インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~ 作:さすらいの旅人
(やれやれ。あの二人は本当に予想通りの反応をしているな)
授業中に俺はさり気なく対象者二名の様子を見てみると、いかにも授業に集中していないのが分かった。言うまでも無く箒とセシリアだ。
箒は一見すると普通に授業を受けているように見えるが、先程からチラチラと真面目にノートを取っている一夏の方を伺っている。次にセシリアは離れて見ても分かるように、手に持っているシャープペンをノートに乱雑に書いていた。
何故この二人がああなっているのかは言うまでも無い。さっき此処に来た鈴が原因だ。俺はともかく、一夏が親しそうに鈴と話しているのを見て二人が物凄く気になっているからである。恋する乙女と言うのは色々と大変だな。
(ん? さっきまで不機嫌だった箒が急に上機嫌になったな)
ふと箒を見ると何故か上機嫌な顔をして腕を組んでいた。何を考えているのかは知らないが、一先ず機嫌が戻って何よりだ。
(だがな箒。いつまでも浮かれてないで目の前にいる人に集中した方が良いと思うぞ)
俺が内心突っ込みを入れると……。
「篠ノ之、答えは?」
「は、はいっ!?」
千冬さんに名指しをされて素っ頓狂な声を上げる箒。
因みに今の授業は山田先生ではなく千冬さんの時間なのだ。一夏が鬼教官と称されている千冬さんの授業を無視する箒はハッキリ言ってチャレンジャーと言えよう。
そして……。
「答えは?」
「……き、聞いていませんでした」
ばしーん!
返答を聞いた千冬さんは箒の頭に出席簿を振り落としたのであった。相変わらず小気味のいい打撃音だな。箒はその後、一夏の事は後回しにして授業に集中し始めた。
(愚かな。さてお次は……)
セシリアを見ると箒とは対照的に未だ不機嫌なままだった。と言うか何か考え込んでいる。
(恐らく鈴が現れた事によって何かしらの対策を練っていると言うところか。だがなセシリア、それを後回しにしないと手痛い目に遭うぞ?)
箒と同じくセシリアにも内心突っ込んでいると……。
「オルコット」
「……例えばデートに誘うとか。いえ、もっと効果的な……」
「………………」
ばしーん!
千冬さんが今度はセシリアを名指しするが、当の本人は聞いておらず出席簿が振り下ろされたのであった。
(今日は千冬さんの出席簿がいつもより火を噴いているなぁ)
「神代、答えは?」
「あ、はい。それは………」
咄嗟に千冬さんに名指しされた俺は予め考えていた答えを言うと、千冬さんは『馬鹿な二人と違って、やっと答えが出たか』と言って授業を進めた。
◇
「お前のせいだ!」
「あなたのせいですわ!」
昼休みになった途端、箒とセシリアが速攻で一夏に文句を言った。
「なんでだよ……」
文句を言われた一夏は身に覚えが無いように言う。
「気にするな一夏。この二人の自業自得だから」
「「何だと(ですって)!?」」
箒とセシリアが俺を睨むが……。
「お前等が千冬さんの授業をそっちのけで考え事をしていたからだろうが。それとも千冬さんの前で弁明出来るのか?」
「「うっ!」」
俺の台詞に二人は何も言い返せなくなった。流石に千冬さんに弁明が出来ないみたいだな。
因みに箒とセシリアは午前中だけで山田先生に注意五回、千冬さんに三回叩かれていた。俺は一瞬この二人は勇者と称えてしまった。勇者の頭に“無謀な”が付くけど。
「まあ、話ならメシ食いながら聞くから。とりあえず学食行こうぜ」
「それもそうだな。で、どうするお二人さん?」
「む……。ま、まあ一夏がそう言うのなら、いいだろう」
「そ、そうですわね。言って差し上げないこともなくってよ」
一夏の提案に俺が聞くと、話題を変える事が出来ると思った箒とセシリアが賛成した。
「かずー、私も付いていく~」
そう言って布仏は俺の腕に引っ付く。
「君は偶に俺以外の面子とメシを食う気は無いのか?」
「おりむーたちがいるよー」
「………ああ、そうだな」
「ところでかずーは今日何を食べるの~?」
