インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~   作:さすらいの旅人

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第26話

「はあああっ!」

 

 双天牙月を構えて俺に斬撃をしてくる鈴に俺は……。

 

 

ガキィィィィンッ!!

 

 

「んなっ!?」

 

「ふむ、成程。確かに強烈な一撃だ。一夏が避けたがるのも分かる」

 

 瞬時に刀を展開して受け止めた。俺が大して驚かずに平然とした顔をしてる事に、鈴は信じられないような目で見ている。

 

「鈴、何を驚いている? 初撃を防がれたくらいで動揺するなよ」

 

「こ、この……! この程度の攻撃を受け止めた位でいい気になるんじゃないわよ!」

 

 そう言って鈴は俺から距離を取り、もう片方の手からも双天牙月を出して二刀流で攻めてきた。

 

「はあっ!」

 

「ふんっ」

 

 

ガキィィンッ!

 

 

 再び鈴の攻撃を防ぐ俺だが……。

 

「甘い!」

 

「おっと」

 

 

ブオンッ!

 

 

 別の双天牙月が俺に振りかぶって来たので即座にかわして距離を取った。そんな俺に鈴は逃さないと言わんばかりに追撃して双天牙月を振るう。

 

 

ガンッ! ガキンッ! キィンッ! ブオンッ! ヒュッ!

 

 

「ほらほらどうしたの和哉!? 防御してるだけじゃあたしを倒せないわよ!」

 

「………………………」

 

「何も言わないって事は相当焦ってるって証拠かしら?」

 

 右腕で猛攻を防ぎながら距離を取っている俺に、鈴は追撃しながら問い掛けてくる。だが俺は何も答えずにじっくりと鈴の攻撃を観察しながら防御していた。

 

「だけどね!」

 

 

ガキィィィンッ!

 

 

「今更アンタが『手加減をしてくれ』って言ってもしないから!」

 

「…………………………」  

 

「あ、アンタねぇ! 少しは何か言い返しなさいよ!」

 

 鍔迫り合いをしている最中に鈴は俺の無言に早くも痺れを切らしたのか、すぐに怒鳴ってきた。そっちが一方的に話しかけているってのに勝手にキレても困るんだが。

 

 俺の内心突っ込みを余所に鈴がまた怒鳴りながら猛攻を仕掛けてくる。

 

 

ガキンッ! ヒュッ! ブオンッ! キィンッ!

 

 

「どうする和哉? 今の内に降参して謝るなら考え直すけど?」

 

「やれやれ。喋る余裕があるなら戦いに集中したらどうだ? でないと負けるぞ?」

 

「んなっ!」

 

 やっと口を開いた俺に鈴は目を見開く。

 

「ほれ。口ばっかり開いていないで早く掛かって来い。そんなちゃちな攻め方じゃ俺は倒せないぞ」

 

「何ですって……! あたしの攻撃を防いだくらいで調子に乗るんじゃ無いわよ!」

 

 鈴はそう言いながら双天牙月を連結する。その後一夏との戦いでやった時みたいに、バトンのように振り回して高速回転をさせながら攻撃を繰り出してきた。

 

 今度は突きをしてきたので俺は苦も無く避けるが、鈴は即座に斬撃をしてくる。それも避けると次は高速回転をしながらも斬撃をしてくる。

 

(流石に回転攻撃は今の俺じゃ防ぎきれないな)

 

 そう考える俺は慌てずに冷静に鈴の攻撃力を分析する。反撃をやろうと思えば出来るが、鈴の近接戦の戦い方を見るために態と防御に徹している。一夏とセシリアの近接戦では俺でも簡単に対応出来るから、鈴の戦い方は良く見ておかないとな。

 

「この! さっきからちょろちょろと……!」

 

 未だに攻撃を避けている俺に鈴はイライラしていたが、俺はそんなのお構い無しに防御に徹していた。

 

 

 

 

 

 

 

「やっちゃえ~凰さん!」

 

「そんな男なんかケチョンケチョンに伸しちゃえ~!」

 

「けどあの神代和哉って意外と弱いわね~。防戦一方じゃない」

 

「IS学園最強になるって所詮口だけみたいだったわね」

 

 アリーナにいるギャラリー達は和哉の戦い方を見て嘲笑っている。和哉が一切反撃していないから、ギャラリー達は臆病風に吹かれて逃げているように見えているんだろう。

 

 だが……。

 

「なあセシリア。俺、あの戦いにすげぇ見覚えがあるんだけど」

 

「奇遇ですわね一夏さん。わたくしもですわ」

 

「あれってさぁ~、おりむーとかずーがセッシーと戦っていたときにやっていたやつだよね~?」

 

 一夏、セシリア、布仏と一組の女子達はギャラリー達とは違う反応だった。

 

「けど和哉は何であんな事をしてるんだ? あの時は俺達が操縦に慣れる為と、俺の白式の一次移行(ファースト・シフト)が完了するまでの時間稼ぎだったんだが……」

 

