インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~   作:さすらいの旅人

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第39話

「こう、ずばーっとやってから、がきんっ! どかんっ! という感じだ」

 

「なんとなくわかるでしょ? 感覚よ感覚。……はあ? なんでわかんないのよバカ」

 

「防御の時は右半身を斜め上前方へ五度傾けて、回避の時は後方へ二十度反転ですわ」

 

「…………率直に言わせてもらう。全然分からん!」

 

「……はあっ」

 

 シャルルが転校して五日が経ち、今日は土曜日。IS学園は土曜日の午前には理論学習、午後は完全な自由時間になってる。かと言って土曜日の午後はアリーナが全開放だから殆どが実習に使ってる。俺や一夏達もアリーナでISの練習をしているのは言うまでも無い。

 

 んで、今日は一夏にIS戦闘についての訓練をさせようと指導役を箒、鈴、セシリアにやらせてみたのだが全然ダメだった。箒は訳の分からん擬音だらけの説明で、鈴は感覚の一点張り。そしてセシリアは細かすぎて逆に分かり辛かった。

 

「一夏、ちょっと相手してくれる? 白式と戦ってみたいんだ」

 

 三人に指導役を任せた事に後悔しながら溜息を吐いてると、ISを纏ったシャルルが一夏に勝負を申し込んできた。その事に一夏は助かったかのようにシャルルを見ている。

 

「分かった、シャルル。と言う訳だから三人とも、また後でな」

 

「「「むう……」」」

 

「和哉も良いよな?」

 

「ああ」

 

 特に反対する理由は無いからな。と言うか三人の分かり辛い指導よりシャルルの戦い方を見ている方が断然良い。

 

 因みにシャルルが纏ってるISはラファール・リヴァイヴだが、IS学園にある量産機と違って専用機だ。恐らくスペックは量産機よりかなり上に違いない。

 

 そして一夏はシャルルと対戦したが………あっさりと負けてしまった。もう少し粘って欲しかったんだがな。ま、射撃武器を把握してないからすぐに負けてしまうのは仕方ないけど。

 

「ええとね、一夏が勝てないのは、単純に射撃武器の特性を把握していないからだよ」

 

「そ、そうなのか? 一応わかっているつもりだったんだが……」

 

 対戦した後、シャルルにレクチャーを受けてる一夏。俺が思った事そのままだな。

 

「うーん、知識として知っているだけって感じかな。さっき僕と戦ったときもほどんど間合いを詰められなかったよね?」

 

「うっ……、確かに。『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』も読まれてたしな……そういや和哉にも読まれてたし」

 

「いくら速くても攻め方が単調だったら分かりやすいっての。訓練の時に言ったろうが。直線的な攻撃は読まれ易いって」

 

「………そうでした」

 

「和哉とはまだ戦ってないから分からないけど、一夏のISは近接格闘オンリーだから、より深く射撃武器の特性を把握しないと対戦じゃ勝てないよ。特に一夏の瞬時加速って直線的だから反応できなくても軌道予測で攻撃できちゃうからね」

 

「直線的か……うーん」

 

「言っておくが一夏。瞬時加速中に下手に軌道を変えようなんて考えは止めておけよ」

 

「え? 何でだ? 直線的な攻撃じゃ読まれ易いんだろ?」

 

「確かにそうだが、そんな事をしてしまうと逆にお前の体に負担が掛かるんだ。そうだろシャルル?」

 

「うん。和哉の言うとおり、空気抵抗とか圧力の関係で機体に負荷がかかると、最悪の場合骨折したりするからね」

 

「……なるほど」

 

 俺とシャルルの言葉をしっかりと聞きながら、話の度に頷く一夏。

 

 それとシャルルの説明は俺の説明を補足してくれるかのように分かりやすくて良い。さっきまで一夏を指導していた女子三人組とは大違いだ。やはりシャルルに交代させて正解だったな。

 

 一夏も一夏で男であるシャルルに気を遣う必要が無いから熱心に話しを聞いている。かく言う俺もその一人だがな。

 

 女子相手だと、あのスーツだからな。それによって俺や一夏は色々な所に目が行ってしまう事がしばしば。正直やり辛い。

 

「ふん。ワタシのアドバイスをちゃんと聞かないからだ。和哉も和哉でアイツの味方をするとは……」

 