「それは学食に着いてから考える」
「「「…………………」」」
「どうかしたか?」
俺と布仏のやり取りに一夏達がジ~ッと見ている事に気付く。
「い、いや、その……」
「わ、私たちだけで食べに行った方が良いと思ってな……」
「そ、そうですわね。わたくしたちはお邪魔ですし……」
「何を訳の分からん事を言ってるんだ?」
「?」
一夏達の台詞に思わず首を傾げる俺と布仏。
不可解に思いながらも他のクラスメイトが数名付いてきて、俺達はぞろぞろと学食に移動した。
俺は販売機で今日はカツ丼。本来はメニューに入っていないんだが、何でも学食のおばちゃん達が俺にアップルパイを食べさせてくれたお礼として加えたらしい。おまけにリーズナブルな価格でもある。ありがたいことこの上ない。いずれまた学食のおばちゃん達にお菓子を作るか。ついでに布仏にも作っておこう。後で知ったら五月蝿くなるだろうから。
因みに一夏は日替わりランチ、箒はきつねうどん、セシリアは洋食ランチで、布仏はパスタのミートソースを買っていた。
「待ってたわよ、一夏! ついでに和哉!」
「俺はついでかよ……」
どーん、と俺達の前に立ち塞がったのは噂の転入生、
しかしコイツは本当に変わっていないな。午前中にも見たが髪形も中学の頃から一貫してツインテールだし。そう言えば一夏が鈴とは小学生からの幼馴染と言ってたな。となると、箒と鈴には一夏の幼馴染という共通点があるな。何かそれで箒と鈴が張り合いそうな気がしそうだ。
「まあ、とりあえずそこどいてくれ。食券出せないし、普通に通行の邪魔だぞ」
「一夏の言うとおり早くしろ。お前のせいで後が支えてるんだからな」
「う、うるさいわね。わかってるわよ」
既に鈴の手にはお盆を持っていて、ラーメンが乗っている。
「のびるぞ」
「わ、わかってるわよ! 大体、アンタたちを待ってたんでしょうが! なんで早く来ないのよ!」
「……はあっ」
鈴の台詞に思わず溜息を吐く。何でお前の為に早く来なきゃいけないんだよ。お前と一緒にメシを食う約束なんかしてないだろうが。
何て言っても鈴は聞く耳持たずだから無駄なのは分かってる。一夏も俺と同様に分かっており、取り敢えず食券をおばちゃんに渡した。
「それにしても久しぶりだな。ちょうど丸一年ぶりになるのか。元気にしてたか?」
「一夏、本人がこんなに元気なんだから聞く必要は無いだろう」
「和哉……アンタねぇ」
「ってのは冗談だ。元気そうで何よりだな」
気を悪くした鈴を見て俺は咄嗟に言い返すと……。
「ふんっ! アンタも相変わらずね」
さっきまで怒ってそうな顔をしてた鈴が笑みを浮かべた。
「ま、もし鈴に何か遭ったら一夏が心配してすぐに駆けつけてくるだろうが」
「な、何でそこで一夏が出るのよ!?」
「さあ? 何故だろうな」
「おい和哉。何でお前はいつも俺を引き合いに出すんだ?」
俺と顔を赤らめている鈴のやり取りに一夏が不可解な顔をして聞いてくるが無視だ。因みに何故鈴が顔を赤らめているのかは……もう既に知っているからと言っておこう。
「そ、そう言うアンタたちこそ、たまには怪我病気しなさいよ!」
「どういう希望だよ、そりゃ……」
「生憎だが俺と一夏はそんなに柔じゃない」
鈴の台詞に一夏は顔を顰め、俺はすぐに言い返す。どうでもいいんだが、何で一夏の周りの異性はアグレッシブな奴ばかりなんだろうか。俺としてはもう少しお淑やかな異性が出ても良いんじゃないかと思う。
「あー、ゴホンゴホン!」
「ンンンッ! 一夏さん? 注文の品、出来てましてよ?」
「かずー、早くしてー」
大袈裟に咳き込んだ箒とセシリア、そして布仏の突っ込みに会話が中断される。一夏の日替わりは鯖の塩焼きかと見ながら、俺はおばちゃんに食券を渡す。
「向こうのテーブルが空いてるな。行こうぜ。和哉、先に行ってるぞ」
「ああ」
一夏と鈴が一足先にテーブル席に向かうと……。
「おい和哉。一夏と仲良さげに話している女は一体誰だ?」
「和哉さん、よろしければ教えていただけませんか?」
「……………………………」
