インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~ 作:さすらいの旅人
やれやれ。打鉄を纏った状態で扉を『砕牙』で破壊した後、敵ISが箒を狙っていたから抱えて逃げようにも既に撃ってたから防御せざるを得なかったな。
「おい箒」
「か、和哉。助かっ――」
「この馬鹿が!」
「なっ!」
礼を言おうとする箒に俺は即座に怒鳴った。その事に箒が驚愕すると、一夏や鈴、そして敵ISも動きを止めていた。
「一体何考えてんだよお前は! 生身でこんな所に来るなんて正気じゃないぞ! 死にたいのか!?」
「そ、それは……」
「って、今はお前の説教は後回しだ。取り敢えずは………一夏! 箒は俺に任せて、お前は早くソイツを倒せ!」
『わ、分かった! けどありがとな和哉! 箒を守ってくれて!』
箒を後回しにした俺はオープン・チャネルで通信を入れると、一夏は礼を言いながら突撃姿勢を取った。
「礼は後でいくらでも聞くから、今は目の前の敵に集中しろ!」
『おう! 鈴! 奴が動いていない隙に早く撃て!』
『ああもうっ……! どうなっても知らないわよ!』
一夏がすぐ鈴に撃てと言うと、鈴はもう自棄になったかのように衝撃砲を撃とうとした……それも一夏に向けて。
「って鈴! お前一体何をやろうとしてるんだ!? そのままじゃ一夏に当たるぞ!」
『しょうがないでしょ! 一夏がやれって言って来るんだから!』
「はあっ!?」
鈴の発言に俺が驚愕してると衝撃砲は放たれ、見えない弾丸が一夏の背中に当たった。
「一夏は一体何を考えて……ん?」
一夏が衝撃砲を受けていると、雪片弐型が展開してるエネルギー状の刃が一回り大きくなっていた。
「まさかアイツ……衝撃砲のエネルギーを取り込むために態と受けたのか……!」
「だ、だがそんな事をしたら一夏の体が……!」
俺の台詞に箒が一夏を見て更に心配そうな顔をしている。そんな俺達の事は気にせずに、一夏はそのまま加速した。
アレは『
そして一夏は零落白夜を展開して『
「やった!」
「いや、まだだ!」
喜んでいる箒に俺が否定すると、敵ISは左腕を使っての反撃に一夏は直撃した。更に敵ISは左腕を一夏に向けて、ゼロ距離でビームを叩き込むつもりだ。だが敵ISの行動に一夏は特に焦っている様子は無い。あの顔は何か考えがあるみたいだな。
『「一夏っ!」』
箒と鈴が叫ぶが……。
『……狙いは?』
『完璧ですわ!』
「!」
一夏が誰かに向かって言うと、聞き覚えのある声が応答したので、俺はすぐに客席の方を見た。
そこからブルー・ティアーズの四機同時狙撃が敵ISを打ち抜いている。
「な、何故セシリアがあそこに……?」
「成程な。さっきの一夏の斬撃で遮断シールドを破壊したから、セシリアがあそこにいるって事か」
疑問を抱いている箒に、俺はふむふむと頷きながら一夏の考えを見抜いた。
俺が考えていると……。
ボンッ!
