インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~ 作:さすらいの旅人
「さてと、早くまた食堂に行かないとな」
夕食を済ませた俺はトレーニングルームで軽い訓練した後、早足で食堂へと向かっている。
本当だったら一夏を誘うつもりだったが、箒とセシリアに絡まれていたから敢えて一人でやった。本当は二人を押し退けたかったが、恋する乙女パワーの前だと俺では対処出来ないからな。
「けどまぁ今回のパーティーで、箒かセシリアのどっちかが不機嫌になるだろうな」
今向かおうとしている食堂にて、『織斑一夏クラス代表就任パーティー』をやる事になっている。恐らくクラス代表になった一夏に女子達がお近づきになろうとアプローチして来るに違いない。一夏は俺と違って女子にモテるし。
「となると、一夏にはさっさと箒とセシリアのどちらかを恋仲にさせないといけないな」
箒とセシリアはどっちも負けず嫌いな上に、周りの事なんかお構い無しだ。とばっちりを喰らう俺としても溜まったもんじゃない。
一刻も早く一夏争奪戦にピリオドを打たせないと、他の女子達も混ざってとんでもない事になる可能性がある。もしそうなれば、確実に俺が巻き込まれてしまう。
「ん? そう言えば一夏の事が好きな女が他にもいたな……」
えっと、確かソイツは………………まあ良いや。今はそんな事よりさっさと急ぐか。
『ねぇそこのアンタ! ちょっと本校舎一階総合事務受付って所に案内してくれない!?』
ん? 何か誰か俺に向かって言ってる気がするな。しかし悪いが、俺は急いでいるので無視させてもらう。
『ちょっと! 無視してないで早く案内してよ!』
それが人に頼む態度かよ。そう言う図々しい態度を取る相手に案内する気は無いから、さっさと行くか。
「けどさっきの図々しい声に何処かで聞き覚えがあったような気が……確かどこぞのチャイナ娘だったかな……?」
それは翌日、その相手が誰だったのかが分かるのであった。
◇
「というわけでっ! 織斑くんクラス代表決定おめでとう!」
「おめでと~!」
ぱんぱ~ん!!
パーティーが始まるとクラッカーが乱射し、一夏の頭に紙テープがかかる。
食堂には一組のメンバーが全員揃っており、各自飲み物を手にわいわいと盛り上がっている。
「……………………」
パーティーの主賓である一夏は全然めでたく無さそうに無言だ。そしてちらりと紙がけてある『織斑一夏クラス代表就任パーティー』を見ている。あの様子だと知らなかったみたいだな。一夏にだけ内緒にしてたんだろうか。
「いやー、これでクラス対抗戦も盛り上がるねえ」
「ほんとほんと」
「ラッキーだったよねー。同じクラスになれて」
「ほんとほんと」
さっきから相槌を打ってる女子は二組だ。本当はクラスだけの集まりだったんだが、何故か他のクラスも参加している。ま、大方何処かでパーティーをやる事を知って、ドサクサ紛れに一夏と仲良くなろうと言う魂胆が見え見えだ。
因みに一夏の隣に座ってる箒が鼻を鳴らしてお茶を飲んでいる。俺の予想通り、箒が不機嫌になっているな。箒さん、アンタもうちょっと広い心を持ちなよ。これはあくまで社交的な付き合いなんだから。そんな事で一々腹を立ててたら一夏の彼女は務まらないぞ?
