インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~   作:さすらいの旅人

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第111話

「さて和哉。お主があの小娘共に殺されかけたと言っておったが、一体どう言う事か説明してもらおう」

 

 居間に着いて早々、上座に座って腕を組んでる竜爺が怒っているとも言えるような真剣な顔をして俺を問い質していた。

 

「和哉お兄ちゃん、詳しく聞かせて」

 

「おい和哉、俺はそれ初耳だぞ?」

 

「かず~、知ってること全部教えるまで放さないからね~」

 

 余りの形相に俺がどう話そうかと苦笑しながら頬をポリポリと掻いてると、綾ちゃんと一夏、そして本音も竜爺と同じく説明を求めていた。特に本音は逃がさんといわんばかりな感じで、俺の右腕に引っ付いてる。

 

「えっと……色々遭っただけじゃダメか?」

 

 一言で済まそうと言ってみる俺だったが、

 

「ダメ」

 

「お前なぁ、この状況でそれ無理だろ」

 

「ダメだよ~」

 

「戯け、駄目に決まっとるじゃろうが」

 

 綾ちゃん、一夏、本音、竜爺から一斉にダメ出しをされる。

 

 ですよね~。この状況で一言で済ませてくれるほど、竜爺や一夏達が優しく見逃してくれるとは思えないし。

 

 ま、あの女権連中に竜爺の近くで堂々と殺人未遂犯と言っちまったから、今更隠し通すなんて無理な事だ。ここは全部白状する事にしよう。

 

「分かった、教えるよ。先ず結論から言って、奴等が俺を殺そうとする原因を作ったのは……実は俺なんだ」

 

「和哉が? 何じゃお主、もしやあの小娘共に恨まれるような事でも仕出かしたのか?」 

 

「正確に言うとあの女共じゃない。女性権利団体の連中に恨まれてるんだよ、俺は。事の発端は俺がIS学園に入学した後に――」

 

 そして俺は理由を説明する。

 

 入学初日からIS学園全校生徒に喧嘩を売ってしまった事、ISを使ってIS専用機持ちの代表候補生に勝った事、そして極め付けはIS学年別トーナメントで一夏と戦った際にある宣言をして各国から注目された事を話す。

 

 ここまで説明するのに少し時間が掛かってしまったが、それでも竜爺と綾ちゃんは最後まで聞いていた。事情を知ってる一夏と本音は俺の話を聞いてて苦笑していたが。

 

「成程のう。そのトーナメントやらで各国上層部が和哉の実力を認める者とそうでない者がおって、今回はその後者――上層部の中におる女性権利団体の小娘共が疎ましく思い始めたんじゃな」

 

「そ。んで、この前あの女共の一人が俺をナイフで背後から刺し殺そうとしたんだ。まぁその時は背負い投げと鳩尾突きで返り討ちにして警察に突き出したけど」

 

「それで先程あの茶髪の小娘に、背中と鳩尾の事を聞いておったんじゃな」

 

 疑問点が解消したように竜爺が納得し、綾ちゃんはさっきの女共を思い出しているのか非常に不機嫌そうな顔をしていた。

 

「ってか和哉、それって一体いつ頃起きた話なんだ?」

 

「臨海学校が始まる前、『レゾナンス』で水着を買いに行った日だ。まぁあの時、千冬さんと山田先生が護衛してくれたお蔭で助かったがな」

 

 二人がいなかったら俺はあの女共がでっち上げた理由で嵌められて刑務所に送られてたからな、と内心付け加える。綾ちゃんがいる手前、それはちょっと言えない。この子の事だから、絶対女性権利団体に抗議すると思うから。

 

「それでお前、あの時千冬姉達と一緒にいたのか。って事は、山田先生が和哉と偶然会ったって話は嘘だったんだな。あと千冬姉とのデートも」

 

「そう言う事だ」

 

 すいません、此処にはいない山田先生。貴女が考えた作り話を一夏達に暴露しちゃいました。

 

 と言うか一夏、俺が千冬さんとのデートの嘘話もまだ憶えてたんだな。あれは俺が嘘だってちゃんと言った筈なんだが……まぁ良いか。あと本音、俺の右腕に引っ付くのは構わんが剥れ顔をしないでくれ。

 

「かず~、どうしてそう言う大事な事を私たちに言わなかったの~?」

 

「一夏達に教えたら絶対首を突っ込むと思うから黙っておけって千冬さんに言われてな」

 

 まぁ今回の件で喋る事になっちまったけど。

 

「しかし解せんのう。和哉が返り討ちにして警察に突き出したのなら、何故あの小娘は自由に外を出歩いておるんじゃ? 本来であれば殺人未遂罪と言うのは、懲役五年以上の刑を処される筈じゃが?」

 

 竜爺が綾ちゃんが用意した緑茶入りの湯飲みを手にとって飲みながら尋ねる。

 

「担任の先生から聞いた話だと、いつの間にか罪状が揉み消されただけじゃなく警察が取調べをする直前に釈放されて無罪放免、だそうだ」

 

 

 グシャッ!

 

 

「…………ほう?」

 

「「「「……………」」」」

 

 答えた瞬間、竜爺は片手に持っていた湯飲みを一瞬で握り潰した。まだお茶が残っていたのかポタポタとテーブルの上に零れてる。

 

 本当なら誰かが突っ込むべきなんだろうが、今の竜爺にそんな事をする勇気が無かった。何故なら今の竜爺の全身から途轍もない怒気と殺気を出して、夏の所為で暑い筈の居間が色々な意味で冷え切っているから。しかも顔は憤怒の形相じゃなく笑みを浮かべてるから、それが余計に恐い。その証拠に一夏と本音なんか、身体がガクガクと震えている。俺と綾ちゃんは怒ってる竜爺に慣れて顔に出さないが、それでも恐い事に変わり無い。

 

「念の為に聞くが和哉よ、その小娘は何故すぐに釈放されたのじゃ? 女性権利団体が警察に圧力でもかけて揉み消したのか?」

 

「た、多分そうだと思う。学園側が俺の殺人未遂について連中に問い合わせたみたいだけど、向こうは『知らなかった』の一点張りみたいで」

 

 

 ピシッ!!