敵ISは小さな爆発を起こして地上に落下した。シールドバリアーが無い状態でブルー・ティアーズのレーザー狙撃を一斉に浴びたら一溜まりもないだろう。
「流石の敵ISも一夏があんな策を考えているとは思っていなかっただろうな」
俺がそう呟いていると、一夏とセシリアが何か話していた。プライベート・チャネルを使っているんだろう。何かセシリアがひどく狼狽しているが。
「ところで一夏。お前にしては随分と思い切った行動をしたな。あの様子を見ると、IS操縦者はかなり重症を負っていると思うんだが」
『その心配は無い。アレは無人機だ』
「何?」
セシリアに倣って俺もプライベート・チャネルを使うと、一夏から信じられない返答が来た。
「どう言う事だ?」
『何かあのIS、機械染みた動きばかりしかやってなかったんだよ。それに俺と鈴が会話してる時にもあんまり攻撃してこなくてな。だからアレを無人機だと想定して零落白夜を使ったんだ』
「…………………」
一夏の説明を聞いて俺は倒れている敵ISをハイパーセンサーを使って観察する。確かにアレはとても人間が乗っているようには見えない。良く見てみると、セシリアによって打ち抜かれた箇所がバチバチとショートしていた。
アレが無人機なら、それを操っている首謀者がいる筈だ。
「だとしたら扉に電流を流したのは……っ!」
『ところで和哉。箒を助けてくれてありがとうな。セシリアからお前がいないって聞いた時は――』
「一夏! アレはお前に目掛けて撃とうとしているぞ!」
『っ!』
俺が敵ISが動いたのを知ると、一夏もロックされている事に気付く。
次の瞬間、敵ISが撃ったビームに一夏は躊躇い無く光の中へ飛び込んだ。
「あの馬鹿! 何考えているんだ!」
そして俺はすぐに千冬さんから学んだ『
◇
「――と言う事がありまして、俺はISを使って扉を破壊せざるを得ませんでした」
「そうか」
此処は保健室。ベッドで一夏が眠っている中、俺は千冬さんに今までの報告をしていた。
あの後に敵ISは一夏の攻撃で完全に沈黙し、俺がすぐに気絶している一夏を背負い集中治療室へと運んだ。そこには既に待ち構えているように千冬さんが立っており、『早く一夏を中に入れろ!』と焦ったように言って来る事に、俺は不謹慎ながらも凄く心配していたんだと思った。
で、今は治療が終わって保健室のベッドを使って一夏が目覚めるのを待っている。その間千冬さんに報告をしていると言う訳だ。
「扉を壊してしまった事についてですが、後ほど反省文を提出します」
「いや、その必要は無い。あの時は非常時だったからな。もし私がお前の立場であったら同じ事をしていた。それにお前は篠ノ之を助ける為に扉を破壊したんだろう?」
「確かにそうですが……」
「それと確認したい。
「ええ。生身で触れたら確実に感電死するくらいの電流でした。」
「…………」
俺が問いに答えると、千冬さんは何か考えているような仕草をしていた。
「あれは驚きましたよ。いきなり電流が流れるなんて。まるで見ていたかのように俺の行動を阻んでいた感じでしたね」
「………………………」
「もしかすると今回の襲撃者は内通者がいるかもしれませんね。そうでなければ俺の行動を……」
「憶測な発言はするな。お前は学園を疑っているのか?」
俺の発言に千冬さんは顔を顰めながら言ってくると、俺はすぐにハッとして言い直そうとする。
「あ、いえ……あくまで可能性を言っただけで……もしくは相当なハッキング能力を持っている奴もいるんじゃないかと……」
「……………………」
「………すいません」
千冬さんの無言の睨みに俺は耐え切れずに謝った。確かに憶測な発言は迂闊に口に出したらダメだな。
「まぁいい。今回の事については、私から他の先生方に伝えておこう。お前が報告した事については決して口外しないように。良いな?」
「分かりました」
流石に扉に設定されていない即死レベルの電流が流れたとなれば、教師陣としても見過ごせない上に、生徒側も大慌てするだろう。こんな重大な事はとても軽はずみに口外するなんて出来ない。
俺がそう結論付けると……。
「う…………?」
「「ん?」」
ベッドの方から一夏の声が聞こえた。俺と千冬さんはすぐにベッドに向かい、千冬さんが取り囲んでいるカーテンを開く。
「気がついたか」
「遅いお目覚めだな、一夏」
千冬さんと俺の台詞に一夏はボーっとしながらコッチを見てくる。
「体に致命的な損傷はないが、全身に軽い打撲はある。数日は地獄だろうが、まあ慣れろ」
「はぁ……」
「おいおい何だよその返事は」
千冬さんの軽い説明に一夏がまだ分かっていない返事をした事に、俺は呆れながら言う。
