インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~ 作:さすらいの旅人
それではどうぞ!
「
「そうよ。さっきも言ったけど生徒の長である生徒会長を務めてるわ」
向こうが名乗りを上げた事に俺が確認するように相手の名前を言うと、更識先輩はすぐに頷く。さっきの隠密行動に加えて、あの立ち振る舞いは見るからに只者じゃ無さそうだ。
「そちらが名乗りましたので、俺も名乗らないといけませんね。俺は――」
「知ってるよ、神代和哉くん」
名乗る前に更識先輩がすぐ俺の名前を言い当てた。
「俺の事はご存知でしたか……。まぁ俺を尾行してたんですから、既に知っているとは思ってましたけど。せめて名乗りくらいはさせて下さいよ」
「あら失礼。私とした事がちょっと無作法な事をしちゃったわね」
そう言って更識先輩が再び扇子を開くと、それには『申し訳ない』と書かれていた。あの扇子に書かれていた文字はいつの間に変わっていたんだ?
「まぁ別に良いですけど。更識先輩……と言うより、生徒会長と呼んだほうが良いですか?」
「どっちでも良いわよ。けど私としては楯無って呼んで欲しいな。もしくはたっちゃんでも可」
「では更識先輩、俺を尾行してまで何の御用ですか?」
「ちょっと~、名前でも良いって言ったのに何でそこで苗字で呼ぶのかな~?」
俺が苗字で呼ぶと更識先輩は少しばかり顔を顰めているが、俺はそんな事お構い無しだ。
「まだ会って間もない人に名前で呼ぶのはどうにも気が引けましてね。ましてや俺を尾行しておいて、そんな友好的に接されたら何か裏があるんじゃないかと勘繰ってしまいましてね。気に障ったのでしたら謝りますが……」
「確かにそうね。その言い分には一理あるわ」
俺の言い分に更識先輩は気を悪くするどころか、逆に笑みを浮かべて納得している。普通なら顔を顰めても良い筈なのに笑い流すとは。この人、俺に陰口をたたいている女子達とは全然違うな。
「って更識先輩、話の腰を折らないで早く本題に入りませんか? 人を待たせていますので」
「ああ、ごめんなさい。本音ちゃんを部屋に待たせてるんだったわね」
本音ちゃん? この人は布仏の事を知ってるのか。本当だったら知り合いなのかと訊いてみたいが、また脱線しそうだから止めておこう。
「私が君の前に現れたのはね………君からの挑戦状を受け取りに来たのよ」
「!」
更識先輩の雰囲気が急に変わった。相変わらず笑みを浮かべているが、彼女の体全体から威圧感を発している。並みの人間だったら怖気付きそうなほどに。
「挑戦状? 俺は初対面の貴方にそんな物は……」
「へぇ、これを受けても涼しい顔をしてるなんて凄いわね。普通の子ならすぐに恐がっちゃうんだけど」
「生憎ですが、その程度の威圧では俺の膝を屈する事は出来ませんよ」
確かにこの人の威圧は凄いが、普段から師匠の威圧を受けていた俺からすれば大した事はない。
「なるほどね。あの時の試合を見てて相当の腕前だった事は分かっていたけど、どうやら予想以上だったわ」
「試合? 貴方も俺とセシリア・オルコットの戦いを見ていたのですか?」
「ええ。生徒会長の私はリアルタイムで見させて貰ったわよ。特にあの技は凄かったわね。『砕牙・零式』だったかしら? あれがもしISのシールドエネルギーで威力を緩和しなかったら、相手は確実に重症だったわね」
アレを見ただけで威力が分かるとは………やはりこの人は只者じゃない。
「あの技には正直かなり驚かされたけど、私としてはそれ以上に驚いた事があったわ」
「と、言いますと?」
「それはね……君が『IS学園最強』になるって宣言をしたことよ」
