インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~   作:さすらいの旅人

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第31話

「ああ言った理由は……貴方達がISの危険性と言う物を全く理解していないからですよ」

 

「何ですって!」

 

「どう言う意味だコラ!」

 

 俺が言った直後に蘭と厳さんがまた怒鳴ってきた。

 

「止めなさい、二人とも。話は始まったばかりだというのに……ごめんなさい和哉くん。話しを続けて」

 

 怒鳴る二人に蓮さんがすぐに宥めると続きを促してくるので、俺は再び口を開く。

 

「厳さん、蓮さん、貴方達はISを使って相手と戦うと言う一種のスポーツの様に見ていると思いますが……」

 

「それがどうした? そんなもんいくら俺でも知ってるぞ」

 

「けど和哉くんの言い方だと他にも何かあるみたいね」

 

 厳さんとは違って連さんは気付いたみたいだな。

 

「ええ。アレはあくまで表向きであり、一種のデモンストレーションです」

 

「で、でもんすれーしょんだぁ?」

 

「お義父さん、デモンストレーションです」

 

「宣伝と思えばいいですよ」

 

 意味が分かっていない厳さんに俺が日本語で訳すと、だったら最初から日本語で言えと怒鳴り返された。

 

「で、ISの本来の使い方は……戦争の為に使う人殺しの兵器ですよ。まぁ表向きでスポーツとして使っているISは、自国が他国にいつでも戦争が出来ると言う宣伝です」

 

「「!!!」」

 

「ましてや、IS学園はその人殺しの兵器の使い方を学ぶ所。そしてISを学んだ卒業生達は戦争へ駆り出される兵となる」

 

 戦争と聞いた瞬間、厳さんと蓮さんは驚愕して目を見開きながらも俺の話しを聞いている。

 

「ちょ、ちょっと待って下さい和哉さん! いくらなんでもそれは飛躍しすぎじゃありませんか!? こんな平和な時代に戦争なんて起きませんよ! そうならない為にアラスカ条約があるじゃないですか!」

 

 オーバーだと言って来る蘭に俺は呆れ顔になった。状況を全く理解してないみたいだな。

 

「そこら辺は妹さんでも知っているみたいだな。確かにアラスカ条約によって、ISの軍事利用は禁止されている。一見はね」

 

「でしたら……!」

 

「だけど妹さん。いくら禁止されているからと言って、じゃあ何で以前まであった戦車や戦闘機がもう使われていないと思う? 軍事利用で使っていた兵器をだよ」

 

「!!!」

 

「理由は誰もが知っている。ISがあるからソレ等はもう兵器としての価値が無いから不要って事だ。けどさぁ、何かコレ矛盾してないかい?」

 

「「「………………………………」」」

 

 アラスカ条約についての矛盾を指摘すると、蘭だけでなく厳さんと蓮さんも黙っていた。そして話しを聞いている一夏は何とも言えない顔をしており、弾は顔を青ざめている。

 

「おかしいよな? ISを軍事利用してはいけないって決まりをアラスカ条約で決まってる筈なのに、何で今までの兵器が不要になっているのかが。当然、この矛盾点は俺みたいな奴でも気付いてるのに、国のお偉いさんはソレに関して一切誰も抗議していない。加えてISを開発している世界二十一ヵ国全て」

 

「………和哉くん、それってどの国も敢えて黙認してるって事なのかしら? ISと言う兵器がそれだけ強力な武器だから」

 

「そうでなかったら前まであった戦車や戦闘機を簡単に手放していないと思いますよ。何しろISは一機だけで過去の兵器以上の働きをしますからね」

 

「………………………………」

 

 口を開いた蓮さんの問いに俺があっさり答えると再び口を噤んだ。

 

「とまぁ、アラスカ条約の矛盾はここまでにしてだ。妹さん、俺の言ってる事が何処か間違ってるなら遠慮なく言ってくれ。これはあくまで俺の考えに過ぎないからね」

 

「……………………………」

 