「あんなにわかりやすく教えてやったのに、なによ。にしても和哉も分からなかったなんて予想外だったけど」

 

「わたくしの理路整然とした説明の何が不満だというのかしら。それに和哉さんも」

 

 お前等、随分と好き勝手な事を言うねぇ。取り敢えずお前等には今後一夏と実戦練習をして貰うよ。と言うかIS初心者にあんな教え方されても絶対に分からないから話にならないし。

 

 さっきも行ったが土曜の午後はアリーナが全開放されているから、この第三アリーナでも多くの生徒が訓練に励んでいる。だが、学園で三名しかいない男子が……いや、正確には一夏とシャルル目当てに、第三アリーナは使用希望者が続出している。ハッキリ言って生徒が多すぎるから訓練スペースが狭い。同時に別のグループ同士が一夏やシャルルにぶつかったり流れ弾に当たったりとちょっとしたトラブルがあった。

 

 因みに俺の時は故意に狙おうとしてるバカ数名いたが、一夏達に気付かれないようにさり気なく『睨み殺し』を使って動けなくしてやった。それにより動けなくなったバカ数名は他のグループにぶつかりまくって散々な目に遭っていた。自業自得だ。

 

「一夏の『白式(びゃくしき)』って後付武装(イコライザ)がないんだよね?」

 

「ああ。何回か調べてもらったんだけど、拡張領域(パススロット)が空いてないらしい。だから量子変換(インストール)は無理だって言われた」

 

「たぶんだけど、それってワンオフ・アビリティーの方に容量を使っているからだよ」

 

「ワンオフ・アビリティーっていうと……和哉、なんだっけ?」

 

「お前なぁ……この間の授業で出てたのをもう忘れたのか? 言葉通り、唯一仕様(ワンオフ)の特殊才能《アビリティー》だ」

 

「そう。各ISが操縦者と最高状態の相性になったときに自然発生する能力のこと」

 

 呆れながら言う俺にシャルルが続けて説明を足す。

 

 にしてもスラスラと専門用語を出して分かりやすく説明出来るとは、それだけシャルルが優秀だって事が良く分かる。どっかの誰かさん達とは大違いだ。

 

「そう言えばシャルル。ここからは俺もあんまり分からないんだが、一夏は既にワンオフ・アビリティーを発動させたって事は専用機持ちは誰でもすぐに使える物なのか?」

 

「それはない。普通は第二形態(セカンド・フォーム)から発現するんだよ。それでも発現しない機体の方が圧倒的に多いから、それ以外の特殊能力を複数の人間が使えるようにしたのが第三世代型IS。オルコットさんのブルー・ティアーズと凰さんの衝撃砲がそうだよ」

 

「そっか……」

 

 やはり普通はあり得ない事なのか。

 

「なるほど。それで、白式の唯一仕様(ワンオフ)ってやっぱり『零落白夜(れいらくびゃくや)』なのか?」

 

 確か白式の『零落白夜(れいらくびゃくや)』はエネルギー性質の物だったら何であっても無効化・消滅させる白式最大の攻撃能力だったな。だがそれは自らのISのシールドエネルギー、ゲーム風に言えば自分のHPを削ると言う危険も伴った諸刃の剣でもある。

 

「白式は第一形態なのにアビリティーがあるっていうだけでものすごい異常事態だよ。前例がまったくないからね。しかも、その能力って織斑先生の――初代『ブリュンヒルデ』が使っていたISと同じだよね?」

 

 そう言えば千冬さんが現役時代で使っていたISのワンオフ・アビリティーも『零落白夜(れいらくびゃくや)』だったな。

 

 シャルルに姉弟で同じ事が出来るのかと聞こうと思っていたが、

 

「まあ、姉弟だからとか、そんなもんじゃないのか?」

 

「ううん。姉弟だからってだけじゃ理由にならないと思う。さっきも言ったけど、ISと操縦者の相性が重要だから、いくら再現しようとしても意図的にできるものじゃないんだよ」

 

 どうやら違うみたいだったな。何か益々疑問に思ってしまう。何故一夏が千冬さんと同じ事を出来るのかを。

 

「はいはい二人とも。考えるのは後でも出来るから、今は訓練に集中だ」

 

