百鬼夜行 葱   作:shake

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遅くなりました。多分次回も一月後くらいになります。


第十三話 「グージー・スプリングフィールド」

 何故、この様な事になったのか。

 高畑の拳圧に魔法障壁を軽く破られ吹き飛ばされながら、彼は思う。

 生まれた時――正確には前世の記憶を完全に取り戻した”悪魔襲撃事件”後――彼は主人公だった。

 並ぶ者無き魔力容量を誇る英雄の息子。周囲から期待され、そんな周囲を小気味良く小馬鹿にするニヒリスト。弟に甘く、時に厳しく接する理想の兄。

 そう云う存在だった。

 筈だ。

 それが誤りだと気付くのに時間は掛からなかったが、しかし精神がそれを許容する事は無かった。

 解離性同一性障害、と言えば所謂多重人格の事ではあるが、この場合は”魂”と”精神”が乖離すると云う、極めて特殊な状況であった。彼本来の魂は、『やっぱり二次元と三次元では違うよね』『”登場人物”と云う存在とは異なるんだ』などと考えている訳であるが、その”精神”は成長せず、ただ只管に『俺がオリ主だ』と云う考えに固執している。”管理者”にその精神構造を固定されていた所為だ。

 管理者による『踏み台は踏み台らしく踏み台やって踏まれていれば良いんだ』と云う意思の現れである。踏むのはネギだけではなく、周辺関係者各位だったが。

 ただ、多少の乖離は有っても基となった精神は同じである為、当初はそれ程の違和感が無かったのだ。『可愛い女の子とイチャイチャしたい』と云う願望は、精神と魂が統合された今でも衰えていないし。

 乖離が進んだのは、麻帆良に来てからだ。”原作”との差異に驚き、魂は反省した。俺は主人公じゃない。只の脇役Aだ。女の子とイチャイチャして良いのは女の子を守れる人間だけだ。そんな意識と自分こそが主役と云う自負が、如何仕様も無くズレていく。しかも話に聞く多重人格とは異なり、”まとも”な魂による体の実効支配が不可能であった。ただ自分をこの様な目に遭わせた神を呪う事しか出来なかったのだ。

 しかしその乖離は、三月七日に突如止まった。そしてズレた魂と精神が統合する際に激しい痛みを感じ、グージーは倒れた。意識が戻ったのは十五日の事である。

 一体何が如何なったのか。混乱しながらナースコールを押し、後で「知らない天井だ」と呟くのを忘れたと悔やんだ。

 グージーを引き取りに来たのは高畑・T・タカミチだった。しかし一月前よりも十歳は老けて見える。また長期間ダイオラマ魔法球にでも篭っていたのだろうか。自分が倒れたから、それを防げなかった事を悔やんで、と云った処か。

 そう考えていたので「ご心配をお掛けしました」と謝ったが、「否別に」と素っ気無く返されて驚いた。

 あるぇ?今迄と反応が全く違うよ?如何なってんのコレ?つか冷たくね?

 そんな風に疑問を抱いていたら、

 

『あの神は、学園長達によって”始末”されたよ』

 

 と告げられた。

 思わず目が点になった。『お前は何を言っているんだ』とか『ご冗談でしょうタカミチさん』とか色々言いたかったが、出たのは結局『はぁ?』と云う間抜けな声だけだった。

 踏み台を押し付けられた転生者が神を殺そうと画策する話は幾つか読んだ事が有った。だが”漫画の登場人物”の方がその存在を知り、剰え神を実際に降すなどと云った話は聞いた事が無かった。否、探せば一つや二つは有るのだろうが……。

 いかん。まだこの世界が仮初の物だ、仮想現実だと云う意識が抜けていない。

 気を取り直してグージーは高畑に尋ねた。何が起こったのか、全てを。

 結果として、訊かなければ良かったとしか思えない説明が返ってきた訳だが。

 エドガーが天然転生者なのはまだ良いとして、俺の存在が麻帆良上層部で完全に認知されているって如何云う事よ。麻帆良勢を強化し過ぎだろうオイ。何でそれで自分が消されてんだ馬鹿神。

 俺の記憶が覗かれたって、神様そこら辺はきちんとプロテクトを掛けておこうよ……。

 つうか、踏み台としてテンプレ過ぎたってのが原因かよ。これ、瀬流彦先生に感謝するトコ?恨むトコ?