「恐らく和哉さんは鈴さんの戦い方を観察していると思います。わたくしの時にもそうであったように。それに加えて今回は和哉さんの得意な近接戦をしてますからじっくりと分析したいのでしょう」

 

「アイツは近接戦が大得意だからなぁ。鈴みたいなタイプは和哉にとって格好の獲物って事か」

 

「そういう事ですわね。鈴さんは和哉さんの思惑に全く気付いていませんし……まるでこの間のわたくしのようですわ」

 

 セシリアは過去の自分を思い出しながら、和哉の掌で踊らされている鈴を見て多少気の毒に思った。

 

 だがセシリアにとってそんな事はどうでもよく、和哉が勝ってさえくれれば何の文句は無い。鈴が一夏の特別コーチしなければそれで良いのだから。

 

「問題は和哉はどうやって鈴に勝つかだな。アイツが使う衝撃砲は砲弾が見えなければ、いくら和哉でも……」

 

 一夏は恐らく和哉が勝つと既に予想している。和哉の性格を考えれば、頭に血が上りやすい鈴に挑発して誘い込んだ戦いに持って行くだろうし、真っ向から挑んでも勝てると踏んでいる。それだけ自分と和哉に力の差があると分かっているから。

 

 だが一番の問題である衝撃砲を和哉がどうやって攻略するのかが一夏は気になっていた。自分では避けるのに精一杯だったが、あの見えない砲弾を和哉がどんな風に対処をするのかが一番の見物。この際だから自分も和哉に倣い、鈴の衝撃砲を攻略しようと必死に和哉の戦い方を見ている一夏であった。

 

(和哉、今の俺ではまだお前には勝てない。だけど戦い方はじっくり見させてもらうぜ)

 

(和哉さん、あなたがどうやって鈴さんを倒すのかを見せてもらいますわ)

 

 一夏とセシリアはお互いに和哉を見逃すまいと必死に目で追っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてピットでは……。

 

「はぁぁ……神代くんは相変わらず凄いですねぇ。織斑くんでも防ぐのがやっとだった凰さんの攻撃を難なく防いでいます」

 

「アイツと違って技量は高いからな」

 

 何と真耶と千冬も第二アリーナの戦いを観戦していた。放課後に和哉が鈴と戦うのを聞いて、この二人も見ておこうと思ってピットに来ている。

 

 真耶としては教え子がどうやって代表候補生の鈴と戦うのかが気になっているが、千冬は真耶と違って朝の組み手で和哉の実力を既に知っているから鈴には問題なく勝てると踏んでいる。千冬としては和哉が次にどんな技を使うのかと気になって見に来ているのだ。

 

「織斑先生、あの戦い方はもしや……」

 

「山田先生の言うとおり、凰の攻め方を観察しているな」

 

 当然二人も和哉の戦い方に気付いている。一夏やセシリアが気付いているのだから当然である。だがその二人と違って、千冬はもう一つある事に気付いている。

 

「それに加えて神代は必要最低限の防御だけでやっているがな」

 

「必要最低限……ですか?」

 

「何だ、分からないのか? なら神代の持っている武器をよく見てみろ」

 

「え?」

 

 千冬に言われた通り、真耶はじっと和哉が防戦として使っている刀を見てみると……。

 

「あ! 神代くんはさっきから凰さんの攻撃を片腕だけで防いでいます!」

 

「その通り。アイツは戦い始めてからずっと同じ事をしている。尤も、凰はまだそれに気付いていないがな」

 

「アレほどを攻撃をずっと片腕だけで……本当に神代くんには驚かされますねぇ」

 

「奴にはこれくらい出来て当たり前だ」

 

 和哉と組み手をしている千冬からすれば至極当然だと言い放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

(さてと、鈴の近接戦闘はもう充分だから次の段階に移るとするか)

 

 鈴の攻撃パターンを大体分かった俺は、態と後方へ退くことにした。

 

 それを見た鈴は好機と思い……。

 

「甘いわよ和哉っ!」

 

(来たか!)

 

 そう言って鈴の肩アーマーがスライドして開いた。中心の球体が光った瞬間に俺は即座に肩の近くに浮遊しているシールドを使う。

 

 

ドンッ!

 

 

「ぐっ!」

 

 シールドを使った直後に鈴の衝撃砲が当たった。一夏の言うとおりだったな。本当に見えない拳に殴られている衝撃だ。

 

「まだまだっ!」

 

 俺が防御態勢を取っているにも拘らず、鈴はそのまま衝撃砲を撃ち続ける。

 

 

ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!