「無かったら話しを続けさせてもらうよ」

 

 何も答えない蘭に俺は次に戦争が起きる理由について話そうとする。

 

 どうでもいいんだが、さっきまで怒鳴っていた厳さんが急に静かになったな。腕を組みながら目を閉じて黙って聞いている姿勢だ。まぁ聞いているならこっちとしては良いけど。

 

「で、戦争についてですけど……さっき話したISが強力な兵器だと言うのは既に御存知。そして各国はいつでも万全に防衛出来るようISを開発して更に強化している。さて厳さん、ここで貴方に問います」

 

「………何をだ?」

 

 俺が名指しすると、厳さんは目を開いて低い声を出しながら見てくる。俺の問いをちゃんと聞いてくれるみたいだな。

 

「もし何処かの一つの国が、自分が作ったISより強力である上に喉から手が出るほど欲しいISを持っていたらどうしますか? 無論、それは他の国から見ても欲しがるISです」

 

「……そんなもんがあったら、さっき言ったアラスカ条約とかなんたらで抗議するんじゃねえか?」

 

「まあそうでしょうね」

 

 厳さんの言うとおり、いくらアラスカ条約に矛盾があっても抗議する事は出来るからな。けどその後からは問題になる。

 

「では次に。条約違反となったISが余りにも強力過ぎるから、各国が協議した結果は誰も手の届かない無人島へ放棄すると決めました……表面上はね」

 

「表面上?」

 

 蓮さんが繰り返して言うと、俺は次に蓮さんへ質問をする事にした。

 

「蓮さん、もし貴方が喉から手が出るほど強力なISを無人島へ放棄した後はどうしますか?」

 

「そのまま諦めるんじゃないかしら?」

 

「蓮さんみたいな人でしたら何の問題はありませんけど……じゃあそうでない人だったらどうすると思います?」

 

「…………他の国に知られないよう独自に回収する……かしら? ISを独占する為に」

 

「そうですね」

 

 自分達が欲しい物を簡単に諦めるほど、人間誰しもそんなに無欲じゃない。寧ろ強欲な生き物だ。って師匠に教えられたからな。

 

「妹さん、ここでアンタに最後の質問だ」

 

「は、はい……」

 

 どうやら蘭は気付き始めているみたいだな、俺がどうしてこんな質問をしているのかを。

 

「もしISを独自に回収する国が一つだけじゃなく、同時に他の国も無人島に来ていたらどうなるかな?」

 

「それは………そのISを奪う合う為に………っ!!」

 

「そう。そこで火種が生まれた途端に戦争の始まりだ。強力なISを奪う為の殺し合いを、な」

 

 漸く気付いた蘭に俺が締めると、誰もが言葉を失った。蘭、厳さん、蓮さん、一夏、弾だけでなく、この五反田食堂にいる他の客達も。

 

「そうなればもう誰にも手が付けられない状態になり、各国は『もうアラスカ条約なんか知った事か!』と言わんばかりに、軍事利用として禁止されていたISを投入して更なる血生臭い激戦が繰り広げられる」

 

『…………………………』

 

「今この時代はISが最強の兵器だから、どの国もソレが手に入れる事が出来るなら何だってする。たとえ戦争する事になっても、それに対抗する為のISがあるんですから」

 

 さてさて、此処まではあくまで長い前置きに過ぎない。

 

 俺が蘭にIS学園に入学して欲しくない一番の理由は次からだ。

 

「で、もし戦争になったら一番真っ先に徴兵されるのがIS操縦者達だ。更にはIS学園で在学中の生徒も駆り出される可能性もある。例えば……不足してるならISの適正が高い生徒でも構わない、とか?」

 

「!」

 

 IS簡易適正試験でAランクを出した誰かさんに向かって遠回しに言った途端、ビクッと身震いする蘭がいた。自分が駆り出されるかもしれないと思ったかな?