 頭を抱えるグージーだったが、高畑は何ら頓着せずに言い放った。

 

『まぁそれは裏の裏の話だ。魔法世界では完全に秘匿されるべき事項だ。迂闊に喋れば如何なるかは……。言わなくても分かるよね?うん。なら良いんだ。幸いにも君は英雄の息子である事を自覚している。MM元老院にも警戒心が有る。

 君の仕事は簡単だ。

 元の望み通り、英雄になれば良い』

 

 詰まりは、魔法を使えないネギに代わってお前が魔法世界を救済しろと云う訳か。

 そう言うと、彼は頭を振って否定した。

 

『魔法世界の救済案は既に有る。君は連中の、否、麻帆良の手拍子に合わせて踊るだけさ』

 

 ……扱いが、酷い。しかしこの世界を好き勝手に弄っていた存在の手駒であった事を考えれば、まだマシな扱いだろう。英雄の息子と云う肩書が無ければ、殺されていても可怪しくはないのだ。

 と言うか原作メンバーに拘らなければ、父親の様にモテモテな未来が待っている。マシと言うより破格の扱いと言えた。別の意味でのサウザント・マスターに、俺は成る!

 

『じゃあその為に、ダンスの練習から始めようか』

 

 そして、現在の様に宙空を”舞う”地獄の特訓が始まった。

 マシ?破格?そりゃあ、英雄様直々に修行をつけてもらえるんだ。傍から見れば、羨ましい事この上なかろう。だが羨ましいと思った人は、今直ぐ俺と交代して欲しい。

『生命存続の危機に際した時、人間は本能的にそれを回避する方法を記憶の中から探し出そうとする。それが死ぬ間際に見る、記憶の走馬灯の正体である――』

 そんな言葉を思い出すのももう何十度目か。数えていないと言うか、数えていても記憶が飛ぶ。如何に素早く硬い魔法障壁を張れるか。そう云う特訓だと聞いているが、彼のストレス解消が目的だと言われた方がシックリくる。

「ぐぇっ」

 背中から地面に打ち付けられて、呼吸が止まった。

「――さっきから思ってたけど、全然受け身が取れていないじゃないか。何で取らないの?魔法障壁を背後に張るでもないし」

「う……受け身の取り方なんて知らんがな……」

「え?そんなんで如何して今迄生きてこれたの?」

 さらりと毒を吐かれた。そりゃあ今迄はこの馬鹿魔力で編んだ障壁を破られる様な事は無かったからさぁ。これ、一応風花風障壁(フランス・バリエース・アエリアーリス)並の衝撃吸収能力が有る筈なんですけど。地元(メルディアナ)じゃ負け知らずだったんだよ?

 そんな事を思う。

 瀬流彦に教えられていた期間に体術の訓練はしていたが、それはあくまで普通に殴り倒された場合のものである。更に言えば反省の出来ない乖離状態であったので、熱心に覚えた訳でもない。況してや車田飛び後の受け身なんて特殊過ぎる状況下の訓練は無かった。

「”原作”を知ってるんなら、この程度で英雄に成れない事は分かってるんじゃないの?何でもっと修行しなかったの?」

 心底不思議そうに尋ねてくる高畑に、グージーは息も絶え絶えに「か、神の呪縛で慢心していたんです」としか言えなかった。だってエヴァさんに修行をつけてもらう予定だったんですもの。同じ地獄の特訓なら、こんなおっさんよりかぁいい女の子の方が良いに決まっているじゃないですか常識で考えて。

 無論口には出さないし、表情にも出さない。と言うか疲弊仕切っているので顔に出す余裕も無い。

「ああ成程。じゃあ取り敢えず、受け身の練習から遣り直すか……」

「お……お願いします」

 て言うか、開始から四時間で漸くそれを言うんだ……。

 尚、幻想空間(ファンタズマゴリア)の中である。成長が早過ぎると誤魔化すのが面倒だと云う事で、魔法障壁の使い方をその精神に刻み込まれている訳だ。後は、高畑がこれ以上老けるのも問題だからだろう。

 Phantasmagoria(走馬灯)の中で記憶の走馬灯を頻繁に見るとか、出来の悪い冗談だ。

 まぁ幻想だろうがダイオラマ魔法球だろうが、地面に叩き付けられるのは変わらない訳で。

 以前考えていた様な”復讐”は絶対しないだろうけど、脱走はやるかも知れないなぁとグージーは思った。

「あ!」

「ん?如何したグージー君」

「あ、いえ……しょうもない事ですんで……」

 脱走で思い出した。

 淫乱オコジョことユーノ……じゃなかった、アルベール・カモミールは何処へ行った?