「そうだな。和哉の言うとおり、今は考えても仕方ないだろうし、そのことは置いておこうぜ」

 

「あ、うん。それもそうだね。じゃあ、射撃武器の練習をしてみようか。和哉も一緒にやる?」

 

「喜んで。俺も一夏と同様に近接格闘オンリーだから、射撃武器を学んでおきたい。あ、やるなら一夏の後で構わないから」

 

「………あんな事が出来る和哉に射撃武器は必要ないと思うんだが……」

 

 一夏が呆れたかのような顔をしながら、シャルルが使っていた五五口径アサルトライフル――確か《ヴェント》だったな――を受け取る。あんな事とは『破撃』の事を指してるんだろう。

 

「あれ? そう言えば他のやつの装備って使えないんじゃないのか? そうしたら俺や和哉が使っても無理なんじゃ……」

 

「普通はね。でも所有者が使用承諾(アンロック)すれば、登録してある人全員が使えるんだよ。――うん、今一夏と白式に使用承諾を発行したから、試しに撃ってみて。あ、勿論和哉と打鉄にも発行してるからね」

 

「取って付けたように言わなくても分かってるって」

 

 俺が呆れながら言ってると一夏は手にした銃器に緊張した表情をする。ま、初めて持つ武器だから誰だってそうなる。

 

「か、構えはこうでいいのか?」

 

「えっと……脇を締めて。それと左腕はこっち。わかる?」

 

 一夏は持ったライフルを構えようとしているが如何せん素人丸出しだったので、シャルルがひょいっと一夏の後ろに回って体を上手く誘導する。

 

「火薬銃だから瞬間的に大きな反動が来るけど、ほとんどはISが自動で相殺するから心配しなくてもいいよ。センサー・リンクは出来てる?」

 

「銃器を使うときのやつだよな? さっきから探しているんだけど見当たらない」

 

 妙だな。ターゲットサイトを含む銃撃に必要な情報をIS操縦者に送る為に武器とハイパーセンサーを接続する事に関しては、普通はどのISでも付いてる物だ。それは当然量産機を使っている俺の打鉄にも言える。

 

「うーん、格闘専用の機体でも普通は入っているんだけど……」

 

 やはりそこはシャルルも疑問に思うところみたいだな。にしても一夏の白式ってホントに癖があると言うか何と言うか、実に摩訶不思議な機体だ。

 

「欠陥機らしいからな。これ」

 

「一〇〇パーセント格闘オンリーなんだね。じゃあ、しょうがないから目測でやるしかないね」

 

 そして一夏はハイパーセンサー無しで銃を撃とうと引き金を引くと、

 

 

バンッ!

 

 

「うおっ!?」

 

 物凄い火薬の炸裂音に驚いていた。何もそこまで驚かなくても良いと思うが、初めて撃ったのだからああなるのは無理も無い。

 

「どうだ一夏? 初めて撃った銃は」

 

「お、おう。なんか、アレだな。とりあえず『速い』っていう感想だ。和哉もやってみろよ」

 

 そう言って一夏はアサルトライフルを渡して来たので、俺も試しに撃とうと構える。

 

「えっと、こんな感じで良いのか? シャルル」

 

「うん。そのままの状態で撃ってみて」

 

「よし」

 

 シャルルからOKを貰った俺は銃を撃つ。

 

 

バンッ!

 

 

「………成程。確かに『速い』と言う感想の一言だな」

 

「だろう?」

 

 思った事を言う俺に一夏が頷くように言って来る。 

 

「そう。二人の言うとおり速いんだよ。一夏の瞬時加速(イグニッション・ブースト)も速いけど、弾丸はその面積が小さい分より速い。だから、軌道予測さえあっていれば簡単に命中させられるし、外れても牽制になる。一夏は特攻するときに集中しているけど、それでも心のどこかではブレーキがかかるんだよ」

 

「だから、簡単に間合いが開くし、続けて攻撃されるのか……」

 

「うん……」

 

「おい一夏。今漸く鈴とセシリアと戦うと一方的な展開になっているんだと理解と同時に納得しているんだろうが、今更何気付いてるんだ? と言うかお前の場合は、射撃武器の無い俺相手にもすぐボロ負けしてるんだぞ?」

 

「うぐっ……!」

 

「え? そうなの?」

 

