インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~   作:さすらいの旅人

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何とか後編を出せました。

それではどうぞ!


シャルロット編 PART1 後編

「和哉、本当に大丈夫なのか?」

 

「あのなぁ、大丈夫じゃなかったら俺は今頃此処にいないっての」

 

 任務を終えた翌日。

 

 教室で席に座ってる俺に一夏が、既に検査を終えて問題ないと分かってても心配そうに尋ねてくる。任務中に爆発で巻き込まれた事を知った昨日からずっとこの調子だ。

 

「ですが、和哉さんほどのお方がミスをするなんて今でも信じられませんわ」

 

「俺だって人間だ。ミスぐらいはするよ」

 

 セシリアも一夏と同様に心配すると同時に意外そうに言い――

 

「和哉、アンタがドジ踏むなんてよっぽどの事よ」

 

「私達も最初に聞いた時は耳を疑ったからな」

 

「お前等なぁ……。俺はお前等が思ってるような完璧人間じゃないって言ってるだろうが」

 

 鈴と箒からも俺のミスが信じられないように言っている。

 

 ってか俺はIS操縦者となって間もないと言うのに、何でコイツ等は俺を実戦経験の玄人(プロ)みたいな感じで言ってくるんだ? いまいち理解出来ないぞ。

 

「もうついでに本音、そろそろ離れてくれないか? さっきから大丈夫だって言ったろ」

 

「だってー……」

 

 席に座ってる俺の背を覆うように引っ付いてる本音をどうにかしたいんだが、コイツは未だに離れようとしなかった。

 

 本音は教室に入った俺を見た途端、真っ先に正面から抱き付いてきた。一夏達と同様、俺が爆発に巻き込まれたと聞いて凄く心配していたから。

 

 大丈夫だから離れろと何度も言ってるんだが、それでも本音は心配そうな顔で離れなかった。俺が席に座る時は一瞬離れたが、今度は背後から抱き付いてきた。だから今もずっとこんな感じって訳だ。

 

「なぁ、一夏達からも本音に言ってくれないか?」

 

「あ、いや……俺が言うより和哉が適任だろ」

 

「……少しは彼女の心情を察してやれ」

 

「えっとぉ……布仏さんの心配はご尤もですわよ、和哉さん」

 

「それは和哉とその子の問題なんだから、アンタが何とかしなさいよ」

 

 この光景を見てる一夏達は何も言わないどころか、一切口出ししようとする様子を見せない。こう言う時のコイツ等は薄情だな。

 

「……………………」

 

 隣の席に座ってるシャルロットが申し訳なさそうにコッチを見てるが、俺は気にせず一夏達の会話に合わせて話してる。

 

 今回の任務は俺のミスと言う事になってるが、実のところシャルロットのミスだ。シャルロットが襲撃犯Bを倒して気絶したのを確認せず捕縛しようとしたから、ソイツが悪足掻きをするようにマシンガンを撃った為、IS装備の入った貨物が爆発したのが原因だ。

 

 代表候補生であるシャルロットが任務でミスをしたとなれば、立場上として色々と問題が起きてしまう。だから俺のミスって事にしておいた。専用機を使ってるとは言え、俺は今年ISに乗り始めたばかりだから、ミスをしても大して問題は起きない。

 

 それを口実に女権団体の連中がああだこうだと俺を糾弾するかもしれないが、これは学園内の問題なので大して支障はない。仮に糾弾されたところで、千冬さんが『都合の良いように騒ぎ立てようとする連中など知るか』と言ってたし。

 

 けど、シャルロットが心配してるのは多分それだけじゃない。この場にいないアイツ(・・・)の事も気になってると思う。何故ならアイツは――

 

「ねぇかずー、黒閃はどうしたのー?」

 

「アイツはメンテ中だ」

 

 今回の任務で問題が生じた為、今は装備してないから。

 

 それは昨日の任務後に少し遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 任務を終えて学園に戻った俺はメディカルルームで検査していた。俺は何ともないと言ったんだが、千冬さんが受けるようにと強制されて今に至る。

 

「う~ん……神代君の身体には一切問題ありません。ですが、黒閃の量子変換に異常が認められます」

 

 検査の結果を見た山田先生がそう答えたが、別の問題が起きてるようだった。

 

「神代君、片腕だけで良いので黒閃を展開して下さい」

 

「はい。黒閃、聞いたとおり片腕を出せ」

 

 俺が右腕を伸ばして指示するが――

 

『……申し訳ありません、マスター。装備が……出せません……!』

 