 

 

*****

 

 

 結論から言えば、彼はオコジョ刑務所で刑に服していた。二度の脱走とその間の下着泥棒により、刑期は百二十年だそうである。

「下着泥棒で刑期が百二十年て……」

 世界記録ではなかろうか、と言うか、実際に魔法世界版ギネスに登録されていた。取り敢えずスゲェと言わせてもらおう。アリアドネーの総長やMM元老院幹部の御令嬢の下着を盗んだ点で刑期が伸びているとか。捕まったのは、ヘラス皇族の館でトリップしていた処を見付かった為である。経歴を見れば元人間ではなく正真正銘のオコジョ妖精なのだが、何が彼をそこまで駆り立てたのか。魔法世界版2ch番付では堂々の横綱だ。

「まさか野郎、転生者じゃあるまいな……」

 しかし、元が人間でオコジョに転生したとして、そこまで性欲が持続するものだろうか。どんな変態だと問いたい。否、自分と同じで精神を固定され、そのまま狂ってしまったのだとしたら……。

「ぞっとしねぇなオイ」

 青褪めた顔でPCをオフにする。

 実際には本物の、気合の入った変態オコジョである。だがそんな事はグージーには分からない。彼を第二の自分と見立て、自らを戒める鎖とした。幸いにも自分は、狂う前に神の呪縛から逃れられた。アレの二の舞いは御免である。そう思う事にしている。

 まぁ美形の女の子とイチャイチャしたいと云う願望は、未だ持っているのだが。それは男の異性愛者として生まれたからには誰でも一生に一度は夢見る事であろう。同性愛者だって、ハーレム願望は有る筈だ。

 などと自己弁護をしつつ、今日も今日とて高畑に吹き飛ばされる訓練――もとい、魔法障壁展開の修行に向かう。実質的には二日目なのだが、幻想空間内では既に二週間程を過ごしているので流石に受け身は取れる様になった。今日からは治癒魔法の訓練だと言っていたが、当然怪我するのはグージーである。泣ける。

 それでも魔法を使えなくしてしまったネギの代わって完全なる世界を叩き潰す為に、彼は征く。決して途中で通る女子高生エリアでのパンチラを期待してではない。

 ――否嘘だよ見てぇよ。自重しなけりゃならないのは分かるけど、見たいもんはしょうがねぇだろ。

 しかし麻帆良に来てから彼が見た下着姿など、自分で剥いた神楽坂明日菜くらいなものである。瀬流彦ガンドルフィーニを経て高畑の管理下に入った今、くしゃみで武装解除など発動させようものなら物理的に武装が困難な状態にさせられるだろう。せめて、魔法世界くらいはと期待せずにはいられない。

 ――その為にもまず力をつけなくちゃな。下手を打てば、確実に死にそうだし。

 性格は以前と変わり、反省する様にはなったが。

 グージー・スプリングフィールドの根幹はそれ程劇的に変わった訳ではなかった。

 ただ、挫けそうになる心を性欲で無理矢理鼓舞しているだけなので、弱さ強さを語れば弱くなったとも言える。

「そんな訳で、到着、と」

 前世から筋金入りのボッチなので、独り言は多い。本人に自覚は無いが。

 非常勤講師室の扉を叩いて中に入ると、高畑とエドガーが居た。二人が手を上げ挨拶してくる。

「今日はグージー君。お客さんだ」

「やあ久し振り」

「今日は高畑先生。お久し振りです、ヴァレンタインさん」

 客?一体何の様だろうか。聞けば生徒指導室で話をしようかと返された。魔法関係か。

 部屋に入ると認識阻害結界と、何かよく分からない結界が同時に張られた。エドガーは天然転生者と云う事なので、この技術は彼が努力で得たものなのだろう……本当に?そう云う役回りの神様転生者じゃないのか?それ思うまでに見事な展開速度だった。

 そんな彼は席に着くなり淡々とした調子で話を始めた。

「早速だけど、本題に入ろう。君は管理者に精神を固定され、精神と魂との乖離が起こった。そしてその管理者が消滅した事で、分かたれていた君の精神と魂は再び統一された。ここまでは聞いている筈だね?」

「ええ」

 あの、精神と魂の統一とやらは物凄い痛みが伴った。何と言うか、『高所から落下し頭から地面に激突して体が潰れていくのに意識と痛みが有る』と云う感じの痛みだった。なので5秒程で気絶し、八日寝込んだ訳である。