 俺の突っ込みに一夏は痛いところを突かれたかのように顔を顰めると、シャルルは凄く意外そうな顔をしている。

 

「和哉は一夏より強いの?」

 

「今のところは、な」

 

「へえ。じゃあもしかしてオルコットさんや凰さんよりも強かったりする?」

 

「そこはご想像に任せる」

 

「いや、お前今でもセシリアと鈴相手でも圧倒してるだろうが! 特にビットや衝撃砲を意図も簡単に避けるなんて芸当仕出かしてるんだから!」

 

「…………え?」 

 

 一夏が余計な事を言ってしまった為にシャルルは目が点になると、

 

「くっ! あの時は鈴さんの気持ちが痛いほどわかりましたわ……! あんな風に避けられたら意地でも当てたくなりましたし……!」

 

「アイツのあの避け方、反則にも程があるわよ……! いつか絶対に当ててやる……!」

 

「………私はスルーか」

 

 悔しく言ってる二人と寂しそうに言う一人の声の言葉が耳に入って来た。セシリアと鈴はともかく、何か箒には悪い事をしたように罪悪感が湧いてくるのは俺の気のせいだろうか?

 

「え、えっと和哉。一夏の言ってる事が本当なら、どうやって簡単に避けたのか詳しく訊きたいんだけど……」

 

「今から説明すると少し時間が掛かると思うから、それは訓練が終わった後に教えてやるよ。それより今は射撃訓練だ。ほれ一夏、まだお前がやってる最中だからな」

 

「お、おう。シャルル。このライフルの弾だけど……」

 

「え? あ、そのまま一マガジン使い切っていいよ」

 

 俺が一夏にアサルトライフルを渡すと、一夏は撃つ前にシャルルから確認を取った後に空撃ちを始める。

 

「ところでシャルル。お前が使ってるラファール・リヴァイヴは以前に山田先生が使っていた物とはかなり違うように見えるが?」

 

 一夏が空撃ちをしてる最中、リヴァイヴの違いについて訊くとシャルルはすぐに答える。

 

「ああ、僕のは専用機だからかなりいじってあるよ。正式にはこの子の名前は『ラフォール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』。基本装備(プリセット)をいくつか外して、その上で拡張領域(パススロット)を倍にしてある」

 

「倍か。それはまた凄いな。一夏の白式にもそれくらいあれば良いんだが」

 

「あはは。そうだね。そんなカスタム機だから今量子変換(インストール)してある装備だけでも二十くらいあるよ」

 

「見た目以上に火力重視な機体なんだな」

 

 こりゃもしシャルルと戦う時には『疾足』と『破撃』と同時にあの奥義(・・・・・)もフルに使わないといけないみたいだ。もしくは懐に入ってすぐ『砕牙零式』で決めるってところか。

 

「シャルル、一マガジン撃った……ってどうした和哉? 何か難しい顔をしてるが」

 

「うん? ああ、シャルルのISの装備数が二十くらいある事にちょっとな」

 

「二十!? それってちょっとした火薬庫みたいだな……」

 

 空撃ちを終えた一夏にシャルルのISについて教えると、それはもう驚いた顔になった。そんな一夏にシャルルは笑顔でライフルを受け取り、空マガジンを抜いて新しいのを入れようとしている。

 

「ねえ、ちょっとアレ……」

 

「ウソっ、ドイツの第三世代型だ」

 

「まだ本国でのトライアル段階だって聞いてたけど……」

 

 急にアリーナ内がざわつき始めたので、俺達は注目の的となっている方へと視線を移した。

 

「………………」

 

 そこにいたのはシャルルと同じ転校生である、ドイツ代表候補生ラウラ・ボーデヴィッヒだった。

 

 この学園に来て以降、ボーデヴィッヒはクラスの誰とも仲良くしようともしないだけでなく会話さえもしない女子。

 

 俺もボーデヴィッヒとはまだ話した事は無いが、アイツは時折俺に視線を向けて来る事がある。目が合っても向こうからすぐに逸らして眼を瞑るが。ま、転校初日に一夏に平手打ちをする直前、俺が『睨み殺し』を使ったからな。

 

 だが今のアイツは俺に視線を向けず、一夏の方にだけ集中している。これは何か一騒動起きそうな予感がしそうだ。


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