インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~ 作:さすらいの旅人
本当はもう少し書こうと思っていたんですが、中途半端に区切る事になるので敢えて短めにしました。それではどうぞ!
「よし。歩行が終わったら次の人に交代だ」
「は~い」
一人目の女子がISの装着、起動、歩行を終えたので装着解除するが、
「ねえ神代君。コックピットに届かないんだけど……」
「何? ………あ~……」
しゃがむようにと指示をするのを忘れてしまい、ISが立ったままの状態になってしまった。
因みに一夏達のグループも同じ事をやっており、二人目の女子が困惑している。
「………こうなってしまったら仕方ないな。じゃあ俺が乗せるとするか。悪いが少し我慢してくれ」
「どうやるの?」
「こうするんだ」
「え? ………ちょっ!」
俺が二人目の女子を抱き上げてすぐにヒョイヒョイと飛んでISのコックピットまで運ぶ。
「はい、装着をしたら起動と歩行をするように。終わったら解除する際しゃがむように」
「あ、ありがとう……」
運び終えた俺はすぐに降りると、布仏が俺に近づいてくる。
「かずーって身軽だねー」
「それはどうも」
「今度は私を運んでー」
「残念だが次からはしゃがんで装着解除するように言ってあるから運ぶ事は無い」
君の考えてる事はお見通しだよ、布仏。楽して運ばれようだなんてそうはいかない。
「ぶー……」
これも予想通りと言うべきか、布仏は頬を膨らませて不満そうな顔になっている。
そんな中、一夏の方では珍しく山田先生が一夏の手を引いて自分の方に向かせていた。それに加えて、山田先生の大きな胸が一夏の腕に挟まれて凄く密着度が増している。
「一夏って本当に女に関してはラッキーイベントがあるなぁ……」
見てて本当に羨ましい……。っておい、何をしてるんだ布仏?
「まやまやに対してまたやらしい目で見てるー」
「だからって俺の頬を抓る事はないと思うんだが?」
「これはお仕置きー」
何で俺がお仕置きをされなきゃいけないんだよ。お仕置きする相手は一夏にしてくれ。
「………はあっ。また痴話喧嘩が始まった」
「でも見てて和むよね?」
「あんまり怒る事の無い本音があんな不機嫌な顔になるのって珍しい……」
「それだけ神代君の事が好きだって証拠よ」
女子達がまた訳の分からん事を言ってる最中、ISの操縦を終えた一人目の女子が立ちながら装着解除をしていた。
「こら。何で立ったまま装着解除をしてるんだ」
「いや、まあ、何となく?」
「何となくって……」
そんな理由で勝手な事をするなよ。ったく。また運ばなきゃいけないのか。
「まあまあ神代君。そう怒らない怒らない」
「そうだよ。さ、早く本音を運ばなきゃね」
「お前等、何か妙に楽しんでいないか?」
「「いやいや、そんな事無いから♪」」
揃って同じ事を言うって事は楽しんでいるようにしか見えないんだがな。
まあいい。さっさと布仏を運ぶとするか。
「布仏さん、ちょっと失礼するよ」
「…………えへへ~♪ かずーにお姫様だっこされてる~♪」
何だ? さっきまで膨れっ面して怒ってたのに、急に機嫌が良くなったな。一体どうしたんだ?
ま、却って好都合だ。運んでる最中にまた頬を抓られたら嫌だし。にしても女って良く分からない。急に怒ったり機嫌がよくなったりするからな。
そう思いながら俺は布仏を抱きかかえたまま、再び立ち状態であるISをコックピットまで運ぶ。
「ほら布仏さん、早く装着して」
「ぶ~……かずー早過ぎだよ~」
「時間が惜しいから早くしたんだ。いつまでもしがみ付いてないで離れるんだ」
「かずーがアップルパイを作ってくれるなら離れてあげる」
「布仏さん、君に選択肢を与えてあげよう。素直に従うか、織斑先生の鉄拳を喰らうか……」
「さーて、早く装着しないとねー」
選択肢を聞いた布仏はすぐ俺から離れてISの装着を始めた。いくら布仏でも千冬さんの鉄拳は喰らいたくないだろうから離れたんだろう。
「全く。布仏さんは事ある度にアップルパイを作れって強請ってくるな」
「それだけ神代君の作るアップルパイは美味しいのよ。私も食べたいけどね」
ISから降りながら呟く俺に近くにいた女子が当然のように言って来る。布仏じゃなくて他の一組の女子達も時折俺にアップルパイを作ってくれって催促してくる事がある。
「そんなに食べたかったら店で買ってくれば良いだろうが。素人の俺なんかよりプロの方が美味しいと思うが?」