「その際魂が一般人よりも強度を増した……まぁ要するに、死んでも再び転生してしまう様になっちゃったって事だね」

「……え?」

 何それ怖い。

「何?まさか死ねないんですか俺!?」

「否普通に死ぬよ。ただ記憶を持って別人として生き返るだけさ」

 それは実質不死だろう。

 不老不死については過去に何度か夢想した事が有る。だが、如何考えても自分にはそれに耐えられるだけの精神力が無い。物語の主役には憧れても、そんな常に苦悩が付いて回る様な生き様は御免被りたいと云うのが偽らざる本音であった。

 そんなこちらの表情を――と言うか、心を読んだのか?エドガーが言葉を続ける。

「まぁそれに関しては安心すると良い。案外何とかなるものさ……と言うより、何とかなるから記憶を持ったまま転生すると言った方が正しいかな。多分三回も死ねば慣れるだろう」

 ……とてもではないが、そんな簡単に慣れるとは思えない。

 衝撃の事態にグージーは暫し呆然とする。だが先達の有り難い話は終わっていなかった。

「しかも君の魂には”神様転生者”と云う属性が付与されている。天然転生者(ナチュラル)の資質を持ちながら常に神様転生者(コーディネーター)と成る訳だ。”主人公の双子の兄””途轍も無い魔力容量””魔法創造能力”もついでに付いて来るだろう。そして次の管理者――神様から貰うであろう特典もね」

 やったねグージー、チートが増えるよ!

 じゃねぇよ。何なんだそれは!

 グージーは自分の頭を掻き毟った。前世の、子供の頃からの癖だ。

「まぁ君が頑張れば、その連鎖を断ち切る事も可能だ。私だって消滅しようと思えば消滅出来るし……ああ。この方法は今教えた処で理解出来るものでもないから自分で試行錯誤してくれ。どうせこれから先は長いんだから」

 しかしその途中で狂ったりすれば、とんでもない災厄に成り果てる事は確実なのだが。

「うん。大丈夫だとは思うけれど、そうならない様今から高畑教諭が鍛えてくれる訳だ。彼との修行に拠る自信が有れば、大抵の事には耐えられるだろうさ」

「さぁ……頑張ろうかグージー君」

 実にイイ笑顔である。具体的には富士鷹ジュビロ。そう言えば昔、富士鷹ジュビロ風アンデルセン神父のネタ絵を見た様な気がする。そんな現実逃避をしている間に首根っこをがっしと掴まれ部屋を出ていた。

「は……ははは……」

 最早乾いた笑いしか出てこない。

 グージーは、或る晴れた昼下がりに市場へと売られていく仔牛の心境が理解出来たと感じた。

 

 

*****

 

 

 あれから百年が経過した。

 突如現れた異星人に襲われ幾つかの国家が消滅し、人類は異星人の支配下に置かれた。だが人類を下等種族と見下すだけはあり、その統治は極めて真っ当なモノであった為庶民の受けは良かった――などと云う事は無く、現在は二〇〇三年三月二十五日である。百年の経過はグージーの主観だ。幻想空間だとか”地獄”だとかへは行ったが、実際?の経過時間的には五十二年程だった。倍近い誤差が有るが、それだけ彼の精神が疲弊したと云う事でもある。

 兎も角。高畑とエドガーによる、魔法障壁と肉体言語、霊能力修行の時間は終わった。

『かなり不満は残るけれど、まぁあのアーウェルンクス五体くらいまでなら何とか出来るくらいにはなったよね』

『霊能力の才能は剰り無いね、残念ながら。中級魔族を見掛けたら即座に逃げる事を勧めるよ。幸い防御逃亡に向いた霊能だしね……ああ、でもあの漫画程度の相手なら普通に倒せるか。頑張んなさいね』

 それが、二人に言われた締めの言葉である。終わったと言うか、これ以上は成長が見込めないとの事であった。何とも辛口ではあるが、二人の設定した目標が高過ぎるだけだ、と思う。大体フェイトはライバルポジションである。それを軽くあしらえるオリ主は……まぁそれなりの数居たが、それを基準にしてどうしようと言うのか。原作のネギ基準で十分ではなかろうか。そもそも最終決戦時には出張ってくる気満々じゃないですか高畑先生ェ……。

 折角貰った休暇だったが、何もせずにここでだらける事しか出来そうにない。八日なら兎も角百年間(主観)不休なのに、休みが一日しか無いのだ。そこらのブラック企業が青褪め震えて裸足で逃げ出すレベルである。