殺気だった箒とセシリアが俺に問い詰めた事に俺はすぐに答えれなかった。
「………俺に聞くより、一夏本人に聞いた方が納得すると思うが?」
「ふむ、それもそうだな」
「ではそうしましょう。それと和哉さん、注文の品が来ましてよ」
俺の提案に承諾した箒とセシリアは一夏に狙いを付けた。悪いな一夏。俺は色恋沙汰の争いに巻き込まれたくないから。
「カツ丼を追加してくれてありがとうございます」
「良いってことよ。私達にアップルパイを食わせてくれたお礼だからね」
「そうですか。では近い内にまた伺いますが、如何でしょうか?」
「来たら厨房は空けておくよ」
それはつまり、いつでも待ってるという事だろう。そう思いながらも俺はカツ丼が乗ったお盆を持って一夏と鈴が座っているテーブル席の隣に座る。
「和哉、何でそんな所に座ってるんだ? こっちに座れば良いのに」
「俺の事より目の前にいる二人に集中した方が良いぞ」
「え?」
俺の台詞に横を向いていた一夏が前を向くと……。
「一夏、そろそろどういう関係か説明してほしいのだが」
「そうですわ! 一夏さん、まさかこちらの方と付き合ってらっしゃるの!?」
いつの間にか箒とセシリアがいて早速一夏に問い詰めた。布仏や他のクラスメイトは俺の座っている席に座りながら、興味深々とばかりに頷いていた。ってか布仏、君はいつの間にか俺の隣に座ってるんだな。
「べ、べべ、別に私は付き合ってる訳じゃ……」
「そうだぞ。なんでそんな話になるんだ。ただの幼なじみだよ」
「………………」
「? 何睨んでるんだ?」
「なんでもないわよっ!」
一夏の否定発言に怒る鈴。全く一夏と来たら。
「幼なじみ……?」
幼なじみと聞いた箒が怪訝そうな声で聞き返していた。
「(ねぇかずー、りんりんってもしかして~……)」
「(正解だ布仏さん。君の考えている通りだ)」
「(やっぱり~)」
小声で聞いてくる布仏に正解と言うと謎が解けたみたいな顔をした。布仏の考えている通り、鈴は一夏の事が好きなのだ。勿論Loveの方で。
そう思っていると一夏が箒に鈴の事について説明を始める。
「あー、えっとだな。箒が引っ越していったのが小四の終わりだっただろ? 鈴が転校してきたのは小五の頭だよ。で、中二の終わりに帰ったから、会うのは一年ちょっとぶりだな。鈴も俺と同じく和哉とは中学の頃からの友達だ」
成程な。幼なじみの箒と鈴は入れ違いで引っ越したのか。道理で同じ一夏の幼馴染である箒が鈴と面識が無い訳だ。
「(と言う訳で俺と鈴の関係は分かったかな?)」
「(うん、わかった~)」
一応俺と鈴の聞きたがっていた布仏に言うとすぐに頷くと、一夏が鈴に箒の事について教える。
「で、こっちが箒。ほら、前に話したろ? 小学校からの幼なじみで、俺の通ってた剣術道場の娘」
「ふうん、そうなんだ」
一夏の説明を聞いた鈴はすぐに箒をジロジロと見ている。見られている箒は負けじと鈴を見返していた。
「初めまして。これからよろしくね」
「ああ。こちらこそ」
そう言って挨拶を交わす鈴と箒の間で、火花が散ったように見えた。分かってはいたけど、鈴も一夏争奪戦に入る事が決定だな。あ~~鈴が加わると更に面倒な事になりそうだ。鈴の性格を考えると必ずデカイ騒ぎを起こして、コッチもとばっちり受けそうだ。
「ンンンッ! わたくしの存在を忘れてもらっては困りますわ。中国代表候補生、
蚊帳の外気味だったセシリアが咳払いをしながら言うが……。
「……誰?」
「なっ!? わ、わたくしはイギリス代表候補生、セシリア・オルコットでしてよ!? まさかご存じないの?」
鈴の発言にセシリアが驚きながらも名乗るが、当の本人はどうでもいい感じだった。
「うん。あたし他の国とか興味ないし」
「な、な、なっ……!?」
言葉に詰まりながらも怒りで顔を赤くしていくセシリア。俺が以前セシリアに挑発したとき以来だ。あの時のセシリアは猿みたいに叫んで、顔を真っ赤にして怒り狂ってたな。と言うかセシリア、知らなかったとは言えそこまで怒るなよ。いつもの優雅はどうしたんだ?