 黒閃が物凄く辛そうに言ってきた。俺の命令を遂行出来ない事に申し訳なく思ってるんだろう。

 

「織斑先生、思ったとおり装備が取り出せなくなっています」

 

「原因は何だ?」

 

「詳しく検査してみない事には……」

 

 千冬さんの問いに山田先生は現状分からないと答える。

 

「黒閃、お前でも分からないか?」

 

『……残念ながら私も山田麻耶と同様に、一度詳しく調べる時間が必要です』

 

「ふむ……」

 

 ISの黒閃ですら分からない事に少し考える千冬さん。その事に俺や一緒にいるシャルロットは不安そうな目で見る。

 

 千冬さんが考えた結果――

 

「神代、黒閃を渡せ」

 

「ま、当然そうなるでしょうね」

 

 黒閃を詳しく調べる為に預ける事となった。

 

「ってな訳だ黒閃。暫くの間は此処で山田先生と一緒に原因調査に専念してくれ」

 

『お待ち下さいマスター! 今の状況で私を外すのは危険です! どうかお考え直しを!』

 

 俺が待機状態(ブレスレット)になってる黒閃を外そうとすると、彼女がすぐに抗議してくる。自分と離れるのが嫌なのか、何かに縋るような感じも含まれてる。

 

「だからこそだ。もしこの先お前その物が出せなくなったら、取り返しの付かない事になる。俺はそんなの御免だ。それにお前、こう言う時は人間の姿になろうとする筈なのに、それが出来ないって事は相当問題だぞ」

 

「神代の言うとおりだ。それとも黒閃、お前は自分がいなければ神代は何も出来ないとでも思っているのか? 神代の強さはお前自身が知ってる筈だが」

 

『……………………』

 

 俺の台詞に続くように千冬さんも言うと、黒閃はさっきまでの勢いが無くなったように黙ってしまった。

 

 あんまり黒閃に酷な事を言うつもりはないんだが、ここぞって時に言っておかないとな。父親代わりである俺が娘の黒閃を強く言う感じで。

 

『……分かりました。マスターの指示に従います』

 

 苦渋の決断をするような声を出す黒閃に、俺は内心少し呆れた。いくらなんでも大袈裟過ぎだろ。

 

 一先ず黒閃の返答を聞いた俺はブレスレットを外して千冬さんに渡した。

 

「さて、問題はこれを織斑や小娘共が知ったら、か。特に布仏が、な」

 

「ええ、大騒ぎになりますね。布仏さんが一番に」

 

 最後の台詞が何故か意味深のように言ってくる千冬さん山田先生。ってか、何でそこで本音が出てくるんですか?

 

「ですが、セキュリティ面から考えても、最低でもルームメイトの織斑君や候補生には知らせたほうが良いかと」

 

「……はぁっ。頭が痛いな」

 

 どうあっても面倒事が確実に起きると思った千冬さんは、嘆息しながら手を頭の上に置いて呟く。

 

「ゴメン、和哉。僕が不甲斐なかった所為で君に凄い迷惑を掛けちゃって……」

 

「なに言ってるんだよ。寧ろ俺だけで被害が済んで良かったじゃないか。シャルロットがそこまで背負い込む必要はない」

 

 謝ってくるシャルロットに俺は大して気にせず彼女の肩を軽く叩く。

 

「でも……」

 

「気にしない気にしない。ま、それでも負い目を感じてるなら、いざと言う時が起きたら俺を守ってくれ」

 

「和哉……。分かった、そうするよ」

 

 

 

 

 

 

 と言う事があって、シャルロットは俺がもしもの時に起きたらボディーガードをしてもらうように頼んだって訳だ。

 

 当然、この事を一夏達には知らせていない。言ったら絶対面倒な事になるからな。

 

「一夏に師匠! 二人はどれがいい!?」

 

 すると、ラウラが何かの本を開いたまま俺と一夏に見せようとした。

 

「なっ! こ、これは……!?」

 

「……一体何のつもりだ?」

 

 顔を赤らめて戸惑う一夏に呆れる俺。こうしてる理由は、ラウラが俺達に女用のランジェリー一覧の本を見せているから。しかも縞パンだ。確か綾ちゃんも好んでる下着だったな。

 

「お、おいラウラ……!」

 

「いきなりなんてモノを見せるのよ!?」

 

「一夏さんは目を閉じて下さい!」

 

「かずーは見ちゃダメだよー!」

 

