インフィニット・ストラトス ~唐変木に疲れる苦労人~   作:さすらいの旅人

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それでは続きをどうぞ!


第105話

『はぁっ! はぁっ! はあっ! …………さぁ一夏、言い訳を聞かせてもらおうか?』

 

 数分近くも怒号していた箒は言いたい事を全部言い終えて、漸く話を聞いてくれる状態になったようだ。

 

「……どうやら終わったようだな」

 

「み、耳が痛ぇ……」

 

 箒が落ち着いたのを確認した俺は耳を塞いでいた手を放して、少し距離を取って置かれている一夏の携帯へと近づく。その携帯の持ち主が未だに蹲って頭がガンガンしてるようで、俺は気の毒に思いながらもソレを手に取ってスピーカーホンをOFFにし、すぐ箒と話そうとする。

 

「よぉ箒、電話に出て早々随分なご挨拶だな」

 

『……え? か、和哉? ど、どうしてお前が一夏の携帯に……?』

 

 電話口から話しかけてくる相手が俺だと知った箒は戸惑っていた。そりゃコレの持ち主じゃない俺が電話に出るから不思議に思うのは無理もない。

 

「俺の携帯は今充電中だから、一夏に頼んで借りたんだよ」

 

 勿論これは嘘だ。箒をストレス発散させる為に一夏の電話を使った等と言える訳がない。

 

 そんな俺の思惑に全く気付いてない箒は、恐る恐る尋ねようとしてくる。

 

『………で、では……私に電話したのは一夏ではなく……和哉だった、のか?』

 

「ああ、お前にちょっと話があってな。にしてもさっきの怒鳴り声は凄かったなぁ、危うく鼓膜が破れるかと思ったぞ♪」

 

『…………………………』

 

 俺が嫌味を込めながら爽やかに答えると箒は無言になってたが――

 

『た、大変にすまなかった和哉!! わ、私はてっきり一夏が電話してきたと思ってしまって……!』

 

 すぐに申し訳ない気持ち全開で思いっきり頭を下げるような謝罪をしてきた。

 

 箒の行動に俺は溜息を吐きつつ呆れるように言う。

 

「だからってあんなデカイ声出すのは止めてくれ。ハッキリ言って近所迷惑物だったぞ。ってかさっきのアレの所為で家全体に響きまくった上に、隣にいる一夏なんかぶっ倒れちまったぞ」

 

『ほ、本当に申し訳なかった。あまりにイライラしていたせいで、つい……ん?』

 

 重ねて謝る箒だったが、途中から何か気付いたような声を出してくる。

 

『ちょっと待て和哉、どう言う事だ? 何故お前が一夏と一緒にいる? 一体お前たちは今どこにいるんだ? そもそも一夏は何故電話に出なかったんだ?』

 

「はいはい、ちゃんと説明するから、そんな矢継ぎ早に質問しないでくれ」

 

 一夏と一緒だと分かった箒が捲くし立てる様に質問責めをしてくるので、俺は若干顔を顰めながら箒を宥めようとする。

 

 本当に箒は本当に一夏の事となると周りが見えなくなっちまうな。まぁそれは他の一夏ラヴァーズにも言える事だが、取り敢えず今は箒に説明するとしよう。

 

「手っ取り早く言うと、俺が一夏を強くさせる為に師匠の家に連れて来て修行させてるんだよ」

 

『しゅ、修行だと?』

 

「ああ。夏休みの前日に俺が『一緒に修行しないか?』って一夏を誘ったんだ。まぁ修行と言っても夏休み限定だけどな」

 

 言っとくがちゃんと千冬さんから許可を貰ってるぞ、と付け加える俺は話を続ける。

 

「んで、今日は朝早くから師匠の家に行って、師匠が待ちきれなかったのか、俺達が来て早々すぐに修行を始めちまってな。その所為で箒が何度電話しても繋がらなかったのは、もう既に師匠と修行してたんで一夏が電話に出るに出られなかったって訳だ。ホントなら家に着いた後に箒に電話して、事情を説明する予定だったけどな」

 

『………そうか』

 

 若干間があって頷く箒だったが、信じてはいるみたいだ。

 

 まぁ最後に言ったのは嘘だが、別に全てが嘘じゃない。一応竜爺の修行の際に昼休憩はあったが、あの時の一夏に携帯を気にしていられる余裕なんて全然無かったからな。俺も俺で竜爺の修行は久しぶりで、電話の事なんか全然気にしていなかったし。と言うか、他の事を気にしていられるほど、竜爺の修行は生半可なものじゃないからな。

 