「い、い、言っておきますけど、わたくしあなたのような方には負けませんわ!」
「そ。でも戦ったらあたしが勝つよ。悪いけど強いもん」
ふふんといった調子の鈴に、俺は相変わらずの自信家だと思った。鈴は嫌味で言ってるのではなく、確信染みて言ってるのだ。それも素でそう思っている。
だがそれは嫌味でなくても、怒る人がいる。
現に……。
「………………」
「い、言ってくれますわね……」
箒は無言で箸を止め、セシリアはわなわなと震えながら拳を握り締めていた。言うまでもなく、この二人は怒っている。
それに対して、鈴は何食わぬ顔でラーメンを啜っている。厚顔と言うか、神経が図太いと言うか……どっちにしろ鈴は慎みと言う単語が皆無だ。そう言う不用意な発言は『要らん敵を作るから止めろ』と俺が前から言ってるんだが。
けどまぁ俺もあんまり人の事は言えない。もう済んだ事とは言え、IS学園入学初日にあんな事 (注:第3話参照)をしたからな。
「一夏」
鈴が不意に一夏に話しかけると、一夏が何故か焦ったような顔をしていた。どうせまた詰まらないダジャレでも考えていたんだろう。
「アンタ、クラス代表なんだって?」
「お、おう。成り行きでな……って言っても和哉が勝手に決めたんだが」
「ふーん……(チラッ)」
鈴はどんぶりを持ってゴクゴクとスープを飲みながら俺を見る。何だその『アンタにしては気が利くわね』みたいな目は。ってかお前はスープを飲むのにレンゲは使わないのか?
「あ、あのさぁ。ISの操縦、見てあげてもいいけど?」
俺から視線を外した鈴は次に一夏に向けて言う。鈴がああ言う事を言うのは、一夏と二人っきりになりたいと言う魂胆が見え見えだ。だがな鈴、そう簡単に上手く事が運べると思うなよ。
何故なら……。
ダンッ!
箒とセシリアが黙っていないからな。
そして二人はテーブルを叩いた直後に勢いのまま立ち上がる。
「一夏に教えるのは私の役目だ。頼まれたのは、私だ」
「あなたは二組でしょう!? 敵の施しは受けませんわ」
おおう、凄い恐い顔をしているな二人とも。女の嫉妬は恐いなぁ。
「(かずー、しののんとセッシーが恐いよー)」
「(そうだな。ハッキリ言って俺も怖い)」
隣に座ってる布仏も二人の顔を見て怯えていた。と言うか恐いからと言って引っ付かないで欲しいんだが。
「あたしは一夏に言ってんの。関係ない人は引っ込んでてよ」
「か、関係ならあるぞ。私が一夏にどうしてもと頼まれているのだ」
おいおい箒さん。別に一夏は箒に『どうしても』と言った覚えは無いと思うんだが。ってかアンタは一夏と一緒に俺と訓練してるだろうが。
「一組の代表ですから、一組の人間が教えるのは当然ですわ。あなたこそ、後から出てきて何を図々しいことを――」
「後からじゃないけどね。あたしの方が付き合いは長いんだし」
「そ、それを言うなら私の方が早いぞ! それに、一夏は何度もうちで食事をしている間柄だ。付き合いはそれなりに深い」
「うちで食事? それならあたしもそうだけど?」
そう言えば鈴の家は中華料理屋だったな。俺は時折一夏に『鈴のところでメシを食わないか?』って誘われてた。ま、その時は俺が来た事によって鈴が顔を顰めていたな。『何でアンタもいるのよ?』ってな感じで。
確か一夏と鈴は小学校時代に色々あって、その時によく遊ぶ間柄だったと言ってたな。最初は鈴がああ言う性格だから仲が悪かったみたいだが、時間と機会を重ねるうちに名前で呼び合う関係に発展してたそうだ。そんな話しを中学の頃に一夏から聞いて、俺は鈴が一夏に恋をしたと気付いた。一夏が俺を家に誘うのを聞いて時折物凄く気に食わなさそうな顔をしてたし。その時は俺が気を利かせて二人っきりにしてやったんだけどな。
「いっ、一夏っ! どういうことだ!? 聞いていないぞ私は! それに和哉! 何故私に教えなかった!?」
「わたくしもですわ! 一夏さん、納得のいく説明を要求します! 和哉さん! どうしてわたくしにそんな大事な情報を教えなかったんですの!?」
「説明も何も……幼なじみで、よく鈴の実家の中華料理屋に言ってた関係だ」
「と言うか何故俺がアンタ等にそんな事を細かく教えなきゃならん。店に行った程度で慌てる必要があるのか?」
箒とセシリアの問いに一夏と俺が言い返すと、さっきまで余裕の表情を見せていた鈴が急にムスッと不貞腐れる。もうついでに鈴が俺を見て『余計な事を言うな!』との睨み付きで。
「な、何? 店なのか?」
「あら、そうでしたの。お店なら別に不自然なことは何一つありませんわね」
二人以外にも布仏を除くクラスメイトの女子達も同じように緊張と緩和を繰り返している。そう言えばアンタ等も一夏狙いだったんだよな。あれ? 布仏は何故そんなに落ち着いてるんだ? 君も一夏狙いじゃなかったのか?