そう言った更識先輩の威圧感が更に上がった。これ程の威圧感を出すのは、この人はかなりの実力者だな。
「あの宣言を聞いた瞬間、おねーさん思わずぞくぞくしちゃったわ。まさか入学して間もない一年の君がこの私に挑戦状を叩きつけるなんて」
「失礼ですが、俺の宣言と貴方に一体何の関係があるんですか?」
「あらあら、その言い方だと君はやっぱり私の事を知らなかったみたいね。良いわ。なら教えてあげる。IS学園において、生徒会長という肩書きはある一つの事実を証明しているんだよね」
「?」
俺が更に不可解になっていると、更識先輩は演説するように半分開いた扇子で口元を隠しながら、楽しげに話してくる。
「このIS学園の生徒会長、即ち全ての生徒の長たる存在は最強であれ……ってね」
そして扇子を舞うよう完全に開き、それには『学園最強』と書かれていた。
「え? それはつまり……」
「そう。私は君が倒したがっている『IS学園最強』よ。そして君の挑戦状を受け取りに来たってわけ」
俺が言ってる最中に、更識先輩が自ら最強と名乗った事に言葉を失った。
「…………………………」
「本当だったら試合が終わった翌日に会おうと思っていたんだけど、ちょっと色々と立て込んでてすぐに行けなかったのよ。ごめんなさいね」
「…………………………」
「ま、取り敢えず君からの挑戦はいつでも待ってるよ。戦う方法は何一つ問わないわ。私はただ受けて立つだけ。言っておくけど、『IS学園最強』の座はそう簡単に渡せないわよ。挑む時は決死の覚悟で挑むように! あ、もうついでにだけど、もし君が私に勝って最強になったと同時に生徒会長にもなれるからね」
更識先輩の発言に俺は黙って聞いているだけだった。向こうは未だに驚いていると勘違いしてるのか、笑みを浮かべながらこう言って来る。
「おやおや、まさか学園最強の私がいきなり君の目の前に現れて驚いているのかな?」
そう言って来る更識先輩に、俺はやっと口を開く。
「…………と、取り敢えず貴女が『IS学園最強』だって事は分かりました……。先程まで無礼な態度を取って誠に申し訳ありません。それと――」
「いやいや、私は別にそんなの気にしてないから」
一先ず謝る俺だったが、更識先輩は扇子を開いて『謝罪不要』と見せてくる。本当にあの扇子はコロコロと文字が変わるんだな。
「それに近頃は張り合う相手がいなくて退屈してたの。だから君みたいなチャレンジャーな子は大歓迎だよ」
「そ、そうですか。けど……」
「何なら明日挑戦してみる? それに私も君の実力を直接知っておきたいし……」
俺が言おうとする度に更識先輩が矢継ぎ早に言って来るので……。
「あの、俺も言いたい事があるんですけど良いですか?」
「ああゴメンゴメン。何かな?」
向こうの話しを区切らせるとやっと聞く態勢になってくれた。
「えっとですね……。確かに俺は試合中に『IS学園最強』になると宣言していたんですが……」
「うんうん」
「その……俺が倒そうとしていた最強の人が貴方だと知らず……」
「私の事を知らなかったんだから無理ないよ。さっきも言ったけど気にしてないよ」
「あ、いや、そうではなくて……そのぅ……」
「何? 言いたい事があるならハッキリ言ってよ。別に怒りはしないから」
俺が口篭もる様子に更識先輩は早く言えと言って来る。仕方ない、思い切って言うとするか。
「えっと、俺は『IS学園最強』が更識先輩だと知らずに……」
「うん、それで?」
「俺はてっきり世界最強の織斑千冬先生だと思って、あの人に宣言しちゃったんですよね」
「!!!!(ピシィッ!)」
俺が言い切ると更識先輩は笑顔のまま固まってしまった。