「ま、最大出力の衝撃砲を背中に受けたからな。ってか一夏、ISの絶対防御をカットしていただろう。お前よくアレを受けて死ななかったな」
俺が言ってるにも拘らず一夏は未だにボーっとしながら聞いていた。まるで今一つ覚えてないみたいな顔だ。
「まあ、何にせよ無事でよかった。家族に死なれては寝覚めが悪い」
「とか言ってるけど、一夏が俺に運ばれている時に織斑先生は物凄く心配した顔をして――」
「神代?」
「――ご、ゴホンッ! 悪い。今のは聞かなかった事にしてくれ」
さっきまで柔らかい表情をしていた千冬さんが殺気を込めながら低い声を出して呼んだ事に、俺は咳払いをしながら無かったように言い直した。
「千冬姉、和哉」
「うん? なんだ?」
「どうした?」
一夏がいつもの呼び方をすると、いつもは『織斑先生と呼べ』と言いながら制裁をしている千冬さんは何もせずに返事をする。
「いや、その……心配かけて、ごめん」
一夏の言葉に俺と千冬さんはきょとんとした後、小さく笑った。
「心配などしていないさ。お前はそう簡単には死なない。なにせ、私の弟だからな」
「おいおい、あの時俺に強気な発言をした一夏はどこに行ったんだ? 俺はお前を信頼してたから、心配なんて微塵もしてなかったぞ」
千冬さんは照れ隠しをしながら答え、俺は何とも無いように言う。
「では、私は後片付けがあるので仕事に戻る。お前も、少し休んだら部屋に戻っていいぞ」
「そんじゃな一夏」
そう言い残して千冬さんと俺はスタスタと保健室を出ようとする。
そして保健室から出ると……。
「あ……」
箒が出入り口前に立っていた。
「篠ノ之か。織斑と話がしたいのか?」
「え、ええ、まあ……」
「そうか。今起きているから入るが……」
「その必要はありませんよ、織斑先生」
「何?」
俺は保健室に入ろうとする箒の肩を掴むと、千冬さんは不可解な顔をしている。
「な、何をするんだ和哉? 私は一夏に――」
「箒、お前は大事な事を忘れていないか? 後で俺がお前に説教をするって」
「あ……」
思い出した顔になる箒だがもう遅い。
「そう言えば篠ノ之。神代の報告によると、お前は勝手に飛び出してアリーナのピットに向かっていたんだったな」
「あ、いや、あれは……その……」
千冬さんが思い出したように言うと箒はばつが悪い顔をしているが、俺はそんな事お構い無しだ。
「箒、お前はあの時一夏を励まそうとしたんだろうが、ハッキリ言ってあれは妨害行為に等しかったぞ」
「わ、私はそんなつもりでは……!」
「お前が勝手な事をした所為で、どれだけ周りに迷惑を掛けたと思ってる? あんな事をしなければ、一夏達はお前を心配しなかったからな」
「篠ノ之、お前には勝手な事をした罰を与える。明日は反省文を書いてもらうと同時に懲罰部屋に行ってもらう。異論は許さん。良いな?」
「…………はい」
千冬さんの言葉に箒は従わざるを得なかった。どうやらこれは俺が説教するまでも無いみたいだな。そして物凄く落ち込んでいる箒は保健室には入らずに去って行く。
もうついでに俺と千冬さんがいなくなった後、一夏は鈴といつの間にか仲直りをしていたようだった。
◇
学園の地下五十メートルにて、レベル4権限を持つ関係者しか入れない、隠された空間があった。
「織斑先生、あのISの解析結果が出ましたよ」
「ああ。どうだった?」
そこには真耶と千冬がおり、機能停止したISが運び込まれていて解析をされていた。
「はい。あれは――無人機です」
真耶の返答に先程までひどく冷たい顔をしていた千冬は、睨むかのように無人機のISを見ている。
世界中で開発が進んでいるISだが、無人機は未だに完成していない技術。遠隔操作か独立稼動のどちらか、あるいは両方使っている技術が今回襲撃されたISにそれがある。それは当然、すぐ学園関係者全員に箝口令が敷かれるほど。
「どのような方法で動いていたかは不明です。織斑くんの最後の攻撃で機能中枢が焼き切れていました。修復も、おそらく無理かと」
「コアはどうだった?」
「……それが、登録されていないコアでした」
「そうか。やはりな……」
確信染みた発言をする千冬に、真耶は怪訝そうな顔をする。
「何か心当たりがあるんですか?」
「いや、ない。今はまだ――な」
「そうですか。あ、それと、神代くんが言ってた電流が流れた扉ですけど……」
「それで?」
「やはりあの扉にそんな設定はされていませんでした。誰かが流したとしか考えられません」
「そうか……」
返答を聞いた千冬は更に確信したかのように、ディスプレイの映像に視線を移すのであった。