インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~   作:さすらいの旅人

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第9話

「はあっ! はあっ! はあっ! も、もう無理だぁ~~~」

 

「何だ一夏。あの程度でもうへばったのか? 情けないな。これは俺のやってる量の半分以下だぞ?」

 

「お前の基準で言うな! 基礎訓練って言っても俺からすれば滅茶苦茶ハードだったぞ! こっちはブランクがあるってのに!」

 

 基礎訓練が終わると一夏はグラウンドで大の字になって寝転んでいる。

 

 トレーニングルームで腹筋・背筋・腕立て50回×3セットの次にスクワット50回をやって(一夏を)少し休憩させた後、グラウンドへ行って1周 (5km)走った。

 

「まあ良い。取り敢えず戻って夕食にするか」

 

「はあっ……はあっ……お前なぁ……あれだけの事をしたのにすぐ飯が食えるのか?」

 

「だから言ったろ。俺のやってる量の半分以下だって。本当だったら一夏には俺と同じ量をやらせたかったんだからな」

 

「ち…ちなみにどれくらいだ?」

 

「えっと……」

 

 俺が朝にやった筋トレ内容 (注:第五話参照)を教えると……。

 

「無理だ! そんな事したら全身動けなくなる! パワーリストやアンクルなんて付けて走ったら絶対に終わらないし! ってか5kgの鉄棍の素振りってなんだ!? そんなの普通やらねぇだろ!?」

 

 一夏が無理矢理立ち上がって突っ込みまくっていた。

 

「最初はキツイが毎朝やってたらその内慣れるぞ? まあ鉄棍の素振りは流石に無理だが……」

 

「ま、毎朝って……お前いつもそんな筋トレやってたのか?」

 

「ああ」

 

問題なく答える俺に顔が引き攣る一夏。

 

「……………俺、和哉がどれだけ規格外な人間なのかが本当に良く分かったよ」

 

 失敬な奴だな。前にも言ったが俺はまだ師匠の領域には入ってないってのに。

 

「まあそんな事より早く寮へ戻るぞ。お前もいい加減動けるようになっただろ?」

 

「そ、そりゃ多少は……」

 

「なら戻るぞ」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれよ和哉!」

 

 俺が更衣室へ戻ると、一夏はノロノロと俺に付いてくるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「すいません。勝手にキッチンを使ってしまいまして」

 

「なぁに、良いってことよ。男のアンタがお菓子を作るところを見てて新鮮だったからね」

 

 一夏と一緒に夕食を食べ終えた後、俺はキッチンに言って皿洗いをしている学食のおばちゃん達にアップルパイを作る許可を貰い、今はオーブンで焼き上がるのを待っていた。

 

 そして……。

 

 

チ~ン!

 

 

「お、出来たか」

 

 焼きあがった音が聞こえた俺はすぐにオーブンを開けると、その中にはこんがりと焼けた円盤状のアップルパイが二枚出来上がっていた。

 

「よっと……アチチ!」

 

 アップルパイを取り出してそれぞれの皿に置き、ナイフを使ってサクサクと切って分割する。

 

「はい! 神代和哉お手製アップルパイの……完成で~す!」

 

「「「「お~~~(パチパチパチ)」」」」

 

 俺の完成宣言におばちゃん達が乗ってくれて拍手をしてくれた。この人達ってノリが良いな。

 

「では先ずキッチンを使うのを許可してくれたおばさん達にお礼として、出来立てをどうぞ」

 

「私達の分まで作ってくれるなんて嬉しいねぇ」

 

「こりゃ食べないと罰が当たっちまうよ」

 

「それじゃあ頂きます、と」

 

「あちち! はむ……(サクサク)」

 

 食べるように促すとおばちゃん達は一斉にアップルパイを食べ始めると……。

 

「「「「美味し~い!」」」」

 

「ありがとうございます」

 

 揃って褒めてくれた事に俺は嬉しそうに言う。

 

「な、なんだいこのアップルパイは!? 年甲斐も無く思わず叫んじゃったよ!」

 

「リンゴとカスタードクリームが丁度良い甘さだよ!」

 

「あちちち! ま、またすぐ口に入れたくなっちゃうよ!」

 

「それに丁度良い甘さだから全然飽きないし!」

 

 おばちゃん達の反応に俺は成功だと思った。久々に作ったけどそれほど腕は落ちてないみたいだな。

 

「どうですか? 疲れた後にアップルパイを食べた感想は?」

 

「「「「最高だよ(グッ!)」」」」

 

「それは良かった」

 

 サムズアップするおばちゃん達。俺は嬉しく思いながら、もう一つの皿に置いてあるアップルパイを持つ。

 

「じゃあ俺はもう一つのアップルパイを部屋に持って行きますので。皿は明日にお返しします」

 

「ああ、分かったよ」

 