「取り敢えず簡単に事情を説明したが、何か質問は?」

 

『………質問ではないが、そう言う事は前以て教えてくれ。知ってれば電話しなかったんだからな』

 

「そうだな。それはすまなかった」

 

 不満そうに言ってくる箒に、俺は一通りの謝罪をする。

 

 教えたら絶対来ると思ってたから敢えて黙ってたんだよ、等と言える訳が無い。

 

 とは言え、もう事情を知ってしまった上に、今は箒だけしか知らない状況。それを考えて箒の行動は――

 

『あー、和哉。その……良ければ私も一夏と一緒に参加してもいいか?』

 

 そう言ってきた事に、俺は内心やはりそうきたかと思った。

 

 恐らく箒は今なら鈴達を出し抜いて一夏と二人っきりになれる算段を考えてるに違いない。そうでなければ箒があんな事を言う訳が無いからな。

 

 だが俺はそんな事をさせるつもりは無く――

 

「別に構わないぞ。言っとくが師匠の修行は俺が学園でやってた訓練と違って、地獄の拷問とも言える滅茶苦茶ハードな物だぞ。例えるなら……俺が臨海学校で鈴達にやったペナルティの十倍近い修行内容だと思ってくれればいい」

 

『じゅ、じゅうば……!?』

 

「因みに今日の修行は師匠曰く“軽い準備運動”だったが、終わった後の一夏はもう既に倒れて虫の息状態だったぞ。あと明日以降なんかは今日やった内容以上の事をやらされる予定だ」

 

『…………………』

 

 箒に現実を教えて諦めさせるつもりだった。

 

 それを聞いた箒は電話越しからでも分かるくらいに困惑し、そして無言になっていた。多分箒の事だから、参加する事を後悔しているに違いない。

 

「参加するなら今から俺がメールで此処の住所を送信した後、師匠に言ってお前に見合った修行内容を――」

 

『あ……す、すまん和哉! や、やはり辞退させてもらう! 今の私ではとても付いていけそうにも無い!』

 

 これも予想通り、箒は撤回して参加するのを諦めてくれたようだ。いくら一夏と二人っきりなれるチャンスがあるとは言え、竜爺が修行中にそんな事を考えさせる暇なんて与えないからな。

 

「そうか。ま、それは正しい判断だから、俺としては逆に安心した」

 

 ついでに余計な要らん騒ぎも起こらずに済んで、と内心付け加えながら安堵する俺。

 

 あと今はこの家に綾ちゃんがいる為、箒は絶対に誤解して騒ぎを起こす可能性大だからな。あの子は小学生だけど、見た目は高校生並みのスタイルな上に可愛いとなれば、一夏だけじゃなく俺までとばっちりを食らってしまうし。だからそうならないよう、箒には竜爺の修行の恐ろしさを教えて辞退させようって寸法だ。

 

「それと箒、良かったらお前の方で学園に居る鈴達に一夏の事を説明しといてくれないか? 一夏の携帯でお前以外に鈴やシャルロット、それにラウラの不在着信があったからな。多分アイツ等も一夏が今何処にいるのかが気になってる筈だ」

 

『あ、ああ。それは別に構わん。和哉の言うとおり、鈴達も知りたがっていたからな』

 

 よし、これで俺から鈴達に説明する手間が省ける。アイツ等に俺が直接電話して一から説明するより、学園に居る箒に話してもらったほうが手っ取り早く済むからな。

 

「助かるよ。って事で俺の話は以上だが、まだ何か聞きたい事とかあるか?」

 

『それはもう無いが……えっと、出来れば一夏に代わってもらえたら嬉しいんだが』

 

「おいおい箒、さっき俺が事情を説明したばかりだってのに、まだ電話してもらえなかった事を根に持ってるのか?」

 

 ここで一夏に代わったら俺が説明した事が無駄になってしまうので、そうはさせまいと俺は顔を顰めながら言う。が、箒は慌てた様子で言ってくる。

 

『ち、違う! 私はただアイツに激励をしようとしてだな……!』

 

「激励、ねぇ。まぁそれなら良いか……と言いたいところだが、生憎一夏はもう寝ちまってるよ。竜爺の修行のせいで、飯食って風呂入った後すぐに寝てしまってな」

 

 無論これは一夏と電話させない為の嘘。さっきも言ったように今代わらせる訳にはいかないからな。

 