 しかも明後日から京都だそうだ。英雄の息子(ネギ、グージー)(木乃香)を餌にして、反乱分子、アーウェルンクスを釣るらしい。”原作”での修学旅行編を前倒しにしようと云う訳だ。彼等を自分に倒させる事で、対外的な箔を付けようと云う狙いも有る。これは”テンプレ通り”だ。ネギは戦力として数えられないが、替わりに自分が行く事になる。

 グージーは溜息を吐く。

 何でネギが魔法を使えない、なんて阿呆な事を願ったのか。”ネギが魔法を使うと付属効果で武装解除が自動的に発動する”で良かったじゃないか。否寧ろ”ラブコメ+バトル物からエロコメエロバトル物に変えて下さい”一個か。エドガーが言う様な”次の機会”があれば、是非そうしよう。勿論、この世界で英雄として成り上がり、サウザンドマスターに成ると云う夢を捨てた訳ではないが。

 美しい女性全員が自分に惚れるべきだ、などと云う妄念は捨て去れた。しかし大勢の女の子とイチャイチャしたいと云う願望は未だ持っている。グージー・スプリングフィールドはそうした男に成っていた。

 そうした心理は当然麻帆良組には知られている訳だが、全員特に何か働きかけようとはしていない。どうせ不可能だとかこっちに秋波を向けなければ良いやと考えているのではなく、『単に童貞拗らせただけだから、普通に女子と付き合う事があればまともに成るだろう』と生暖かく見ているだけである。

 完全な道化(ピエロ)であった。

 

 

*****

 

 

 高畑が若干?暴走した京都編も終わって現在五月下旬。彼がフェイトに埋め込んだ盗聴器から得た情報により、本日これよりヘルマン伯爵っぽい悪魔が来るとの事である。ぶっちゃけ彼程度の魔族に抜かれる程柔い結界は張っていないらしいが、戦闘訓練と箔付けの為、彼の進行方向の結界を一部緩めて、グージー一人で相手をする事になっていた。

 落ちぶれたとは言え伯爵級魔族を噛ませ犬扱いとか何を考えているのだろうか。麻帆良勢の強化は正に神の予測を超えるレベルだった。

 雨の中を傘も差さずに(魔法障壁で弾いているが)突っ立って居ると、好々爺然とはしているが怪しさを隠し切れていない老人が現れる。

「……ほう。こちらの来訪を知っていたのかね?」

「まぁね」

 答えながら、認識阻害、人払い、防音を兼ね備えた結界を張る。直径50mの半球円状だ。場所は学園結界外縁部付近の緑地広場。尚戦闘で出来た損傷は全てグージーが直さなくてはならないので、地表部分にも結界は張られている。

「ふむ。私はヴィルヘルム・ヨーゼフ・フォン・ヘルマン伯爵。伯爵などと言っているが没落貴族でね。今はしがない雇われの身だ。君は、グージー・スプリングフィールド君、で合っているかな」

「合ってるよ」

 展開された結界を見て、感心した様な視線を向ける魔族。彼は”原作”通りの性格らしい。その事を少し哀れに思う。

 彼は、エドガー(合格基準に達していないので、弟子としてはカウントされていない。なので師匠、先生と呼んではならないと釘を刺されている)から習った知識からすれば最下級魔族の霊力しか保持していない。魔力も一般魔法使いの二倍程度。今の自分の敵ではない。彼が戦闘を楽しむ間など無いだろう。秒で終わる。と言うか、終わらせないとまた修行漬けの生活が待っている。

 尚内容如何に関わらず、グージーが辛くも勝利と云う感じでの戦闘詳報は先に出来上がっていた。なら態々俺が戦う必要も無いんじゃね?とグージーが考えている内に、体は動いてヘルマンの霊核を消し飛ばしている。あと、彼の連れて来た三体のスライムも。

 随分とあっさり中ボス……もとい小ボス的な魔族を倒してしまったが、特に何の感慨も抱けなかった。精々、原作通りに可愛い女の子の裸が見たかったと考える程度である。

 グージー・スプリングフィールドの本質は、以前とそれ程変わった訳ではなかったが。以前ほどがっついておらず五十二年の精神的加齢により幾分か落ち着いている為、”同級生”からは結構評判が良い。しかし彼が対象とする年齢層には子供としか見られていない。

 そんな彼がその野望を成就出来る様に成るのは、一体何時の日になるだろうか。


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