「美味しいアップルパイを食わせてくれてありがとよ」

 

「また作るときはいつでも言ってくれ」

 

「来るのを楽しみに待ってるよ」

 

「では俺はこれで。キッチンを貸していただきありがとうございました」

 

 未だにアップルパイを食べているおばちゃん達に礼を言った俺は、キッチンから去って行った。

 

 

『いやいや、あの子は良くできた子だねぇ~』

 

『アタシの娘とは大違いだよ』

 

『もしあんなに立派な息子がいたらあたしゃ絶対自慢してるね』

 

『そうだね。娘に見習わせたいもんだ』

 

 

 俺がいなくなるとキッチンでは一種の行事とも言えるおばちゃんトークが始まっていた。主に俺を話題にしたトークを。何か恥ずかしいからさっさと部屋に行こう。

 

 

 

 

 

 そして部屋に着くと……。

 

「待たせたな」

 

「かず~、待ってたよ~。美味しそうな匂いだ~」

 

 部屋に入った瞬間、布仏がすぐに出迎えてアップルパイを取ろうとしていた。

 

「コラ。来て早々すぐに食べようとするな。はしたないぞ」

 

「う~~、だって本当に美味しそうなんだもん~」

 

「ところであの二人は?」

 

「もういるよ~」

 

「そうか」

 

 布仏の返答に俺が奥へ進むと、布仏が使ってるベッドには谷本と鏡が座っていた。

 

「ど、どうも……」

 

「と、取り敢えず来たよ」

 

「来てくれてありがとうな。では早速……ほら布仏さん、早く皿を出して」

 

「え~? かずーが用意してくれないの~?」

 

「この部屋の主は俺と君だ。そしてお客である二人を持て成すのは当然だろう。手伝ってくれないとあげないぞ?」

 

「ぶ~~~~」

 

 膨れっ面になりながらも布仏は小皿を用意する。流石にアップルパイが食べられないとなると大人しく従うみたいだな。

 

 そして布仏が用意した小皿に俺が分割したアップルパイを載せた。

 

「ではどうぞお二人さん。布仏さんも食べて良いから」

 

「わ~い! いっただっきま~す!」

 

「い、いただきます」

 

「はむ(サクサク)」

 

 布仏、谷本、鏡が一斉にアップルパイを食べると……。

 

「す、凄く美味しいよ~♪」

 

「な、なにこのアップルパイ……凄く美味しいじゃない……!」

 

「何でこんなに美味しいの……!?」

 

 それぞれが思った事を口にしながらも頬張っていた。

 

「「!!!(ドンドンドン!)」」

 

「ほれ。冷たい紅茶もどうぞ。と言っても市販で売ってる物だが」

 

 谷本と鏡が喉を詰まらせたので俺が紅茶が入ったコップを渡すと、二人は即座に受け取った。

 

「「(ゴクゴクゴク!)……ぷはぁ~。ありがと~」」

 

「どういたしまして」

 

「「……はっ!」」

 

 紅茶を渡した相手が俺だと気付いた谷本と鏡は若干固まったが……。

 

「で、お二人さん。アップルパイを食べた感想は?」

 

「…………………美味しいです」

 

「………………それも凄く」

 

「それは良かった」

 

 恥ずかしながら言うと、俺は笑みを浮かべる。

 

「ホントに美味しいよかずー♪」

 

「はいはい、もう一つあげるから君はちょっと静かにしてて」

 

「は~い。あむあむ♪」

 

 俺に美味しいと言って来る布仏に、俺が余ったアップルパイをあげると再び食べ始めた。

 

「と言う訳で、このアップルパイは俺からの友好の証なんだが……」

 

「「…………………」」

 

「君達が未だに俺を嫌っているのは分かってる。だけどこの俺達は一年間同じクラスなんだ。この先いつまでも険悪な仲が続くと、お互いに良くないからね。友達になってくれ……とは言わないけど、必要最低限に話しかけてくれたら嬉しいんだが。どうかな?」

 

「「…………………」」

 

 谷本と鏡はダンマリとしていたが……。 

 

「そ、そうね。同じクラスメイトなんだし……」

 

「いつまでも引き摺ってると……あんまり良くないよね……」

 

(よし!)

 

 妥協してくれると、俺は内心ガッツポーズをした。

 

「そう言ってくれると嬉しいよ。それとまたアップルパイが食べたい時が来たら何時でも言ってくれ」

 

「え! ホントに!?」

 

「また作ってくれるの!?」

 

「ああ。とはいえ、明日また作ってくれって頼まれても流石に無理だが」

 

 俺の作ったアップルパイは本当に好評のようで、また機会があれば食べると嬉しそうに言う谷本と鏡。

 

 これにより、険悪になってたクラスメイトの女子二人と仲良く会話出来る間柄となった。

 

 と、そんな時……。

 

 

ガチャッ!