やっぱりこうなってしまったか。まぁそりゃそうだよな。まさか宣言した相手が自分じゃなく、全くの別人だったんだから。
「………………………………………」
「あ、いや、貴方が『IS学園最強』でしたら俺は挑みますので……」
いきなり無言になる更識先輩に俺は訂正するが、当の本人は全然聞いていなかった。
「…………ねえ神代君。つまり君は私の事を初めから眼中に無かったって事なの?」
「い、いえいえ! 決してそんな訳では……!」
笑顔でいきなり低い声を出す更識先輩に俺はすぐに首を横に振りながら取り繕うが、向こうはそんな事お構い無しだ。
「あ、貴方の実力はまだ分かりませんけど、俺より上だって事は分かりますよ。ですから貴方を倒して俺は『IS学園最強』に……」
「……じゃあ訊くけど、もし君が私を倒したら次はどうするつもり?」
「え……そ、それは……」
更識先輩の答えにくい質問をしてくる事に、俺はすぐに返答する事が出来なかった。
えっと……俺の最大の目標は師匠を倒す事です。それを目指す為に先ずはIS学園最強になる為に更識先輩を倒した次は……千冬さんを倒します。
だめだ! 最後の部分を言ったら『IS学園最強』の更識先輩は千冬さんを倒す為の踏み台になってしまう。ってかどんな言い訳をしたところで、さっきまで更識先輩のやった事は完全な道化じゃないか。誰か頼む! どうやったら更識先輩を傷付けずに宥められるのかを教えてくれ!!
「……早く言いなさい。私は怒らないから……」
「……………………………」
痺れを切らした更識先輩が少し殺気を出してきたので、俺は覚悟を決めた。
「ご、ゴホンッ! 『IS学園最強』である更識先輩を倒したら……次に世界最強である織斑千冬先生を倒します」
「……………………………」
俺が言い切ると更識先輩は無言になってブルブルと体を震わせていたが……。
「どのみち私は前座に過ぎないじゃないか~~~!!!! 君なんか大っ嫌いだああああああ!!!!」
いきなり泣き叫びながら全速力で何処かへ去って行くのであった。
「……………何故だろう。俺は別に悪くないんだが……物凄く申し訳ない気分になってるし」
俺は取り敢えず走り去って行った更識先輩に謝罪した後、部屋へ戻るのであった。
◇
和哉と布仏がいなくなった後、パーティーは再開されて一組はいつも通りだったが、二組はとてもパーティーをやっていられる気分じゃなかったので帰っていた。そして新聞部の黛薫子も特大スクープと言って既にいなかった。
「なぁ箒、二組の女子達がいつの間にかいなくなっているな」
「無理もないだろう。和哉にあそこまで言われたんだから」
「おまけに怯えていましたわ。よほど和哉さんと戦うのが恐かったようですわね」
一夏、箒、セシリアも一通りパーティーを再開しながらも、和哉の事について話していた。
特に和哉と戦ったセシリアは二組の女子達が怯えている気持ちは痛いほど分かっている。何しろ以前までは和哉に怯えていた一人だったから。
「だがあいつは呆れていながらも、決して見下した目をしていなかった」
「ええ。『挑む時は俺も決死の覚悟で挑む』と仰っていましたからね」
「和哉は正面から向かって戦う相手には、アイツなりの礼儀を持って戦うからな。以前にこんな事があったんだ」
箒の台詞にセシリアが繋げると、一夏は和哉が以前戦っていた相手を思い出して語り始める。
どんなに格下でも、どんなに無様な姿になろうと必死に自分に立ち向かってくる相手に和哉は一切手を抜いていなかった。それを見ていた一夏がなぜあそこまでするのかと聞くと、『揺るがない意思を持った相手には全力を尽くす。ただそれだけだ』と答えて去って行った。
「そう言って去った和哉の背中が凄くカッコ良く見えたな」