 因みに一夏はさっきの箒の怒号で耳を押さえながら蹲っていたが、俺が電話してる間に回復したのか上半身だけ起き上がって静かにコッチを見ていた。さっき咄嗟に吐いた嘘に一夏は声を上げようとしたが、俺が何も言わせないよう一夏に顔を向け、電話を持ってないもう片方の人差し指を口元に当てて静かにするようジェスチャーをする。それを見た一夏は俺の言うとおりにして両手で口を押さえていた。

 

『そ、そうか。それなら仕方ないな』

 

「良かったら俺の方から一夏に伝えとくが?」 

 

『じゃあこう伝えといてくれ。“一夏、死ぬなよ”、とな』

 

「………分かった、必ず伝えよう。じゃあ切るよ」

 

 箒が頷くのを確認した俺は耳元から電話を放し、電源ボタンを押して電話を切った。

 

 にしても何か随分と重みのある伝言だったな。まぁ竜爺の修行はそう思われて仕方ないから、身を持って経験してる弟子の俺としても否定は出来ない。

 

 まぁ取り敢えず、これで箒のストレス発散と同時に、箒が後ほど一夏に対する理不尽な制裁をするのは回避出来たから何よりだ。

 

「ふぅっ、何とか事を丸く収める事が出来たぁ……。もう手を放して良いぞ、一夏」

 

「…………はぁっ」

 

 安堵しながら言う俺に、一夏も手を放すと同時に安堵の息を吐いた。

 

「やれやれ。電話で説明しただけで、ここまでドッと疲れるとは思いもしなかった」

 

「俺もだ。何かすっげ~疲れた気分だぜ」

 

「まぁ一先ずこれで安心だ」

 

「けどさぁ、何か箒を騙してるような感じだったぞ。つーか、お前の説明の中で所々嘘吐いてたな。電話する予定とか、俺はもう寝てるとか」

 

「嘘の中に真実を混ぜ込んでおけば、大抵の相手は信じてくれるからな」

 

 と言っても殆ど真実だけどな、と付け加える俺に一夏は複雑な顔をしている。

 

「況してや、箒は俺の話をちゃんと聞いてくれるし」

 

「まぁ確かに。けど……何か箒に悪い事をしちまったなぁ」

 

「お前の言いたい事は分かるぞ、一夏。だが時には嘘を吐いて回避する事も必要な事なんだ。お前はただでさえ箒達に理不尽な目に遭ってるんだからな」

 

「う……けど、それは大抵俺が悪くて……」

 

「またそれか……」

 

 ……はぁっ、一夏ってホントに根っから御人好しな上に馬鹿正直だな。そんなんだからあの一夏ラヴァーズは度が過ぎた行動を起こすんだよ。それで毎回鎮圧させる俺の身にもなってくれ。

 

 けどまぁ、一夏のこう言う所があるから、箒達は一夏の事が好きなのも事実だし。だからと言って、臨海学校の時にISを使った恋する乙女の暴走は勘弁して欲しいが。

 

「あ~もうこの話は無し無し。今日はもう寝ちまおう」

 

「え? 折角ゲーム用意したのにもう寝るのか?」

 

「さっきの箒の電話で疲れた所為か、何だかもう眠くなってきたんだ。それでも一夏がゲームやりたいなら付き合うが」

 

「あ、いや、やっぱり良い。俺も和哉と同じく何だか眠くなってきたしな」

 

 どうやら一夏も俺と同じく睡魔に襲われかけているようだ。

 

「よし、じゃあ急遽予定変更で寝る準備するか」

 

「おう」

 

 こうして俺と一夏は寝ようと、用意していたゲーム機を片付けて布団を用意してると――

 

 

 ガラッ!

 

 

「和哉よ、先程女子(おなご)の怒鳴り声が聞こえたが、一体アレは何だったのじゃ? 知っておるなら今すぐに説明せい」

 

「和哉お兄ちゃん、お風呂場の方からも女の人が怒った声が聞こえたんだけど何があったの? アタシ気になってすぐお風呂から上がっちゃったよ」

 

 突然戸が開いて、顔を顰めた竜爺と風呂上りでパジャマ姿の綾ちゃんが揃って俺に説明を求めてきた。

 

「……おい、和哉」

 

「………しまった。竜爺と綾ちゃんに説明するのをすっかり忘れてた」

 

 寝ようと思ってたのに、二人に説明しなきゃいけないなんて……はぁっ。全く箒の奴、とんだ置き土産を寄越してくれたな。周囲への迷惑って言う名の置き土産を!

 

 あとこれは学園に戻って知った事だが、どうやら箒は電話が終わった後、偶然部屋の見回りをしていた千冬さんにこってり搾られたらしい。言うまでも無いと思うが、主に物凄い怒鳴り声を上げた事に対して。


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