 

 

「和哉ぁ~。約束通り来たぞ~」

 

 一夏が部屋に入って来た。

 

「え!? お、織斑くん!?」

 

「どうして織斑くんが此処に!?」

 

「あ、いらっしゃいおりむー」

 

 谷本と鏡は驚き、布仏は歓迎する。流石に一夏がこの部屋に来たのは二人にとって予想外だっただろう。

 

「よう一夏。待ってたぞ」

 

「おう。あれ? 先客が来てたのか?」

 

「まあな。あ、お二人さんに言い忘れてた事があったけど、アップルパイを食べると同時に一夏も呼ぶから……って言えば分かるかな?」

 

「「!」」

 

「? 一体何の話だ?」

 

 俺の発言に谷本と鏡は何か気付いた顔になり、一夏は不可解な顔をしている。

 

「もしかしたらこれを期に一夏とお近づきになれるチャンス……逃したくないよな?」

 

「そ、そうね。こんなチャンス滅多に無いし」

 

「神代君とはこの先仲良くなれそうね」

 

「ふふふ、そう言ってくれて何よりだよ」

 

「和哉、さっきから何の事を言ってるんだ?」

 

 未だに一夏が分からない顔をして俺に聞くが……。

 

「「「いやいや、こっちの話」」」

 

「今度は二人も!? ってかお前らいつの間に仲良くなってるんだ!?」

 

「すごく息がピッタリだね~」

 

 俺、谷本、鏡の返答に一夏が突っ込み、布仏は感心そうに見ていた。

 

「まぁそう言う訳で、この後はどうする?」

 

「本当なら織斑くんと一緒に話したいけど……」

 

「流石に準備が出来てないから、今日は帰らせてもらうわ」

 

 そう言って谷本と鏡は食べ終えたアップルパイの皿を片付け、部屋から出ようとする。

 

「それじゃあ神代くん、また」

 

「アップルパイありがとうね~」

 

「ああ。またな」

 

「また明日~」

 

「おい和哉! いつまでも俺を放置しないで早く説明してくれ!!」

 

 去っていく谷本と鏡に俺と布仏が見送ると、さっきまで放置していた一夏がついに叫んだ。

 

 

 

 

 

 一夏に彼女達にアップルパイをご馳走した事を説明した後、俺は用意していた携帯ゲームで一夏と対戦していた。

 

 因みに一夏とお近づきに関しては伏せている。

 

「頑張れー、かずー、おりむー」

 

「ところで一夏、篠ノ之は未だに落ち込んでいたか?」

 

「いや、そんな感じは無かったな」

 

「何?」

 

 布仏が互いのゲーム画面を見て応援している中、俺が一夏に篠ノ之について聞くと、予想外な返答をする一夏に疑問を抱く。

 

「どう言う事だ?」

 

「何か吹っ切れたって感じだったんだが、俺の顔を見た途端におかしな事をしてて……」

 

「はあ? 何だそりゃ?」

 

 前者はともかく、後者は良く分からんな。一体アイツに何が遭った?

 

「まぁ分かった事は、箒は目標を見つけたってところだ。何の目標かは分からないが」

 

「そうか……」

 

 どうやら篠ノ之は俺があの時言った台詞に気づいたみたいだな。未だにへこたれていると思っていたが、意外と立ち直りが早いようだ。

 

 これで俺も少しは楽しめるな。この学園で千冬さんを倒すのが目標とは言え、張り合う相手がいないと面白くない。出来ればもう一人張り合わせたい相手がいる。それは俺の目の前にいる一夏だ。

 

 同じ男である一夏とも張り合いたいから、コイツにはその気にさせる為の切欠が欲しいな。俺にライバル宣言をして自らも研鑽しようとする切欠を。どうすれば良いかな?

 

「隙ありだ和哉!」

 

「ん? あ……」

 

 俺が考えながらゲームしてると、一夏が俺のキャラをすぐに攻撃して勝った。

 

「よっしゃ! 今回は俺の勝ちだな和哉」

 

「どうやらそのようだな……くそっ」

 

「残念だったね、かずー」

 

 得意面になる一夏に俺が悔しそうな顔をし、布仏が俺を慰めようとする。

 

「さて、今日はここまでにするか」

 

「そうだな。俺も今日は和哉の基礎訓練をやって眠くなってきたし……ふぁ」

 

「私も眠くなってきた~」

 

 そして一夏は自分の部屋に戻り、俺と布仏は歯を磨いた後にベッドに就寝した。

 

 だが……。

 

「こら布仏さん、夜中にノートパソコンを弄ってないでさっさと寝る」

 

「てひひ、バレちゃった~」

 

 布団の中で夜更かしをやろうとする布仏に指摘させると、今度はちゃんと寝るのであった。


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