 当然、これには箒たち女性陣も顔を赤らめていた。箒と鈴は抗議し、セシリアは両手で一夏の目を塞ぐように覆わせ、俺の背中に引っ付いてる本音も両手で俺の目を塞ぐ。

 

「何を勘違いしてる? 私は嫁と師匠の趣味を聞いているんだ」

 

「「「「嫁と師匠の趣味?」」」」

 

 ラウラが呆れるように言うと、箒達はラウラの台詞を部分的に鸚鵡返しをする。

 

 力説するようにラウラは理由を話し始めた。

 

 長ったらしい理由だが、要はラウラの副官の入れ知恵らしい。意中の相手と尊敬する師匠には、いつ見られても良い下着を用意しておくべきだと。その結果、ラウラは縞パンが至高の下着だと判断したようだ。

 

 それを聞いた箒達も何かを感じ取ったのか、マジマジと見ている。セシリアなんかどこかに電話してるし。そして――

 

「……ね、ねぇ、かずーは私が穿くならどれが良いー?」

 

「君は友人の俺になんつー事を訊いてるんだよ」

 

 そう言うのは恋人にした相手に言ってくれ。友人の俺に訊くのは筋違いだっての。

 

「ってかラウラ、男が全員それが好きって訳じゃないからな」

 

「和哉の言うとおりだって! そんな事無いから!」

 

「ふむ。一夏は師匠と違い、図星を突かれて動揺してるのか。奥ゆかしいな、私の嫁は」

 

「違う!」

 

 強く否定するように叫ぶ一夏。

 

 もうこれは完全にセクハラだから、俺達が訴えても文句は無いよな?

 

「アハハハ……」

 

 この光景を見ていたシャルロットは若干呆れた感じで苦笑してる。ここはちょっとシャルロットにフォローして欲しいかも。

 

「シャルロットはどんな下着が良い?」

 

「ラウラ、そういうのは男の子の前でする話じゃ――え?」

 

 ラウラの行動を指摘するシャルロットだったが、突然おかしな行動をし始めた。

 

「ご、ゴメン、ちょっと用事が!」

 

『?』

 

 シャルロットが急に両手でスカートを抑えながら教室を出ていく事に、俺達は不可解そうに見ていた。

 

 

 

 

 

 

「あの様子を見る限り、何か遭ったとしか思えないんだが……」

 

 昼休み。一人で廊下を歩いてる俺は考える仕草をしながらそう呟く。

 

 シャルロットが教室から戻って来た後からもおかしな行動をしていた。まるで何かを庇うような感じで。

 

 もしかして昨日の任務で何か起きたのかと思って尋ねてみたが、当の本人は『何でもない』の一点張りだし。あの様子からして、男の俺には答えたくない事だと思い、一先ず引き下がる事にした。

 

「どうした師匠、何か考え事か?」

 

「ん? ああ、ラウラ」

 

 歩いてる途中、ラウラとバッタリ出会った。

 

「ちょっとシャルロットについてな。アイツ、朝からおかしな行動をしていたから」

 

「シャルロット? ……確かに妙だったな」

 

 ラウラも俺と同じくシャルロットの行動に疑問を抱いていたのか、急に考える仕草をする。

 

「もしや昨日の任務で何か遭ったのか?」

 

「一応俺も訊いてみたんだが、アイツは何でもないって言ってるから全く分からないんだよ。多分だけど、男の俺には答えたくない内容じゃないかと思ってる。そこでだラウラ、お前からシャルロットに何が遭ったか訊いてくれないか?」

 

「私が? それは構わないが……」

 

 本当ならこんな事をするつもりはなかった。けれど今も尚おかしな行動を取り続けてるシャルロットを見過ごす訳にはいかないから、ここはいっそ同じ女でシャルロットのルームメイトであるラウラに頼むしかない。

 

「では今すぐ確認してこよう。確かシャルロットは教官から教材を資料室に運ぶよう頼まれていたはずだ」

 

「それは放課後でいい。別にそこまで緊急じゃないから」

 

 俺はラウラと一緒に階段を上りながら、部屋で話すように頼んだ。踊り場まで上ると、その上の階には一夏とシャルロットがいた。二人は俺達に気付かないまま仲良く段ボールを持ち運んでる。

 

「お、シャルロットだ。おー……い?」

 

「だから……え?」

 

 ラウラと俺はシャルロットを見た途端に固まってしまった。正確にはシャルロットのスカートの中を見てだが。

 

「「…………はっ!」」

 

 固まって数秒後、俺とラウラは意識を取り戻すように動いた。

 

「………し、師匠、シャルロットが……」

 

「言うな。何も言うな。俺は何も見てない……!」

 

「シャルロットが……下着を着けてなかった! これが俗に言うノーパンか!?」

 

「だから言うなっつってんだろうが!」

 

 シャルロットがノーパンだった事実を必死に忘れようとするが、ラウラがハッキリと言ってしまった。

 

 ノーパンだった事で、シャルロットの大事な所が丸見え……って何考えてんだ俺は!?