 

 

 あ、竜爺の怒気と殺気が膨れ上がって温度がまた下がった。ってか竜爺、頼むからこれ以上居間の温度を下げないでくれ。すっごく重苦しい上に息苦しいんですけど。

 

 けれど竜爺が激怒するのは無理もない。女尊男碑社会となってる上に女性優遇制度を設けられてるとは言え、曲がった事をしている女性権利団体の行動は正義感の強い竜爺にとって許せないからな。罪を犯した者が裁かれるのを無かった事にしているのが尚更。

 

「え、えっと……取り敢えず俺からの説明は以上だけど……他に何か質問ある? あと一夏達も」

 

 そう問うが、竜爺を除く一同は口を動かそうとする様子が見受けられなかった。竜爺が恐ろしい気を出しているから、今そんな勇気が無いんだろう。

 

 そして肝心の竜爺は――

 

「………取り敢えず和哉の事情は分かった。まさかお主もワシと同じく面倒な連中に目を付けられておったとはのう」

 

 やっと物騒極まりない物を引っ込めてくれた。

 

 

 

 

 

 

 和哉が竜三達に事情を説明してる最中――

 

「くっ……! まさかあのお爺さんの弟子が、神代和哉だったなんて……! 後もう少しで上手く行く筈だったのに……!」

 

「どうすんだよ美緒!? 神代和哉があの爺の家にいるなんて聞いてないぞ!?」

 

「あの疫病神、何でよりによってこんな時に現れるのよ!」

 

 強制契約に失敗してすぐさま逃走した三人の女性権利団体の女達は、宮本家から少し離れた路地裏にいた。

 

 美緒は突然の和哉の登場で邪魔されて失敗となった事に歯軋りし、沙希は美緒を責め立てる様に問い詰め、奈々は和哉を疫病神扱いして悪態を吐いている。彼女達の頭の中に和哉を殺そうとした罪悪感など微塵も思っておらず、今は契約を邪魔された事を憤っていた。彼女達にとって、和哉の殺害失敗はもう済んだ事だと認識しているから。

 

「と、取り敢えずこの事を支部長に報告しないと……」

 

 そう言って美緒は懐から携帯電話を取り出し、登録されてる上司へ連絡するが一向に繋がらない。留守電にならず、ずっとコール音のままだった。

 

「こんな時にどうして繋がらないのよ……!」

 

「そ、そう言えば昨日支部長が言ってたわ。確か今日の昼からは行きつけのエステに行くから結果連絡は夕方以降にしてって」

 

 奈々が思い出すように言うと――

 

「………こっちの状況も知らないで、あの能天気女は……!」

 

 自分の上司であるにも拘らず悪態を吐く美緒。

 

 和哉によって邪魔されたとは言え、計画があともう一息で上手く行くと思っていたからこそ彼女達の上司は美緒に任せていた。自分達に強力な後ろ盾と権力を見せ付ければ、いくら腕が立つ宮本竜三とは言っても敵ではないと。だが、その目論見が完全に潰されてしまった為、美緒は上司に悪態を吐くと同時に親指の爪を噛みながら考え始める。

 

 神代和哉の存在を消そうにも、以前に失敗した為にそれは無理。加えて各国の政府が認めるIS操縦者だけでなく、意思を持つと言う前代未聞なIS専用機を持っている為、今下手にまた殺害を行おうとしたら手痛いしっぺ返しを受ける事になる。いくら自分達が女性優遇制度の庇護下にあるとは言え、女性権利団体が神代和哉を殺そうとする事を明るみに出てしまったら、団体その物を危険に晒してしまう恐れがある。美緒としては、それだけはしたくなかった。女性の聖域とも呼ばれる憩いの場を、美緒は失いたくないから。

 

 そして美緒はこうも考える。もしこのまま和哉が自分達のやる事を邪魔して、今回の計画を阻止された時の事を。

 

「………………もしかしたら……」

 

「おい美緒、何考えてるか分かんないけど、私たち一体どうすれば……」

 

「このまま支部長がいるエステに行って緊急報告しにいかない? いくらエステ好きの支部長でも今回の事を聞いたら――」

 

「いいえ、その必要は無いわ」

 

「「え?」」

 

 却下する美緒に、沙希と奈々は不可解な顔をする。

 

「今ちょっと冷静に考えてみたけど、いくら神代和哉がいるからと言って計画はすぐ中止になる事は無いわ。もしこっちが下手に焦って動いてしまったら、却って薮蛇になるかもしれない。此処は少し様子を見てみましょう」

 

「……ま、まぁ確かに」

 

「……そ、そうね。美緒がそう言うのなら」

 

 美緒の理由を聞いて納得する沙希と奈々。確かに彼女の言うとおり、下手に動いたら不味い事になるかもしれないと。普段から美緒はいつも的確な判断を下しているから、二人はいつも納得しているのだ。

 

 だが、

 

(もしかしたらこの展開、私にとっては好都合かもしれない。あの無能な能天気女を蹴落として、私が支部長になれる展開に……)

 

 美緒は別の事を考えていた事を、沙希と奈々は全く気付いていなかった。




組織内の権力争い、と言う物を書いてみました。

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