とシャルルが来た。

 

「和哉、鈴とセシリアと一体何を話したんだ?」

 

「何か二人とも真剣な顔をしていたけど……」

 

「放課後、俺に話があるんだとさ」

 

 後で本音に聞いて分かったが、どうやら『学年別トーナメントで優勝したら一夏と交際出来る』と言うのを知る俺だった。

 

 

 

 

 

 

「で? 俺に話って何だ、箒」

 

 昼食後の昼休み。俺と箒は今屋上にいる。

 

 此処にいる理由は箒が『相談する事があるから屋上に来て欲しい』と言われたので、反対する理由は無い俺はどんな相談かと思って一緒に来た。

 

「うむ、実は――」

 

「もしかして学年別トーナメントで優勝する前に一夏と恋人関係にするよう力を貸してほしい、ってか?」

 

「違う! 第一トーナメントで優勝する事については私と一夏だけの話で……ってこれも違う!」

 

 てっきり一夏関連の相談だと思った俺だったが、どうやら違うみたいだ。ってか箒って一夏の事となると面白いな。まぁそれは鈴やセシリアにも言える事だけど。

 

「あ~……スマン、俺が悪かった。もう何も言わないので、どうぞ」

 

 これ以上突っ込むと箒が勝手に自爆して相談どころじゃ無くなると思った俺は、謝りながら本題に入ろうとした。その事に箒は若干間がありながらも、ゴホンッと咳払いをして語り始める。

 

「……話しをする前に私の姉である篠ノ之束は既に知っているだろう?」

 

「まぁな。と言っても、ISを開発した天才科学者って事ぐらいしか知らんが」

 

「その姉さんがISを発表した事によって、私達の生活が大きく変わった」

 

「………………………」

 

 淡々と話しを続ける箒に、俺は黙って聞いている。

 

「ISはその圧倒的な性能から兵器への転用が危ぶまれ、私の家族は重要人物保護プログラムによって転々と引越しをさせられたのだ。気が付けば両親とは別々に暮らし、姉さんは行方知れず。私は執拗なまでの監視と聴取を幾度となくされ、心身共に参っていた」

 

 苦々しい顔をして語る箒に、俺は箒の姉や政府の身勝手な行動に思わず顔を顰めた。聞いてて反吐が出る。

 

「それでも、剣道だけは続けた。一夏とは以前から剣道をしていたから、それが唯一の繋がりでな」

 

 成程ねぇ。一夏との繋がりが剣道だから、それを忘れない為に剣道を続けていたと言う事か。健気だな。

 

「ここからが本題だ。私は中学の頃に剣道の全国大会で優勝したんだが、それはあまり喜ばしい物ではなかった」

 

「と言うと?」

 

「理由は単純にして明快。誰かを叩きのめしたいと言う『ただの憂さ晴らし』でしかなかったからだ。太刀筋は己を映す鏡。そのひどく醜い様を己自身に突きつけられた挙句、決勝戦で戦った対戦相手が涙している姿を見て更に絶望した」

 

「…………………」

 

「あの時のあれはただの暴力だった。強いとは言えなかった。強さとは、そう言うものを指すのではない」

 

「…………………」

 

「お前はどう思う和哉? 武道をやっているお前からしたら、私は醜い人間だと思うか?」

 

「別に俺はそう思わん」

 

「え?」

 

 アッサリ答える俺に素っ頓狂な顔をする箒。俺は気にせずそのまま続ける。

 

「ただ単にお前と当時の対戦相手との力の差があり過ぎただけの事だ。お前は以前までやっていた自分の剣道が暴力だと気付いて改めたんだろう? そこは別に問題無い。だがな、いつまでも負かした相手の事を気に掛けるのはいただけないな。それは武道をやっている者に対しての侮辱行為だ」

 

「わ、私は別にそんなつもりは……」 

 

 納得してない箒だったので俺はある例え話をする事にした。

 

「じゃあ訊くがな箒。例えば俺と箒が剣道で真剣勝負して、俺が勝った時に『残念だったな。お前はよく頑張った、元気を出せ』って言われたらどうする?」

 

「…………そんな事を言われても嬉しくないし、逆に腹が立つ」

 

「だろう? 勝者は悪意の無い台詞だとしても、敗者にとっては侮辱してるのと同時に勝者の傲慢だと捉える。お前が以前の対戦相手をずっと気に掛けているのは、さっきの俺の例え話と似たような事なんだ」