 

「こ、これはすぐクラリッサに報告を……!」

 

「んな事せんでいい! お前はシャルロットを辱める気か!?」

 

 携帯機を取り出して電話しようとするラウラを阻止する俺は即行で取り上げる。

 

「だ、だが師匠! 私達はパンドラの箱を開けてしまったのかもしれないんだぞ……!? これは副官に相談せずには……!」

 

「気持ちは分からんでもないが、それだけは絶対にダメだ!」

 

 そう言いながら取り上げられた携帯機を取り返そうとするラウラがだが、俺と身長差があり過ぎてそれは無理だった。

 

 そして俺はラウラを諭すように、彼女の両肩に手を置く。

 

「ラウラ、もしかしたら俺達は角度的な原因でシャルロットの下着が見えなかったかもしれない」

 

 無理があり過ぎる超バカな内容だが、今の俺にはこう言うしかなかった。俺としてはそうあって欲しいから。それはもうマジで!

 

「か、角度的?」

 

「そうだ。着けてないように見えて実は着けてるって言う可能性が非常に高い。だから俺達は着けてないって錯覚したんだ」

 

「……た、確かにそうかもしれないが」

 

「だろう? だがそれでも納得出来ないなら、お前自身でシャルロットに確認してこい。言っておくが俺に結果は教えなくていいからな」

 

「……わ、分かった。師匠がそう言うんだったら、私が直接調べてみる」

 

 俺の押しに負けたラウラはそう頷いた。それを確認した俺は取り上げた携帯機をラウラに返す。

 

「是非ともそうしてくれ。あ、それとラウラ。俺ちょっと急な用事が出来たから。んじゃ」

 

「え? ちょ、師匠どこへ!?」

 

 ラウラに携帯機を渡した俺は疾足を使って即行で姿を消した。

 

 後日、俺はシャルロットが下着を着けてなかった原因は分かった。昨日の護送任務で搬入予定の試験装備の中に、量子変換をより効率的に行うオプション装備を襲撃犯が破壊した為に暴走したらしい。

 

 

 

 

 

 

「それにしても、下着のみが強制的に量子変換とは随分変わった事象だな」

 

「僕もそう思うよ」

 

 時間は急に変わって夜。

 

 寮の一室でルームメイトのシャルロットから事情を聞いたラウラは珍しそうに言うと、シャルロットもそれに同調していた。

 

「そうだ。師匠に報告しておかないと」

 

「何で和哉に報告するの!? そんなのしなくていいから!」

 

 携帯機を使って和哉に電話しようとするラウラにシャルロットが物凄く焦りながら即行で阻止する。

 

「いや、私と一緒に誤解した師匠にも事情を説明しておかないと」

 

「だから! 説明なんてしなくても……え?」

 

 シャルロットが言ってる最中、ふと何かに気付いたような感じで急に声のトーンが低くなった。

 

「ちょっとラウラ。確認だけど、どうして和哉に報告するの?」

 

「ああ、そう言えばシャルロットにまだ言ってなかったな。あの時――」

 

 ラウラが昼休みの事情を説明し始めた。

 

 そしてその後――。

 

 

 

 

 

 

 

 ドッガァァァァァァァァァンッッッッ!

 

 

 

「うわっ! な、何だぁ!?」

 

「和哉ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 部屋のベッドでウトウトしていた一夏だったが、突然何かが壊れた音がした為にビックリして起き上がった。その直後にフル装備状態のISを纏ったシャルロットが和哉を呼ぶように叫んでる。

 

「ど、どうしたんだシャル!? 何が遭ったんだ!?」

 

「一夏ぁ! 和哉はどこぉ!? ちょっと大事な話があるんだけどぉぉ!!?? 和哉はどこにいるのぉぉぉぉ!!??」

 

 顔が熟れたトマトのように真っ赤にしながら武器を突きつけるシャルロット。

 

「か、和哉なら煩悩を退散する為に山篭りするって外出したぞ」

 

 余りにも予想外過ぎる展開に一夏はシャルロットに逆らう事をせず、和哉から聞いた内容をそのまま教えた。




最後の余談あたりは、とある漫画を参考にしました。

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