「確かにそうかもしれないけど、神代君の作るアップルパイは他のとは違う美味しさがあるのよ」
「そうそう。病み付きになっちゃう美味しさで……」
「ついまた食べたくなっちゃうのよね~」
よく分からんが、それだけ俺のアップルパイは好評って事なのか? そう言えば以前、綾ちゃんに作ってあげた時も美味しいって言われて食べきった後にご飯をご馳走してくれた事があったな。また綾ちゃんと会う機会があったらアップルパイを作ってあげるか。
そう考えてる内に布仏は一通りの練習を終わって装着解除しており、次の女子がISに装着して練習を始めていた。俺達の班は順調に進んでいたが、一夏達の班はかなり出遅れている。理由は簡単。一夏の班の女子達が全員立ったままでISの装着解除をしてるからだ。それにより一夏が白式を展開しては運んで降りる行為を繰り返してるからであった。
◇
「では午前の実習はここまでだ。午後は今日使った訓練機の整備を行うので、各人格納庫で班別に集合すること。専用機持ちと神代は訓練機と自機の両方を見るように。では解散!」
時間がギリギリだったが、全員がやっと起動テストを終えた一・二組の合同班は、格納庫にISを移してから再びグラウンドへ戻る。一夏達の班が凄く遅れていた為に時間一杯だったから全員が全力疾走をしてる。俺は別に問題ないが、他はもう必死だ。
殆どが肩で息をしている一夏達に、千冬さんは連絡事項を伝えると山田先生と一緒にさっさと引き上げた。
「あー……。あんなに重いとは……。そう思わなかったか、和哉?」
「まあな」
訓練機はIS専用のカートで運ぶが動力が一切無いので、必然に俺たち「人」が動力である。
「しかしお前の班の女子達には呆れたな。お前だけに運ばせておいて、自分達は一切手伝わなかったとは。いくら男の立場が弱いとは言え、使ったISぐらい一緒に片付けて欲しいもんだ」
「いや、まあ、男の俺が運ばないで女子に運ばせるっていうのも普通におかしいというか、ありえないからいいんだけど」
「相変わらず甘いな」
そんな考えでいると、相手は付け上がるから止した方が良いと思うんだが。と言うか一夏と同じ班にいた箒の奴も、武士道精神を持ってる割にはいい性格してるな。
因みに俺の班はちゃんと全員で運んでいたが、シャルルの班は「デュノア君にそんなことさせられない!」と数人の体育会系女子がそう言って訓練機を運んでいた。俺はともかく、一夏とシャルルの扱いが結構違うのが良く分かったよ。
「ま、お前のその考えは今に始まった事じゃないから仕方ないか。それより早く着替えに行くか」
「そうだな。シャルルも一緒に着替えに行こうぜ。俺たちはまたアリーナの更衣室まで行かないといけないしよ」
「え、ええっと……僕はちょっと機体の微調整をしてからいくから、先に行って着替えててよ。時間がかかるかもしれないから、待ってなくていいからね」
「機体の微調整はすぐにやるべきものじゃ無いと思うが……。ま、シャルルがそう言うなら先に戻るな。行くぞ一夏」
「いや、別に待ってても平気だぞ? 和哉と違って俺は待つのには慣れ――」
一夏が一緒に待つと行ってる最中に、
「い、いいからいいから! 僕が平気じゃないから! ね? 先に教室に戻っててね?」
「お、おう。わかった。そ、それじゃ行くよ和哉」
シャルルの妙な気迫に押され、一夏はつい頷いて俺に付いて来た。
「なあ和哉、何でシャルルはあそこまで必死だったんだ?」
「さあな。もしかしたら一夏にセクハラされるかもしれないと危惧したんじゃないか?」
「何でだよ! 俺は男相手にそんな趣味は無いぞ!」
「冗談だ。そう向きになって怒るな。けどシャルルもああ言ってる事だから、さっさと更衣室に行くぞ」
食って掛かる一夏に俺が軽く流してると更衣室に着いてすぐに着替え始める。
「そうだ和哉。今日の昼は空いてるか?」
「何だ藪から棒に」
「箒が俺と一緒に昼飯を食べないかと誘われてさ。けど俺だけってのもなんだし、良かったら和哉も一緒にどうかと思って。あ、勿論シャルルも誘うつもりだ」
「……………箒がお前を誘ったなら別に俺やシャルルを誘わなくてもいいと思うが?」
多分箒の事だから、一夏と二人っきりで食べたいから誘ったんだろう。取り敢えず箒の意を汲んで断ろうとする俺だが、誘われた本人は全然気付いてない。ま、一夏の鈍感は今に始まった事じゃないが。
そして俺がやんわりと断っても、一夏は一緒に食べようと何度も言って来るので折れる事になった。
次回は長めになるのでお楽しみに!!