 

「………………………」

 

 目から鱗が落ちたかのように黙って聞いていた箒が考える仕草をしていたが、俺はまだ言い続ける。

 

「だからと言って過去を忘れろとは言わないが、自分が敗者に醜い戦い方をしたと言う事を強く胸に刻み込んで、次に会った時は以前の自分とは違うと証明するんだ……って悪い箒。同年代である俺があんまり偉そうな事を言える立場じゃないな」

 

 自分で言ってて本当に偉そうな事を言ってしまったと感じた俺は申し訳無さそうに箒に謝る。

 

 因みにさっきまで言ってた事は師匠の受け売りだ。まさか俺がこんな事を言うなんて思いもしなかったが。

 

「いや、そんな事は無い。確かにお前の言うとおりだ。どうやら私はまだ思い上がっている部分があったみたいだな」

 

 そう言って箒はさっきまでの苦い顔から、スッキリした顔になっていた。多少は晴れたようだ。 

 

「礼を言う和哉。全てとは言わないが、お前のおかげでスッキリした」

 

「そうか?」

 

「ああ。やはりお前に話して良かったと思ってる。また何か遭ったら相談に乗ってくれるか?」

 

「こんな俺で良かったらいつでも。だけど一夏との夫婦喧嘩については勘弁して欲しいが」

 

「んなっ!?」

 

 夫婦喧嘩と言った瞬間に一気に顔を赤らめる箒。

 

「と言うか箒、早く一夏と恋人関係になってくれないか? 早く唾を付けとかないと一夏が他の誰かに奪われるぞ」

 

「そ、そんなの和哉には関係無いだろう!」

 

「大いに関係あるさ。俺がさり気なく一夏と二人っきりの展開を作ってるって言うのにも拘らず、全然進展してないんだからな」

 

 尤も、これは鈴やセシリアにも言える事だ。コイツ等は普段から強気な性格のくせに、告白の展開となると弱気になってしまう。ヘタレにも程がある。

 

「早く一夏と恋仲になってくれ! そうでないと俺はこの先ずっと要らんトバッチリを受けるんだよ!」

 

「何故お前にそんな事を言われなければならん! と言うか逆ギレするな!」

 

 喧しい! お前等がヘタレなんだから叫ばずにはいられないんだよ!

 

 そして昼休み終了の予鈴がなるまで、箒と一夏との恋愛の事で言い合いを続けていた。

 

 

 

 

 

 

「はー。この距離だけはどうにもならないな……」

 

「確かに」

 

 授業終了の休み時間。俺と一夏はトイレから出て急いで教室に戻っていた。

 

 何故そうしているのかと言うと、学園内に男子が使えるトイレが三ヶ所しかないと言う現状故に、授業終了のチャイムと同時に一夏と一緒に競争している。当然帰りも走って戻らなければ授業には戻れない。俺としては本当なら『疾足』を使いたいところだが、人が多いからぶつかってしまうので使えなかった。アレは本来広い場所で使う技だから、狭い廊下の上に人がいては無理。だから普通に走らざるを得なかった。まぁ先日『廊下を走るな!』なんてお叱りを受けたが、走らなければ教室に間に合わないのでそんなのお構い無しだ。

 

「けど俺達よりシャルルが一番きついんだよな。何しろ本当は――」

 

「ストップだ一夏。その発言は此処じゃマズイ」

 

「あ、やべ!」

 

 俺が注意をしたことにより一夏は思わず自分の手で口を塞ぐ。

 

「大丈夫だ。幸い周りには誰もいない。と言うか無駄口はここまでにして早く戻るぞ」

 

「お、おう。そうだな」

 

 急いで教室に戻ろうとしたが、

 

「なぜこんなところで教師など!」

 

「やれやれ……」

 

「「ん?」」

 

 ふと曲がり角の先から声が聞こえたので、俺達は足を止めて注意を向ける。何しろ声の主がボーデヴィッヒと千冬さんだからな。

 

「何度も言わせるな。私には私の役目がある。それだけだ」

 

「このような極東の地で何の役目があるというのですか!」

 

 あのラウラ・ボーデヴィッヒがあそこまで声を荒げるとは珍しいな。それだけ千冬さんの現在の仕事に不満を持っていると言う証拠、と言ったところか?