 

「適正が高いとは言え、まだ素人同然である生徒がISを操縦して戦場に出たらどうなるか……そこから先はどうなるかはもう大体分かる筈。特に厳さん、戦争と言う物を理解している貴方でしたらよくお分かりだと思いますが? もし妹さんが戦場に行ったらどうなるのかが」

 

「…………………………」

 

「お、お爺ちゃん?」

 

 尋ねても無言になってる厳さん。そして同時に顔を青褪めている事に蘭は不安そうな声を出す。

 

「厳さんの顔を見る限りではもう分かっているようですね。殺されるか、捕虜になるかのどっちかが。けど女性からすれば捕虜なんかならずに殺された方がまだ良いでしょうね」

 

「こ、殺された方がまだ良いって……?」

 

「お、おい和哉……それってもしかして……」

 

 一夏が繰り返して言い、弾が不安そうに訊くと……。

 

「そうだ。捕虜になった相手は情報を聞き出す為の拷問をするだけじゃない。妹さんみたいに可愛い女の子が捕虜だったら、男の欲望の捌け口にする為の……」

 

「そこから先は言わなくていい!!!!」

 

 俺が答えを言ってる最中に、厳さんがいきなりデカイ声を出して遮った。恐らく捕虜になった蘭が男達に犯されるのを想像してしまったんだろう。孫娘の蘭を溺愛している厳さんにとっては微塵も考えたく無い事だ。

 

 それと同時に蘭もガクガクと自分で体を抱き締めながら震えており、蓮さんや一夏、弾、そして客達も顔を完全に青褪めてしまっている。厳さんと同様の事を考えていたみたいだな。

 

 俺の予想では蘭がもし一夏以外の男に犯されたら間違いなく自殺すると思う。それだけ一夏の事が好きだからな。だが残念な事に、捕虜になった女性と言うのは自殺する権利は与えられず、男達の気の済むまでに利用されるからソレは叶わぬ願いになる。

 

 だから俺としては、友人の妹の蘭がIS学園に入学するのを反対している。人殺しの兵器であるISの使い方を学び、そして戦争に駆りだされて地獄を味わって欲しくないがために。

 

「とまぁ、そう言う訳だ妹さん。さっきまで話した事はあくまで俺の予想に過ぎないからな」

 

「…………………」

 

 蘭に話しかけても返事が来ない。さっきまでは俺に威勢よく怒鳴って来た時とは大違いだ。

 

「それでもさっきの話しを聞いたのにも拘らずIS学園に入学するんだったら、俺はもう止めはしないし何も言わない。そこから先は君の自由だ」

 

「わ、私は………」

 

 震えて泣きながら言う蘭に俺は更に追撃をする。

 

「君が人殺しの兵器を学び、戦場に駆りだされ、相手を殺す覚悟と相手に殺される覚悟を持っているなら――」

 

「和哉! これ以上蘭を追い詰めるな!」

 

「お願いだ和哉! 止めてくれ! 蘭がマジで泣きそうだ!」

 

 俺が言ってる最中に、一夏と弾が遮って止めに入った。特に弾は泣いている蘭を抱き締めながら言っている。

 

「一夏、弾、俺は一切口出しをするなと言っておいた筈なんだが?」

 

「もう充分だろ! これ以上続けるつもりなら俺は黙っちゃいないぞ!」

 

「和哉! 兄として頼む! もうこれ以上は!」

 

「…………なら厳さんと蓮さんはどうですか? 妹さんがこのままIS学園に入学する事に賛成ですか?」

 

 蘭を追い詰めるのはここまでで良いだろうと思った俺は次に、厳さんと蓮さんに尋ねる。

 

「…………すまねぇ蘭。悪いが前言撤回させてもらう。孫のお前が戦争に行く事になるなんて、俺は絶対に嫌だ……!」

 

「そうですね。私もIS学園に入学して欲しく無いわ。母親の私としては蘭には幸せな道を進んで欲しいから……」

 

 歯を食いしばりながら撤回する厳さんに、顔を伏せながら目を閉じて言うと……。

 