と、箒に内心突っ込みを入れている俺は……。
「ねぇかずー、本当にこの席で良いの~?」
「構わないさ。今回のメインは一夏だからな。一組はともかく、二組の女子達は俺が近くにいるとお気に召さないだろうし」
一夏から少し離れている場所の席に座っていた。何しろ二組の女子達が俺の顔を見た瞬間に嫌そうな顔をしていたからな。だから俺はこうして離れている。
「けど布仏さんこそ良いのかい? 一夏と一緒が良いだろうに」
俺の隣に座ってグビグビとジュースを飲んでいる布仏にそう言うが、当の本人は移動する気が無かった。
「私はかずーと一緒が良い~」
「ほう? いつも小うるさいルームメイトが良いと?」
「そんな事よりかずー。今日はアップルパイ作ってないの~?」
俺の問いを無視して布仏はアップルパイを求めるような言い方をしてきた。
「今日はもうお菓子を食べただろ。だから無し」
「ええ~? かずーのアップルパイ食べたい~」
ユサユサと俺を揺らしておねだりして来る布仏に……。
「じゃあ明日お菓子を一切食べないなら作ってあげるよ」
「うう……そ…それは~……うう~~~~」
俺が条件を出すと迷っているのであった。それも頭を抱えて必死に。
「かずーのアップルパイ食べたい……でも明日はお菓子が食べられない……でも食べたい……うう~~! かずーの意地悪~!」
「やれやれ、ちゃんと約束を守れば作ってあげるのに」
ポカポカと俺の肩を叩いてくる布仏に呆れている俺。
と、そんな時……。
『はいはーい、新聞部でーす。話題の新入生、織斑一夏君に特別インタビューをしに来ました~!』
新聞部と言った女性が一夏の前に現れていた。制服のリボンが黄色って事は二年生か。
一先ず未だ俺にじゃれている布仏は放っといて、一夏の方を見ているとしよう。
『あ、私は二年の
思ったとおり二年だったか。一夏が名刺を受け取った途端、黛先輩はすぐ本題に入ろうとしていた。
『ではではずばり織斑君! クラス代表になった感想を、どうぞ!』
ボイスレコーダーをずずいっと一夏に向け、無邪気な子供のように瞳を輝かせている黛先輩。
『えーと』
一夏がどう答えようかと悩んでいる。インタビュー自体乗り気じゃないが、取り敢えずは答えようといった感じだ。
『まあ、なんというか、がんばります』
『えー。もっといいコメントちょうだいよ~。俺に触るとヤケドするぜ、とか!』
今時そんな台詞は古すぎて一夏が言うわけないだろう、と内心突っ込んでいたが……。
『自分、不器用ですから』
『うわ、前時代的』
さっきのは前言撤回しよう。ってか一夏、お前そんなキャラじゃないだろうが。
『じゃあまあ、適当にねつ造しておくからいいとして』
おいおいそこの新聞部副部長さん。アンタがそんな勝手な事をしたら学校中に可笑しな誤解と偏見が広がるんだが。
『け、けど実際はあそこにいる神代和哉が勝手に俺をクラス代表にされたんですが……』
『ほほ~う、彼が……』
こら一夏! お前は俺にまでコメントさせる気かよ!? って黛先輩がコッチに来てるし!
「はいは~い、君が噂の神代和哉君ねぇ~。何でも試合中に『IS学園最強』になるって宣言したみたいねー。あ、これ名刺」
「ど、どうも……」
そう言って黛先輩は俺に話しかけながら名刺を渡してくる。 おい一夏、何だその『お前も俺と同じ目に遭え!』みたいな目は。
「良かったらそれについてのコメントを、どうぞ!」
一夏と同様に俺にもずずいっとボイスレコーダーを向けてくる。こりゃ下手にさっき一夏みたいな事を言ったらねつ造されるな。ええい! こうなりゃもうヤケだ!
そして俺は立ち上がり……。
「『IS学園最強』になると言ったのは紛れもない事実です。ですからIS学園全生徒に宣言しておきます。俺と戦う場合は生半可な覚悟で挑まないで下さい。自分達が後悔する事になりますから。そして現『IS学園最強』の人に告げます。必ず貴方を倒して俺が『IS学園最強』になりますので、首を洗って待ってるように!」
『………………………………』
全て言い切ると、この食堂にいる全員が言葉を失っていた。俺の隣に座ってる布仏も例外なく。
「ふうっ……。これで満足しましたか? 黛先輩」
「あ、いや、その………充分堪能させて頂きました。それもお腹一杯に……」
俺の問いに黛先輩は若干放心しながらも礼を言って来る。
「言う事はちゃんと言いましたから、適当なねつ造は勘弁してくださいよ?」
「いやいやいやいや! あんな凄いコメントをねつ造するなんてとんでもない! 一字一句間違えずに掲載するから! ………これは至急たっちゃんに報告しないと……!」
「そ、そうですか……」
一夏の時とは大違いでメチャメチャ張り切ってるなこの人……何か最後ボソボソと呟いていたが。
そしてさっきまで放心していた一夏達が正気に戻ると……。
『ちょっと、あんな宣言してるわよ』
『馬鹿よねぇ~。あんな大見得切っちゃって……』