 

「お願いです、教官。我がドイツで再びご指導を。ここではあなたの能力は半分も生かされません」

 

「ほう」

 

「大体、この学園の生徒など教官が教えるにたる人間ではありません」

 

「なぜだ?」

 

「意識が甘く、危機感に疎く、ISをファッションかなにかと勘違いしている」

 

 ボーデヴィッヒの言い分には一理あるな。確かにIS学園の生徒はISと言う兵器に対しての認識が甘い。そこは共感出来る。

 

「そのような程度の低いものたちに教官が時間をさかれるなど――」

 

「――そこまでにしておけよ、小娘」

 

「っ……!」

 

 突然凄みのある千冬さんの声に、流石のボーデヴィッヒも(ひる)んでしまったようだ。言葉が途切れて、続きが出てこない。

 

「少し見ない間に偉くなったな。十五歳でもう選ばれた人間気取りとは恐れ入る」

 

「わ、私は……」

 

 ボーデヴィッヒの声が震えているな。それは恐怖だ。圧倒的な力の前に感じる恐怖と、大切な相手に嫌われると言う二つの恐怖。

 

「それと一度神代と戦ってみるといい。そうすれば自分がどれだけ思い上がっていたのかが理解できる筈だ」

 

 ちょっと千冬さん。俺を引き合いに出さないでくれよ。

 

「あ、あんなISに乗って間もない男に、私が負けるとでも思っているのですか?」

 

「好きに受け取るがいい。だがこれだけは言っておく。神代はお前が思っているほど弱くはないし、私もそれなりに認めている」

 

 へぇ。中々嬉しい事を言ってくれるなぁ千冬さん。って一夏、そんなに睨むなよ。

 

「さて、授業が始まるな。さっさと教室に戻れよ」

 

「……………………………」

 

 千冬さんが戻るように言うと、ボーデヴィッヒは黙したまま早足で去って行った。

 

「そこの男子。盗み聞きか? 異常性癖は感心しないぞ」

 

「な、なんでそうなるんだよ! 千冬姉!」

 

「(バカ! そこで反応するな!)」

 

 

バシーン!

 

 

 あ~あ、叩かれちゃったよ。

 

「学校では織斑先生と呼べ」

 

「は、はい……」

 

「ったく、何やってるんだよ一夏」

 

「ん? やはり神代もいたのか」

 

 俺がいた事に気付いていた様子を見せる千冬さん。一応気配は完全に消してたつもりだったが、やっぱり気付いていたか。

 

「ええ、まぁ……完全に気配を消してたつもりなんですが」

 

「途中から急に気配を消しては意味が無いぞ。次からは気をつけるんだな」

 

「そうします。と言うか織斑先生、ボーデヴィッヒが俺と戦うように態とあんな事を言ったでしょう?」

 

「さて、何の事やら」

 

 こんな言い方をするって事はやっぱり態と言ったな。

 

「お前は『IS学園最強』を目指しているんだろう? ボーデヴィッヒに勝てないようでは最強にはなれないぞ?」

 

「………言ってくれますね。では織斑先生のご期待に応えるとしましょう」

 

「ああ、楽しみにしているぞ」

 

「…………………」

 

 千冬さんと俺の会話に一夏が凄~く面白く無さそうな顔をしていた。何だかんだ言って一夏は本当にシスコンだな。

 

「そら、走れ劣等生。このままじゃお前は月末のトーナメントで初戦敗退だぞ。勤勉さを忘れるな」

 

「わかってるって……」

 

「そうか。ならいい」

 

 さっきまで不機嫌そうな顔をしていた一夏は、千冬さんが姉として言った事に緩和される。

 

「じゃあ、教室に戻ります」

 

「では俺達はこれで」

 

「おう。急げよ。――ああ、それと二人とも」

 

「はい?」

 

「何ですか?」

 

「廊下は走るな。……とは言わん、バレないように走れ」

 

 千冬さんの言葉に、

 

「了解」

 

「分かりました」

 

 一夏と俺が了承すると、千冬さんは俺達に背を向けた。どうやら見逃してくれるらしい。

 

 そして俺達は教室までの道のりをバレないようにダッシュした。




ちょっと短編っぽい話でした。

次回もお楽しみに♪

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