「俺も嫌だ! 頼む蘭ちゃん! IS学園に入学しないでくれ!」

 

「蘭ちゃんが戦争に行くなんて嫌だ!」

 

「もしソイツが言ったとおり、蘭ちゃんが敵の捕虜にされちまったら、俺は……俺はぁ!」

 

 他の客達も蘭がIS学園に入学するのを反対していた。あの面子は確か蘭のファンクラブだったな。

 

「蘭! お願いだからIS学園に入学するのは止めて、今まで通りでいてくれ。お兄ちゃんとしては、蘭に戦争に行って欲しくない!」

 

「お、お兄ぃ……」

 

 蘭は必死に説得する弾を見て……。

 

「俺もだ蘭。もしお前が戦争で死んじまったら……俺は安心してあの世に行く事が出来ねぇ……!」

 

「蘭、悪いけど考え直してくれないかしら? 和哉くんの話しを聞いて、自分がどれだけ浅はかだったかと言うのを心底思い知らされたわ」

 

「お爺ちゃん……お母さん……」

 

 苦しい顔をする厳さんと悲しそうな顔をする蓮さんを見て……。

 

「蘭ちゃんファンクラブ代表として頼む! どうか考え直してくれ!」

 

『お願いだ蘭ちゃん!』

 

「みんな………」

 

 そして蘭のファンクラブも見た。

 

 どうやら此処から先は見届ける必要は無さそうだな。もう此処に居る面子が必死に説得するから、蘭は考えを改めるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なあ和哉」

 

「何だ?」

 

 話しを終えた俺は五反田食堂から出て少し歩いていると、同行している一夏が俺に話しかけてくる。

 

 因みに弾は蘭の説得をしているので此処にはいない。

 

「蘭を説得する為とは言え、いくらなんでもアレは言い過ぎじゃなかったか?」

 

「ああでも言わないと蘭は考えを改めないと思ったからな。それにアイツはISと言う兵器を全く理解してない上に、覚悟なんて微塵も無かったんだからな。そんな奴がIS学園に来られちゃ却って迷惑だ」

 

 大好きな一夏を追いかける為にIS学園で入学するなんて言う不純な動機で来られちゃ堪んないしな。と俺は内心そう付け加える。

 

「確かにそうだが……けどいくらなんでもあそこまで追い詰めて泣かせるのはどうかと思うが」

 

「それだけアイツが戦争と言う悲惨さを全く理解していなかった証拠だ。お前だって嫌だろう? 蘭が戦争に行って殺されたり、捕虜になるのは」

 

「………………………」

 

 分かってはいても未だに納得してないって顔をしているみたいだな。

 

「言っておくがな一夏。どんなに御託を並べたところで、ISは所詮戦争をする為に使う人殺しの兵器。ましてやIS学園はその兵器の使い方を学ぶ所だ。それだけはちゃんと覚えておけ」

 

「………………………」

 

「俺はこの先、あの時の蘭みたいな甘っちょろい覚悟しか持っていなくてIS学園に入学する知り合いを見つけたら同じ事を言うつもりだ。たとえ嫌われようが何度でも言い続ける。戦争に行って死なれるより断然良いからな」

 

「……………ゴメン和哉。お前がそんな覚悟を持っているのを知らなくて、俺は……」

 

 俺が本気だと分かった一夏は顔を伏せながら謝ってくる。

 

「良いんだ。こう言った嫌われ役に俺はもう慣れてるからな。それにお前は優し過ぎるから俺みたいな事を言うなんて無理だし」

 

 謝る一夏に俺は大して気にせずに言いながら歩き続けると、一夏も俺の後に続く。

 

 その後はとても何処かのゲーセンで遊ぶ気にもなれなかったので、俺と一夏はそのまま学園に戻って各自の部屋で過ごすのであった。




にじファンで掲載していた話が終わりました。

次回からは本当の更新になります。

ですが私自身、仕事により忙しい身ですので更新は週1~2回程度になる事をご了承下さい。

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