『自分で自分の首を絞めてるわよ……』
『あそこまで自意識過剰だったなんて……』
二組の女子達がヒソヒソと話していた。一組は俺の言った事が本気だと分かっているので何も言ってない。あの試合を見て俺の実力が大体分かっているからな。
もういい加減陰口を叩く女子達にはウンザリしてるから、ハッキリ宣言しておくか。
「そこで俺に陰口をたたいている女子達。いつまでもヒソヒソしてないで、俺の前でハッキリ言ったらどうだ? 相手するんなら喜んでやるぞ。無論、そちらの得意なIS戦でやる。その代わり大怪我しても俺は一切責任を持たないからな」
『『『『……………………』』』』
俺の問いに二組の女子達は顔を青褪めながら何も言い返さなくなった。あの様子を見ると、俺とセシリアが戦った試合を見ていたようだな。それがいざ自分がやられるとなると恐くなってきたと言ったところか。本当に口先だけの連中ばかりだな。
「言った途端にこれか。つくづく呆れるな。陰口をたたいている暇があるなら、ISの腕を磨いて挑んで来ることだな。その時は俺も決死の覚悟で挑む。じゃあな、お前達の挑戦を楽しみに待っている」
「あ、ちょ、ちょっとかずー、どこに行くの~?」
俺は言いたい事を言い切り、食堂から出て行こうとすると、隣にいる布仏も一緒に付いてくる。
「悪かったな一夏、折角お前のパーティーを台無しにして」
「あ、いや、俺は別に……」
「そうか。それじゃまた明日」
一夏に謝罪した俺はスタスタと食堂から去って行った。
「ねぇかずー、あんなこと言っちゃって良かったの~?」
「構わないさ。それに陰口をたたいている女子達にいい加減ウンザリしてたからな。寧ろスッキリした」
付いて来ている布仏に俺は思った事を言う。
「ってか何で君まで一緒に付いて来たんだ? パーティー会場に戻らなくて良いのか?」
「そうは言ってもー、あんな雰囲気じゃ楽しめないしー。かずーのせいでー」
「それを言われるとな……」
確かに布仏の言うとおり、俺がパーティーの空気をぶち壊してしまったからな。今更戻ったところでぎこちない雰囲気になっているだろう。布仏に悪い事をしてしまったな。
「じゃあパーティーを台無しにしてしまったお詫びとして、布仏さんには今日だけお菓子の制限を無しにしてあげるよ」
「え!? ホントに!?」
「ああ。ただし、明日からはまた――」
「ありがとうかず~!」
「どわっ!」
いきなり布仏が俺に抱き付いて来た。
「こ、こら布仏さん! いきなり抱きつくなって……!」
「だって今日は大してお菓子食べてなかったんだもん~!」
「たかが制限無しにしただけで抱き付くことはないだろうが。ってか離れろって」
抱き付いている布仏から離れようと歩いている俺が突き当たりの廊下を曲がると……。
「ん?」
「かずー、どうしたの?」
後方から何か妙な気配を感じたので、ふと後ろを見るとそこには誰もいなかった。
「……………漸く向こうが動いてくれたか」
「かずー、何か真剣な顔をしてるよ~」
「布仏さん、悪いけど一人で部屋へ戻ってくれないかな?」
「どうして~?」
「君から没収したお菓子は洗面所の棚の上に置いてあるよ」
「用意して待ってるね~!」
お菓子の隠し場所を教えると布仏はすぐに部屋へと向かった。
「行ったか……さて」
布仏がいなくなったのを確認した俺は、再び妙な気配を感じた方へ視線を戻す。
「どなたかは知りませんけど、そろそろ出てきたらどうですか? 人の跡をつけるなんて、あまり良い趣味とは言えませんよ」
誰もいないところに向かって言うが何の反応が返って来なかった。
だが視線の先にある階段から誰かが下りる音がした後……。
「よく気付いたわね~。これでも完全に気配を消してたつもりなんだけど」
扇子を持った青髪の女生徒が俺の前に姿を現した。リボンが黄色って事は、さっき食堂で会った黛先輩と同じく二年か。
「途中から俺に気付かせるように、態と気配を感じさせたんでしょう? そちらがいつになったら動いてくれるのかとずっと待っていたんですが……」
「あれ? その言い方だと、ずっと前から気付いていた言い方だね。どこら辺で気付いたの?」
「俺がトレーニングルームにいた時からです。その時は俺だけしかいないのにも拘らず、何処からか俺を見ている視線を感じましてね。もしあの場に誰かがいたら気付きませんでしたけど」
「あちゃ~。私とした事が珍しく間抜けなことをしちゃったわね~。でもそれに気付く君も流石だけど」
青髪の女生徒が扇子を広げると、それには『お見事』と書かれていた。この人は俺をおちょくってるのか?
「で、気配を消して俺を尾行していた貴方は何者ですか? それと何の御用です? 俺を尾行した目的は何ですか?」
「そんな一遍に訊かなくてもちゃんと答えるわよ。では先ず一つ目の問いだけど……」
そう言って青髪の女生徒は何やら気品を感じさせるような仕草をしてくると……。
「私の名前は
自ら名を名乗るのであった。