俺が布仏の落ち着きに疑問を抱いていると、一夏が鈴に話しかけた。
「親父さん、元気にしてるか? まあ、あの人こそ病気と無縁だよな」
「あの店長さんは年中元気だと思うが」
「あ……。うん、元気――だと思う」
ん? 一夏と俺の台詞に鈴がいきなり表情に陰りが差したな。何か遭ったのか?
それは俺だけじゃなく一夏も気付いて不可解な顔をしていたが、鈴が話題を変えてきた。
「そ、それよりさ一夏、今日の放課後って時間ある? あるよね。久しぶりだし、どこか行こうよ。ほら、駅前のファミレスとかさ。和哉は明日で良いからさ」
「残念ながら鈴、それは叶わぬ約束だ」
「何よ和哉。アンタまた一夏と約束を入れてるの? 少しはあたしに気を利かせ……」
「そうじゃない。あのファミレスは去年潰れたから無理だと言ってるんだ」
「そ、そう……なんだ」
邪魔してると勘違いしてる鈴だったが、俺が理由を言うとすぐに納得する。話は最後まで聞けっての。
「じゃ、じゃあさ一夏、学食でもいいから。積もる話もあるでしょ?」
「あ、鈴。どの道今日の放課後は……」
「今度は何なのよ!?」
俺が言おうとすると鈴はまた怒鳴る。
「――あいにくだが、一夏は私とISの特訓をするのだ。放課後は決まってる」
箒がいきなり口を挟んできた。待て箒、いつ一夏とそんな話をした? 俺は聞いてないぞ。
「そうですわ。クラス対抗戦に向けて、特訓が必要ですもの。特にわたくしは専用機持ちですから? ええ、一夏さんの訓練には欠かせない存在なのです。それに和哉さんも一夏さんとの特訓に付き合っていますし」
さっきまでの悔しそうな表情は何処へ行ったのやら、一転攻勢に転じた二人はここぞとばかり一夏の特訓を持ち出す。お前らは何勝手に決めてんだ。今日は俺と一夏がISの特訓をするって既に話しをしただろうが。当然一夏もそれを了承してるってのにコイツ等は。
お前等が一夏の特訓に付き合うのは構わないが、せめて一夏に確認くらいは取れよ。
「じゃあそれが終わったら行くから。空けといてね。じゃあね、一夏!」
おい待て鈴。お前も一夏に確認を取ってから……ってもう行ったか。本当に人の話しを聞かない奴等ばかりだな。
(和哉、俺はどうすれば良いんだ?)
(全くコイツ等と来たら……)
俺と一夏は既に声を出すこと無くアイコンタクトだけで会話が出来る状態だ。何故出来るのかは、今現在に至るまで色々遭ったとだけ言っておこう。
(これって断ることも出来なかったから、絶対待ってるしかないじゃねえか)
(安心しろ。鈴は無理だが、此処にいる二人は俺が何とかしよう)
(そうしてくれると助かる)
さてと、勝手な事を言い出した
「一夏、当然特訓が優先だぞ」
「一夏さん、わたくしたちの有意義な時間を使っているという事実をお忘れなく」
「その前に箒とセシリア。お前等は俺が今日言った訓練をやる日だろうが。忘れたとは言わせないぞ?」
「「…………あ」」
俺の台詞に箒とセシリアは思い出したかのように俺を見る。
「い、いや、クラス対抗戦があるから今日は……」
「そ、そうですわよ和哉さん。一夏さんには優勝してもらわないといけませんので……」
「ほう? じゃあ一夏にISの特訓をする前に俺の全力の『睨み殺し』を受けてもらおうか。それを簡単に跳ね除けるほどの度胸が付いたら、やっても構わないぞ。その代わり動けなかったら、俺のワンサイドゲームに付き合ってもらうがな」
「「………………………」」
全力の『睨み殺し』と聞いた瞬間、箒とセシリアは顔を青褪めた。その理由はちょっと前に箒とセシリアが一夏とISの特訓中の時に、一夏争奪戦を始めて数分経ち、今度は一夏に集中攻撃をしたから、その場にいた俺が全力の『睨み殺し』を使って止めたのだ。その後は動けない二人に俺が加減した『睨み殺し』で恐怖を与え続けてやった。それによって二人はまたあの恐怖が蘇るのだと思って顔を青褪めているのだ。
「さあどうする、お二人さん?」
「「え…えっと………」」
それでも邪魔するんだったら俺は全力で阻止させてもらうからな。
「和哉………お前やっぱり凄いよ。千冬姉並みだ」
おいおい一夏。俺はまだ千冬さんの領域には到達してないっての。