「そんな事があったのか」
「いかにも和哉さんらしいですわね」
一夏から和哉の過去の出来事を聞いた箒とセシリアは心を打たれたかのように感心していた。
「俺、絶対に和哉の背中を追い抜くって決めてるからな」
「わたくしもですわ。次に戦う時は絶対に勝つと決めていますので」
「それは私もだ」
「何だ、二人も俺と同じなのか」
セシリアと箒の台詞に一夏は意外そうな顔をしている。
「じゃあいっそ、どっちが先に和哉を倒すか競争しないか?」
「それは良い案ですわね」
「ふん。私が一番先に倒すことになるが、まあ良いだろう」
こうして三人は更に研鑽を積むと心に誓った……筈だったが。
「ところでセシリア! 貴様どさくさに紛れて一夏にくっ付こうとしてるんじゃない!」
一夏の腕に引っ付いているセシリアに思わず箒が怒鳴った。当の本人は今気付いたかのような感じだ。
「あらすいません。わたくしったらつい……」
「お…おい二人とも……」
「ついじゃないだろう! お前は人が目を離している隙に……!」
「一夏さん、何故か箒さんが凄く恐い顔をしてるんですが」
「一夏! 貴様も鼻の下を伸ばしてないで、さっさとソイツから離れろ!」
「ちょ…ちょっと待て箒。俺は別に何も……」
いつの間にかまた一夏争奪戦を始めている箒とセシリアに、一夏はひたすら戸惑っているのであった。
◇
その頃、とある部屋では大変な事が起きていた。
「うわあああああああ!!! 私とした事がとんだ大恥掻くなんてぇぇぇ~~~~!!!! もういっそのこと一思いに殺してえぇぇぇぇぇ~~~~!!!」
「か、会長。一体どうしたんですか?」
部屋に戻って来た楯無がすぐに悶えながら叫んでいる様子に、女性はいきなりの展開に目を疑っている。
いつも余裕で優雅な姿を見せているあの楯無が羞恥心全開で騒いでいるのは、あり得ないほどに珍しかったから。
「おのれ神代和哉ぁ~~! 私に大恥を掻かせた恨みは絶対! ぜぇ~~ったいに忘れないんだからぁ~~~!!!」
「落ち着いてください、会長。一体何があったんですか?」
「聞いてよ
楯無が虚と呼ばれる女性に泣き付きながら事情を話し……。
「………成程。話は大体分かりました。まさか神代和哉が宣言した相手が会長ではなく織斑先生だったとは……」
「そうなんだよ~~! おまけにあの子と来たら、『IS学園最強』の私を倒した次に世界最強の織斑先生を倒すって言ったんだよ! 私は前座なのかぁぁぁぁぁぁ!!!! ムキーーーー! 『IS学園最強』を舐めるんじゃないわよ~~~!!!」
「………………………はあっ」
完全に逆ギレしている楯無に虚は溜息を吐くしかなかった。言うまでもなくその溜息は楯無に対して。
「次に会った時は百倍に……いや! 一万倍にして返してやるんだから!!」
「その前に神代和哉が誰に対して最強なのかを、予め確認しなかった会長にも落ち度があると思いますが?」
「ゴフゥッ!!!」
和哉に仕返しする気満々だった楯無であったが、虚の台詞によって見事撃沈したのであった。
◇
「は、は、はっくしゅ! はっくしゅっ!」
「どうしたのかずー? 二回もくしゃみするなんてー」
俺が部屋で布仏と一緒に(主に布仏が)お菓子を食べながらゲームをしていた。
「誰かが俺の噂でもしてるんじゃないのか?」
「おりむー達が噂してたりして~」
「もしくはあの生徒会長さんかもな」
「あれ~? かずーはもう楯無お嬢様に会ったの~?」
「楯無お嬢様? 布仏さんは彼女を知ってるのか?」
俺が思わずゲームを止めると、布仏も一緒になって止める。
「知ってるよ~。私はね~……」
この後の布仏の説明によって、更識先輩や布仏の素性を知った俺は物凄く驚愕した。