 

 

「くっ!」

 

 衝撃砲の連射に俺は状態を維持しながらも、後ろへと押されていた。そしてそれが止むと鈴は不敵な笑みを浮かべている。

 

「この龍咆の衝撃はどうかしら? いくらアンタでも見えない砲弾の前では手も足も出ないみたいね」

 

「………ふむ。シールドエネルギーが半分ほど持って行かれたな」

 

 鈴の強気な台詞に俺は気にせずエネルギー残量を見る。あれ程の威力を何度も受けてたら流石に不味いか。

 

「気に食わないわね……! ダメージを食らったってのにまだそんな余裕面をしてるなんて……!」

 

「お前の衝撃砲は一度見て驚いたからな。それにな鈴、戦いと言うのは常に冷静にやるもんだ。得意面して油断してると、足元を掬われるぞ?」

 

「………アンタはそう言っていつも上から目線で……! その言い方が気に入らないのよ!」

 

 鈴は激昂して再び衝撃砲を撃ってきた。

 

「おっと!」

 

 次は流石に当たりたくないので俺が避けると、鈴は逃さないと言わんばかりに衝撃砲を打ち続ける。

 

(空中で避けるのはちとキツイな。けどいつまでもこんな風に避けているばかりじゃ芸がないから、少し驚かせるか)

 

 ある事を考えた俺は衝撃砲を避けながら地上に降りると、展開してた刀を戻した。

 

「武器をしまうだなんて何のつもりよ和哉。まさか今更降参でもするつもりかしら?」

 

 俺の行動を不審に思った鈴は撃つのを止めて、怪訝な顔をしながら訊いて来る。

 

「な~に。ただお前に出来ない事をやろうと思ってな」

 

「出来ないこと? 何を考えてるのかしら?」

 

「すぐに分かるさ。ほれ、さっさとご自慢の衝撃砲を撃って俺に当ててみな(チョイチョイ)……ま、もう当たりゃしないけど」

 

 そう言って俺は右手で扇ぐように鈴を挑発すると……

 

「(ピクピクッ!)……本当にアンタは気に入らないわね……! その減らず口をすぐに塞いでやるわ!」

 

(かかったな)

 

 見事に乗ってくれて最大出力で衝撃砲を撃つと、地上に当たって凄い音がしたと同時に土煙が舞った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふんっ。変に調子に乗らなきゃ痛い目に遭わずに済んだのに」

 

 衝撃砲を撃って和哉に直撃したと思った鈴は勝利を確信する。

 

「ま、取り敢えずあたしの勝ちね。これで一夏と二人っきりで……」

 

 勝った後に一夏に特別コーチをして二人っきりになれると考えていた鈴だったが……。

 

「果たしてそうなるかな?」

 

「!」

 

 オープン・チャネルから和哉の声が聞こえたのですぐに振り向く。

 

「い、いない! アイツ一体どこに!?」

 

 しかしそこには誰もいなかった。そして土煙が完全に晴れると、先程いた所から後方に和哉がいる。

 

「あ、アンタいつの間に!」

 

「ふふふふ……驚いたかな?」

 

「どういうこと!? 直撃した筈なのに!?」

 

「当たってなんかいない。さっき避けたぞ」

 

「避けたって……嘘よ!」

 

「信じられないなら撃ってみろ。今度は出力を調整してな」

 

「言われなくても!」

 

 そして鈴は衝撃砲を放つと……。

 

 

ドンッ!

 

 

「はい残念」

 

「はあっ!?」

 

 撃った瞬間に和哉はいつの間にか別の位置に立っていた。

 

「あ、アンタ……一体今何したのよ!?」

 

「普通に避けただけだが?」

 

「嘘よ! 私の龍咆は砲弾が見えないから避けれる筈が……!」

 

 あっさりと答える和哉に鈴は信じられなかった。見えない砲弾が特徴である《龍咆》を簡単に避けられる事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

(鈴は物の見事に動揺しているようだな)

 

 思ったとおり、やはりあの衝撃砲は鈴にとって最大の兵器で絶対の自信を持っていたか。それを避けられたとなれば、流石の鈴も動揺するか。

 

(まぁ流石に『疾足(しっそく)』は練習しないと出来なかったが、成功してなによりだ)

 

 宮本流奥義『疾足(しっそく)』。初動を見せずに瞬時に高速移動をする移動法。沖縄の古武術にある『縮地法』を取り入れた物であり、本来であれば相手との距離を詰める移動法。この移動法に師匠は、相手の攻撃を避ける為の手段としても使っており、更には普段から日常の移動手段としても活用している時もある。尤も俺も師匠と同様に活用しているが。

 

 とまぁそんな事はどうでもいいとしてだ。鈴の衝撃砲の砲口が光った瞬間、『疾足(しっそく)』を使って避けたと言う事である。簡単そうに言う俺だが、この移動法を習得するのもかなり苦労したのは言うまでも無い。

 

「ほら鈴。いつまでも驚いていないで撃ってきたらどうだ? お前が信じられるまで何度でも付き合ってやるから」

 

「………い、今のはマグレよ。きっとそうに決まってる!」

 

「やれやれ、これは少しばかり時間が掛かりそうだな」

 

 とは言え、この移動法はあんまりそう何度も使えはしない。やり過ぎるとかなりの体力を消耗してしまうからな。状況を見てもう一つの技を使って更に驚かせるとしよう。さてと、次はどんな技を使おうか。

 

 そして鈴が衝撃砲を放ち、俺は『疾足(しっそく)』を使って避けながら次に打つ技を考えていた。 


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